2024年8月24日土曜日

仏発 グローバルニュースNO.11、12/イスラエルの「嘘」を裁く国際法廷 ほか

 土田修氏による「仏発・グローバルニュース」のNO.11とNO.12を紹介します。
 (NO.11は7月21日に発行されていたのですが見落としていました。お詫びします)

NO.11 ウクライナ和平案とマクロン「皇帝」の凋落
 ここでは ウクライナ戦争の和平に向けて22年3月29日時点で、「ロシアが求めていたのは領土的な欲望ではなく、自国の安全保障を確かなものにすること」であり、「ウクライナについてはNATOを含めた如何なる軍事同盟にも加盟せずに『永世中立』を貫くべしとの内容で合意が成立する見通しが得られたため、ロシア軍は大々的に撤退を開始したのですが、その段階で突如「ブチャでの虐殺」が大々的に宣伝されるなどして結局頓挫したという経緯が述べられています。
 この「ブチャ虐殺事件」は当時からウクライナの情報機関によって「仕組まれた」という説があり、航空写真などからそのことを立証する記事も発表されました(櫻井ジャーナルも折に触れてそう解説しています)。逆にそうでないのであれば、ウクライナ側が「国連の調査団を拒んだ理由」の説明がつきません。
 いずれにしてもウクライナ戦争の「和平」は、米英などが大反対であることによって実現する見通しはありません。
 つぎに「マクロン『皇帝』」という意味は、先の総選挙で政権与党が大敗したにもかかわらず、大統領権限はフランスの憲法「第五共和国憲法」によって強固に保障されていて、独裁政治が可能なように出来ているからで、当然野党側からはこの憲法を廃止し普通の民主国家に戻すことが強く求められているということです。

NO.12 イスラエルの「嘘」を裁く国際法廷
 ここでは、先に国際刑事裁判所(ICC)はイスラエルのネタニヤフ首相とヨアフ・ガラント国防相の逮捕状を請求し、国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルによるパレスチナ占領政策は国際法に違反しており、「イスラエルはヨルダン川西岸と東エルサレムで続くユダヤ人の入植活動を停止する義務がある」としたにもかかわらず、イスラエル(と米国)は完全にそれを無視し、「自衛権の行使であり、正当防衛」という「嘘」を盾に ガザに対する窮極の「反人道」である攻撃をいまも続けています。
 そして米国をはじめとする西側諸国がそれを基本的に認めている現状は、そこまで「嘘」がまかり通っていてメディアもそれに追随しているという「異常さ」の顕れであると厳しく糾弾しています。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
グローバルニュースNO.11 ウクライナ和平案とマクロン「皇帝」の凋落
                       レイバーネット日本 2024-0-21 
                              土田修 2024.7..20
                  ル・モンド・ディプロマティーク日本語版前理事
                      ジャーナリスト、元東京新聞記者
フランス発・グローバルニュースNO.11 ウクライナ和平案とマクロン「皇帝」の凋落
 国際月刊紙ル・モンド・ディプロマティーク6月号(日本語版は7月号)に驚愕すべき記事が載った。編集責任者ブノワ・ブレヴィル氏の「消えたウクライナの和平案」という論説記事だ。ウクライナ戦争の初期にイスンブールで行われていた和平交渉で、ロシアとウクライナ双方が合意に達していたというのだ。しかも和平に至る最終草案まで出来上がっており、あとは両国が署名するばかりになっていた。
 実はこの草案を最初に暴露したのはドイツの保守系日刊紙ディ・ヴェルトだ。2024年4月28日に東側から入手した機密文書を基に紙面に掲載した。仮にこの最終草案にロシアとウクライナ双方が署名していたら、その後、2年間以上にわたる戦闘は行われず、数十万人の戦死者を避けることができたかもしれない。この大ニュースを世界のメディアはどこもまともに報じることはなかった。ブレヴィル氏が指摘しているように「積極的に主戦論を展開している西側陣営」にとって都合が悪いからだろうか?

