2013年9月9日月曜日

TPPでジェネリック医薬品が制限される

 TPP協定に伴うジェネリック(後発)医薬品の抑制の問題は深刻で、東南アジアなどではジェネリック問題に特化して抗議行動が起きているほどです。しかし日本では他の問題と同様に、この問題も一向にマスメディアは取り上げません。

 また不可解なことに、国民医療費の膨張を食い止めるためにジェネリックの利用を推進している筈の政府も、米国と歩調を合わせて医薬品特許の保護に熱心だということです。
 いうまでもないことですが、ジェネリック医薬品が抑制されてしまえば、それによって新薬の価格を抑制する効果も同時に失われます。

 東京新聞は8日の記事でジェネリックの問題を取り上げました。こうした事例研究的な記事もまたTPPの本質を的確にクローズアップしてくれます。
 記事の「デスクメモ」は、「TPPで暴動が起きないのが不思議」と述べています。
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TPPで医薬品高騰に懸念 米の求める新薬の特許保護で
東京新聞「こちら特報部」2013年9月8日
 環太平洋連携協定(TPP)は人の生命に直結している。TPPの知的財産分野では、薬の特許が焦点になっている。米国は開発した新薬の特許の保護強化を求め、日本も同調しそうだ。だが、新薬保護が強まれば、ジェネリック(後発)医薬品が打撃を受ける。その影響は開発途上国のみならず、国内の患者たちも避けがたい。急ピッチで交渉が進む中、医療関係者たちは不安を募らせている。 (荒井六貴)

 「現在の医療制度を守るには安く手に入るジェネリック医薬品の利用が欠かせない。しかし、TPPの動きはそれと逆行する。薬の価格を押し上げ、患者さんに負担がいってしまう」
 日本薬剤師会の医薬品試験委員会委員長を務める鳥海良寛さんは、そう危機感を募らせる。
 鳥海さんの妻、美雪さんが経営する秋田市内の調剤薬局では、常備する千二百種類の薬のうち40%がジェネリックだ。美雪さんは「高齢者では、一般的に服用する薬が多くなり、経済的な負担は無視できない。毎日、使うような薬はジェネリックに変えていきたい、と考えている」と話す。
 新薬の保護が強化されると、なぜ、薬価が上昇することになるのか。

 医師が処方する医療用医薬品は、新薬とジェネリックに分けられる。ジェネリックは新薬が販売されてから一定期間をへた後、新薬の成分や製法を使って、他のメーカーが製造する薬だ。
 新薬の開発には十年前後の期間と、数百億円の投資が必要とされる。
 そうした新薬メーカー保護のため、日本では原則的に成分や効能についての特許を出願した時点で、特許期間(二十年)が設定されている。
 それとは別に、開発、製造を進めた新薬を国が承認してから八年後、有効性を国が評価する再審査がある。この起算時点が異なる二十年と八年の期間がすぎて、初めて他社はジェネリックを販売することができる。
 もちろん、ジェネリックは開発に資本投下がいらない分、安価に供給できる。例えば、心筋梗塞の薬で、新薬が一錠五七・七円なのに対し、ジェネリックなら六・八円、花粉症の新薬で一錠百四十六円に対し、ジェネリックならば三七・九円といった具合だ。国民医療費の膨張を食い止めたい政府も、ジェネリックの利用を推進している。

 一方、新薬メーカーにとって、安いジェネリックが出回ると、新薬が売れなくなるため、商売敵になる。逆に、ジェネリックがなければ、新薬の価格を維持できる。
 米国は医薬品売上高で世界最大手のファイザーのほか、三位のメルク、八位のジョンソン・エンド・ジョンソンなど巨大新薬メーカーを抱えている。このため、TPPでは新薬の特許期間の延長を求めている。
 新薬開発は日米欧の企業が中心だ。先月、ブルネイで催されたTPP会合では、米商工会議所のキャサリン・メラー氏が新薬の特許について「高い水準の特許保護は、日本にとっても幸せなことだ」と発言している。
 しかし、この「日本にとっても幸せ」とは日本の誰を指すのか。
 NPO法人「アジア太平洋資料センター」の内田聖子事務局長は逆に「日本は、自分の首を絞めることになる。米国と自由貿易協定(FTA)を結んだ国では薬価が上がっている。本来、薬は少しでも安く、多くの人に普及させることが重要なはずだ」と語る。
 「日本は交渉の攻めの部分として特許保護を訴えている。しかし、命に直結する薬を一緒に扱っていいものか
 鳥海委員長は「新薬の研究開発費では、欧米メーカーがトップテンを占め、圧倒的に強い。日本のメーカーが全部、合併して、互角に競争できるかどうかという力関係だ。新薬保護が強まると、米国メーカーがもっと有利になり、のみ込まれる」と説明し、米主導での業界再編を懸念する。

◆影響の試算 政府「ない」
 新薬の保護強化の影響について、内閣府のTPP政府対策本部の担当者は「特許保護による経済効果の試算は難しく、やっていない」という。
 米国は「特許リンケージ」という制度も求めてきそうだ。この制度では、当局がジェネリックからの申請を受けた際、同時に新薬メーカーに事前通知する。通知を受けた新薬メーカーがジェネリックメーカーを相手取って何らかの訴訟を起こすと、結論が出るまでジェネリックの承認審査は先送りされる。米国は韓国とのFTAでこの制度を韓国側に認めさせ、昨年から発効している。
 日本では同様のケースで、新薬メーカーに事前通知はしない。約四十社が加盟する日本ジェネリック製薬協会の伏見環理事長は「新薬あってのジェネリックだが、リンケージ制度が拡大されると、後発薬は出回りにくくなる」と案じる。

 実際、TPPのみならず、薬価高騰の対日圧力は近年、激しい。巨大製薬会社の意向を受けた米国通商代表部は二〇一三年版の外国貿易障壁報告書で、日本政府に対して流通量に応じて新薬を低価格化させる制度の廃止などを要求している。
 長崎県医師会の高原晶副会長は「薬価を下げねばならない時代に、TPPは逆行している。抗がん剤などは現在でも高価で、金の切れ目が命の切れ目になる。医療費の増加についても、薬剤費の膨張が原因である可能性が高い」と指摘する。
 鳥海委員長も「TPPで薬価制度が崩れると、新薬メーカーとの自由取引になり、力がある医療機関しか生き残れなくなる」と危ぶんでいる。

<デスクメモ> TPPで暴動が起きないのが不思議だ。交渉経過が秘密というのは、政府に白紙委任状を渡したに等しい。農家にせよ、誰にせよ、その運命を政治家や官僚に一任なんて、看板倒れとはいえ「民主主義」の国であっていいものか。そもそもこの政権、何でも白紙委任されたと勘違いしているフシがある。(牧)