2013年9月20日金曜日

集団的自衛権の行使容認で平和が守られるのか

 地元紙 新潟日報が19日、「集団的自衛権 容認で平和が守られるか」と題する社説を掲げました。

 ほとんどが集団的自衛権行使容認に前向きなメンバーで構成されている安倍首相の私的諮問機関 安全保障に関する有識者懇談会(座長代理:北岡氏)から年内に「憲法解釈を見直し海外を含む集団的自衛権行使を全面的に容認する」という答申を得て、その通りに閣議決定するというのが安倍内閣がこれから敢行しようとしている「憲法9条の解釈改憲」です。

 それに対して新潟日報は「戦力の不保持を定めた憲法9条の下でも自衛隊の存在が容認されてきたのは、その戦力行使が日本本土への急迫かつ不正の侵害に厳しく限定されてきたからだ。外国の軍隊とともに海外で戦うことを想定した今回の見直しは、その大前提を取り払う急進的なものだ。そうであるなら、憲法改正を正面から国民に問うのが筋ではないか」と述べています。正論です。

 これまで内閣法制局が構築してきた自衛隊合憲論は極めて精緻なもので、自衛隊違憲論と対置させても引けをとるものではありません1。そしてその論理の精巧さは自衛隊違憲論者の学者も認めているほどです2
      1  8月15日「終戦の日に考える 自衛隊は鬼子なのか?」 
      2  9月17日「憲法を守るのは誰か 若者を意識した憲法本」

 集団的自衛権の行使を認めたが最後、その精緻な合憲論は根底から瓦解するので、法制局はこれまで「集団的自衛権の行使は9条に違反する」という主張を断固として貫いてきました。

 有識者懇談会北岡座長代理は、「相手国も地理的な制約もつけない形で集団的自衛権の行使を提言する」といまから先走ったことを口にしていますが、それがどういう論理からなのかについては何も語っていません。一体法制局の論理を否定する理論があり得るのか、あり得るのであれば是非お目にかかりたいものと思います。

 以下に、新潟日報の社説と、同様な主旨のしんぶん赤旗の主張を紹介します。
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(社説) 集団的自衛権 容認で平和が守られるか
新潟日報 2013年9月19日
 専守防衛、平和主義を掲げてきた、日本の安全保障の在り方を根本から揺るがしかねない。
 安倍晋三首相が設置した安全保障に関する有識者懇談会が、7カ月ぶりに本格的議論を再開した。
 憲法解釈を見直し、海外を含む集団的自衛権行使を全面的に容認する報告書を年内にまとめる方針だ。
 集団的自衛権だけでなく、国連決議を前提にした集団安全保障への参加容認も検討する。自衛のための戦闘行為の要件緩和も論議される。
 戦争への敷居を低くすることが、平和を守ることにつながるのか。なぜいま、見直しが必要なのか。一部有識者の論議に任せるのではなく、広く国民的議論の中で検討されなければならない。
 この有識者懇は第1次安倍政権で、当時の安倍首相の私的諮問機関として設置された。
 そこでは公海における米艦船の防護、米国へ向かう弾道ミサイル迎撃など四つの類型に絞り、集団的自衛権の行使容認を含む憲法解釈変更で対応するよう提言した。
 この提言は安倍氏の退陣で日の目を見ず、2次政権発足に伴い今年2月、検討を再開した。
 だが、今回は類型にもとらわれず、全面容認の報告書をまとめる方向だという。共同で敵国に対処する同盟・友好国の対象も米国以外に拡大する見通しだ。
 戦力の不保持を定めた憲法9条の下でも自衛隊の存在が容認されてきたのは、その戦力行使が日本本土への急迫かつ不正の侵害に厳しく限定されてきたからだ。
 外国の軍隊とともに海外で戦うことを想定した今回の見直しは、その大前提を取り払う急進的なものだ。そうであるなら、憲法改正を正面から国民に問うのが筋ではないか。
 懇談会は、ほとんどが集団的自衛権容認に前向きなメンバーばかりで構成されている。さらに安倍首相は憲法解釈見直しのカギを握る内閣法制局長官を「異例の人事」で容認派に差し替えてもいる。
 このような重大な変更の議論が国民を差しおいて、なし崩し的に進められることは許されない。
 共同通信が8月に行った世論調査では集団的自衛権の行使に反対する回答が47・4%で、容認の24・1%の2倍近かったのだ。
 今回の見直し論議の背景には、尖閣諸島をめぐる中国との緊張関係がある。懇談会では「(中国側が)武力攻撃に至らない事態にも対応できる法整備が必要」との意見も出た。
 だが、尖閣が日米安全保障条約の適用地域である限り、集団的自衛権が無くとも共同での対応は可能だ。
 自衛隊の戦闘行為の敷居を下げ、活動可能範囲を広げることは、相手側の緊張感も高めるだろう。偶発的戦闘行為発生の可能性をさらに高める危険性もある。
 首相は懇談会で「積極的に世界の平和と安定に貢献する国にならなければならない」と語った。
 日本が行える最大の貢献は、平和国家としての決意を国際社会に示すことではないだろうか。

