翁長雄志知事による辺野古の埋め立て承認取り消しを巡り、国が沖縄県を相手に提起した訴訟の判決が16日あり、福岡高裁(那覇支部)は、国の請求を認め、県の承認取り消しを是正することを求めた国に従わないのは違法とする判決を下しました。
判決は、「普天間基地の被害を除去するには埋め立てを行うしかないので、沖縄の民意を考慮しても埋め立て承認に ”要件を欠く点はない” として、前の知事による埋め立て承認に違法性はなく、承認の取り消しは許されない」と述べました。
翁長知事は県庁で記者会見し、「地方自治制度を軽視し、県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国側に偏った判断だ。一方では軍事的な面について踏み込んだ判断を行い、他方では自然環境面については一切考慮しないなど、裁判所がこのような偏った判断を行ったことは驚きを禁じ得ない」と述べ、裁判所が政府の追認機関であることに大きな失望を表明しました。
安慶田副知事もNHKの取材に対し「想定内ではあるが、われわれとしては埋め立て承認の取り消しが違法だとは考えていないので、判決には不服で納得できない」と語りました。
県は上告する方針で、承認取り消しを巡る法廷闘争は最高裁に舞台を移します。
植草一秀氏による辛口の評論も併せて紹介します。
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【号外】 県が敗訴 承認取り消し「違法」 初の司法判断
琉球新報 2016年9月16日
翁長雄志知事による名護市辺野古の埋め立て承認取り消しを巡り、国が県を相手に提起した不作為の違法確認訴訟の判決が16日午後2時、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)で言い渡された。多見谷裁判長は、国の請求を認め、県の承認取り消しを取り消すよう求めた国の「是正の指示」に従わないことは違法だとした。
辺野古新基地建設問題における初めての司法判断。米軍普天間飛行場移設に関する今後の議論に影響を与えるのは必至。敗訴した県は上告する方針で、承認取り消しを巡る法廷闘争は最高裁に舞台を移す。
辺野古沖 国の訴え認める「翁長知事の対応は違法」
NHK NEWS WEB 2016年9月16日
沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先とされている名護市辺野古沖の埋め立て承認をめぐり、国が沖縄県を訴えた裁判で、福岡高等裁判所那覇支部は「普天間基地の被害を除去するには埋め立てを行うしかなく、埋め立てにより県全体としては基地負担が軽減される」として国の訴えを認め、翁長知事が承認を取り消したのは違法だとする判決を言い渡しました。
名護市辺野古沖の埋め立て承認をめぐって、国はことし3月、翁長知事が行った承認取り消しを撤回するよう求める是正指示を出しましたが、県が応じなかったため、撤回しないのは違法だとする訴えを起こしました。
16日の判決で、福岡高等裁判所那覇支部の多見谷寿郎裁判長は「普天間基地の被害を除去するには埋め立てを行うしかなく、埋め立てにより県全体としては基地負担が軽減されることからすると、埋め立てに伴う不利益や基地の整理縮小を求める沖縄の民意を考慮しても、承認の要件を欠く点はない」と指摘して、前の知事による埋め立て承認に違法性はないとしました。そのうえで「埋め立て承認に不当な点がないため、承認の取り消しは許されない」として国の訴えを認め、翁長知事が承認を取り消したのは違法だと判断しました。
埋め立て承認をめぐっては、国と県の双方が裁判を起こし、ことし3月に和解が成立したあとも再び法廷で争われる異例の経緯をたどっていて、司法の判断が示されたのは初めてです。
県は、判決を不服として最高裁判所に上告する方針のため、国が中止している埋め立て工事は引き続き再開されない見通しです。
沖縄県副知事「不服で納得できない」
判決を受けて、沖縄県の安慶田副知事はNHKの取材に対し「想定内ではあるが、われわれとしては埋め立て承認の取り消しが違法だとは考えていないので、判決には不服で納得できない。内容を精査したうえで、最高裁判所に上告する手続きをとりたい」と述べました。
今後の裁判は
沖縄県が最高裁判所に上告できるのは1週間以内で、今月23日が期限です。
(中略)20年前に国と沖縄県が軍用地の強制使用をめぐって争った裁判では、高等裁判所の判決のおよそ5か月後に最高裁の大法廷で判決が言い渡されていて、国は、今回も同じような期間を経て、今年度中に判決が言い渡される可能性があると見ています。
「政府の追認機関」と判決批判
違法確認訴訟敗訴で翁長沖縄県知事、上告の意向表明
琉球新報 2016年9月16日
沖縄県の翁長雄志知事は16日夕、名護市辺野古の埋め立て承認取り消しを巡る不作為の違法確認訴訟で国に敗訴したことを受けて県庁で記者会見し「地方自治制度を軽視し、県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国に偏った判断だ。政府の追認機関であることが明らかになり大変失望している」と述べ、判決を厳しく批判した。その上で最高裁に上告する考えを示した。今後、確定判決後の対応として、埋め立て承認の「撤回」については「十分ありうる」と述べた。
埋め立ての必要性についての判決について「一方では軍事的な面について踏み込んだ判断を行い、他方では自然環境面については一切考慮しないなど、裁判所がこのような偏頗(へんぱ)な判断を行ったことは驚きを禁じ得ない」と述べた。
判決を一読した印象として「大変あぜんとしている。三権分立の意味でも相当禍根を残すと思っている上、こういった一方的な内容の場合には県民のより大きい反発と結束がこれから出てくるのではないか」と語った。 【琉球新報電子版】
