さいたま市大宮区の三橋公民館が昨年6月、同館俳句サークル会員の俳句を「公民館だより」に掲載することを拒否した問題で、作者の女性が25日、公民館を管轄する市を相手取り、「たより」への俳句掲載などを求めて、さいたま地裁に提訴しました。
この件ではさいたま市公民館運営審議会や市民有志たちが、たびたび三橋公民館に対して掲載するように働きかけてきましたが、「世論を二分するテーマは載せられない」と拒否し、いまでも不掲載の姿勢をとり続けているものです。
しんぶん赤旗と識者の見解を載せた埼玉新聞の記事を紹介します。
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「9条俳句」作者が提訴 さいたま市を広報掲載拒否で
“不当な統制で 民主主義危機”
しんぶん赤旗 2015年6月26日
さいたま市大宮区の三橋公民館が昨年6月、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」と詠んだ同館俳句サークル会員の俳句を「公民館だより」に掲載することを拒否した問題で、作者の女性(74)が25日、公民館を管轄する市を相手取り、「たより」への俳句掲載などを求めて、さいたま地裁に提訴しました。
訴状によると、館側の提案で2010年11月の「たより」から、句会が選んだ俳句をそのまま載せるようになりましたが、14年6月に選んだ「梅雨空の~」の俳句を、同館は「世論を二分するテーマは載せられない」と拒否。今でも不掲載の姿勢をとり続けています。
訴えでは、同館の行為は、表現の自由を保障した憲法21条や、学習を受ける権利を保障した同26条、公権力による教育の不当な支配を禁じた教育基本法、社会教育法などに違反していると指摘。「住民に開かれた公民館で不当な統制・干渉が行われた点で、民主主義の根幹を揺るがす事件だ」としています。
記者会見で、女性は「公民館が俳句の中身にまで立ち入って、ダメだというのは許せないと思ってきました。国の政治が危険な方向に進んでいる実感があり、小さなことでも声を上げるべきだと提訴を決心しました」と語りました。
<9条俳句訴訟>公平・中立欠いた行政 識者ら情報統制懸念
埼玉新聞 2015年6月26日
メディア社会学が専門で、武蔵大学の永田浩三教授(60)は「さいたま市教委が作者女性や句会と誠実に向き合って解決すべきだったが、市教委がそうしなかった結果だ。提訴するのは当然のことだと思う」との見方を示した。
表現の自由に対する公的機関の介入に問題提起をしている永田教授は、判断が司法の場に持ち込まれた意味を「事実関係が明らかになるのではないか」と期待。「この問題でどのような議論がなされたのか、市側は法廷で提示しなければならない」と言う。
社会教育学を専門とする東京大学の佐藤一子名誉教授(70)=さいたま市緑区=は、市教委の動きを問題視した。「事態は昨年6月で止まっていたわけではない。行政はこの1年間、正当化を図ってきた」と指摘。
「市教委は公平・中立のために掲載を拒否したと言いながら、行政自体が公平・中立を欠いていた。世論を二分するテーマだからこそ、学ばなければ解決しない。市教委が取った行動は、正反対の『愚民政策』とでも言うべきものだ」と批判する。
問題の根深さを懸念するのは、教育研究者大田尭氏(97)=さいたま市緑区。「裁判で原告が勝訴したとしても、それで全てが解決するわけではない。お上(裁判所)に判断を委ねるということは、地域の負けを認めたのと同じだ」と、行政を動かせなかったコミュニティーの弱体化を読み取る。
俳句の掲載拒否については、「情報統制が進んでいる。私たちは魂を奪われ、命にかかわる問題にさらされていることを忘れてはならないだろう」と警鐘を鳴らした。