主張 集団的自衛権行使 立憲主義否定する解釈改憲だ
しんぶん赤旗 2013年9月19日
 安倍晋三首相の諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、座長・柳井俊二元駐米大使)が7カ月ぶりに審議を再開しました。これまでの政権が憲法上許されないとしてきた「集団的自衛権」の行使に向け議論します。

 日本が攻撃されてもいないのにアメリカなどのため武力を行使する「集団的自衛権」は、憲法をふみにじり、日本を「戦争への道」に引き込むものです。安保法制懇の報告をもとに憲法解釈の変更だけで「集団的自衛権」の行使を認めようというのは、まさに立憲主義を踏みにじるものです。

全面的見直しの議論
 安倍首相は審議を再開した安保法制懇でのあいさつ(17日)で、「憲法制定以来の変化を重視し、新しい時代にふさわしい憲法解釈のあり方をさらに検討する基礎となること」を求めました。
 安保法制懇の議論の方向はきわめて重大です。安保法制懇の座長代理の北岡伸一国際大学学長は、「集団的自衛権を部分的に認めることはあり得ない」とのべています。「集団的自衛権」を全面的に認めようとしているのは明らかであり、安保法制懇の議論の進行は見過ごしにできないものです。
 かつて第1次安倍政権時代に安保法制懇が検討したのは、アメリカに向かうミサイルが日本上空を通過する場合など、四つのケースに限って「集団的自衛権」行使の是非を検討するというものでした。ところが今回の懇談会は、「集団的自衛権」の行使全体について憲法解釈を変え、認めていこうという方向です。こうした重大な変更を、解釈を変えるだけで実行できるようにしようというのはきわめて乱暴です。
 もともと日本の憲法は戦争を放棄し、武力を持たず、他国との間で戦争しない(交戦権の否認)ことを原則にしています。歴代政府はこうした憲法の原則を踏みにじって再武装やアメリカとの軍事協力を進めてきましたが、それでも自衛隊は「自衛」のための「必要最小限」の武力だといい、交戦権は認めてきませんでした。「集団的自衛権」の行使はこうした原則を完全に踏みにじり、日本が「日本を守るため」でなく、アメリカなどのため外国での戦争に参加することになるものです。
 憲法解釈の変更だけで、「集団的自衛権」の行使に突き進んでいこうという安倍首相の企てが、民主主義の土台である立憲主義を根底から覆すものなのは明らかです。国家による権力の乱用から国民を守るというのが立憲主義です。憲法96条が各議院の3分の2の賛成がなければ国会は憲法改正を発議できないようにしているのもそのためです。お気に入りの有識者を集めた協議で憲法解釈を変えれば何でもできるというのはまさに立憲主義の否定であり、絶対に許されるものではありません。

9条守り抜くことこそ
 国民の多数は安倍首相の企てに反対です。新聞各社の最近の世論調査でも、50%をこえる国民が「集団的自衛権」行使に反対で、賛成は30%あまりにすぎません。国民の圧倒的多数は憲法9条を守ることを願っているのです。
 安倍首相は国民多数の意思を尊重するなら、憲法解釈の変更による「集団的自衛権」行使容認の企てをきっぱり断念すべきです。