2016年9月19日月曜日

辺野古不当判決の裏に 法務省(最高裁事務総局)の露骨人事

 沖縄辺野古の新基地建設問題で、翁長知事が埋め立て承認取り消しの撤回に従わないのは違法だとして国が訴えた訴訟で、福岡高裁那覇支部多見谷寿郎裁判長は、国側の主張を全面的に追認する極めて不当な判決を下しました。それは裁判所「政府の追認機関」に成り下がり、司法の責務を自ら否定したものでした。
 LITERAは、同裁判長は代執行訴訟が提起されるわずか18日前に、東京地裁立川支部から在任期間1年2カ月(通常は3年)で急遽異動したものであり、前任の須田啓之氏も在任1年で那覇支部長を終えて宮崎地家裁の所長に転じたことを明らかにし、この異動は、最高裁事務総局がこの訴訟で国側を勝たせるために、リベラルな裁判官を異動させ、代わりに行政べったりの裁判官を抜擢したものだとしました。
 
 こうした変則的な異動はしばしば行われているもので、逆に、例えば刑事事件で無罪判決を出したり、行政訴訟で住民側を勝訴させるなど、権力側に都合の悪い判決を出した裁判官は必ずと言っていいほど地方の支部や家庭裁判所に異動させられるということです。
 現に、大飯原発や高浜原発の運転差し止めの仮処分(決定)を出した福井地裁の樋口英明元裁判長はその後家裁に異動させられ、代わりにエリートとして知られる林潤裁判長と同じくエリートの左右陪席の裁判官が送り込まれています。
 いまや判事が良心のみに基づいて判決を下すなどというのは絵空事に過ぎないようです。
 しんぶん赤旗の「主張」も併せて紹介します。
 
  (関係記事)
3月16日 最高裁は「選り抜きの裁判官」を福井地裁に送り込み樋口決定を取消した
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辺野古トンデモ判決の裏に裁判所の露骨人事!
リベラルな裁判官を異動させ行政べったりの裁判官を抜擢
LITERA 2016年9月17日
 沖縄・辺野古の米軍新基地建設をめぐって、安倍政権が沖縄県の翁長雄志知事を訴えていた訴訟で、16日、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)は国側の主張を全面的に認め、翁長知事が辺野古埋め立ての承認取り消しの撤回に応じないのは違法だという判決を言い渡した。安倍(国)VS翁長(沖縄県)の法廷闘争は、アッサリ安倍に軍配が上がったのだ。しかも、その判決文は、翁長知事が「あぜん」という言葉を繰り返すほど、国側に媚びた内容だった。
 
 そもそもこの訴訟は、仲井真弘多前知事時代に認めた「埋め立て承認」を県が自ら否定し、取り消すことが認められるかどうかといった法的手続き論が争点だった。
 ところが、判決は「(北朝鮮の中距離ミサイル)ノドンの射程内となるのは、我が国では沖縄などごく一部」「海兵隊の航空基地を沖縄本島から移設すれば機動力、即応力が失われる」「県外に移転できないという国判断は現在の世界、地域情勢から合理性があり、尊重すべきだ」などと新基地建設の妥当性にまで踏み込み、翁長知事が埋め立て承認を取り消したことについては「日米間の信頼関係を破壊するもの」とまで言い切った。また、翁長知事が頼りにする「民意」についても、「(辺野古基地建設に)反対する民意に沿わないとしても、基地負担軽減を求める民意に反するとは言えない」「普天間飛行場の被害を除去するには新施設を建設する以外にない」と、国の代弁者と見紛うほどの書きっぷりだ。
 
