2015年6月11日木曜日

政府の安保法案「合憲」論は、「砂川判決」の曲解

 政府・与党は、衆院憲法審査会憲法学の権威の3全員から集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案「違憲」であると批判されたにもかかわらず、法案を取り下げないどころか、7日などは全国100箇所で街頭演説会を行って法案の正当性を主張しました。それが各所で国民の激しい反対にあったのは当然のことです。
 
 政府はまた、法律が憲法に反しているか否かの判断は最高裁によって下されるものとも述べました。これは憲法学の権威たちの「違憲判断」の影響を緩和しようとするものですが、形式的にはともかく 実質的に最高裁判事が憲法学の権威であるという保証は何処にもありません。
 彼らはせいぜい「憲法」を必修科目とする司法試験に合格したということに過ぎず、最高裁判事には法曹資格をもたない人も5人までは任命できることもあって、憲法に対して最高の判断力を有しているなどとは到底言えるものではありません。
 
 いま提案されている安全保障関連法案には200人を超える憲法学者が、憲法に違反するとする声明に賛同しているほか、この法案に反対する署名も26万人分が集まっています。
 
 「法案が合憲であるという著名な憲法学者はいくらでもいる」と記者会見で豪語した菅官房長官は、10日、国会で「それは誰なのか」と問われて僅かに3人しかあげることができませんでした。その挙句、「数の問題ではない」と意味不明なことを口走るという醜態を演じました。それくらい「合憲性」からは遠い法案です。
 
 それなのに政府は日、安全保障関連法案合憲であると反論する見解書(=本が攻撃された場合のみ武力行使を認めた従来の憲法解釈の「基本的な論理」を維持し、「論理的整合性は保たれているという内容)を野党側に示しました。
 その根拠はなんと1959年の砂川事件最高裁判決にあるというものでした。
 それについては昨年3月に一度高村自民党副総裁が述べていて、「自国の存立に必要な自衛措置は認められる」とした1959年の砂川事件最高裁判決を引き合いに、そこでは個別自衛権と集団的自衛権の区別をしていないので、「集団的自衛権も認められたことになる」という、まことに珍妙なものでした。
 しかしそれが「集団的自衛権」を想定したものでないのはあまりにも明らかなので、公明党の北側氏などからたしなめられて、以後は封印されていた筈なのですが、ここに来て苦し紛れにまた持ち出してきました。
 
 砂川事件最高裁判決が集団的自衛権などに言及したものでなく、その是非の判断をしたものでないことは、多くの元内閣法制局長官たちをはじめとして、既に論じつくされています。曰く、我田引水、牽強付会の論議であると。
 それに当時判決を下した田中耕太郎長官が、駐日アメリカ大使から強く要求されて全員一致で地裁の伊達判決を否定することを、事前に約束していたことが近年のアメリカの文書公開で明らかになって、何よりも判決の公平性自体が否定されているという根本的な欠陥を持っています。
 
 以下に3つの記事を紹介します。
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日弁連が集会“安保法案は憲法違反” 
NHK NEWS WEB 2015年6月10日
集団的自衛権の行使を可能にすることなどを盛り込んだ安全保障関連法案について、日弁連=日本弁護士連合会が東京都内で集会を開き、法案は憲法に違反しているなどと訴えました。
 
集会には、弁護士などおよそ190人が参加しました。
安全保障関連法案を巡っては、衆議院憲法審査会の参考人質疑で3人の学識経験者全員が、「憲法違反に当たる」という認識を示し、政府はこれまでの憲法解釈との論理的整合性は保たれているなどとする見解を示しています。
集会で、日弁連の憲法問題対策本部副本部長の伊藤真弁護士は、「安全保障政策も憲法の枠内で行われるべき問題で、憲法を都合よく解釈することは認められない。法案の成立をなんとしても阻止しなければならない」と訴えました。
この法案については、200人を超える憲法学者が、憲法に違反するとする声明に賛同しているほか、各地の弁護士会を通じて、この法案に反対する26万人分の署名が集まっているということです。横浜市から参加した50代の男性は、「国会には、国民の声を受けた、真摯(しんし)な判断を求めたい」と話していました。 
 
朝日新聞から著作権の侵害を申し立てられましたので、紙面のコピーは削除します。(15.7.15) 
 
