高名な論客であるPaul Craig Robert氏が、TTIP=欧州版TPPは大企業に憲法を超越する権限を与えるもの(=提携協定)に他ならないとする論文を発表しました。
Robert氏はTPPの欧州版とも言うべき『環太西洋貿易投資連携協定(パートナーシップ):TTIP」の恐るべき弊害について述べているのですが、それはそのままTPPの持つ破滅的な弊害にそっくり当てはまるものです。
欧州に対しては、アメリカはかつて『多国間投資協定:MAI』を持ちかけたのですが、強力な条約を定めてアメリカなどの多国籍企業が進出先の国で最大級の特権・恩典を受けることを目指したものであったので、その本質が明らかになるとインターネットを通じて大規模な反対運動が起こり、1998年にフランスが交渉参加を取りやめたことでMAIは完全に頓挫しました※。
※ 2013年4月12日 TPPの先行モデルはMAI
そしてその12年後の2010年にMAIはより入念に仕上げられて「TPP」として立ち顕れたのでした。
それをまた以前に反対されて潰えた欧州に導入しようとするのは解せない話ですが、その旨みを思えば一度くらいの失敗では引き下がれないということなのでしょう。
欧州では当然反対運動が起きて、1月17日と4月18日にドイツをはじめとする欧州の各国で数万人のデモが行われました。協定に反対の署名は120万人に達したということです。
英国での世論調査によれば、TTIPは英国にとって利点が「ない」と考えた人の数が「ある」という回答の3倍に達しました。
驚くべきことにこの協定に関してはオバマ大統領も全く口を差し挟む権限はなくて、多国的企業の手先である米通商代表部が、多額の報酬を背景にして全てを牛耳っているということです。
Robert氏が論文の中でTTIPの本質について語るひと言一言は、そのままTPPにそっくり当てはまります。まさに鏡に照らして見るがごとくにです。
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大企業による支配
マスコミに載らない海外記事 2015年6月3日
Paul Craig Roberts TTIP:大企業権限付与法 2015年6月1日
環大西洋貿易投資連携協定も、環太平洋連携協定も、自由貿易と何の関係もない。これらの協定が、公害、食品の安全、GMOや、最低賃金を規制する主権国家の法律をくつがえすべく、訴訟を利用する権限を、大企業に与えるのを隠すごまかしに“自由貿易”という言葉が使われているのだ。
最初に理解すべきなのは、これらのいわゆる“パートナーシップ”は、議会によって書かれた法律ではないということだ。アメリカ憲法は、議会に立法権限を与えているが、これらの法律は議会の参加を得ずに書かれつつあるのだ。法律は、ひたすら連中の権力と利益の為だけに、大企業によって書かれつつあるのだ。アメリカ通商代表は、大企業が彼らだけの権益に役立つ法律を書くのを可能にすべく生み出されたものだ。貿易法案を“条約”と呼ぶことで、憲法と国民に対するこの詐欺が覆い隠されている。
実際、議会は、法律に一体何が書かれているのかを知ることさえ許されず、議会に対して投票するよう提出された法律を受けいれる、拒否するか選ぶ能力しか与えられていない。通常、“これだけの大変な作業がおこなわれて来たのであり”“自由貿易は我々全員に恩恵をもたらす”ということで、議会は受けいれてしまう。
売女マスコミは、人々の注目を、法律の内容から“ファスト・トラック”へと逸らしてしまった。議会が“ファスト・トラック”に賛成投票すれば、それは大企業が貿易の法律を議会の参加無しに作成するのを、議会が認めることを意味する。“パートナーシップ”批判さえ煙幕だ。奴隷労働で非難されている諸国は排除される建前だが、そうはなるまい。極端な愛国主義者達は、アメリカ主権が“外国権益”によって侵害されると文句を言うが、アメリカの主権はアメリカ大企業によって侵害されるのだ。更に多数のアメリカの雇用が海外移転されると主張する人々もいる。実際は、雇用の海外移転を禁じるものは何もないのだから、アメリカの雇用喪失を推進する為に“パートナーシップ”など不要だ。
“パートナーシップ”が実現するのは、諸国の法律が企業利益に悪影響を与え、“貿易に対する制限”にあたるという理由で、私企業を主権国家の法律から免れるようにすることだ。
たとえば環大西洋貿易投資連携協定の下で、GMOを禁ずるフランスの法律は、モンサントの訴訟により、この法律で“貿易に対する制限”として、覆される。
豚肉の旋毛虫症の様な輸入食品試験や、燻蒸消毒のようなものを求める国々は、こうした規制は輸入コストを押し上げるので、大企業による訴訟の対象になりかねない。
ブランドの医薬品や化学製品の独占保護をせずに、その代わりにジェネリック薬品を認める国々は、損害をかどに、大企業によって訴えられかねない。
オバマ自身も、このプロセスには全く口をはさめない。実際に起きているのはこういうことだ。通商代表部は大企業の手先なのだ。連中は私企業の為に働き、年収100万ドルの仕事にありつく。主権と自国民の福祉を、私企業に売り飛ばすのに賛成するよう、あらゆる国々の政治指導者達を、大企業が贈賄しているのだ。大企業は、議会の立法権を大企業に引き渡させることで、アメリカ議員達に大金をつかませている。
http://www.theguardian.com/business/2015/may/27/corporations-paid-us-senators-fast-track-tpp これらの“パートナーシップ”が成立すれば、署名国は、いずれかの大企業が収支に有害と見なす、あらゆる立法権限も、いかなる法律を執行する権限も持てなくなる。
そう。彼の偉大なチェンジの約束は変化をもたらしつつある。彼はアジア、ヨーロッパや、アメリカを、大企業による支配に変えつつあるのだ。
こうした協定に賛成するのは、金で人格を売り渡した連中だけ。どうやら、ワシントンの傀儡たるメルケルも、その一人のようだ。
ニュース報道によれば、フランスの主要政党はいずれも大企業に身売りしてしまったが、マリーヌ・ルペンの国民戦線はそうではない。最近のEU選挙で、ルペンやファラージ等の反政府政党が既存政党に対して優勢となったが、反政府派は、まだ各国内では優勢となっていない。
マリーヌ・ルペンは、大企業支配を確立する秘密主義の協定に反対だ。ヨーロッパ唯一の指導者として、彼女はこう発言している。
“これと戦う為には、フランス国民が、TTIPの内容と、その動機について知ることが極めて重要だ。我が同胞は、自らの未来を選択できるべきであり、国民は利益を得たがっている多国籍企業や、ロビーに買収されたブリュッセルの官僚達や、こうした官僚達にこびへつらうUMP[前大統領ニコラ・サルコジの党]に買収されている政治家達によって強制されるものでなく、自分達にあった社会モデルを採用すべきなのだ。”
アメリカ国民もこれを知ることが極めて重要だが、議会すらも知ることを許されていない。
国民も、国民が選んだ代議士達も、立法に関与することを許されず、政府の立法機能を否定することや、一般の福祉より、大企業の利益を優先することを私企業に認めるのであれば、我々アメリカ人が持っているとされる、この“自由と民主主義”は一体どうして機能できようか?
Paul Craig Robertsは、元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えていた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOSTが購入可能。
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