2022年交渉の様子(報道より)
 2022年3月29日、ロシアとウクライナの代表団は新たなる和平交渉に臨んでいた。両陣営は重要な進展を確認し、「戦争終結」に向けた楽観的な見方に傾いていた。だが、その交渉は中断した。一般には4月上旬にブチャでの虐殺が明らかになり、状況が一変したからだと言われてきた。それは事実ではなかった。和平交渉はその後も続いており、4月15日までに17ぺージに及ぶ草案が出来上がっていた。そこには両国が何を優先課題に置き、紛争解決のためにいかなる妥協を受け入れるかが明確に示されていた。
 この文書から推し量られるのは、ロシアが求めていたのは領土的な欲望ではなく、自国の安全保障を確かなものにすることだった。草案の第1章に「ウクライナの永世中立」を記載しているのはそのことを表している。つまりロシアがウクライナに求めたのは、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)を含めたいかなる軍事同盟にも加盟せず、外国軍の駐留を禁止し、軍備を縮小することだった。欧州連合(EU)は軍事同盟ではないので、そこへの加盟の道は残されていた。重要なのは、草案第1章との引き換えに、ロシアは2022年2月24日以来、占拠している地域から軍隊を引き揚げるとともに、二度とウクライナを攻撃しないと誓約していたことだ。ウクライナが求めていた支援についてもロシアは同意していた。

 ブチャの虐殺については、ウクライナ側が国連の調査団を拒んだため、一部のリベラル派ジャーナリストが叫んでいるように、一方的にロシア側の犯罪と決めつけることは現状ではできない。事実、それ以降もイスタンブールでの和平交渉が続いていたのだ。しかも「和平=停戦」は手の届くところにあった。真相は明らかにされていないが、ブチャの虐殺事件の発覚にも関わらず、続けられていた交渉のテーブルからウクライナは突然、席を離れることになる。ブレヴィル氏によると、米国と英国が介在した可能性を示す証拠が上がっているという。当時、米英両国はロシアの敗北を過信していた。その結果、ロシアとウクライナの交渉人がまとめた草案を頑なに拒絶したというのだ。
 2023年11月24日、ウクライナ交渉団の責任者であるデビッド・アラカミア氏は現地メディア(Ukrainska Pravda)に「私たちがイスタンブールから戻った時、ボリス・ジョンソン首相(当時)が2022年4月9日にキエフに着きました。彼は『私たちは(ロシア人と)何も協定を結ばなかった。私たちの戦いを続けましょう』と言いました」と表明している。当時、米国に忠実なジョンソン氏は、ウクライナ戦争に関してバイデン政権の「使い」を務めたいた。ジョンソン氏はこれに反論しているというが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は綿密な調査報道によってジョンソン氏の行動を裏付けている(「ウクライナはロシアとの和平を取り結ぶ早期のチャンスを失ったのか?」2024年1月5日)。

 この最終草案によって明らかになったことは、ウクライナ戦争はロシアが「領土的野心」から侵攻したものではなく、NATOの拡大に驚異を感じ、自国の安全保障を確かなものにするため、ウクライナに「永世中立」を求めていたということだ。反対に戦争の継続を望んでいたのは米英両国だった。ウクライナ戦争によって、ロシアの経済は弱体化するであろうし、ロシアの天然ガスに頼ってきた欧州各国も痛手を蒙るブーメラン効果が期待できる。その上、米国の武器産業は活況を呈することは十分に予測できたはずだ。
 2014年以来、ロシアによる侵攻を煽ってきたバイデン政権にとって、ウクライナ戦争は損な選択であるはずがない。「第三世界」を搾取してきた「帝国主義」の時代は終わり、旧植民地から移民を受け入れ、自国内の労働者をプレカリアート(不安定雇用)に追い込み、搾取し苦しめ続けている新自由主義的資本主義は、戦争とオリンピックのような巨大な国際イベントによって生き残りを図っているのではないだろうか。

 ウクライナ戦争は「米国による代理戦争」でしかない。日本のテレビに出演するT大教授や防衛研究所の自称専門家たちは「ロシアはウクライナの占領を目的に侵攻を開始した」「ウクライナの次はポーランドやバルト3国が狙われる」「ウクライナは欧州の民主主義を守るためロシアを追い出すまで戦わなければならない」と一方的な主戦論を展開してきた。その情報の多くは米国の戦争研究所から発したものだ。たった2、30万人のロシア軍がどうやってウクライナという国家を占領できるというのだろう。

 2014年に米国の中央情報局(CIA)が工作したといわれる「マイダン政変」によって親ロシア政権を倒して以降、ドンバス内戦からウクライナ戦争へと導いてきたのは米民主党バイデン政権だ。国務次官ビクトリア・ヌーランドが密接に関わる旧ネオコン一派の巣窟である戦争研究所の情報がメディアで一人歩きしている国は恐らく日本だけだろう。メディア・リテラシー(メディアを読み解く能力)を持たず、新聞テレビの報道を鵜呑みするだけの日本の読者・視聴者を騙すことなど赤子の手をひねるより簡単なことなのだ。

