ことしのノーベル賞 受賞予測に3人の日本人研究者
NHK NEWS WEB 2016年9月21日
ことしのノーベル賞の発表が来月3日から始まるのを前に、受賞が有力視される研究者の予測をアメリカの学術情報サービス会社が発表し、日本人では医学・生理学と化学で新たに3人の名前が挙げられています。
アメリカのトムソン・ロイターは、およそ6300万に上る世界の研究者の論文をデータベース化し研究機関などに提供していて、例年この時期に論文の引用回数などに基づいてノーベル賞の受賞が有力視される研究者の予測を発表しています。
ことしは世界の24人の研究者が選ばれ、この中では日本人研究者も新たに3人の名前が挙げられています。このうち、医学・生理学では、免疫の働きを抑える「PD-1」という物質を発見し、新しいがんの治療薬の開発に道を開いた京都大学の本庶佑名誉教授が選ばれました。
化学では、がんの組織にピンポイントで薬を送り込む「ドラッグデリバリー」と呼ばれる治療法につながる発見をした崇城大学の前田浩特任教授と国立がん研究センターの松村保広新薬開発分野長の2人が選ばれています。
トムソン・ロイターは2002年から毎年ノーベル賞の予測を発表していて、去年までに世界各国から278人が選ばれ、このうち39人がノーベル賞を受賞しています。また、日本人の研究者は、アメリカ国籍を取得した人も含めると今回の3人も含めて合わせて24人が選ばれていて、このうち京都大学の山中伸弥教授とカリフォルニア大学の中村修二教授がそれぞれノーベル賞を受賞しています。
がんの新たな治療法につながる研究
今回の日本人研究者3人のうち、ノーベル化学賞の受賞が有力視されると予測された崇城大学の前田浩特任教授と国立がん研究センターの松村保広新薬開発分野長が取り組んでいるのは、がんの新たな治療法につながる研究です。
2人は今から30年前、がんのような腫瘍の組織では、血管の壁に数多くの隙間ができて血液に含まれる物質が組織の中に入りやすくなるうえ、入り込んだ物質がとどまる性質があることを発見しました。これを利用して、腫瘍の血管の隙間は通り抜けられるものの、正常な血管の壁は通り抜けられない比較的大きなたんぱく質でできた薬を開発すれば、ピンポイントでがんに作用する新たな治療が可能になります。
こうした治療法は「ドラッグデリバリー」と呼ばれ、正常な細胞にも作用してしまう従来の抗がん剤治療より副作用を減らせるとして、現在、世界中で研究が進められています。
前田特任教授は、「30年たって広く世界で評価されるに至り、ありがたいことだと思う。副作用のないがんの薬が1日でも早く開発されるよう願っています」と話しています。
また、松村分野長は、「選ばれるとは予想していませんでしたが、評価されることは有り難いし研究者冥利(みょうり)に尽きます。患者さんが生活を楽しみながら治療できることを第一に考え、副作用がない薬の開発につなげていきたい」と話しています。