TPPのEU版であるTTIP交渉に対しては、ヨーロッパ中で抗議行動が行われ、専門家グループによる世論調査では150,000人の97%が反対しているということです。
最近も、ドイツの副首相とフランスの首相が公然と反対を唱えましたので、TTIP協定はもう成立しないだろうと見られていました。事実、8月28日付のRussia Today(RT) 紙も「EUとアメリカ間のTTIP交渉は事実上失敗」とする記事を出しました。※
ところが実際はTTIP交渉が挫折することなどありえず、アメリカが人類史上最大の貿易協定をあきらめるなどということはないということです。それでは、独・仏の首脳のあの発言は何だったのでしょうか。
それはTTIPよりも小規模な姉妹版CETA (包括的経済貿易協定)から人々の目をそらせ、仏、独それに米で選挙が行われる間は、TTIPを一旦棚上げにして、批判をかわすのが狙いだということです。
選挙期間中は国民が反対するテーマは伏せておく、というのは安倍首相の得意なやり方です。ここに紹介する記事のなかでもそう述べられています。
しかしそうまでして、国民が反対してやまないTTIPやCETAを何故EUの首脳たちは成立させようとしているのでしょうか。そうであれば「売国奴」は安倍政権に留まらないということになります。米政権=巨大企業の威力というのはそれほどまでに強烈なのでしょうか。いずれにしても不可解です。
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TTIP終焉報道は、忌まわしい政治的策略
マスコミに載らない海外記事 2016年9月15日
Graham Vanbergen "TruePublica" 2016年9月9日
TTIP終焉を踏まえ、人々による環大西洋貿易投資連携協定、TTIPに反対する反乱の信じられないほどの成功を、世界中の大手マスコミが声高に称賛している。過去数年間、ヨーロッパ中で抗議行動が行われ、欧州委員会史上最大のコンサルテーション調査の結果、150,000人の97%から否定的な答えとなった後も、選挙で選ばれたわけでもない官僚連中が、この不人気な貿易協定を勢い良く推進している。
出現した運動は、未曾有の膨大なオンライン活動を引き起こし、熱心な市民たちによる、驚異的な320万筆以上の署名という、ヨーロッパ史上最大の請願を、政治エリート連中が暮らすEUの中心地に送りつけるという頂点に至った。ベルリン、パリやロンドンで、反TTIP運動が脈打っていた。ほとんど全ての主要EU都市の市民による大変な抗議行動の取り組みも忘れてはならない。
TTIP交渉に備え、2012年と2013年の間に560回の会合が行われた。公益や市民団体の代表は、わずか4%だった。あつかましくも、欧州委員会は、全てのTTIP会合の92%を、ロビイストや大企業の貿易関係者が牛耳るにまかせた。現在、こうした正体不明の運動員30,000人以上にのぼる背広組が、事実上の欧州連合の首都ブリュッセルにある欧州委員会本部ホールを歩き回っている。
今年5月、ウィキリークスが、TTIPは“国民の権限を、大企業に大規模に引き渡すこと”に他ならないのを確認した。グリーンピース・オランダが、議論の的となっている、アメリカとEU間貿易協定の、秘密の248ページを漏洩し、環境規制、気候保護や、消費者の権利などが、いかに事実上“密室で安く手放され”つつあること暴露した。市民社会における緊張は、呆然とさせるニュースによって、非常に盛り上がった。
ドイツのデア・シュピーゲルは、漏洩が明らかになり“抗議行動、環太西洋貿易協定を脅かす”と報じている。協力することで、活動家たちは、貿易協定を数日で崩壊の瀬戸際という状態に至らせたように表面上は見える。同時に、ハノーバーで盛大に演じられた、メルケルと、アメリカのバラク・オバマ大統領との会談は見せ物に過ぎなかった。あたかも、なんとか、ドイツ(それゆえEU)が、TTIPで、より良い結果を得るかのような交渉の様子を見せて、盛り上がるドイツ国民の怒りをなだめることを狙ったものだった。
傷に塩を塗り込むかのように、European Financial Review誌に掲載されたTruePublicaによるレポートが、EU貿易圏内の腐敗が、GDPの14パーセント - 驚異的な1兆ユーロに達したと報じている。今では、全ヨーロッパ国民の70パーセントが、腐敗が、個々の自国政府と欧州委員会そのものの核心で、大企業クーデターが、ヨーロッパ 何世代にもわたって懸命に戦ってきた民主的原則にとって代わりつつあると考えている。
そこで、藪から棒に、先週、突然発表がおこなわれた。あらゆる党派のマスコミが、フランス首相マニュエル・ヴァルスと、ドイツ副首相兼経済大臣シグマール・ガブリエルが、EUとアメリカ間のTTIP交渉が本質的に失敗したことに同意したという言説に同調している。そう。協定は死んだのだ。万歳!