「確トラ」と極右に揺れる欧州
 米国では、11月の大統領選挙で共和党トランプ氏の勝利が確実視されている。トランプ氏の暗殺未遂事件後、日本のテレビはこぞって「もしトラ」から「確トラ」へと表現をステージアップさせ、あたかも大統領に就任したかのようにトランプ氏の動向を追いかけている。トランプ氏は大統領就任前であっても、ウクライナ戦争を「即時停戦させる努力を惜しまない」と表明している。フランスでは、国民議会選挙で「ウクライナへの地上軍の派遣」を示唆していた主戦派のマクロン与党は大敗し、レームダック状態に陥っている。欧州議会選挙で大躍進した極右勢力は「自国ファースト」を掲げ、EUによるウクライナ支援をやめさせようと躍起になっている。フランスの極右「国民連合(RN)」は親ロシア派で知られる。
 そのフランスでは、7月7日の国民議会選挙の結果、577議席中、「不服従のフランス(LFI)」のジャン=リュック・メランション氏が提唱した左派連合「新人民戦線(NFP)」が182議席を獲得し第一党になった。マクロン与党の「アンサンブル」は168議席、RNは143議席にとどまり、この3つの勢力の間で組閣に向けた駆け引きが熾烈化している。マクロン大統領はガブリエル・アタル首相の続行を求めたが、アタル本人の意向が強く、7月18日に辞任を受理した。だが、パリ五輪を間近に控えており、アタル内閣は新内閣が発足するまで暫定内閣として職務を継続するという。

 フランスでは政権与党が国民議会選挙で大敗しても、大統領権限は別格だ。首相の任命権は大統領のものであり、議会で過半数を抑える勢力が現れたとしても大統領の権限を覆すことはできない。議会での審議をへずに議案を通過させることもできれば、議会での審議を中断したり、気に入らない法案を憲法院に諮って廃案に持ち込むこともできる。首相ら側近の進言に耳を貸すことなく、突然、国民議会を解散したのもマクロン氏だ。このようにマクロン氏が「皇帝」のように振る舞うことができるのは大統領に絶大な権力を与えた「第五共和国憲法」のお陰なのだ。
 1958年5月、アルジェリアにおけるクーデタに端を発した「政治危機」の状況下で、ドゴール将軍が考案した「第五共和国憲法」の制定は、大統領を国民議会の上位に位置付けるもので、一種の「クーデタ」とさえ言われた。この憲法を廃止し、フランスを普通の民主国家に戻すことがメランション氏のLFIが強く求めている政策の一つだ。そのLFIを除いた左派と右派の連合内閣の組閣が密かに検討されているとの報道もある。マクロン「皇帝」にとって目の上のタンコブなのは「極右」ではなく、「第五共和国憲法」」の廃止を訴えているLFIだからだ。今後、フランス政界がどこへ向かうのか、当分、暗中模索が続きそうだ。


グローバルニュースNO.12/イスラエルの「嘘」を裁く国際法廷
                       レイバーネット日本 2024-08-22
                              土田修 2024.8..20
                  ル・モンド・ディプロマティーク日本語版前理事
                      ジャーナリスト、元東京新聞記者
フランス発・グローバルニュースNO.12 イスラエルの「嘘」を裁く国際法廷
 8月9日の「長崎原爆の日」に長崎市内で行われる平和祈念式典に、G7構成国の米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、イタリアの6カ国と欧州連合(EU)の駐日大使が不参加を表明した。7月26日にパリ五輪が開幕した後も、ガザ地区への攻撃の手を緩めないイスラエルを長崎市が招待しなかったことに対する対抗措置だ。米国のエマニュエル大使は、父方の祖父がイスラエル建国前にウクライナのオデッサからパレスチナに逃亡したユダヤ人の孫だ。母方の先祖はモルドバ出身のユダヤ人。彼の父はアラブ人住民に対して爆弾テロや集団虐殺を実行した右派民兵組織イルグンのメンバーだった。彼の正式な名前は「ラーム・イスラエル・エマニュエル」。「ラーム」はイスラエル過激派武装組織「イスラエル解放戦士団」の隊員で戦死した「ラーマン」から名付けられたという。
 長崎の平和記念式典に不参加を表明した理由は「イスラエルは自衛権を行使しているだけだ。式典に招待しないのは、イスラエルをロシアやべラルーシと同列に扱うことだ」というものだった。無条件にイスラエルの「嘘」を受け入れている米国に、英国やフランス、ドイツ、EUなどが尻尾を振って追随した。エマニュエル大使は11月下旬に離任する意向を示しているが、同月に行われる米大統領選挙で民主党のハリス氏が勝利すれば、国家安全保障問題担当の大統領補佐官に起用されるとの観測もある。その時は、国際法違反のジェノサイドと占領を続けるイスラエルと、イスラエルを支援している米国に対する抗議の声がさらに強まるのではないか。