 明らかに偏向した判決と言えるが、法曹関係者の間では「さもありなん」との声がしきりだ。というのも、この判決を出した多見谷寿郎裁判長は、“行政訴訟では体制寄りの判決を下す”ともっぱら評判だったからだ。それをいち早く指摘したのが、作家の黒木亮氏だ。昨年12月25日付のプレジデントオンラインに〈辺野古代執行訴訟「国が勝つことが決まっている」と題する寄稿をしている(外部リンク)。
 それによると、多見谷氏は〈平成22年4月から同26年3月まで千葉地裁の裁判長を務め、行政(およびそれに準ずる組織)が当事者となった裁判を数多く手がけているが、新聞で報じられた判決を見る限り、9割がた行政を勝たせている〉というのである。しかも、この多見谷氏の着任人事が極めて異常だった。〈代執行訴訟が提起されるわずか18日前に、東京地裁立川支部の部総括判事(裁判長)から慌ただしく福岡高裁那覇支部長に異動している。この転勤が普通と違うのは、多見谷氏の立川支部の部総括判事の在任期間が1年2カ月と妙に短いことだ。裁判官の異動は通常3年ごとである。(中略)また、前任の須田啓之氏(修習34期)もわずか1年で那覇支部長を終えて宮崎地家裁の所長に転じており、これも妙に短い〉。
 
 司法記者もこの指摘に同意し、こう解説する。
前任の須田氏は『薬害C型肝炎九州訴訟』で国と製薬会社の責任を厳しく指弾して賠償を命じるなど、リベラルな判決を出した“過去”があるので、外されたと見るべきでしょう。そこへいくと多見谷氏は“アンチ住民”の態度が鮮明です。有名なのは2013年の成田空港訴訟で、成田空港用地内の農家の住民に空港会社が土地と建物の明け渡しを求めた裁判でしたが、住民側に明け渡しを命じる判決を出した。住民は『国は農家をやめて、死ねと言うのか』と訴えたが、裁判長は聞く耳を持たず、住民側の証人申請はほとんど却下されました。他にも行政訴訟では、建設工事を進める残土処理場を巡った千葉県の許可取り消しを住民が求めた裁判で訴えを棄却したりしています」
 
 今回の辺野古裁判でも、多見谷裁判長は露骨に国寄りの訴訟指揮を執った。翁長知事の本人尋問こそ認めたものの、稲嶺進名護市長ら8人の証人申請は却下したうえ、しかも、国側が早期結審を求めたのに応え、わずか2回の弁論で結審する“スピード審理”でもあった。判決にある「(新基地に)反対する民意に沿わないとしても、基地負担軽減を求める民意に反するとは言えない」などというのも、国を勝たせるための詭弁としか言いようのない理屈である。
 
 県側は判決に納得せず、すぐに上告を決めた。翁長知事も会見で、「地方自治制度を軽視し、沖縄県民の気持ちを踏みにじるあまりにも国に偏った判断。裁判所が政府の追認機関であることが明らかになり、大変失望している。三権分立という意味でも相当な禍根を残す」と怒りを隠さなかった。当然だろう。
 
 沖縄は太平洋戦争末期に日本本土防衛のため、住民の5人に1人が死ぬという夥しい犠牲を負った。戦後、1972年に返還されるまで長らくアメリカの支配下に置かれた。いまある基地のいくつかはこの間に、基地反対運動が激しくなった本土から押し付けられたものだ。海兵隊基地もこの時、本土から移設された。沖縄に米軍基地が集中しているのは必然ではない。
 その米軍基地をめぐって県と国が法廷で争うのは、1995年に当時の大田昌秀知事が米軍用地の強制使用に必要な代理署名を拒否して以来20年ぶりだ。この時も最高裁まで争われ、県側が敗訴した。だが、判事15人のうち6人は、アメリカ軍基地が集中する沖縄の負担の大きさを認め、軽減するためには政府の対応が必要だと指摘している。多見谷裁判長による今回の判決は、沖縄に米軍基地があることを疑わない、20年前よりも後退した「差別的判決」と言わざるをえない。
 
