東京新聞に掲題の連載記事=学者3人へのインタビュー記事が載りました。
政治の(近?)未来像はどうあるべきなのかについて学者たちに聞くのは面白い試みです。
(なお10日~12日まで3日連続で掲載されましたが、13日、14日は途切れています)
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<どうなる?日本の政治>①
岸田内閣支持率は低迷続く…なのに野党が伸び悩む理由 「ネオ55年体制」と評した境家史郎・東大教授に聞いた
東京新聞 2024年8月10日
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で政治不信が高まり、岸田文雄首相は内閣支持率が低迷している。だが、政権交代を目指す立憲民主党など野党の支持率は伸び悩み、政治に閉塞(へいそく)感が漂う。9月の自民総裁選と立民代表選を前に、有識者と政治の今を読み解き、これからを考える。初回は境家史郎・東大教授。
◆旧民主党が大盤振る舞いした政権公約のツケ
— 岸田政権の支持率が低迷しているのに、野党の支持率が上がらない理由は。
「野党は、自分たちなら日本をこう良くするという魅力的なビジョンをうまく示せていない。旧民主党のマニフェスト(政権公約)が大盤振る舞いすぎてうまくいかなかったため、慎重になっている。実現可能に見せつつ、自民党政権の方向性とは違う政策をいかに打ち出せるかが重要だ」
境家史郎(さかいや・しろう) 1978年、大阪府生まれ。東京大社会科学研究所准
教授、首都大学東京法学部教授などを経て、2020年11月から東大大学院法学政治学
研究科教授。専門は日本政治論、政治過程論。主な著書に「戦後日本政治史」「憲法と
世論」など。
— 自民への国民の不信感は依然として根強い。
「自民の支持率は2009年に下野した時よりも低い水準だ。今のままでは大幅に議席を減らすことはほぼ確実で、自公で過半数割れする可能性は十分ある。岸田政権は安倍政権と違って熱狂的に嫌う人は少ないかもしれないが、積極的に自民を支持する人も減っている。ただ、第1党の地位を譲るほどではないと思う。立憲民主党の地力は、09年の旧民主党よりもはるかに劣っている」
◆緊張感ないシステム、腐敗につながる
— こうした今の政治状況を「ネオ55年体制」と指摘している。
「第2次安倍政権以降の政治状況は、自民党が与党の地位を長く占めた戦後の『55年体制』に似ており、こう名付けた。いわゆる政権担当能力があるというイメージを自民党が独占していて、政党間の競争性が非常に乏しい。政権交代の可能性が低い政党システムになっている。緊張感がないから自民党の気も緩み、腐敗につながりやすい」
— 良い体制ではないと。
「競い合って切磋琢磨(せっさたくま)する政党間競争は必要で、良いとは思わない。競争性がなければ民主主義は死んでしまう。緊張感のなさは政権のパフォーマンスの低下にもつながる。『ネオ55年体制』は、健全な民主主義社会の運営が阻害されている状況自体を指している」
◆自民が憲法の問題を訴えれば野党が勝手にもめる
— 野党の分裂が自民党を利してきた部分も大きい。
「野党の分裂は戦後の日本政治の基本状態になっており、そこには根深い理由がある。占領期に日本国憲法が制定され9条ができたが、その後の外交・防衛政策との整合性を巡って非自民勢力は常に主張が割れて多党化した。憲法の問題を訴えれば野党が勝手にもめるので、自民はそのアキレス腱(けん)を突いてくる」
— 政党間の競争を取り戻すために何が必要か。
「憲法を非争点化することだ。政権交代が起きた1990年代は、それまでの『保守派と革新派』の対立から『改革派と守旧派』の対立に構造が変わり、非自民勢力がまとまることができた。戦後政治で例外的な時期だった。当時の大改革のような争点を探すのは難しいが、野党がまとまりうる争点で自民を攻める形をつくらなければいけない」(聞き手・坂田奈央)
<どうなる?日本の政治>②
「ズル」をしていたのは政治家だった 「人々の不信と不満の矛先が変わった」と明治大の重田園江教授
東京新聞 2024年8月11日
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で政治不信が高まり、岸田文雄首相は内閣支持率が低迷している。だが、政権交代を目指す立憲民主党など野党の支持率は伸び悩み、政治に閉塞(へいそく)感が漂う。9月の自民総裁選と立民代表選を前に、有識者と政治の今を読み解き、これからを考える。2回目は明治大の重田園江教授。
◆「政治的無関心」から「政治不信」に
― 自民党派閥の裏金事件などで政治への不信感が高まっている。
「昔は『政治的無関心』という言葉が注目されたが、今は『政治不信』に取って代わられている。有権者は政治に関心を持った上で、その信頼性を疑問視している。ただ、行政機関としての政府が完全に信頼を失ったとまでは思えず、不信の矛先はやはり政権を運営する与党、特に自民に向かっているのだろう」
重田園江(おもだ・そのえ) 1968年、兵庫県西宮市生まれ。早稲田大卒業後、日本
開発銀行を経て東京大大学院博士課程単位取得退学。99年、明治大専任講師などを経
て現職。2023年から政治経済学部・政治学科長も務める。専門は現代思想・政治思想
史。主な著書に「ミシェル・フーコー—近代を裏から読む」など。
