田中宇氏が掲題の記事を出しました。
長崎の平和祈念式典にイスラエルを招かなかったのは、イスラエルをロシアやベラルーシと同等に扱うもので「ケシカラン」とクレームをつけた米国におもねって、英、仏、伊、豪、加の5ヵ国は同式典に駐日大使を派遣しませんでした。ドイツだけはそうしなかった点は評価できます。
一体どこが「ロシアやベラルーシと同等」なのかを含めて米国の理屈が理解できませんが、米国が世界の常識に反してイスラエルを重視していることだけは分かりました。それにしても米国の議員がイスラエルを批判すると選挙で大いに不利になるというのは、やはり「思想信条の自由」とは異なる世界というべきです。
国際情勢の解説を読んでいても、そこにイスラエルが登場すると俄かに分かりにくくなりますが、残念ながらそれが現実の世界なのでしょう。
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イスラエル5正面戦争の意図
田中宇の国際ニュース解説 2024年8月11日
イスラエルが、イラン系の諸勢力と「5正面」戦争を開始したと自称している。(1)レバノンのヒズボラ、(2)シリアと(3)イラクのイラン系民兵団、(4)イエメンのフーシ派、そして(5)イラン本体という5つの勢力との同時戦争だ。5つの中に、ガザで戦争しているハマスは入っていない。ハマス以外に5正面だ。
イラン系勢力から戦争を仕掛けたのでなく、イスラエルから5正面戦争を仕掛けた観がある。
(Israel isn't crazy, it's just MAD)
イスラエルのネタニヤフ首相は7月24-26日に訪米し、米議会超党派、民主党バイデン政権、共和党トランプという、米国上層のすべての政治勢力からの全面支援を取り付けた。
ネタニヤフがイスラエルに帰国した翌日(7/27)に、イスラエルがシリアから奪って占領しているゴラン高原の入植地(ドルーズ派)がロケット攻撃されて30人が殺された。
(Hamas chief assassinated - what happens next?)
イスラエルはこれをヒズボラの攻撃と決めつけ、レバノンやシリアに展開するヒズボラなどイラン系民兵団との間で交戦を開始(というか激化)した。
ヒズボラ自身は7月27日の攻撃を否定しており、イスラエル軍による誤爆の可能性が高い。イスラエルは自分で戦争を起こしておいて「イラン系と全面戦争だ」と大騒ぎし始めた。昨年10月のガザ開戦時のトリックに似ている。
(Israel Says "All-Out War" Imminent After Hezbollah Rocket Slams Into Soccer Field, 30 Casualties)
7月31日には、イランの首都テヘランにいたハマスの在外代表イスマイル・ハニヤが、イスラエルによってミサイル攻撃されて殺された。
ハニヤは、ガザの停戦と人質釈放についてイスラエルとの交渉するハマスの責任者だった。イスラエルは、一方でハマスと交渉して人質を取り戻すんだと言いつつ、ハニヤを殺して交渉を頓挫させてしまった。しかも後任のヤヒヤ・シンワルは、ハニヤより好戦的だ。
(Killing the peace: Israel assassinates chief negotiator across the table)
(Yahya Sinwar, the right man at the right time?)
自国の首都に国賓として来ていたハニヤを殺されて面子を潰されたイランは激怒した。イランは数日いや数時間以内にイスラエルを報復攻撃する、米国を巻き込んで第三次世界大戦だ、といった大騒ぎが(イスラエルに動かされる)米マスコミなどで喧伝された。
イランは今年4月、イスラエルが駐シリアのイラン大使館を空爆した報復に、イスラエルの軍事基地などを攻撃した。イスラエルが再報復して本格戦争になりかけたが、イランが再々報復をせず、そこで一段落して冷たい和平状態になった。(イランとイスラエルの冷たい和平)
(The Trigger For WWIII Just Arrived - What Are The Implications For Americans?)