 ところで、5月20日、国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン主任検察官は、ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏らとともに、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアフ・ガラント国防相の逮捕状を請求すると発表した。この2人について、カーン氏は「戦争犯罪と人道に対する罪を犯した刑事責任を負っている」と説明している。イスラエルと米国は「(逮捕状請求は)歴史的な道徳的暴挙だ」「言語道断だ」などと感情をむき出しに抗議しているが、ICCの判断はG7を除く世界の多くの国々や人々の共感を得ているのは間違いない。イスラエルの「嘘」など、G7の高官の他は誰も信じていないのだ。
 7月19日には国際司法裁判所(ICJ)が、イスラエルによるパレスチナ占領政策は国際法に違反しており、「イスラエルはヨルダン川西岸と東エルサレムで続くユダヤ人の入植活動を停止する義務がある」という勧告的意見を出した。ネタニヤフ首相は「嘘の判断だ」とICJを強く非難したが、7月30日にハニヤ氏の暗殺があったこともあり、米国に追随してきたはずの西側諸国の中からもイスラエルに対する批判の声が上がっている。極め付けはトルコのエルドアン大統領の演説だ。「イスラエルはテロ組織のように行動し、侵略、虐殺、領土の奪取を通じて自国の安全を求めている。無法国家イスラエルは人類全体、全世界にとって脅威である。イスラエルはヒトラーを凌ぐ残虐行為を犯した」とまで言い切った。
 この演説に対し、イスラエルは「ヒトラーと比較する反ユダヤ主義だ」と激怒、「北大西洋条約機構(NATO)からトルコを追放する」と息巻いているが、NATO加盟国の中でもスペインだけでなく、ノルウェー、スロベニアはイスラエルを非難し、「パレスチナ国家の承認」を宣言している。スペインは、イスラエルをICJに提訴した南アフリカの訴訟に加わっている。ハマスの絶滅に躍起になっているイスラエルは「自衛権の行使であり、正当防衛だ」という「嘘」を盾にガザ攻撃を続けているが、それを承認しているG7構成国と、G7以外の大多数の国々との間の断絶は明確になった。イスラエルの「嘘」を信じたふりをしているG 7は国際的に孤立してしまっている。

 フランスの月刊紙ル・モンド・ディプロマティーク7月号でアンヌ=セシル・ロベール記者は「ニュルンベルク裁判(およびそれを引き継いだ東京裁判)に着想を得て、ICCは外交上または政治上の地位の如何を問わず個人を訴追し、ICJは国を裁く」としたうえ、「ハマスのイスラエル攻撃に対してイスラエルが行ったガザへの反撃は、両裁判所において同時に、はっきり異なった訴訟手続きの対象になった」と書いている(生野雄一訳「ガザの惨事を裁く国際法廷」、日本語版8月号)。ロベール記者はこう続ける。「ICCとICJの)訴訟手続きが世界中に衝撃を与えたのは、それが世界秩序の分裂とそこで支配的な『ダブルスタンダード』を拡大鏡のように映し出したことに基づいているからだ」。イスラエルからさまざまな脅迫を受けているというカーン氏は「国際人道法が武力紛争のすべての当事者に公平に適用されること」を望んでおり、「それによってすべての人間には同じ価値があることを具体的に示すことができる」と説明している。世界最大の軍事国家・米国がイスラエルを支援している以上、「国際人道法の公平な適用」など夢物語なのだが。

