21日、外務省は政権交代の間隙を縫うようにして、対イラク戦争への日本の対応についての検証結果を発表しました。
これまで対イラク戦争の検証に関しては、英国では第三者検証委員会でブレア元首相招致をも含めて行いました。オランダでも第三者検証委員会を作って行いました。米国ではブッシュに史上最低の大統領という評価を与えました。
しかし日本の外務省は、「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」と信じ込んだ経緯に関し、「存在しないと証明する情報がなかった」と結論付けて、「事実を誤認したのはやむを得なかった」とする内容の、要旨4枚の発表を以て詳細未公表のままで幕引きをしようとしています。
小泉首相(当時)は、数次のイラク査察を行ったIAEAが「大量破壊兵器保有の証拠はない」と表明しているのを無視して、ブッシュの開戦演説に真っ先に賛同しましたが、その根拠の説明や誤りだったと判明したことに対する釈明が、その程度のことで済ませられるのでしょうか。
26日、「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」他の団体が連名で、外務省の検証を批判する緊急声明を出しました。
そこではイギリスやオランダの例に倣って報告書を完全に公開すること、検証は独立した第三者検証委員会で行うこと、個人も含めた道義的・法的な責任の所在を明らかにすること、などを求めています。
以下に同声明および21日の新聞記事を紹介します。
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外務省「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」に対する緊急声明
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
参議院議長 平田 健二 殿
衆議院議長 伊吹 文明 殿
外務大臣 岸田 文雄 殿
外務省「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」に対する緊急声明
― 情報開示と政府による検証を求める
先週 12 月21 日、外務省は「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」として、2003年3 月に開戦したイラク戦争への、同省としての対応を検証したと公表した。一部報道では、「分厚い」報告書がまとめられたと報じられているが、公開されたのは、わずか4ページの要旨のみであった。これをもって日本のイラク戦争への対応が検証されたとはとても言えない。私たち市民団体とNGO は、以下の二点を求める。
1.
外務省の「検証」報告書の全文を公開すること
2. 外務省のみならず政府および国会における独立した第三者の検証委員会により検証が行なわれること
1. 報告書の公開に関して
今回の「検証」報告書について、外務省は外交的配慮を理由に公開しないとしている。だが、日本に先駆けてイラク戦争への対応を検証したオランダでは、「国連決議1441 に基づくイラク攻撃は国際法違反」「オランダ政府のイラク戦争支持は誤り」として550
ページにわたる報告書が2010 年1月にまとめられ、公開されている。
2009 年7 月から検証が開始され、来年中には最終報告がまとめられると見られるイギリスにおいても、独立した検証委員会がトニー・ブレア元首相を筆頭に当時の政府関係者への聴取や政府文書の開示を行い、それらは検証委員会のウェブサイトで公開されている。
これらの先例にくらべ、今回の外務省の「検証」はあまりに閉鎖的であり、客観的な批判に耐えうるものとは言えない。そうした閉鎖性こそ、「イラクが大量破壊兵器を所有している」という誤った情報を開戦にいたるまで主張し続けることとなった原因のひとつである。報告書を公開し、一般(市民)からも広く意見を求めるべきである。
2. 第三者の検証に関して
私たちは、今回の外務省の「検証」が、日本におけるイラク戦争検証の幕引きとされることを強く憂慮する。オランダやイギリスの検証は、政府の指示の下に、独立した検証委員会が、イラク戦争と自国の関与について多角的に検証しているものである。
それに対し、今回の外務省の「検証」は、同省がイラクの大量破壊兵器に関する情報について、誤った情報しか持ち得なかったことを認めたにすぎない。
私たちは、政府と国会に対し、改めて以下のことを求める。
1) 独立の「第三者検証委員会」を政府および国会のもとに設け、「イラク戦争支持の政府判断の是非」、「自衛隊イラク派遣の判断の是非」、「政府のイラク復興支援の適否」の3 点を検証すること。
同委員会が上記3 点についての情報開示や調査を行い、個人も含めた道義的・法的な責任の所在を明らかにすること。
2) 「第三者検証委員会」による検証のプロセス、最終報告などが最大限公開され、誰にでもアクセスできるようにすること。
3) 「第三者検証委員会」による最終報告を受けたうえで、日本政府としての見解を国内外に発表するとともに、必要とされる人道支援、被害者支援を行うこと。
イラク戦争の検証を行うことは、第166 回国会で内閣提出の法案第89号(イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法の一部を改正する法律案)可決の際の附帯決議で定められた国会の意思である。
政府及び国会は、早期かつ内外の評価に充分耐えうる内容をもったイラク戦争の検証の実現に尽力すべきである。
2012 年12 月26 日
イラク戦争の検証を求めるネットワーク
(特活)日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)
(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)
ピースボート
非戦を選ぶ演劇人の会
WORLD
PEACE NOW
米国支持、やむを得ず イラク戦争で外務省
東京新聞 2012年12月21日
外務省は21日、2003年のイラク戦争で日本が米国の開戦を支持した経緯を検証した報告書の概要を発表した。「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」と信じ込んだ経緯に関し「存在しないと証明する情報がなかった」と結論付け、事実を誤認したのはやむを得なかったとの見方を示した。
イラク戦争への対応を検証したのは初めて。概要は「イラクが大量破壊兵器を隠匿している可能性があるとの認識が国際社会で広く共有されていた」とも述べている。米英両国などは当時、イラクによる大量破壊兵器の隠匿を開戦の大義名分に掲げていた。 (共同)