今回の衆議院選は、残念ながら改憲勢力である自民党が単独過半数を占める勢いだと言われています。これは政権与党民主党への失望の反映だと考えられていますが、まことに由々しき事態です。
東京新聞は11日、「衆参とも3分の2確保必要 自民の『改憲』公約」
と題する記事を載せました。そして憲法改正が実現するのかについての「Q&A」では、参院では自民と維新が連携したとしても90人に満たず、3分の2に当たる162人にはるかに及ばないことから、それが改憲の高いハードルになっているとしています。
それはそれとして、まだあまり周知されていない自民党の憲法改正草案は、そもそも国民に支持されるものなのでしょうか。
◇もしも国防軍を持てば
自民党の憲法改正草案では、(軍事)機密保護法を制定し軍事審判所を作り国防軍を持つとしています。日本が軍隊を持つことを一番望んでいるのは米国なので、もしもそうなれば日本軍をあらゆる戦線の文字通り尖兵として使い廻すでしょう。要するに米軍にとって無給の傭兵になるわけで、アメリカに隷属してきた日本がそれを拒否出来る筈もありません。
現在は財政上の理由から海外派兵を縮小する方向にあるアメリカですが、こうして無償の傭兵を獲得すれば再度拡大に転じるかも知れません。大規模の海外派兵を強制されれば兵員不足となるので、日本ではすぐにも徴兵制度を復活させることになるかも知れません。
そして今度こそアメリカの代わりに、日本は軍事費によって財政破綻を来します。その先にある国民生活の悲惨さは多言を要しません。
◇基本的人権もツユと消える
国防軍の創設と並んで大きな問題となるのは、これまでは憲法で無条件的に認められてきた国民の権利=個人の自由を、自民党の憲法改正草案では「公益及び公の秩序」に反しない限りで認めるとしていることです。
現行の憲法では生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は、「公共の福祉に反しない限り」最大限に尊重されるとなっています。これは国民の権利=個人の自由は最大限に認め、その各個人の権利がお互いに干渉したときに、それを調整する基準として「公共の福祉」の概念を用いるとするものです。従って「公共の福祉」の概念自体は当然に抽象的ですが、その法理的な位置づけは明白です※1。
それに対して自民党の改正草案では、国民の生命、自由及び幸福追求の権利、財産権、集会・結社・言論・出版その他一切の表現の自由を、「公益及び公の秩序」に反しない限り認めるとしています。一見似たような言葉ですが、その意味するところには雲泥の差があり、「公益及び公の秩序」は「公共の福祉」の抽象的な概念とは異なり、一片の法律で容易に定められるものです。
※1 自民党が作成した「自民党憲法改正草案 Q&A 」では、「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変更することについて、「従来の『公共の福祉』という表現は、その意味が曖昧で、分かりにくいものです。
(中略) 今回の改正では、このように意味が曖昧である『公共の福祉』という文言を『公益及び公の秩序』と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。」と説明をしています。まさにカラスをサギと言いくるめる恐るべき欺瞞です。
戦前の大日本帝国憲法(旧憲法)における国民の「権利規定」が正にそうでした。
旧憲法でも、決して「国民は無権利」などと書かれていたのではなくて、例えば信書の秘密や言論・出版、集会・結社の自由等の権利は、全て「法律の範囲内において有す」とされていました。その憲法下で、現実には例えば治安維持法・治安警察法等によって民主的権利の悉くが圧殺されるなどして、結局国民は無権利状態に置かれることになったのでした。
そうした事例に照らしても、仮に自民党の改憲案が成立すれば、その時点でいつでも戦前の暗黒の時代に戻れる体制が、憲法的に整うという関係にあることが分かります。
こうした酷い内容の自民党の憲法改正草案が国民から支持されるとは到底思われません。
今回の衆院選挙でも、また来夏にある参院選挙でも、改憲勢力の進出は是非とも抑えなくてはなりませんが、このような時代に逆行する憲法改正草案が国民に支持される筈がないことに確信をもって、その本質を暴露していく必要があります。
注. ここでは自民党憲法改正草案の問題点を2点に絞りましたが、より詳細な検討は5月31日付「自民党の憲法改正草案は非常に反動的 ※2」で行っていますのでご参照下さい。
※2 http://yuzawaheiwa.blogspot.jp/2012/05/blog-post_4342.html
※2 http://yuzawaheiwa.blogspot.jp/2012/05/blog-post_4342.html
以下に東京新聞の記事を紹介します。
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衆参とも3分の2確保必要 自民の「改憲」公約
東京新聞 2012年12月11日
16日投開票の衆院選で、自民党の優勢が伝えられている。もし自民党が政権に復帰することになれば、安倍晋三総裁は公約に掲げる憲法改正を目指すことになる。だが、国民の支持を得ているとは言い難い。手続き上のハードルも高く、実現は簡単でない。 (清水俊介)
Q 改憲にはどんな手続きが必要なのか。
A 改憲したい国会議員が全103条のうち、変えたい条文ごとに憲法改正原案を国会にまず提出する。それを衆参両院の憲法審査会で審議し、本会議で可決されると、憲法改正案が国民投票にかけられる。ただ、衆参とも可決には「総議員の3分の2以上の賛成」が必要なため、安倍氏自身も「極めて高いハードル」と認めている。
Q ハードルはどのくらい高いのか。
A 選挙戦で優勢が伝えられているが、それでも自民党だけで衆院の3分の2に当たる320議席を確保するのは容易でない。連立政権を組む方針の公明党も改憲に強く反対している。仮に衆院で3分の2を確保できたとしても、参院がある。
Q 参院はどうか。
A 民主党が第一党で、少なくとも来夏の参院選後まで自民党は過半数割れした状態が続く。日本維新の会は改憲に前向きな姿勢だが、参院では3議席しかない。自民と維新が連携しても、90議席にも満たない。
Q 民主党が協力すれば、衆参ともに3分の2を超えるが、その可能性はあるのか。
A 野田佳彦首相は改憲について「今、公約に掲げて進めるのがいいのか」と否定的だ。民主党の協力をすぐに得るのは難しい。
安倍氏は国防軍の保持を明記する憲法九条改定の前に、改憲に必要な衆参の総議員数を「3分の2」から「2分の1」に引き下げる96条の改正に取り組む考えを示している。ただ、この賛否を問う国民投票をするにも、総議員の3分の2以上の賛成が必要だ。
Q 国民は改憲を求めているのか。
A 本紙が衆院選公示直前に行った世論調査では、憲法九条改正について、反対が41・4%で、賛成の40・9%を上回った。賛成を求める世論は半数に達していない。