福島県の18歳以下の約38,000人を対象に行った甲状腺検査で、被検者の36%の人に何らかの異常があることが分かりました。(0~18歳はかなりの年齢幅なので、年代別に集計すれば、幼児側ではもっと高率になっている可能性があります。)
チェルノブイリでは、被曝後4、5年目から小児甲状腺ガンが、事故以前の発生率の100~150倍の高率で発症しました。そうした事例から福島県は無料で甲状腺検査を実施している筈ですが、それが単に放射線の健康影響を追跡するだけの疫学調査であるのなら、患者サイドからすれば何の意味もありません。
数年後に迫っている甲状腺ガン発症の可能性をどうすれば避けられるのか、そのためどんな治療を施せばよいのか、それこそが何としても知りたいことなのです。
ところが検査を行う福島県立医科大学からの通知には、単に「小さな結節(しこり)やのう胞(液体がたまった袋のようなもの)がありますが、2次検査の必要はありません」とあるだけで、「しこり」だけなのか「のう胞」だけなのかそれとも両方あるのかや、その大きさはどれほどなのかなどは、何一つ知らされません。そのまま何もしないで2年後の「疫学調査」を待つしかないわけです。
それはとても耐えられないと、困った患者の家族が他の病院で診て貰おうとすると、次から次に診療を断られるということです。当初は他の病院での診断を受けないようにと同医大から言い渡されたそうですが、いまはさすがにそこまであからさまには禁止されていませんが、実際には同医大から「疫学調査に外乱を与えないでください」という趣旨の文書が各病院に配布されているために、福島県内では診て貰えません。
この小説の世界のようなことが、現在の福島県で実際に起きているのです。
福島医大の副学長は長崎大学から佐藤福島県知事が招いた山下俊一氏で、彼は「放射能は100ミリシーベルトを浴びても健康に影響はない」と国民に対して高言する一方で、大学の内部では「将来、福島医大は放射能障害に対する知見で世界一の医大になる」と公言したことで知られています。
以下に、8月26日、9月2日、9月3日の毎日新聞の各記事を紹介します。
さすがにこの程度の言及が限界なのでしょう。
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クローズアップ2012 : 福島・子供の甲状腺検査 説明不足、不安招く
毎日新聞 2012年08月26日
「子供の健康を見守り、安心してもらうため」として福島県が無料で実施している18歳以下の甲状腺検査に、保護者の不安が募っている。セカンドオピニオンを求めて県外の病院を受診する人も続出。背景には結果に関する県の説明不足がある。 【須田桃子、鈴木泰広、坂井友子】
甲状腺検査の結果
判定結果
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判 定 内 容
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人 数
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割 合
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A1
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しこりやのう胞がない
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24,468人
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64.2%
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A2
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5ミリ以下のしこりや20ミリ以下の
のう胞がある
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13,460人
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35.3%
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B
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5.1ミリ以上のしこりや20.1ミリ以上の
のう胞がある
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186人
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0.5%
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C
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すぐに2次検査が必要
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0人
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0 %
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◇独自受診、県内病院が拒否も
福島県川俣町に住む60歳の女性は6月、4歳の孫を秋田市の中通(なかどおり)総合病院に連れて行った。車と新幹線で片道3時間、前日から宿泊し、甲状腺の触診と超音波、血液の検査を受けさせた。健康診断のため保険は適用されず、費用は約1万4000円。交通費なども約4万円かかった。
福島県立医大から検査結果の通知が来たのは2月。「小さな結節(しこり)やのう胞(液体がたまった袋のようなもの)がありますが、2次検査の必要はありません」とあるだけで、約2年後の次回検査まで放置して大丈夫か不安が募った。秋田の病院で複数ののう胞を確認、気が動転した。医師は半年後の再受診を勧め「今度は病名がつき保険も使える」と言ったという。
この病院には今年3月14日から約5カ月間で福島県の子供ら65人が訪れた。新潟や北海道、首都圏でも同様の受診が相次ぐ。福島医大が実施する県の検査は担当医を日本甲状腺学会など7学会に所属する専門医に限っているものの、検査は設備と経験のある医療機関ならどこでも可能だ。