テレグラフ紙 - “EUのアメリカとのTTIP貿易協定は崩壊したと、ドイツ”
インデペンデント紙 - “TTIP交渉は中断すべきと、フランス政府は述べた”
ZeroHedge - “アメリカは我々に何も与えない”: フランスは実質的にTTIPを潰す’
R T - ‘EUとアメリカ間のTTIP交渉は事実上、失敗した’ - ドイツ経済大臣”
早まってはいけない。97%の国民が反対しているからといって、アメリカが、人類史上最大の貿易協定をあきらめるなどと、あなたは思われまい? あきらめはしない。フランスもドイツも対策が必要だ。Brexit後、イギリスは、当面抗議運動の非難の的になることを避けられている。
そこで連中は日本に見習ったのだ。日本も似たようなTPPという名前の貿易協定で、同じ問題を抱えていた。同じ秘密の会合が政治の前面に出て、大衆の抗議行動が始まった。“安倍晋三首相は、年頭、選挙が終わるまで、TPP交渉を“無理やり”進めないよう連立各党に指示したと共同通信は報じている。協定の骨子を曝す242ページの漏洩文書を巡るスキャンダルが高まる中、安倍首相は本当に“参議院選挙における有権者の反発を恐れていた”。6月11日に勝利したので、今や安倍首相は協定を “今秋” 押し通すつもりだ。
EU/アメリカのTTIP協定の現場に近い筋に質問してみた。これは、2017年のフランスのオランドと、ドイツのメルケルの選挙が終わるまでの単なる引き延ばし戦術だろうか? 回答は全く予想外というものではなかった。
“TTIP終焉の早々の慶賀らしきものにも、いささか驚いた。ドイツとフランスの貿易大臣による先週の発言や、それが報じられる様子にもかかわらず、我々は協定反対の活動を継続しています。”
別のやりとりではこうある。
“フランスとドイツ指導部発言の狙いは、CETAから注意を逸らし、9月17日、ドイツの街頭抗議行動の数を減らし、フランス、ドイツとアメリカで選挙が行われる間、TTIPを棚上げにすることです。TTIP交渉の15回目の会合は、10月の第一週に行われます…これは我がアメリカの友人たちによって確認されています。”
更に、コーポレート・ヨーロッパ・オブザバトリー(CEO)に連絡した。これは大企業や連中のロビー集団が、EU政策決定の上で享受している特権的なアクセスや影響力を暴露し、異議申し立てをしている調査・運動団体だ。彼らは長年、欧州委員会による虚報やプロパガンダを暴露してきた。
私の同じ質問に対するCEOの答えは、断固とした明快なものだった。
“CETAとTTIPに対する大衆の反対運動のおかげで、フランスとドイツ指導部が、TTIP反対の言辞で、有権者を喜ばせようとしているのです。残念ながら、次回のTTIP交渉が、10月始めに予定されており、10月の欧州理事会で、CETA反対票を投じるとは、EU指導者の誰一人、公式に発言していません。これは明らかに、TTIPとCETAの終焉ではなく、フランスとドイツでの選挙運動に始まりにすぎません。”
ドイツとフランスは、こうした貿易協定について、日本と同じ姿勢をとっているのだ。協定は死んでなどいない。連中はウソをついているのだ。
次に、エコノミストで地政学評論家のピーター・ケーニヒと話した。元世界銀行職員でもあり、世界中で環境と水資源について広範に活動したことがある彼に、同じ疑問をしてみた。彼はこう答えた。
“私もインタビューされた一人だったPressTVフランス語版での論議の後、ドイツとフランスの閣僚たちが、TTIP交渉は失敗したという結論を表明したことに焦点が当てられています。EUにおける二大国の最高当局者によるこの‘約束’を広め、ヨーロッパ諸国民が、この‘約束’から、ちょっとでも違えば、必ずウソだと感じるようにし、強烈な大衆抗議行動になるようにと思って“TTIPは死んだ”という記事を書きました。”
