14日に3時間にもわたって行われた安倍・橋下会談では、安保法制成立に向けての協力の密約があったのではないかと言われています。
実際に橋下氏は、しばらくやめていたツイッターをまた精力的に始め、「憲法学者はおかしい」とか、「維新の党は民主党とは一線を画すべき」などと、同法案の成立に向けた応援メッセージを盛んに流しているということです。
橋下氏は、先の大阪都構想の住民投票に僅差で敗れると、政界からの引退を表明しました。それでもいずれはまた表舞台に出てくると予想されていましたが、こんなにも早く登場するとは誰も思っていませんでした。
しかし彼にしてみれば、安倍政権の安保法案が違憲とされ、合憲の根拠にした「砂川事件最高裁判決」が決してそのようなものでないことが明らかになった今こそ、その成立に協力することで自分の存在感がアピールできると見たのでしょう。二人に共通するものは軍国主義化に向けたファッショ政治手法です。
会談が橋下氏と菅官房長官の調整で実現し、開催が決まると官邸サイドよりも橋下市長・松井府知事の側から盛んに宣伝されたことは、そうした事情を物語っています。
一方、国民の8割が反対しているなか、安保法案の正当性を全く説明できないで窮地に立たされていた安倍首相にとっては、願ってもない援軍です。これで成立の見通しが得られたと確信したかもしれません。
会談はどちらにとっても大満足なものでした。
とはいえ安倍首相が、ゾンビ・・・それは疑いもなく国に害悪をもたらす・・・を蘇らせたことに間違いはありません。
ただそれは必ずしも安倍氏ひとりの責任とは言い切れません。日本の(特に在阪の)メディアはあれだけ橋下氏からコケにされながら、政界引退表明の記事では盛んにその「潔さ」を持ち上げていました。そのうえ多くのメディアが、橋下氏は政界に必要だなどと復活願望の記事まで書いています。
本当に驚くべきことですが、どうもそれが完全なミスリードとまでは言い切れない何かがあるようです。
弁護士の澤藤統一郎氏が、彼のブログで「ゾンビ・橋下を産み出した社会の母胎はまだ暖かい」と題する記事を発表しました。
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ゾンビ・橋下を産み出した社会の母胎はまだ暖かい
澤藤統一郎の憲法日記 2015年6月15日
6月15日。55年前のこの日、東大生樺美智子が日米安保条約改定反対のデモの隊列の中で、警官との衝突の犠牲になった。当時私は高校2年生だったが世情騒然の雰囲気が印象に深い。津々浦々に「アンポ・ハンタイ」「岸を倒せ」の声が響いていた。
あの大国民運動をつくり出したものは、何よりも戦争を拒否し平和を願う圧倒的な国民の願いであったろう。当時戦後15年、戦争の記憶は成年層には鮮明に残っていた。「再びの戦争はごめんだ」「危険なアメリカとの軍事同盟なんぞマッピラ」という感覚が国を覆っていた。当時も、政府はアメリカとの同盟が「東」側からの攻撃に抑止効果をもつと宣伝したが、多くの国民が耳を傾けるところとはならなかった。
そして、安保反対国民運動が盛りあがったもう一つの契機が、衆議院での強行採決である。「アンポ、ハンタイ」の大合唱は、平和と民主主義についての危機感が相乗してのこと。その運動の標的となった敵役が、A級戦犯・岸信介であった。
今、再びの「安保ハンタイ」の声。「戦争法案を廃案に」「憲法を壊すな」「安倍を倒せ」の掛け声が全国に渦を巻いている。半世紀を経て、岸信介の孫、安倍晋三が敵役だ。今度は平和主義・民主主義だけでなく、「立憲主義を壊すな」がスローガンに加わっている。
今や、60年安保を彷彿とさせる運動の勢い。状勢は、明らかに憲法擁護勢力が、安倍ゴリ押し改憲内閣を追い詰めている。ところが、このときに意外な伏兵が現れた。裏切り・寝返りと言ってよかろう。維新の動きである。見方によっては、もっとも自分を高く売るタイミングをはかっていたのではないだろうか。維新は、労働者派遣法案で民主・生活と組んで、与党案へ反対で足並みを揃えていたはず。それが、あっという間の自民への摺り寄りだ。
この伏兵の動きが戦争法案反対運動にも影響しかねない。昨日(6月14日)、ゾンビ橋下が安倍と醜悪な3時間の会見。その後、橋下はツィッターで「維新の党は民主党とは一線を画すべきだ」と述べているそうだ。安倍とは蜜月。「自民党とは一線を画すべきだ」とはけっして言わない。
しかし、覚えておくがよい。裏切り・寝返りは、リスクを伴う行為だ。できるだけ高い対価を求めてのタイミングでなされるが、高い対価には相応の大きな危険が伴うことになる。策士策に溺れるのがオチとなろう。
ユダはイエスを売って銀貨30枚を得た。小早川秀秋は、関ヶ原の裏切りで55万石の大大名となった。古来、裏切りの動機も対価の多寡もさまざまだが、共通しているのは、裏切りが打算であること、できるだけ高く売れるタイミングで実行されること、そして、打算ゆえの裏切り者の末路が惨めであること、汚名が長く残ること。
そして、よく覚えておこう。最近教えられて印象に残ったブレヒトの言葉だ。
ベルトルト・ブレヒトは、その著「戦争案内」の最後で、ヒトラーの写真を指しつつ、こう言っているそうだ。
こいつがあやうく世界を支配しかけた男だ。
人民はこの男にうち勝った。
だが、あまりあわてて勝利の歓声をあげないでほしい。
この男が這いだしてきた母胎は、まだ生きているのだ。
腹を切ったはずの落城の將がゾンビとなってうごめく醜悪な世の中だ。問題はゾンビ自身ではなく、むしろゾンビを産みだした母胎の方だ。この母胎はまだ暖かい。戦争法案をめぐる憲法擁護の戦いは、この母胎との戦いでもある。