今回イスラエルは大胆にも、前回のようなシリアなど在外でなく、イラン国内にいたハニヤを殺した。イランからイスラエルへの報復攻撃は4月よりも大規模になるぞ、と喧伝された。
だが、本格戦争になると困るので米欧や露中が積極的にイランを説得した。その結果、10日以上たった今も、イランはイスラエルへの報復攻撃を控えて沈黙を保っている。どうやら報復せずに終わりそうだ。イランは、米欧露中の諸大国からチヤホヤされ、とりあえず矛を収めた。
(White House Believes Iran Backing Down From Israel Strike After Diplomatic 'Blitz')
ネタニヤフは、訪米によって米国の上層部から全面支援されていることを確認したうえで、ヒズボラとの戦争激化や、イランの反撃を誘発するハニヤ殺害を挙行している。
ハニヤを殺しても、米露などがイランを説得するので反撃してこないという予測までしたかもしれない。イスラエルは無茶苦茶をやっているが、イランとの冷たい和平は保たれている。これはネタニヤフの計算の結果であるとも思える。 (中国に棚ボタな紅海危機)
(Was Israeli Escalation in Middle East Pre-Planned?)
これらの動きとは別に、7月19日にイエメンのフーシ派がテルアビブを無人機で攻撃し、その報復として7月20日にイスラエルがイエメンのホデイダ港を攻撃する、という交戦もあった。これは、昨秋からフーシ派が起こしている紅海危機の一環だ。
またハニヤ殺害後、報復として、イラクにいる親イラン(シーア派)民兵団が、イラク駐留米軍を攻撃する事件も起きた。これら全体で「5正面」の戦争になっている。
(The stunning audacity of Yemen's drone strike on Tel Aviv)
(Iraqi Militia Leader Vows ‘Timetable' for Expulsion of US Troops in Wake of Haniyeh Assassination)
ネタニヤフらイスラエル上層部は、たくさんの敵と同時に戦って苦戦しそうな構図を意図的に作っている。なぜなのか。この疑問について、すでに私は6月に「目くらましでヒズボラと戦争するイスラエル」という記事を書いた。
ヒズボラはその後、イスラエルと猛然と戦うかと思いきや、意外に(というか、当然ながら)大戦争に消極的だ。それでイスラエルは、戦争の相手を5つに拡大し、いったん冷たい和平が確立していたイラン本体に対してもハニヤ殺害という大胆な攻撃を仕掛け、目くらましを強化した。 (目くらましでヒズボラと戦争するイスラエル)
イスラエルの目標は、ユダヤ人国家建設の完遂と安定である。イスラエルが自国領と考える西岸とガザにパレスチナ国家の創設を許すと、パレスチナが(イスラム主義への傾注などで)イスラエルを批判・攻撃するようになり、イスラエルの安全が阻害されるようになる。
パレスチナは経済的にイスラエルに依存し続けるのに、イスラエルを敵視する。イスラエルの領土も減る。イスラエル国内のアラブ人口も増え、ユダヤ人国家性が毀損される。2国式はイスラエルにとってマイナスが大きい。 (イスラエル窮地の裏側)
イスラエルによる米欧牛耳りがマイナス分を穴埋めできるのでオスロ合意がいったん成立したが、その後、イスラム教徒をテロリスト扱いして米欧を中東に没頭させてイスラエル傀儡にするテロ戦争策の方が効率が良いので、ラビン暗殺と911事件でそっちに移行した。
それ以来、イスラエルはパレスチナ抹消の動きをしだいに強め、昨秋からのガザ戦争になっている。
以前の記事に書いたように、米英ユダヤ界隈(諜報界)には(A)シオニスト(B)大英帝国・米英覇権派(C)国際資本家という、相互に暗闘する3つの系統があり、3つともイスラエルに入り込んでいる。 (英ユダヤ3重暗闘としてのパレスチナ)
2国式(パレスチナ問題)は、(B)覇権派が(A)シオニストを弱体化させるために作った構図だ。人権重視の外交体制やジャーナリズムも、覇権派の世界支配の道具だ。イスラエルがシオニズムを完遂しようとしてパレスチナを弾圧すると、欧米の政府やNGOやジャーナリストがイスラエルの人権無視を非難し、イスラエルを2国式の枠内に押し込めてきた。
