憲法96条を改定しようとする政府・政党の動きに対し、各地の弁護士会が続々と声明を出すなど批判を強めています。
日本弁護士連合会は3月14日に既に「憲法第96条の発議要件緩和に反対する意見書」を出しました。
以下に時事通信の記事と日弁連の「意見書」を紹介します。
(意見書は長文なため一部を省略してあります。全文はURLをクリックしてご覧ください)
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96条改正、弁護士会から批判=各地で声明、大阪・愛知は反対決議へ
時事通信 2013年5月27日
憲法96条が定める国会の改憲発議の要件を緩和しようとする政府・政党の動きに対し、各地の弁護士会が声明を出して批判を強めている。大阪と愛知の各弁護士会は今週、それぞれ総会で緩和反対を決議する見通しだ。愛知県弁護士会の安井信久会長は「権力乱用を縛ってきた憲法の根本的な理念が変えられようとしていることを、市民に知ってもらいたい」と狙いを話す。
衆参両院で3分の2以上の発議要件を過半数に緩和することについて、大阪弁護士会の決議案は「権力行使を制限される立場の政府が、制限を免れるために容易に発議できるようになる」と指摘。愛知の案も「憲法の安定性が大きく損なわれる」と警鐘を鳴らす。
決議案は両会とも、代表の弁護士で構成される常議員会を通過済み。定期総会で過半数の賛成を得られる見通しだという。他に宮崎、長崎、長野、釧路の各会が今月、緩和反対の会長声明を出しており、宮崎県弁護士会は来月の総会で反対を決議する準備を進めている。
安井会長は「政権は自民、民主、また自民とめまぐるしく変わった。人権擁護や平和主義といった基本的な原理を、時の与党の都合で変えられてはならない」と訴える。発議後の国民投票に最低投票率の仕組みがないこともあり、「国民投票があるから発議は2分の1でいいという議論は、ポピュリズムに近い」と懸念する。
日本弁護士連合会憲法委員会で事務局次長を務める大阪弁護士会の笠松健一弁護士は「96条だけ先行改正するという議論はトーンダウンしてきたが、ここで油断せずに問題点を挙げていきたい」と話している。
憲法第96条の発議要件緩和に反対する意見書
2013年(平成25年)3月14日
日本弁護士連合会
意見の趣旨
当連合会は憲法改正を容易にするために憲法第96条を改正して発議要件を緩和することに強く反対する。
意見の理由
1 憲法第96条を改正しようとする最近の動き
(省 略)
2 日本国憲法で国会の発議要件が総議員の3分の2以上とされた理由
憲法は,基本的人権を守るために,国家権力の組織を定め,たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても権力が濫用されるおそれがあるので,その濫用を防止するために国家権力に縛りをかける国の基本法である(立憲主義)。
すなわち,憲法第11条は「この憲法が国民に保障する基本的人権は,侵すことのできない永久の権利として,現在及び将来の国民に与へられる。」とし,憲法第97条は「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて,これらの権利は,過去幾多の試練に堪へ,現在及び将来の国民に対し,侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」とする。この基本的人権の尊重こそが憲法の最高法規性を実質的に裏付けるものであり,この条項に引き続く憲法第98条は「この憲法は,国の最高法規であって」と,憲法の最高法規性を宣言し,憲法第81条で裁判所に違憲立法審査権を与えている。憲法第96条の改正規定は,これらの条項と一体のものとして,憲法保障の重要な役割を担うものである。
憲法学説においても,憲法改正規定の改正は,憲法改正の限界を超えるものとして許されないとする考え方が多数説である(芦部信喜著「憲法第五版」(岩波書店)385ページ以下など)。
このように,日本国憲法は国の基本的な在り方を定める最高法規であるから,憲法が改正される場合には,国会での審議においても,国民投票における国民相互間の議論においても,いずれも充実した十分慎重な議論が尽くされた上で改正がなされるべきことが求められ,法律制定よりも厳しい憲法改正の要件が定められたのである。
もし,充実した十分慎重な議論が尽くされないままに簡単に憲法が改正されるとすれば,国の基本法が安易に変更され,基本的人権の保障が形骸化されるおそれがある。国の基本法である憲法をその時々の支配層の便宜などのために安易に改正することは,それが国民の基本的人権保障や我が国の統治体制に関わるだけに,絶対に避けなければならない。
現在の選挙制度の下では,たとえある政党が過半数の議席を得たとしても,小選挙区制の弊害によって大量の死票が発生するため,その得票率は5割には到底及ばない場合がありうる。(中 略)したがって,議員の過半数の賛成で憲法改正が発議できるとすれば,国民の多数の支持を得ていない憲法改正案が発議されるおそれが強い。その後に国民投票が行われるとしても,国会での発議要件を緩和することは,国民の多数の支持を受けていない憲法改正案の発議を容認することとなってしまうおそれがある。(中 略)
なお,大日本帝国憲法第73条は,議員の3分の2以上の出席の下,出席議員の3分の2以上の賛成で憲法改正がなされると定められていた。
3 諸外国の憲法との比較
省 略
4 憲法改正手続法における国民投票の問題点
(前 略)ところが,2007年5月18日に成立した(中 略)「憲法改正手続法」には,当連合会がかねてより指摘してきた重大な問題点が数多く存在する(中 略)
例えば,国民投票における最低投票率の規定がなく,国会による発議から国民投票までに十分な議論を行う期間が確保されておらず(中 略),憲法改正に賛成する意見と反対する意見とが国民に平等に情報提供されないおそれがあり,公務員と教育者の国民投票運動に一定の制限が加えられているため,国民の間で十分な情報交換と意見交換ができる条件が整っているわけではない。このような状況で憲法改正案の発議がなされ,国民の間で充実した十分慎重な議論もできないままに国民投票が行われれば,この国の進路を大きく誤らせるおそれがある。そのため,憲法改正手続法を可決した参議院特別委員会は,これらの重大な問題点に関し18項目にわたる検討を求める附帯決議を行った。(中 略)
国会においては,発議要件を緩和するなどという立憲主義に反した方向での議論をするのではなく,国民投票において十分な情報交換と意見交換ができるように,まずは憲法改正手続法を見直す議論こそなされるべきである。(後略)
5 結論
以上のとおり,日本国憲法第96条について提案されている改正案は,いずれも国の基本的な在り方を不安定にし,立憲主義と基本的人権尊重の立場に反するものとしてきわめて問題であり,許されないものと言わなければならない。
当連合会は,憲法改正の発議要件を緩和しようとする憲法第96条改正提案には強く反対するものである。
以上