だが、遠くまで足を運ぶ人の中には、福島県内で検査を拒否された例が少なくない。会津若松市に避難する2児の母親(38)は市内の5病院に電話をかけ、断られた。「診てもらいたい時に診てもらえないなんておかしい」と憤る。
医師らに理由を聞くと、「福島医大と異なる判断が出たら混乱を招く」(福島市の小児科医)、「保護者の不安を解消するのは民間病院の役目ではない」(会津地方の病院)。県の検査に携わる医師の一人は「今回の福島医大の検査は放射線の健康影響を追跡する世界でも例のない疫学調査。他の病院で受けて県の検査を受けない人が出ると、邪魔することになる」と話した。
福島医大の山下俊一副学長らが1月に日本甲状腺学会など7学会に出した文書の影響を指摘する声もある。県の検査結果に関する相談があった際、「次回の検査までに自覚症状等が出ない限り追加検査は必要ないことを、十分にご説明いただきたい」との内容だ。同学会に所属する医師の一人は「この文書に従うと、医師は診療を拒否してはいけないという医師法に反してしまう」という。
この文書について山下氏は「県は精度の高い検査を行っているので保護者が混乱しないようにきちんと説明してほしいという意味で、セカンドオピニオンを与えることを否定するものではない」と説明する。
保護者の不安が広がる中、浪江町は7月、県の検査がない年は町の診療所で検査する事業を独自に始めた。紺野則夫健康保険課長は「県は保護者や子供の気持ちが分かっていない。もっときめ細かく対応しデータを提供すべきだ」と話す。
◇詳細結果、開示請求が必要
福島県の甲状腺検査は、しこりやのう胞の有無、大きさを基に「A1」「A2」「B」「C」の4段階で判定している。BとCは2次検査を受ける。
保護者の不安が最も大きいのは「A2」だ。しこりなどが見つかったが基準より小さいため2次検査の対象外のうえ、通知にはしこりの数や部位、大きさが具体的に記されていないからだ。福島医大には電話の問い合わせが250件を超え、同大は改善を始めた。今後は結果に関する住民説明会も開くという。
だが、他にも課題はある。検査前に保護者が署名する同意書には、結果について「(保護者や本人の)希望により、いつでも知ることができる」と明記されているが、医師の所見やエコー画像を見るには、県の条例に基づき情報公開請求しなければならない。
開示請求はこれまでに6件あった。うち3件が約3週間後に開示されたが、静止画像は通常のコピー用紙に印刷されたもので、より鮮明な画像のデジタルデータは「改ざんされる恐れがある」(福島医大)と提供されなかった。同大広報担当の松井史郎特命教授は「身体に関する情報の取り扱いは特に慎重を期さなければならない。本人と確認するには開示請求してもらうのが確実だ」と説明する。
これに対し、日弁連情報問題対策委員会委員長の清水勉弁護士は「子供を守るための検査なのに本末転倒だ。検査結果のように本人や保護者にとって切実な情報は、本人と確認できれば速やかに希望する形で開示すべきだ」と指摘。仮に提供した画像が改ざんされても「元データを管理していればよい話で、非開示の理由にはならない」という。
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子供甲状腺検査:実施法人決まる…福島県外分
毎日新聞 2012年09月02日
福島第1原発事故を受けて福島県が始めた子供の甲状腺検査に絡み、国が県外で行う同様の検査業務の実施団体が31日、NPO法人「日本乳腺甲状腺超音波診断会議」(中村清吾理事長)に決まった。内閣府が一般競争入札で公募していた。
同法人は、乳腺や甲状腺の超音波検査の診断に関わる医師ら約2000人が所属。診断基準を作ったり、診断ガイドブックを刊行している。【須田桃子】
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社説:甲状腺検査 丁寧で科学的な説明を
毎日新聞 2012年09月03日
福島第1原発の事故を受け福島県が実施している子どもの甲状腺の検査に対し、保護者らが不満や不安を感じている。検査結果の説明が不十分だったり、放射線の影響を判断するための疫学データが不足したりしているためだ。
科学的なデータと、それに基づく十分な説明によってしか人々の納得は得られない。国や県は住民の立場に立った検査や説明に心を砕いてほしい。
福島県が子どもの甲状腺検査を重点的に行っているのは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の4〜5年後に子どもの甲状腺がんが増えたためだ。事故で放出された放射性ヨウ素が原因だと考えられる。チェルノブイリに比べると福島での放射性ヨウ素の影響は非常に小さいと見られるが、人々が不安に思うのは当然だ。
県の検査の対象は震災時に18歳以下だった県民36万人。今年3月末までに約3万8000人が受診し、3割強の人に結節(しこり)やのう胞(液体がたまった袋状のもの)が見つかった。このうち、詳しい2次検査の対象となったのは結節やのう胞が大きい186人。大多数は問題がないと判断され、約2年後の次期調査まで検査は不要とされている。
ひとつの問題は、検査を行っている福島県立医大から受診者に送られる結果通知が不親切であることだ。結節などがあるのに2次検査は不要とされた人々への通知は、当初、見つかったのが結節なのか、のう胞なのかさえわからないものだった。
保護者らからの指摘を受け、追加説明が加えられたが、それでも十分とは言えない。福島医大は、さらに詳しい説明を同封する準備を進めているが、県民の疑問や不安にしっかり答える内容にしてもらいたい。
県内の病院で子どもの甲状腺の検査を拒否されたケースがあることも問題だ。福島医大の副学長らが学会に出した通知が影響している可能性もある。独自に検査を受けたい人の希望を妨げないよう、対応を考える必要がある。
さらに重要な問題は、福島での検査結果の傾向が他の地域と同じなのかどうかがわからない点だ。政府は、比較対象となる県外での調査の実施を決めたが、妥当な判断だ。他の地域との比較がないまま、「通常でもある結節やのう胞で、問題ない」と言われても、福島県民の納得は得られない。もちろん、県外の子どもや保護者にも無用な不安を与えることがないよう、十分な説明は欠かせない。
福島でも、それ以外の場所でも、こうした検査は内容を詳しく知りたい人が専門家に十分たずねられる体制とセットで進めるべきだ。そうした仕組み作りも急いでほしい。