“一方、TTIPとTISA‘交渉’は全く死んでなどいないことが明らかになっています。実際、ドイツとフランスの発表から間もなく、選挙で選ばれたわけではない欧州委員会委員長ジャン=クロード・ユンケルが、彼にとって、交渉は死んでなどいないと、おごそかに宣言しました。”
ケーニヒは更に続けて言う。TTIPをEUに潜入させる他の手段がある。つまり、ユンケルによれば、EU加盟各国議会による批准は不要なCETAによるのだ。更に、世界中50カ国の間の一層秘密的な‘貿易協定’TISAがある。TISAは、ヨーロッパに、TTIPのルールを、こっそり押しつけるのに、まんまと利用されかねない。”
グローバル・ジャスティス・ナウの理事長ニック・デーデンは、ピーター・ケーニヒが言っていることを、ガーディアン記事“TTIPは民主主義にとって脅威とお思いだろうか? 既に調印済みの貿易協定があるのだ。” で確認している。
“TTIPは単独ではない。EUとカナダ間の、より小規模な姉妹版に、CETA (包括的経済貿易協定)がある。CETAは、TTIPと同じぐらい危険だ。実際これは、欧州委員会とカナダ政府が既に調印済みのTTIP風協定の先駆だ。今後12カ月内の批准を待っている。
CETA唯一の利点は、それが既に調印されており、つまり我々はそれを読むことができるということだ。条約の1,500ページが、それは食品基準のみならず、気候変動に対する戦いや、次の崩壊を防ぐために巨大銀行を規制したり、産業を再国有化したりする我々の権限にとっても脅威であることを示している。
CETAには、外国企業と投資家だけが利用できる新たな法的制度がある。万一イギリス政府が、たとえば危険な化学物質を非合法化したり、食品安全を強化したり、タバコの箱にロゴ、色彩やブランドイメージや販売促進効果のあるデザインを全て禁止し、ブランド名と商品名を決められた色とフォントだけで表示するプレーンパッケージ化のような決定をすると、カナダ企業は“不当”だとして、イギリス政府を訴えることができるのだ。しかも、この「不当」というのは、単に企業が期待していた通りの利益が得られないことを意味している。“裁判”は、企業弁護士が監督する特別法廷で行われる。”
この発言に欠けているのは、カナダに本社を有するあらゆるアメリカ企業が、同じ理由で、CETAによって、EU内のどの国でも訴えることができることだ。つまり‘期待していた’利益の喪失のかどで。企業は、実際、カナダ企業である必要はない。
グローバル・ジャスティスも確認している通り、“石油中の発癌性化学物質の非合法化や、現地コミュニティーへの再投資や、採石現場の荒廃をとめることで”北米自由貿易協定 (NAFTA)のもとで、アメリカ企業が行った多数の広範な訴訟で、カナダ自身が戦い、敗北してきたのだ。もしTTIPが、ヨーロッパの岸辺に、この恐ろしい民主的権限の浸食をもたらさなくとも、CETAがもたらすだろう。‘Brexit’は何の意味もなくなるだろう。CETAは、偉大な成功と称賛され、そのような協定に自分たちが既得権を有している大半のマスコミに支持されて、世界的貿易協定として、イギリス国民に売り込まれるだろう。
要するに、TTIP、CETA、TISA等々どの様に呼ばれようと、そうした条約は全て、自由貿易の名を借りた、過激ネオリベラル資本主義で、ごく少数の連中を富ませるよう仕組まれた、得体の知れない、わけのわからないものの頭字語名称のしろものにすぎない。
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