2026年3月9日月曜日

イラン戦争が始まった - 田中浩一郎のミスリードとサヘル・ローズの真実(世に倦む日々)

 世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
 ベネズエラに引き続き米国は2月28日、世に倦む日々氏が「卑劣で卑怯で非道で論外」と形容する違法なイラン攻撃を開始し、ハメネイ師らを殺害し イラン国中を空爆・砲爆する暴挙に出て現在に至っています。
 世に倦む日々氏は、「米国の属国である日本は、マスコミもアカデミーもイランという国とその政治体制を歪曲して悪魔化した像に捉えているが、イランほど親日的な国はなく、日本へのリスペクトやラブコールが強い国はないのに、日本は米国の対イラン視線をそのまま自らの眼鏡に据え、イランを蔑視して否定していることに悔しさと憤りを覚える(要旨)」と述べます。
 そして、「3年前の情報だが、文科省の下部機関の調査によると、〝質の高い研究論文″のランキングでイランは日本を抜いて12位で、いわゆる〝トップ10%論文″の数で、イランは3770本となり、3767本の日本を追い越した。1位が中国で、5位がインドだが、他はすべて先進国ばかり。韓国は10位。スペインが11位。イランがあれだけ過酷な制裁を受け、経済が疲弊し、貿易も制限されている中でこの快挙を実現している事実に着目する…」とイラン国民の優秀性を高く評価しています。
 実際 米国の「イラン憎悪」は数十年も昔からのことで、日本とイランはそれとは無関係に相互に信頼感を持ってきました(高市政権になってからは変わりそうですが…)。
(私ごとですが)もう数十年も昔、国内の何社かでグループを組んでイラン向けの石油精製設備を受注し、急遽担当チームを作り上げたのですが最終的に米国からのクレームに屈して、全てが「オジャン」になったケースがありました。
 要するにそれほど長い間 イランは米国から経済制裁を受け続けてきたのでした。
 ここでは世に倦む日々は南原繁の短歌に自分の気持ちを託して記事を閉じています。
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ハメネイが殺害されイラン戦争が始まった - 田中浩一郎のミスリードとサヘル・ローズの真実
                        世に倦む日日 2026年3月5日
2/28(土)、アメリカとイスラエルがイランへの本格的な軍事攻撃を始めた。日本時間の午後3時頃(イラン時間の午前9時頃)、イラン攻撃を伝える最初のニュースが流れ、その数時間後、トランプがフロリダの私邸から作戦実行を表明する演説を発した。その直後、イラン最高指導者のハメネイがテヘランの公邸でミサイル攻撃により殺害という速報が流れ、同時に革命防衛隊の幹部ら多数も死亡という情報が流れた。南部ミナブでは女子小学校が攻撃を受け、児童150人が殺戮される惨事となり、その映像が夜のニュース番組で放送された。日本時間の 3/1(日)になって、イラン国営放送がハメネイの死亡を認め、テヘランで追悼の集会が催された。ニューヨークタイムズによると、ハメネイ公邸での重要会議の情報をCIAが入手し、斬首作戦を決行したとある。その2日前の 2/26 、イランとアメリカはジュネーブで核問題の詰めの交渉を行っていた

IAEAのグロシも同席した場で、イランは濃縮ウランの備蓄をゼロにする譲歩案を示していた。3/2 にウィーンで次の会議を開く日程まで合意しておきながら、トランプは卑怯な騙し討ちに出たのだ。おそらく、2/28 のハメネイ公邸での会議は、その報告と次の協議でのイラン側の対応の意思決定をする手筈のものだっただろう。濃縮ウラン備蓄ゼロ(国外撤去)も、ハメネイの方針と決定だったに違いない。ハメネイは核保有に消極的で - 私見だが ー アメリカに対して妥協的なイラン指導者であり、燃えるような原理主義者で不寛容だったホメイニとは異なる個性の持ち主だった。側近たちはハメネイに危険なので別都市に避難するよう、地下室に身を隠すよう勧めていたが、ハメネイが断っていたらしい。86歳の病身でもあり、イスラエルによる暗殺死の最期を覚悟していたのだろう。昨年6月の奇襲空爆以降、イランには防空システムの迎撃ミサイルがない。殉教を覚悟して生活していた

ハメネイの暗殺と同時に、家族である80歳の妻と娘と娘婿、さらに1歳2か月の孫も爆殺された。文字どおりの殉死だろう。殺されるときは一緒と決意を固めて傍を離れなかったのに違いない。昨年6月の空爆時もそうだったが、イスラエルは革命防衛隊の重職幹部を次々と暗殺していて、ハメネイの手足となって動く国家枢要部の要人たちを根こそぎ抹殺し排除してきた。ということは、86歳の病身のハメネイは、信頼して要務を任せられる部下を失い、自分が一人で裁可し決断しなければならない境遇になっていて、追い詰められたイラン国家の舵取りにおいて心身に重い負担を強いられていたと推測される。殉教の犠牲でアラーの神の下へ行くことは、その負担からの解放でもあり、イラン人の結束と国家防衛エートス⇒精神)を高揚させるための最後の戦略だったと言えるかもしれない。6年前にトランプの指令でCIAに暗殺されたソレイマニーは、ハメネイにとって最愛の部下で、17歳年下の後継者的存在だった