イスラエル内部でも労働党など中道派は、米英覇権派と協調し、2国式を了承してきた。米英の覇権が強い間は、中道派のやり方が合理的だった。 (イスラエルのパレスチナ解体計画)
だが米国は、911以来のテロ戦争で覇権を大々的に浪費し、リーマン危機で経済覇権も潰えた(ゾンビ化して見かけ上だけ延命)。米覇権の浪費は、米英ユダヤ界隈の(C)資本家たちが目論み、傘下のネオコン(ユダヤ人中心)などを使ってやらかした。
シオニストは、米英覇権に見切りをつけてラビンを殺して2国式から離れ、資本家と組んで米国にイラク侵攻やシリア内戦、リビア潰しなどをやらせて覇権を浪費した。
(ネオコンと多極化の本質)(イスラエルが対立構造から解放される日)
ユダヤ人は米国のリベラル左派にもたくさんいるが、彼らも民主党やジャーナリズムを食い物にして、地球温暖化人為説やコロナ超愚策ロックダウン、教育破壊の覚醒運動、露中敵視で世界経済を分断した上で非米側を圧勝させる隠れ多極化策など、米欧の経済や社会を破壊する覇権自滅策を次々と扇動して大成功している。 (欧州エリート支配の崩壊)
(エスタブ自滅策全体主義の実験場NZ)
ガザ戦争は、こうした流れの集大成だ。イスラエルはガザを完全に破壊し、おそらくすでにガザ市民の大半をエジプトに越境させている(報じられないまま)。
ガザを破壊する際に、イスラエルは意図的に、極悪な人道犯罪を大っぴらに犯した。米欧はイスラエルの傀儡であり続けているので、重大な人道犯罪を犯したイスラエルを支援し続けざるを得ない。これは人権重視やジャーナリズムなど、大英帝国以来の米英覇権の支配体制を破壊している。 (ガザ市民の行方)
イスラエルは米諜報界を握っており、米欧政界の秘密が筒抜けだ。イスラエルは、気に入らいない政治家を落選させたり、スキャンダルをマスコミに漏洩して無力化できる。
イスラエルは、ガザ戦争で極悪な人道犯罪国家になった。だが、政治家がイスラエルを批判してしまうと、落選やスキャンダルで無力化されてしまう。米欧の政界は丸ごと、人権重視の大義を無視して、人道犯罪国家のイスラエルを支持礼賛する。国際社会(非米側)は米欧を信用しなくなり、米覇権崩壊と多極化に拍車がかかる。イスラエルは、これを意図的にやっている。
(Israel Lobby Takes Out Second 'Squad' Member As Cori Bush Loses Primary)
(US Ambassador Boycotts Nagasaki A-Bomb Ceremony Because Israel Is Not Invited)
イスラエル批判は難しいものの、米政界の民主党左派はイスラエル批判を強めている。それへの対策として、イスラエルはヒズボラとの交戦や、ハニヤ殺害によるイランとの敵対扇動策をやり、今にもイランがイスラエルを潰しにかかりそうな構図を作っている。
これを見て、米議会はすぐに超党派でイランと戦争するための法改定に着手した。イスラエル支援は、ガザ戦争の枠組みでなく、イランとの5正面戦争の枠組みで増額されていく。イランとの5正面戦争は目くらましに使われている。
(Majority Of Americans Oppose Using US Troops To Defend Israel: Poll)
イランやヒズボラは、イスラエルと戦争したくない。彼らは、イスラム世界での人気や影響力を増やすため、パレスチナを支援してイスラエルを敵視するだけだ。核保有国であるイスラエルと本気で戦争すると、イスラエルとイラン・レバノンの両方が焦土になってしまう。
これから米国の覇権がさらに低下し、イスラエルは武力の後ろ盾を失う。イラン系が結束すれば、イスラエルを潰せるようになる。だが、イスラエル国民の何割かは、命をかけて自国を守る決意を持っている。彼らは、イスラエルを守るために米欧から移住してきた。対照的に、イランやレバノンの国民は大昔からそこに住んでいる。 (Goldman Heads Discuss 'Interconnected Realities' Of Markets & Geopolitics Amid Looming Iran Strike)
