2026年8月31日月曜日

アメリカはカナダとの「貿易戦争」に勝利できるのか?

「マスコミに載らない海外~」に掲題の記事が載ったので紹介します。
 トランプは8月22日にカナダとの貿易交渉が決裂した後、約200億ドル相当のカナダ製品に50%関税をかけると宣告しました。最も緊密な経済パートナーのカナダに対するこの高関税はカナダ側を困窮させると思ったようですが、カナダは直ちに9月8日から米国製品に同額の関税を、即ち主に鉄鋼製品で200億ドル相当の米国製品に幅広い関税を 課すことで応じました。
 多くのカナダ産業は何十年にもわたり米国市場への参入を前提として生産体制を構築してきたので、当然それなりの対応が必要ですが、新たな貿易先には中国、インドをはじめオーストラリア、日本を含む東南アジアなどがあるので、今後10年間で米国以外への輸出を倍増させ、推定3,000億カナダドルの追加貿易を生み出す貿易多角化戦略を構築しています。
 実際にカナダの26年貿易状況報告書によると、25年の対米輸出は3.7%減少したものの、米国以外の市場への輸出は11.1%増加し、その結果、米国以外の輸出先の比率は32.8%に達し、40年以上ぶりの高水準となったということです。
 トランプによる対カナダ高関税作戦は、カナダが米国への依存から脱却する代替策を構築し、これまでの米国市場中心の貿易体制を永久に変えることを促す結果になりました。
 と同時に カナダ側が米国との貿易を排除しないのは当然のことです。
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アメリカはカナダとの「貿易戦争」に勝利できるのか?
              マスコミに載らない海外記事 2026年8月30日
                サルマン・ラフィ・シェイフ 2026年8月27日
                    New Eastern Outlook
 ワシントンはカナダに更なる負担を強いることができるかもしれないが、最大の市場を武器化して、最も緊密な経済パートナーのカナダに対し、アメリカへの依存から脱却する代替策を構築し、アメリカ市場の中心性を永久に変えるよう促している

ワシントンの予想より早くカナダは適応している
 アメリカ・カナダ貿易紛争最新のエスカレーションは、世界で最も緊密に統合された経済の二つが関与しているため、まさに注目に値する。ほんの数年前まではこのような事態は予想されていなかったため、この展開は驚くべきものだ。8月22日、貿易交渉が決裂した後、200億ドル相当のカナダ製品に50%関税ワシントンは課した。オタワは9月8日からアメリカ製品に同額関税を課して応じた。8月25日、カナダは主に鉄鋼製品で200億ドル相当のアメリカ製品に幅広い関税を課すと発表した。
 彼らはアメリカとの関係を断つ必要はない。将来の経済的圧力に耐えるのに十分な代替市場さえあればよい
 この戦争で、カナダが代償を払うのは疑う余地がない。カナダはアメリカからの輸入が輸出を上回っており、経済は依然、アメリカに大きく依存している。多くのカナダ産業は、アメリカ市場への参入を前提として何十年にもわたり生産体制を構築してきた。例えば、カナダ製自動車の90%以上、カナダ製自動車部品の60%以上がアメリカに輸出されている。だが、まさにこの脆弱性こそが、カナダの対応を重要なものにしている。オタワは単にワシントンに旧来の関係を回復させようとしているのではない。旧来の関係が二度と戻ってこない可能性に適応しようとしているのだ。マーク・カーニー首相はこの点、異例なほど明確に述べている。最新の交渉決裂を発表した際、カーニー首相は、カナダはアメリカは変わったと認識しており、国際的協力関係を多様化しつつ、国力強化に注力していくと述べた
 この戦略は既に目に見える変化をもたらしている。カナダの2026年貿易状況報告書によると、2025年の対米輸出は3.7%減少したが、アメリカ以外の市場への輸出は11.1%増加した。その結果、アメリカ以外の輸出先の比率は32.8%に達し、40年以上ぶりの高水準となった。これはカナダがアメリカを置き換えるという意味ではない。また、すぐにそうなることもできない。アメリカの需要、地理的条件と、深く統合されたサプライチェーンは、欧州やアジアが一夜にして再現できない優位性をアメリカに与えている。だが、カナダの目標はより現実的なものになりつつある。アメリカを置き換えるのではなく、アメリカをそれほど不可欠な存在ではなくすることだ。
 オタワの貿易多角化戦略は、今後10年間でアメリカ以外の輸出を倍増させ、推定3,000億カナダドルの追加貿易を生み出すことを目指している。カナダは既存貿易協定を通じて既に15億人の消費者に優遇的に参入しており、市場参入を更に拡大しようとしていると述べている。これがワシントンにとっての戦略的問題だ。関税は今日のカナダの輸出費用を上昇させることはできるが、カナダ企業が明日新たな顧客を獲得するのを阻止することはできない