安保法案 根拠乏しき「合憲」 政府見解「砂川判決」を拡大解釈
東京新聞 2015年6月10日 
 政府は九日、衆院憲法審査会で憲法学者三人が他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案を「違憲」と批判したことに対し、合憲と反論する見解を野党側に示した。自国防衛に目的を限った集団的自衛権の行使容認は、日本が攻撃された場合のみ武力行使を認めた従来の憲法解釈の「基本的な論理」を維持し、「論理的整合性は保たれている」と結論づけた。野党側は見解には説得力がないとして、国会で追及する方針。 
 
 見解は、戦争放棄や戦力不保持を定めた憲法九条の下でも「自国の存立を全うするため、必要な自衛の措置を取ることを禁じているとは到底解されない」という従来の政府解釈に言及。自衛権行使を「国家固有の権能」と認めた砂川事件の最高裁判決と「軌を一にする」と指摘した。その上で、国民の生命や幸福追求の権利を根底から覆す事態は日本が直接攻撃された場合に限られていたが、軍事技術の進展などで、他国への武力攻撃で「わが国の存立を脅かすことも現実に起こり得る」との認識に改めたと表明。集団的自衛権の行使は「自衛の措置として一部、限定された場合に認めるにとどまる」ため、これまでの政府見解との整合性は保たれていると主張した。
 一方、「いかなる事態にも備えておく」との理由から、集団的自衛権行使の要件に「ある程度抽象的な表現が用いられることは避けられない」と認めた。
 
 安倍晋三首相は八日、ドイツでの内外記者会見で「違憲立法」との批判に対し、法案を合憲とする根拠に砂川判決を挙げ「憲法解釈の基本的論理は全く変わっていない」と反論した。
 他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を中心とした安全保障関連法案が多数の憲法学者から憲法違反と批判されていることに対し、政府が九日に野党に示した見解は最高裁の砂川事件判決(一九五九年)を挙げて、法案が合憲だと主張した。砂川判決とはどんなものか。 (金杉貴雄、西田義洋)
 
 Q 砂川事件とは。
 A 六十年も前の在日米軍基地の反対運動をめぐる事件だ。東京都砂川町(現立川市)の米軍立川基地拡張に反対するデモ隊の一部が基地内に入り、七人が日米安保条約に基づく刑事特別法違反罪で起訴された。
 Q 現在の集団的自衛権の行使容認をめぐる議論とどう関係するのか。
 A 「米軍駐留は憲法違反」として無罪を言い渡した一審の東京地裁判決(伊達秋雄裁判長の名をとり通称・伊達判決)を破棄した最高裁判決が首相が指摘する「砂川判決」だ。
 (1)憲法は固有の自衛権を否定していない(2)国の存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを憲法は禁じていない(3)だから日本を守る駐留米軍は違憲ではない(4)安保条約のような高度な政治性を持つ案件は裁判所の判断になじまない-がポイント。首相らは「自衛権」や「自衛の措置」に集団的自衛権の行使も含まれると主張し始めた。
 Q 争点は何だったの。
 A 日本を守るために外国の軍隊を国内に配備することが「戦力の不保持」をうたう憲法九条二項に反しないかが最大の争点だった。伊達判決が駐留米軍を「戦力」とみなして違憲としたのに対し、最高裁判決は「指揮権、管理権なき外国軍隊は戦力に該当しない」と判断した。日本が集団的自衛権を行使できるのかという問題は裁判ではまったく議論されず、判決も触れていない
 Q 判決は、日本が行使できるのは個別的自衛権だけとも書いていない。
 A それは確かだ。それでも歴代政府は判決を踏まえて国会答弁や政府見解を積み重ね、一九七二年の政府見解では「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」と明確にし、四十年以上維持されてきた。安倍政権がそれ以前の砂川判決を引っ張り出し「集団的自衛権の行使も許される」と言い始めたことに、憲法学者が相次いで「論理に無理がある」と批判している。
 Q 砂川判決の経緯も疑問視されているとか。
 A 近年の研究で、当時の裁判長の田中耕太郎最高裁長官(故人)が判決前に、一審判決を破棄すると米側に伝えたことが判明し、司法が中立性を損なっていたと批判されている。