 翁長知事は会見の最後を「長い長い闘いになろうかと思う。新辺野古基地は絶対に造らせないという信念を持って、これからも頑張っていきたい」と締めくくった。だが、判決の当日、中央政界では、沖縄・北方相の鶴保庸介氏が訴訟について、「注文はたったひとつ、早く片付けてほしいということに尽きる」などと発言し、県民の感情を逆撫でした。一方、頼みの野党第一党も、民進党内極右を幹事長に据え「辺野古は堅持」「私はバリバリの保守」などと明言する人物が新代表に選ばれるようでは、お先真っ暗と言わざるをえない。(野尻民夫)
 
 
主張) 沖縄・高裁不当判決 県民の怒りと結束さらに強く
しんぶん赤旗 2016年9月18日
 沖縄の米海兵隊普天間基地(宜野湾市)に代わる名護市辺野古の新基地建設問題で、翁長雄志知事が辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しの撤回に従わないのは違法だとして国が訴えた「違法確認訴訟」で、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)は、国側の主張を全面的に追認する極めて不当な判決を下しました。判決自身が裁判所は中立・公平であるべきだとしながら「政府の追認機関」に成り下がり、「沖縄県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国に偏った判断」(翁長氏)を行い、司法の責務を自ら否定したものとして到底許すことはできません。
 
安倍政権の主張そのまま
 今回の不当判決の最大の特徴は、「埋め立ての必要性の中で軍事的な面について踏み込んだ判断を行い、他方では自然環境面については一切考慮しない」(翁長氏)内容だということです。
 判決は、普天間基地の被害は基地の閉鎖という方法で改善される必要があるとしつつ、▽在沖縄海兵隊全てを県外に移転することができないという国の判断は尊重すべきだ ▽そうすると県内に普天間基地の代替基地が必要 ▽辺野古の他に県内の移転先は見当たらない ▽よって普天間基地の被害を除去するには辺野古新基地を建設する以外にない―としています。
 
 沖縄県側の反論で既に破綻済みの「沖縄の地理的優位性」や「海兵隊の一体的運用」論に固執して「辺野古が唯一の解決策」とする安倍政権の主張そのままです。
 県側が「地理的優位性」を否定する根拠に中国のミサイルの射程内にある沖縄への米軍基地集中はリスク(危険)が高いとの専門家の指摘を挙げると、判決は北朝鮮の「ノドン」ミサイルは射程外だという全く反論にならない主張までするありさまです。安倍政権への擁護ぶりが際立っています。
 しかも、判決は、辺野古新基地の建設を中止するには普天間基地の被害を継続するしかないとまで述べています。安倍政権が沖縄県民に新基地を受け入れさせるために使ってきたどう喝まで同じという異常さです。翁長氏が「あ然としている」「驚きを禁じ得ない」と述べたのはあまりにも当然です。
 
 辺野古新基地は、海兵隊の海外侵攻のため、垂直離着陸機オスプレイが配備され、強襲揚陸艦が接岸できる港湾機能なども新たに備えた巨大出撃拠点として計画されています。老朽化して使い勝手の悪い普天間基地の単なる「移設」という生易しい代物ではありません。オスプレイ・パッド(着陸帯)の建設が強行されている北部訓練場(東村、国頭村)などとも一体的に運用され、訓練の激化など被害も拡大しかねません。判決が「県全体としては基地負担が軽減される」などと主張することは、沖縄の基地の現実を全く分かっていないと言わざるを得ません。
 
自然環境の破壊考慮せず
 判決が、埋め立てに10トントラック約340万台分の土砂を使い、希少生物が多様に生息する貴重な自然環境を破壊することを何ら考慮していないことも重大です。
 翁長知事は、今回の判決によって沖縄県民の反発と結束はより強くなると述べ、「辺野古新基地は絶対に造らせない」と強調しました。辺野古新基地ノー、普天間基地閉鎖・撤去を求める世論と運動をさらに大きく広げる時です。