2013年9月19日木曜日

日本ペンクラブ 意見書 「特定秘密保護法案に反対する」

 18日付「日本ペンクラブも秘密保護法案に反対」の記事で紹介しましたように、日本ペンクラブは、政府が秋の臨時国会で成立を目指している「特定秘密保護法案」に反対する意見書を17日、政府に提出しました

 以下に、意見書(パブリックコメントとして提出)の全文を掲示します。
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意見書 「特定秘密保護法案に反対する」
一般社団法人日本ペンクラ2013年9月17日

 現在の日本社会において総合的な秘密保護法制は要らないし、むしろ作るべきではない。これが、日本ペンクラブの結論である。私たちはすでに、2011年11月30日付声明「秘密保全に関する法制の整備についての意見」において、この立場を明確に表明してきた。
 今般、政府によって「特定秘密の保護に関する法律案」が公表され、ごく短期間のパブリックコメント期間を経て、この秋の臨時国会に提出されようとしている。この法律案は、2年前に「秘密保全法案」として提出されようとしたものと内容的にほぼ同一であり、日本ペンクラブはこの法律案に対し、従前からの反対の立場を維持する。
 以下は、その理由であって、同時に今回のパブリックコメントで提示された法制度への意見である。
 
1. 「特定秘密」に指定できる情報の範囲が過度に広範である
法律案は、(1)防衛、(2)外交、(3)外国の利益を図る目的の安全脅威活動の防止、(4)テロ活動防止の4分野に関し、「わが国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要である」情報を「特定秘密」に指定するとしている。
しかし示された別表を見ても、対象とされる情報の範囲が明確でなく、過度に広範である。例えば原発の安全性に関わる問題は、原発に対するテロ活動防止の観点から「特定秘密」に指定される可能性がある。しかしそうした情報の漏洩(内部告発)や取得(取材活動)が処罰されることになれば、国民は政策選択における必須の重要情報を知る機会を失うこととなりかねない。

2. 市民の知る権利、取材・報道の自由が侵害される
 市民の知る権利が侵害されることは、同時に取材・報道を行う側の取材・報道の自由が侵害されることを意味する。法律案によれば、「特別秘密」を漏えいする行為だけでなく、それを探る行為も、「特定取得行為」として、処罰の対象とされる。一例を挙げれば、特定秘密を扱う取材対象者が、事後的に「記者に欺かれました」と証言しただけで、取材者は訴追リスクにさらされることになる。しかも定められる罰則は長期10年の懲役と重い。
 法律案は外務省沖縄密約事件(西山記者事件)を例に、「正当な取材行為は保護される」とするが、何が「正当な取材行為」であるかは裁判所の事後的判断によらざるを得ない。大幅に加重された罰則による威嚇効果のもと、検察(政府)による訴追リスクの増大は、取材者や内部告発者にとって多大な萎縮効果を及ぼし、取材・報道の自由を侵害するものである。

3. 行政情報の情報公開の流れに逆行する
 政府は立法の必要性の理由として、各国での秘密保護法の存在を挙げている。しかし各国での秘密保護法の存在は、行政情報に関する徹底的な情報公開制度の整備が前提となっている。行政情報の情報公開は民主主義の大前提であり、世界的な潮流である。日本では行政情報についての情報公開制度の整備は他国より大幅に立ち後れており、いまだ国民の知る権利の確立が十分ではない。
 そうしたなか、秘密保全法制を推進することは、世界的な行政情報の情報公開の流れに逆行するものである。

4.「適正評価制度」はプライバシー侵害である
 さらにこの法律案の問題としては、新しく導入されることになる「適正評価制度」への懸念を挙げざるを得ない。これは、情報を管理する人の側に注目して、人の監視を強化することによって情報漏洩を防ごうとするものである。調査項目は、住所や生年月日だけでなく、外国への渡航歴や、ローンなどの返済状況、精神疾患などでの通院歴等々多岐にわたり、またその対象も公務員や業務受託を受けた民間人本人に留まらず、その家族や友人、恋人にも及ぶ可能性がある。
 このような「適正評価制度」はプライバシー侵害の領域に踏み込むものであって、容認できない。

5. このような法律を新たに作る理由(立法事実)がない
 職務に応じすべての公務員には、国家公務員法ほか、情報の漏洩を防ぐための法制度が完備されており、今日に至るまで制度不備が具体的に指摘された事実はない。あえて屋上屋を重ねる法律を作ることの必要性が見い出せないばかりか、不必要な法律はえてして悪用されるものである。
 そもそも、国民主権原理や憲法上の人権に重大な影響を与えるおそれのある立法が是認されるためには、そのような立法を必要とする具体的な事情、すなわち立法事実の存在が必要不可欠である。
 しかし、政府が立法事実として挙げる尖閣ビデオ事件については、非公知性や実質秘性について疑義が出され、真に守るべき秘密であるかどうか議論がある。警視庁公安情報流出事件は、漏洩元と見られる警視庁・警察庁がいまだに内部からの漏洩の事実を認めておらず、被害者への謝罪も行われていない。にもかかわらずこれを秘密保全法制の立法事実として挙げるのは二枚舌である。
 その他にも、過去10年程度の漏洩事例を見る限り、現行の公務員法等で規定する守秘義務で十分にカバーしうるものであって、新規に法律を必要とする理由付けはきわめて希薄であって説得力に欠ける。

 この法律案の検討の過程自体が非公開とされており、どのような必要性を前提に、どのような議論がなされ、このような重要な立法がなされようとしているのか、国民の側に知る手段が示されていない。そのこと自体が、この法律案の意図する将来社会の不健全な体質を物語っていると感じざるを得ない。
以上