2012年12月16日日曜日

WHOの福島事故報告書は健康への影響を軽視している


福島第1原発の事故に関して、世界保健機関(WHO)が今年5月に発表した住民の推定被ばく線量に関する報告書は、健康への影響を軽く見積もっていると批判する論文が出ました。ノーベル平和賞を受賞した国際団体「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」の医師がまとめました。 

主な批判点は、①原発に近い福島県浪江町と飯舘村でも全身の被ばくは最大で50ミリシーベルトとした推定が各国の研究機関の算定値よりも大幅に少ないこと ②事故から数日以内に避難した20キロ圏内の住民の被ばくを無視していること ③被曝量が100ミリシーベルト以下であればがんのリスクはないとしていること などで、特に③については、「がんなどに罹患する危険性は、被ばく線量に比例して高まる」という重要情報を除外して安全性を示そうとしていると批判しています。 
IAEAが「100ミリシーベルト以下であれば健康被害はない」という立場をとっていることに対しては、かねてから批判がありましたが、例えば1986年に起きたチェルノブイリ事故で作業した約11万人の健康状態を2006年まで20年間追跡調査した結果でも、低線量被ばくでも白血病などのリスクが高まったことが確認されました。(119日付「低線量放射能でも白血病の発症が明らかに」
 
また論文は、これらの誤りはWHOの報告書が原発推進のIAEAの関係者らによって作成されたためであるとし、独立した機関で福島第1原発の健康被害を評価することが必要であると述べています。 

以下に時事通信の記事を紹介します。
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福島事故「健康への影響軽視」=WHO報告書-ノーベル平和賞団体が批判
時事通信 20121215 

 【ベルリン時事】東京電力福島第1原発の事故に関連して、世界保健機関(WHO)が今年5月に発表した住民の推定被ばく線量に関する報告書について、核戦争防止を訴える国際団体で、ノーベル平和賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」の医師が事故の健康への影響を軽く見積もっていると批判する論文をまとめた。論文は、原子力の平和利用を推進する国際原子力機関(IAEA)の関係者らが報告書を作成したためと指摘し、独立した科学的評価の必要性を訴えている。

 WHOの報告書は、原発に近い福島県浪江町と飯舘村でも全身の被ばくは最大50ミリシーベルトで、発がんリスクが高まるとされる100ミリシーベルトを超えた地域はなかったと分析した。
 これに対し、ドイツのアレックス・ローゼン医師(小児科、医学博士)は論文で、報告書が推定している放射性物質の放出量は、各国の研究機関の算定値より大幅に少ないと指摘。また、報告書は事故から数日以内に避難した20キロ圏内の住民の被ばくは考慮していないが、避難前や避難中に被ばくした恐れがあると疑問を唱えた。

 論文は「報告書はがんなど放射性物質で引き起こされる疾病に罹患(りかん)する危険性は、被ばく線量に比例して高まるという重要情報を除外し、安全性を示そうとしているようだ」と批判した。