単に国連憲章違反だとか国際法違反だとか言う前に、アメリカとイスラエルによるこのイラン攻撃は、卑劣で卑怯で非道で論外で、怒りが滾って言い表す言葉がない。それに対して非難も糾弾もしようとせず、当然の軍事攻撃と作戦成功の結果だと報道し、アメリカと同じ認識で揃う日本のマスコミも言語道断だ。ハメネイは国家元首であり、精神的権威の存在であり、日本の徳仁天皇や英国のチャールズ国王の位置に相当する。天皇が外敵のミサイル攻撃で皇居で暗殺されたらどうだろうか。たとえどれほどイランの体制が「権威主義」で、反体制派を弾圧して大量流血の禍を惹き起こしていたとしても、だからと言って、天皇と同じ国家元首が外国軍の侵略攻撃で暗殺される事件を見て、それを当然視してよいということはないだろう。罪もない小学生まで殺戮されている図を見て、反米国家の体制が暴力で倒される絵に喝采を送っている日本人はどうかしている。卑怯な騙し討ちを「時間稼ぎ」の語で正当化する「国際政治の専門家」も異常だ

3/2 に報ステに出演した田中浩一郎は、米⇒イスラエル)によるハメネイ暗殺とイスラム体制打倒の軍事攻撃を論評して、イラン国内では反対派と賛成派の二つがあるが、歓迎の方が過半数以上だと言った。イラン情勢のテレビ解説は田中浩一郎が仕切っている。冷静な分析はそれなりに説得的な印象を受けるけれど、この見方は正しくない。まず第一に、イラン国内の反体制派とか反体制運動の実体が、アメリカによる経済制裁で十重二十重に兵糧攻めされた下での、CIAの支援を受けたカラー革命の動きだという視点が議論の中に入ってない。これは問題だろう。日本のテレビに登場する中東情勢の専門家は、リビアにせよシリアにせよイランにせよ、決して転覆工作に蠢く狡猾なCIAの契機を見ない。イランが79年の革命以来のアメリカの仇敵であり、ブッシュによって「悪の枢軸」の3国の一とされ、常にカラー革命の謀略を仕掛けられてきた国だという経緯と真実を、研究者は正しく指摘する必要がある。その核心を無視する態度は、アメリカに対する忖度だろう

私は、ハメネイ暗殺支持がイランで過半数の世論だとは思わない。それでは過半数は何かというと、具体的には、サヘル・ローズの投稿(あるいは沈黙)が代表しているはずだ。こう言っている。「今は、簡単な言葉にできません。国家への攻撃のニュースの向こうには、そこで暮らしている人の生活があります。意見は一つではなく、『戦争』という言葉の意味も、置かれている立場によって大きく変わる。その複雑さを軽く扱いたくない」。この苦悩こそ、今回の事態に際してのイラン国民を代表した胸中の吐露であり、真実が表明された言葉だろう。イスラム神聖体制の強権独裁には反対なのだ。それが崩壊することは賛成なのだ。だが、それが外国による侵略戦争の武力で果たされることには反対なのであり、主権の侵害と民族の凌辱と弱者の犠牲は許せないのだ。イラン人の手で、平和裏に、イランに言論の自由がもたらされ、牢固な腐敗体制が一新される未来を願っているというのが本音だろう。二つの矛盾した感情が交錯しているのであり、だからこそ言挙げしないのだ

このような、サヘル・ローズ的な複雑な立場と意見が多数なのであって、それは、田中浩一郎が説明する単純な「過半数」の像ではない。田中浩一郎の説明は、アメリカと西側から見た一方的な「イラン世論」であり、そこには偏向と陥穽がある。われわれをミスリードするものだろう。サヘル・ローズの発言(あるいは沈黙)に内在したとき、イラン国内の人々の二面的な心情がよく透視できる。そのことは、最初の一撃でハメネイ殺害を成功させ、斬首作戦の目的を達成したにもかかわらず、トランプが初日にイラン国民を扇動して目標設定していたところの、体制打倒の「市民革命」が発生する気配がない状況からも窺えよう。もし田中浩一郎が言うように、反体制派が過半数以上の多数であれば、ハメネイ死亡の一報と同時に民衆が蜂起し、政府庁舎占拠という「革命」が起きて当然だった。だが、それは5日経っても起きてない。テヘランは平穏を維持したままだ。この事実は、トランプの誤算と失敗を意味するし、田中浩一郎の言説が正確ではない証拠を示す材料だろう。