◆安倍政権の終わりが境目に
― いつから自民へ不信が強まっているのか。
「安倍政権の終わりが、転換点だったと思う。競争原理を優先する新自由主義が台頭した10年余り前の第2次安倍政権のころは、自己責任論が唱えられ、人々の不平不満は自分よりも弱い立場にある『下』の人たちに向けられていた。例えば『生活保護をもらって暮らすのはずるい』や『障害者への福祉が手厚すぎる』といったように。結果的に政治に不信の目が向けられない状態が続いた」
― その後、なぜ有権者の目線が変わったのか。
「安倍晋三元首相が亡くなった後、メッキがはがれるように『アベノミクス』の虚像が見えてきて、安倍氏も誘致に力を入れた東京五輪・パラリンピックを巡る汚職・談合事件も発覚し、不信や不満の矛先は既得権にまみれた政治家や富裕層という『上』に向かいつつある。旧統一教会の問題や裏金事件も次々と明るみに出た。『ずるをしていたのは、実は社会の支配層だったのではないか』という空気が広がってきた」
◆反対を掲げるだけでは…
― 受け皿となるはずの野党は心もとない。
「政治に不当に扱われていると感じる人の声をすくいあげ、自らの政治勢力の拡大にどうつなげるかは当面の焦点になるし、うまくいけば政治が変わる可能性はある。だが、与党への反対を掲げるだけの野党では力を持ち得ない。1人でも強烈なリーダーが現れれば局面は変わるが、立憲民主党にも日本維新の会にも現時点では見当たらない」
― 政治不信が政権交代に直結していない。
「政権が代われば、隠されていた不正が暴かれたり、旧弊が打破されたりするメリットは大きいが、残念ながら今のところ、野党への信頼は低い。政権交代が難しいとしても、政治そのものの刷新につなげるため、9月に予定される自民党や立憲民主党の党首選では『重鎮』の老齢男性政治家が幅を利かせるような古い政治を打ち破るリーダーを、それぞれ選び出してほしい」(聞き手・我那覇圭)
<どうなる?日本の政治>③
「だらだら」続く岸田首相、「ふわふわ」緊張感のない立憲民主…『嫉妬論』の著者が求めるリーダー像とは
東京新聞 2024年8月12日
9月の自民総裁選と立民代表選を前に、有識者と政治の今を読み解き、これからを考える。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で政治不信が高まり、岸田文雄首相は内閣支持率が低迷している一方、政権交代を目指す立憲民主党など野党の支持率は伸び悩み、政治に閉塞(へいそく)感が漂う現状をどう捉えればいいか。インタビュー企画最終回の3回目は、立命館大の山本圭准教授に「指導者」のあり方を聞いた。
◆力強い指導者求める空気
― 9月の自民党総裁選と立憲民主党代表選では、ともに指導力が問われる。
「リーダーシップの型は大きく『分断型』と『統合型』に分けられる。分断型は敵をつくりだし、それを批判することで人々の喝采を集める。典型はトランプ前米大統領で、安倍晋三元首相にもそういう側面があった。台頭する背景には、紛争や災害、経済の混迷などの社会不安に対応できる力強い指導者への待望論がある」
山本圭(やまもと・けい) 1981年、京都府舞鶴市生まれ。神戸大卒業後、名古屋
大大学院博士課程単位取得退学。岡山大大学院専任講師などを経て2017年から現職。
専門は現代政治理論・民主主義論。著書に「現代民主主義—指導者論から熟議、ポ
ピュリズムまで」「嫉妬論—民主社会に渦巻く情念を解剖する」など。
― 分断型の指導者が台頭する危うさは。
「指導者のカリスマは20世紀前半にも求められたが、ファシズムがそうであったように独裁に進む恐れが常にある。一方、分断型に対抗するのが統合型だ。社会の多様な声を受け止め、結び合わせる方向にリーダーシップを発揮する。オバマ元米大統領のイメージが近いかもしれない」
― 岸田文雄首相はどちらのタイプか。
「難しい。当初は『聞く力』を掲げ、安倍氏や菅義偉前首相とは異なるリーダー像を示してくれる期待があったように思う。しかし、就任後に打ち出した『新しい資本主義』の実態は不透明になるなど、ビジョンがよく分からなくなった。能登(半島地震)の被災地支援を見ても、総じて指導力を発揮しているようには見えない。党内にライバルがいないので、だらだらと政権が存続しているだけのように思われる」
◆「もう一つのリーダーシップを模索する時」
― 対する野党の状況は。
「何としても権力を取りに行く、というギラギラしたものが見えない。現政権の存続を許しているのは、政権交代の緊張感がないことが大きい。野党第1党の立民も支援組織の連合か、野党共闘を求める共産党を選ぶか、どっちつかずでふわふわしている印象が拭えない。現状に甘んじることなく、無党派層に加えて自民の支持層まで取り込んで政権を奪いに行く気概を示してほしい」
― 政治的なリーダーをどう見定めるべきか。
「ある時期まで、対立する意見を戦わせて選択肢を明確にする『分断型』が重要な局面もあったが、社会の分断が深刻化した今、もう一つのリーダーシップである『統合型』を模索する時ではないか。指導者のあり方は、社会情勢や有権者らの姿勢の反映でもある。自民と立民の党首選にとどまらず、来年までに衆院選や参院選もある。投票をはじめ、日ごろからの政治参加や権力監視を通じて、私たちがどのような指導者を望むのか考える機会としたい」(聞き手・我那覇圭)