自国防衛の決意の点で、イスラエルの方がずっと強い。イスラエル人は、自国が潰されるなら、その前に核攻撃してイランやレバノンやサウジを焦土にしてやる、米欧をとことん食い物にして兵器をごっそり支援させるぞ、と決意している。
ゼレンスキー(ユダヤ人)のウクライナでさえ、兵器庫が空になるまで米欧に兵器支援させた。イスラエルは、さらに徹底的だ。イランもアラブも、イスラエルと戦争したくない。冷たい和平の方がずっと良い。
トルコのエルドアンに至っては、表向きイスラエル敵視の言葉を放ちつつ、イスラエルとトルコとの経済関係を裏でしっかり維持している。イスラエルを経済制裁したと宣言しても、実はほとんどやってない。エルドアンの政党AKPは「隠れムスリム同胞団」であり、ハマス(ムスリム同胞団パレスチナ支部)と同じ政党だ。(文明の衝突を再利用するトルコのエルドアン)
イスラエルの目標は、敵であるはずのハマスを政治的に強化し、エジプトとヨルダンの米傀儡政権を転覆させてハマス(同胞団)の国に仕立て、パレスチナ人を2つのハマス国家に移動させ、西岸ガザを含むイスラエル国内からパレスチナ人(アラブ人)を一掃することだ。これでイスラエルはユダヤ人国家になり、シオニズムが完成する。
ハマスがエジプトとヨルダンの政権を転覆するまでには、まだしばらく時間がかかる。2-3年とか。その間、ガザ戦争をずっと続けねばならない。米欧からイスラエルへの全力の支援を維持せねばならない。 (ガザ虐殺からエジプト転覆へ)
イスラエルがパレスチナ人を虐殺する人道犯罪を続けているのに、米欧はイスラエルを全面支援し続け、エジプトやヨルダンの政府は米国の言いなりだ。エジプトやヨルダンで、自国の米傀儡政権への反対が強まり、ハマス・同胞団が政権を乗っ取る流れになる。
イスラエルが極悪な人道犯罪をやるほど、イスラエルの目標であるエジプトやヨルダンのハマス化が早まる。この点も、イスラエルがわざと大っぴらにパレスチナ人を虐殺している理由だ。
エジプトやヨルダンの政権をとって強くなったハマスは、米覇権低下によって弱くなるイスラエルを潰すまで戦争を続けるのでないか??。そういう疑問も湧くが、イランがイスラエルと戦争したくないように、ハマスも領土を得たらイスラエルと戦争したくない。
(Israeli media publishes video of soldiers allegedly raping Palestinian detainee)
今回の騒動は、世界におけるイランの地位を引き上げた。イランは数年前まで、米欧に経済制裁され、潰されかけていた。だが今、ハニヤ殺害後、米欧はイランに対し、イスラエルに反撃しないでくれと言って説得しに来ている。
米欧も中露も、イランをおだて、対価を用意して、イスラエルに反撃するなと懇願してくる。反撃を見送ったイランは、今後も米欧露中から大事にされる。イスラエルとの緊張が今後も続くことは間違いないからだ。(サウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国)
米民主党の大統領候補に成ったカマラ・ハリスは、副大統領候補に左派(極左)のワルツを選んだ。直前まで、ユダヤ人のペンシルベニア州知事であるジョシュ・シャピロが副大統領候補になるのでないかと言われていた。
米政界を支配するイスラエルから支援されるには、シャピロが好都合だった。だが、民主党内で強くなっている左派は、イスラエル敵視を強めている。シャピロを選んでしまうと、ハリスは左派の信用を失う。ハリスは結局、イスラエルより左派を重視して、左派のワルツを選んだ。(Harris picks Walz, a midwesterner with antiwar credentials)
この選択は、党内政治としては良かったかもしれないが、トランプとの戦いで見ると惨敗だ。イスラエルは、民主党を敵視し、トランプを支援する傾向を強める。トランプ当選、ハリス敗北の可能性がさらに強まった。(Harris snubbed VP contender because he's Jewish - Trump)