おそらく、トランプはネタニヤフ(モサドCIA)に騙されて操られたのだ。ネタニヤフは、ハメネイを斬首すれば即、親米政権樹立の「革命」が起きると吹き込んだに違いなく、トランプはあっさり信じ込んだのだろう。無論、ネタニヤフはそれは嘘だと承知で、アメリカを戦争に引き込み、アメリカの軍事力でイランのイスラム体制を粉々に破壊するのが目的だ。アメリカの軍(統参本部)もまた、イランの体制転覆が無理だと理解している。おそらく内部で抵抗しているだろう。一方、CIAは奸知な蝙蝠をやっていて、モサドと組んでトランプを騙す片棒を担いでいる。イスラエルと一体だ。長い時間と労力をかけて工作してきたイランのカラー革命を成就させたい動機が強く、世界中から反米国家を殲滅したいネオコンの生理が疼き、ビッグチャンスを逸したくない欲望に誘われるのだろう。そのためには(無知でイスラムフォビアな)大統領を欺くことも厭わない。CIAはアメリカ帝国主義の権力であり、ホワイトハウスとは独立した意思と論理を常に持っている。

アメリカの属国である日本は、マスコミもアカデミーも、あまりにイランという国とその政治体制を歪曲して、悪魔化した像に捉えすぎている。イランほど親日的な国はなく、日本へのリスペクトやラブコールが強い国はないのに、アメリカの対イラン視線をそのまま自らの眼鏡に据え、イランを蔑視して否定している。私はそのことに悔しさと憤りを覚える。3年前の情報だが、文科省の下部機関の調査によると、質の高い研究論文のランキングでイランは日本を抜いて12位になっている。いわゆる「トップ10%論文」(他の論文での引用回数が各分野で上位10%に入る論文)の数で、イランは3770本となり、3767本の日本を追い越した。1位が中国で、5位がインドだが、他はすべて先進国ばかり。韓国は10位。スペインが11位。日本の科学技術研究の劣化に目を覆うばかりだが、イランがこの快挙を実現している事実に着目するべきだろう。あれだけ過酷な制裁を受け、経済が疲弊し、貿易も制限されている中で、イランのこの学業優秀は立派と言うほかない

イランは科学技術研究と科学者の養成に力を入れている国だ。科学研究の発展速度で世界上位2か国に入っているという情報もある。どこの国も先端科学技術の開発力を増すべく必死で挑戦し競争する環境で、経済制裁下のイランがこのベンチマークを堂々示している底力には驚かされる。思えば、同じように経済制裁下で極貧に喘ぐキューバが、医療分野で世界的に高度な水準の先進国である事例があり、その国の科学研究のレベルが決して経済の豊かさと一致するものではないことに気づかされる。日本もそうだ。経済的に貧しかった嘗ての時代の方が、科学研究に熱心で成果も生み、研究者を育てる教育力を持っていた。ソ連も科学研究が高度で旺盛な国で、その水準を誇りにしていた国だった。科学技術研究のレベルやスピードというのは、経済の豊かさと一致しないだけでなく、その国の政治的自由ともリンクしない。イランを悪罵するばかりの日本のマスコミとアカデミーは、この方面にも関心を向け、イラン国家のありのままを正視し、努力を評価し意義を認めるべきだろう

ヨーロッパが中世(の暗黒)だった時期、古代ギリシャ文明を引き継いだイスラム世界は高度な科学を発展させ、数学、医学、天文学、光学などの分野で最先端の地平にあり、後進の地中海西方がルネサンスを胎動させる基礎を提供している。イスラム革命のイランは、まさにその栄光を取り戻そうとするアイデンティティを核とする運動体だった。すなわち、革命を経て半世紀後のイランが科学研究の水準と速度で世界を瞠目させていたとしても、驚くにはあたらない現象だろう。イスラム科学の黄金期を復活・再現させるべく、清貧の中で、科学者の研究エートス⇒魂)が爆発する国になっている。われわれが考えるべきは、中東の中でただ一国、イランだけがそれを達成している事実だ。他の国はできてない。トルコもエジプトも、豊かなサウジや湾岸諸国も。イスラム革命の神聖体制で研究と教育を行ってきたイランだけが、経済的豊かさも政治的自由もないイランだけが、そこに到達している。ウェーバー的視角から興味深い一事ではないか

イラン戦争が始まった。今度の戦争はイラン戦争である。正義の「自由民主主義」の陣営が邪悪な「権威主義」の異端国を討滅して勝利する戦争である。西側世界はそう定義する。日本のマスコミ(田中浩一郎)はその文脈で戦争を解説する。私はその構図とその構図を前提とした報道コメントを認めない。私の立場は、1939年に第二次世界大戦が始まったときの南原繁の孤独な心境と同じだ。「天の川 堰切り放ち雨ふらして ポーランドの国防がせたまへ」「来る日も来る日も 独空軍爆撃つづくといふ 倫敦の市民は耐へてをるらし」(丸山真男集 第10巻 P.193-195)と詠み、絶望の淵で助手の丸山真男と希望を共有した南原繁と同じだ。おそらくだが、これがアメリカの最後の侵略戦争になる。そう思う