徹底抗戦なくして辺野古米軍基地阻止はない
植草一秀の「知られざる真実」 2016年9月16日
辺野古米軍基地建設問題で重要なことは、「辺野古に基地を作らせない」ことである。
沖縄県知事の翁長雄志氏の評価はこの一点によって決まる。
そうは言っても、不可能を可能にすることはできない。公約実現に向けて最善を尽くしたのかが問われる。
日本の場合、司法は独立していない。
司法は権力機関であり、権力の中核である内閣に隷属する位置にある。
個別の裁判官が、例外的に行政権力の意思に反する判決を示すことが稀に存在するが、上級審では、こうした反政府の判断は覆される。
その源泉は日本国憲法が内閣に最高裁長官及び最高裁裁判官、さらに下級裁判所裁判官の人事権を付与していることにある。この人事権を通じて、内閣は司法権の上位に位置している。
そして、司法権の上位に位置する行政権力の上位に、日本を支配する米国が君臨している。
米国は日本の裁判について、この指揮命令系統を通じて直接介入する。その典型事例は、1959年12月16日の最高裁による砂川事件判決に表れている。
この裁判では、東京地方裁判所の伊達秋雄裁判長が1959年3月30日に、
「米軍駐留は日本国憲法第9条第2項が禁止する戦力の保持にあたり違憲であり、刑事特別法の罰則は日本国憲法第31条(デュー・プロセス・オブ・ロー規定)に違反する不合理なものである」
として被告人全員を無罪とした。
これに対して検察は直ちに最高裁判所へ跳躍上告し、同じ年の12月16日に最高裁が、
「憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、外国の軍隊は同条が禁止する戦力にあたらないから、米軍駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。
他方、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない(統治行為論採用)」
として原判決を破棄し地裁に差し戻した。
この裁判における異例の跳躍上告、および、異例のスピードでの最高裁判決の背後に米国の関与があった。
東京地裁の「米軍駐留は憲法違反」判決を受け、当時の駐日大使ダグラス・マッカーサー2世が、同判決の破棄を狙って外務大臣藤山愛一郎に最高裁への跳躍上告を促す外交圧力をかけ、最高裁長官・田中耕太郎と密談したりするなどの介入を行なっていたことがのちに明らかになった(Wikipedia)。
米国が跳躍上告を促し、一審判決を覆すための工作活動を展開したのは、1960年に日米安全保障条約の改定が予定されていたからで、このために1959年中に米軍駐留合憲の判決が示されることを求めたのである。
のちに各種資料から、最高裁長官の田中耕太郎がマッカーサー大使と面会した際に「伊達判決は全くの誤り」と一審判決破棄・差し戻しを示唆していたこと、上告審日程やこの結論方針をアメリカ側に漏らしていたことが明らかになった(Wikipedia)。
さらに、アメリカ国立公文書記録管理局における公文書分析により、田中判決がジョン・B・ハワード国務長官特別補佐官による
“日本国以外によって維持され使用される軍事基地の存在は、日本国憲法第9条の範囲内であって、日本の軍隊または「戦力」の保持にはあたらない”
という理論により導き出されたものであることも判明している(Wikipedia)。
また、田中耕太郎は駐日首席公使ウィリアム・レンハートに対し、
「結審後の評議は、実質的な全員一致を生み出し、世論を揺さぶるもとになる少数意見を回避するやり方で運ばれることを願っている」
と話したとされ、最高裁大法廷が早期に全員一致で米軍基地の存在を「合憲」とする判決が出ることを望んでいたアメリカ側の意向に沿う発言をしたとされている(Wikipedia)。
これらの一連の経過について、憲法学者で早稲田大学教授の水島朝穂は、判決が既定の方針だったことや日程が漏らされていたことに「司法権の独立を揺るがすもの。ここまで対米追従がされていたかと唖然とする」とコメントしている(Wikipedia)。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、翁長雄志知事が沿岸部の埋め立て承認を取り消した処分を撤回しないのは違法だとして、国が知事を相手に起こした訴訟で、福岡高裁那覇支部は9月16日、知事の対応を「違法」と判断し、県側敗訴の判決を示した。
国が提訴したのは7月のこと。驚くスピードでの判決提示である。
国と沖縄県は3月に、国が翁長雄志知事を訴えた代執行訴訟で和解している。
和解の要旨は、
1.国と県は訴訟を取り下げ、国は埋め立て工事を中止する
2.国と県は円滑解決に向けた協議を行う
3.訴訟となった場合、国と県はその判決に従う
というものである。
この和解を沖縄県が受け入れると、「訴訟となった場合、国と県はその判決に従う」の言葉の意味がのちに重大問題にあることを指摘してきた。
裁判を起こせば、最終的には国が勝つ。裁判所は独立性を有する司法機関ではなく、政治権力、行政権力に追従する権力機関であるからだ。
したがって、「辺野古に基地を作らせない」公約を守るためには、ありとあらゆる手段を講じて、時間を稼いでゆくしかないのである。
その意味で重大なカギを握ったのは、本体工事に着手するための事前協議書の受理だった。沖縄県がこれを受理したために本体工事が着手されたのである。
この前に徹底抗戦が必要だった。
要するに、いまの流れは、「辺野古基地建設容認」につながる可能性が極めて高いものなのである。
これこそまさに、2014年11月の沖縄知事選の当初から懸念されていたことである。
最高裁判決は2017年春にも示される可能性が高い。
沖縄県が敗訴することを前提に、それでも「辺野古に基地を作らせない」公約を守るための徹底抗戦の戦術を提示する必要がある。 (後 略)