16日のブログ:ちきゅう座に、坂井定雄 龍谷大学名誉教授による「トルコ非常事態法によるすさまじい実例 ―よそ事ではない、自民党の改憲草案が明記の条項」が載りました。
そこには非常事態法による凄まじい弾圧の概要が語られています。先のフランスにおける非常事態法でも数千件に及ぶ家宅捜索などが行われましたが、その比ではありません。
坂井名誉教授は、トルコのエルドアン政権によるこうした暴虐は、憲法と国会があっても非常事態の下で国家の最高権力者が思い通りになんでもできることを示す、最近の重要事例だとしています。
そして安倍首相が尊重するとしている自民党の「憲法改正草案」に、緊急事態条項があることを指摘し、それによれば政権は緊急事態を国会の事前承認なしに宣言でき、法律と同一の効力がある政令を制定でき、それによって、なんでもできるとして、憲法9条の改悪をさせないこととともに、緊急事態条項を新設させないことも、改憲阻止の最重要課題である、と述べています。
文中にある通り同記事の初出は「リベラル21」です。以下に転載させていただきます。
(関係記事)
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トルコ非常事態法によるすさまじい実例
―よそ事ではない、自民党の改憲草案が明記の条項
ちきゅう座 2016年 9月 16日
坂井定雄 龍谷大学名誉教授
初出「リベラル21」
トルコのエルドアン政権は、7月15日のクーデター未遂鎮圧直後、非常事態を宣言、閣議決定に基づき発布した非常事態法に基づき、政敵ギュレン師の支持勢力とみなした将兵約3千人、裁判官はじめ公務員、教育関係者など1万3千人以上を逮捕、拘束。約6万人を免職あるいは停職にし、新聞はじめメディア131社の閉鎖を命じた。この事件は「ギュレン師の支持勢力によるクーデター未遂ではなく、軍、司法、教育界などからギュレン師支持者を一掃するための、エルドアン大統領による周到な陰謀だったのではないか」という8月8日の本欄「トルコ・クーデター未遂事件の真相※」での私の見方はいまも変わらない。 ※ http://chikyuza.net/archives/65285
その後、警察総局、軍警察総司令部、沿岸警備司令部などにも懲戒免職が拡がるとともに、一般省庁・公共機関でも非常事態法に基づく公務員の懲戒免職が拡大した。
東京外国語大学のネット配信メディア「日本語で読む世界のメディア」:中東、東南アジア、南アジアの各地域の新聞が報じた最近のニュース:2016-09-09号によると、国際的評価も高いトルコの最有力紙ヒュリエットは9月2日、「憲法と非常事態法に基づき、8月15日の閣議で採択された政令672号によって、テロ組織に賛同した活動を行ったとして、数多くの公務員が懲戒免職にされた」と、その機関と人数のリストを報道した。
リストには89機関があり、懲戒免職された公務員は総数41,179人。その数が最大の国民教育省から400人台までの公共機関はつぎの通りだ。
国民教育省 28,163人
高等教育機構(大学等) 2,346人
保険省と関連組織 2,028人
財務省 829人
国税庁 813人
食糧農業畜産省・関連組織 733人
社会保険機構 605人
宗務庁 519人
家族社会政策省 439人 (400人以上の分を表示)
国民教育省と高等教育省が特に多く、両省で3万5千9人に達した理由は、大学から初等教育に至る学校の教員、教育行政公務員には、ギュレン師の比較的リベラルなイスラム主義の支持者も多く、政教分離の堅持を求める知識人層、共和人民党の支持者たちとも協調して、さまざまな教育、文化活動が拡がっているからだろう。もちろん、エルドアン大統領は、将来世代へのリベラルなイスラム主義の定着を強く警戒していたに違いない。
▼政権がなんでもやり放題の非常事態法
トルコのエルドアン政権が、クーデター未遂事件で非常事態を宣言し、非常事態法を発動して、多数の公務員を懲戒免職し、数千人の軍将兵を逮捕、処罰したことは、憲法と国会があっても、非常事態の下で国家の最高権力者が思い通りになんでもできることを示す、最近の重要事例だ。
幸い、日本の憲法には非常事態条項はなく、敗戦後の占領支配が終わり主権を回復したのち、政府が非常事態(緊急事態)法を発令することはありえなかった。非常事態法などは必要がなかったのだ。ただ1回だけ2011年の福島第一原子力発電所事故の際、原子力災害対策特別措置法による原子力緊急事態宣言が発令された。あれほどの大事故でさえ、特別措置法で対応できる。政府が権力をほしいままにする非常事態(緊急事態)法は、きわめて危険で、不必要なのだ。
非常事態宣言、あるいは緊急事態法について世界が記憶するのは、1933年、ナチスのアドルフ・ヒトラー首相が議員の大量逮捕の後に、国会の議決を得て手中にした全権委任法(非常事態法)のことだ。全権委任法によって、ナチス政権が第2次世界大戦、ユダヤ人大量虐殺へと突入していった歴史。もちろん日本では、軍が支配する政府が太平洋戦争に突入していった歴史をだれもが記憶している。
だが、いま、安倍政権下の自民党は、憲法改悪の重要項目として、緊急事態条項を新設しようとしている。安倍首相が尊重するとしている自民党の「憲法改正草案」には、次の条項があるー
第98条 緊急事態の宣言
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱などによる社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、(中略)緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前または事後に国会の承認を得なければならない。(後略)
第99条 緊急事態の宣言の効果
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は税制上の必要な支出そのほかの処分をおこない、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。(後略)
―要するに、自民党の「憲法改正草案」では、政権は緊急事態を国会の事前承認なしに宣言でき、法律と同一の効力がある政令を制定でき、それによって、なんでもできるのだ。
トルコでは、立派な憲法があり、国民が憲法を尊重しているが、エルドアン政権はクーデター未遂事件によって非常事態(緊急事態)を宣言し、条例を次々と発令して、やりたい放題を強行した。日本では、憲法9条の改悪をさせないこととともに、緊急事態条項を新設させないことも、改憲阻止の最重要課題だ。
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