生活保護支給水準の見直しを進めていた厚労省が、28日に見直し素案を公表しました。それによると若干の「アメ」を添える一方で、「審査の厳格化」を目指しているということです。
そもそも日本における貧困化の実態はどうなのでしょうか。厚労省が3年ごとに行っている「国民生活基礎調査」の最新データによれば、相対的貧困率は2003年以降、また実質値貧困線は1997年以降悪化する一方であり、日本において「絶対的な貧困化」が進んでいることは疑いありません。(下表参照)
一方、所得分配の不平等さを測る指標ジニ係数も、日本は急速に悪くなっていて、いずれアメリカを抜く勢いとも言われています。
貧困率の状況(厚労省:平成22年=2010年調査)
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1997年
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2000年
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2003年
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2006年
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2009年
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相対的貧困率
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14.6%
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15.3%
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14.9%
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15.7%
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16.0%
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実質値貧困線
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130万円
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120万円
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117万円
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114万円
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112万円
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注) 相対的貧困率とは、国民一人ひとりを所得額順に並べ、そのちょうど中央値となる所得額の半分(貧困線)に満たない人の割合を表すもので、OECDの基準により算出されています。
貧困率・貧困線が悪化した背景には、派遣やパートなど非正規労働者の増加や少子高齢化、景気低迷による失業や所得の減少があることは明らかです。そういう問題を放置しておいて、結果として生じる貧困者に対して、生活保護の支給対象から外そうとしたり、支給額を削ろうとすることは許されません。
毎日新聞、東京新聞の記事を紹介します。
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生活保護 :「アメとムチ」 厚労省案、安全網後退の懸念も
毎日新聞 2012年09月28日
厚生労働省が28日公表した生活保護制度の見直し素案は、就労意欲を促すための加算金創設など「アメ」の部分と、審査の厳格化という「ムチ」の両面で従来より踏み込んだ。ただ、就労促進の実を上げるにはきめ細かい支援が不可欠だ。この前提が崩れれば厳格化だけが強調され、「最後のセーフティーネット」としての機能が後退しかねない。
働く意欲がある人への加算、賃金を得れば保護費が減額される仕組みの緩和−−。受給者に働くことを強く促す素案に対し、実務を担う自治体側の委員は28日の社会保障審議会の部会で方向性に賛意を示した。ただ、実効性には疑問も残る。
例えば今回の目玉、加算金創設も、何をもって「働く意欲がある」と評価するかは示していない。厚労省は採用面接を受けた回数などを想定しているが、あるケースワーカーは「外形的なアリバイはいくらでも作れる」と打ち明ける。
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(9/29下記の記事を追加)
生活保護の不正厳罰化 厚労省が見直し案
東京新聞 2012年9月28日
厚生労働省は28日、生活保護の不正受給に対する罰則引き上げや「制裁金」導入を盛り込んだ「生活支援戦略」の素案を社会保障審議会特別部会に示した。生活困窮者への就労支援を含めた最終案を年内にまとめ、来年の通常国会への関連法案提出を目指す。
過去最多が続く生活保護費は12年度当初予算ベースで3兆7千億円。不正受給額は10年度129億円まで膨らみ批判が高まっているため改善に乗り出す。
生活保護法で「3年以下の懲役または30万円以下の罰金」と定めた罰則の引き上げを検討する。
現在は不正受給が発覚しても返還すればよく抑止効果がないため、制裁金の上乗せ案を提起した。 (共同)