市場はカナダの動きを待っている
 最も明白な恩恵を受けるのは、カナダの貿易多角化に伴い、その一部を受け入れることができる経済圏だ。中でも中国は特に重要だ。オタワはアメリカへの依存を北京への依存に置き換えるつもりはない。だが、アメリカ・カナダ関係の悪化は、カナダが世界第二位の経済大国、中国との商業関係を深める動機を生み出している。
 その過程は既に加速している1月、カーニー首相は北京を訪問した。これは2017年以来のカナダ首相による初訪問で、貿易、エネルギー、農業、クリーンテクノロジーに焦点を当てた中国との新たな戦略的協力関係を構築した。オタワは、2030年までにカナダの対中輸出を50%増加させる目標を設定した。また両国は、カナダ産キャノーラ、海産物、その他の輸出に対する障壁削減を目的とする協定もまとめ、数十億ドル規模のカナダ輸出受注が実現する可能性もある。だが中国は唯一の輸出先ではなく、この点が重要だ。カナダの戦略は代替ではなく多様化だ。
 ヨーロッパは明白な代替選択となる。2025年には、カナダのヨーロッパおよび中央アジアへの商品輸出額223億ドル、つまり30%増加した。カナダのアメリカ以外の輸出実績の向上に大きく貢献したのは、イギリスと欧州連合だった。
 インド太平洋地域は、更に大きな影響力を持つ可能性を秘めている。カナダは既にCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を通じて、日本、オーストラリア、ベトナム、マレーシア、シンガポールなどの市場への優遇参入を確保している。カナダとインド太平洋地域間の双方向商品貿易額は、2025年には2,814億カナダドルに達し、7.4%増加すると予測されている。
 インドは、またとない大きな可能性を秘めている。急速に拡大する経済と広大な消費市場を持つインドは、長期的に見てカナダの輸出を大幅に吸収できる可能性を秘めた数少ない国の一つだ。そのためカナダは、将来を一つの新たな同盟国に賭けるのではなく、複数の地域で同時に関係を構築しようとしている。これが、貿易戦争が北米を遙かに超えた地域に影響を及ぼす可能性がある理由だ。
 数十年にわたり、カナダの地理的条件は、アメリカとの極めて緊密な経済関係を促してきた。理由は単純明快だった。世界最大の市場が国境のすぐ向こうにあるのに、わざわざ遠くの顧客を探す必要はないというわけだ。だが、ワシントンはこの計算を変えた。中国、ヨーロッパ、インド、あるいはアジアに顧客を持つカナダ企業は、アメリカ・カナダ関係が改善しても、必ずしもそれら顧客を手放すわけではない。新たな契約、物流ネットワーク、投資関係、流通チャネルは、今後数十年にわたって続く経済習慣を生み出す。皮肉なことに、アメリカは自らの市場支配力を利用して、カナダにその市場支配力に対抗する代替策を開発させようとしているのだ。

 アメリカの戦略的誤算
 これが、アメリカが必ずしも勝利するとは限らない理由だ。ワシントンの方が有利な立場にある。経済規模は遙かに大きく、オタワでは対抗できないような代償カナダ輸出業者に課すことが可能だ。しかし、経済力は、他国が自国市場参入から何を得るかだけでなく、どれだけ自国市場に依存し続ける意思があるかにも左右される
 数十年にわたり、アメリカの巨大消費市場はワシントンに並外れた影響力をもたらしてきた。だが、市場へのアクセスが予測不可能になれば、依存は弱点になる。カナダは代替市場の構築で対応しており、他のアメリカ同盟諸国も動向を注視している。彼らはアメリカとの関係を断つ必要はなく、将来の経済的圧力に耐えうる十分な代替市場を確保すればよい。
 その結果、グローバル化は多極化する可能性があり、すなわち、各国はアメリカとの貿易を継続しつつ、同時に中国、欧州、インド、インド太平洋諸国との関係を深めていくことになろう。カナダは初期の試金石になる。カナダ経済は打撃を受け、多角化には時間がかかるだろうが、方向性は明確だ。オタワは、より強靭な経済を構築し、特定同盟国への依存度を下げようとしている。

 これが今回の貿易戦争の逆説だ。アメリカはカナダに市場参入費用の値上げを強要するできるが、カナダをアメリカへの依存状態に留めおくのは容易ではない。カナダの経済多角化がたとえ部分的にでも成功すれば、ワシントンは貿易戦略の最大の代償は関税そのものではなく、かつて関税を強力なものにしていた依存関係が徐々に崩壊していくことにあると気づくかもしれない。

 サルマン・ラフィ・シェイフは国際関係およびパキスタンの外交・国内問題リサーチアナリスト
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2026/08/27/can-america-win-trade-war-with-canada/