「嘘は悪徳ではない」、ヴォルテールの金言を実行するイスラエル
 同紙5月号でアラン・グレシュ記者は、自国の利益を守るため旧約聖書の物語を押し付け、自らをアラブという敵国の被害者であるかのように見せかけているイスラエルの「嘘」を暴いている(土田修訳「メディアを席巻する『ツァハル(イスラエル国防軍)』」、日本語版8月号)。グレシュ記者によると、イスラエルが世界中に張り巡らせたネットワークを駆使したプロパガンダ作戦は「イスラエルを非難する者」を黙らせてきた。「西側の政府高官やメディアは『イスラエルが本当のことを言っている』と信じ込んでいる、というのがイスラエルの優越意識だ」とグレシュ記者は説明する。「嘘は悪徳ではない。善行を施す場合には大きな美徳になる。人は遠慮がちにでも、大胆にでも、常に悪魔のように嘘をつく必要がある」とは、フランスの哲学者ヴォルテールの言葉だ。イスラエルは「民主的といわれる国々にとってあり得ないレベルで、この金言を実行している」だけなのだ。
 さらに、グレシュ記者はこう指摘する。「イスラエル社会は固い合意のもとに結束している。要するにこういうことだ。われわれは権利に守られており、われわれを皆殺しにしたがっている邪悪なアラブ人に抗して、ただ単に生き残りたいだけだ」。イスラエルの指導者たちが恐怖を利用しているのは、本当に怖がっているからだという。リベラル系のハーレツ紙を除いて、イスラエルの記者はヨルダン川西岸にもガザ地区にも赴くことはない。「彼らはイスラエル軍の報道発表をオウム返しにすることで満足し、イスラエルの占領地で起きていることに文字通りの意味で目を閉ざしてきた」

 7月24日、ネタニヤフ首相は米国上下両院合同会議に招かれ演説したが、議会前では全国から集まった数万人の人たちが「戦争犯罪者を逮捕せよ」と訴えたICCが逮捕状を請求しているというのに、それを高笑いするかのように米議会で平然と「嘘」を吐くネタニヤフ首相と、そんな人物を受け入れ称賛する議員たちの厚顔無恥さには驚くほかない。その米国で、外交政治誌「フォーリン・アフェアーズ」(6月21日付け)は「ハマスが勝利、イスラエルの戦略上の失敗が敵を強くした理由」と題するロバート・ペイプ教授(政治学)の報告を掲載した。
 この報告は「昨年10月以来、イスラエルは4万人以上の兵力でガザ地区を攻撃し、80%の住民を難民にし、3万7000人以上を殺害した」「少なくとも7万トンの爆弾を投下し建物の半分以上を破壊、水や食料、電気へのアクセスを切断して住民を飢餓状態に陥らせた」と指摘。だが、教授は「ハマスは弱体化していない。住民の殺戮によって、かえってハマスの支持は高まり、力を増している」と断言する。米国がベトナム戦争で、南ベトナムの大部分を荒廃させた「捜索と破壊」作戦を遂行している間に、ベトコンが力を増したのと同じだ。ハマスは粘り強く難攻不落なゲリラ勢力へと進化を遂げているという。
 現在、ハマスの戦闘員は昨年10月7日の「アルアクサー洪水作戦」の時に比べて10倍に当たる1万5000人に増えている。ガザ地区の地下に張り巡らされた地下トンネルの大半はイスラエルの攻撃から逃れて健在だ。このためイスラエル軍によるガザ攻撃は「勝ち目のない消耗戦」に陥っているという。4万人を超すガザ住民を殺戮しても、実は損なわれているのはイスラエルの安全保障の方なのだ。「ハマスの力に対する重大な過誤」が将来、イスラエルを崩壊へと導くのではないか。しかも、ネタニヤフ首相は昨年10月以前に自らの身に降りかかっていた汚職の訴追を恐れ、戦争を継続するしかない

 国際社会でのG7の孤立や、「正当防衛」を標榜するイスラエルの「嘘」、勢力を増しているハマスの現状といった米国にとって不都合な真実が日本で報道されることはない思考停止に陥っている日本のメディアに、ドイツの哲学者ハンナ・アーレントの次の言葉を捧げておこう。「嘘が絶えず繰り返されるのは、あなたを信じさせるためではなく、もう誰も何も信じないようにするためだ。真実と偽りを区別できなくなった人々は、もはや正しいものと間違いを区別することができない。このような人々は、思考力と判断力を奪われて、知識も意思もない嘘のルールに陥っている。そういう人々と一緒なら何でもできる」