2013年8月9日金曜日

TPP交渉 日本は「国益」を主張せず 鈴木東大教授

 日本は7月にTPP交渉に正式参加しましたが、その驚くべき秘密主義のほかには情報は一切伝わってきていません。
 あの異常な交渉のあり方ではとても国益など守れないので、即座に脱退するしかないと思われますが、そうした動きもありません。

 しんぶん赤旗 この時点でTPPをどうみるかについて、東京大学大学院の鈴木宣弘教授(農学博士)インタビューしました。
 鈴木教授はTPP批判の第一人者で、(緊急メッセージ)「TPP参加に向けての国民無視の暴走を止める」(平成24年7月11日)をはじめ、TPPを批判する多くの文書を発表しておられます。

 以下にしんぶん赤旗のインタビュー記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
TPP交渉 「国益」主張せず 市場明け渡す ここまで屈辱的とは
東大大学院教授 鈴木宣弘さんに聞く
しんぶん赤旗 2013年8月8日
 環太平洋連携協定(TPP)交渉に日本が正式参加しました。並行して、日米交渉もはじまりました。この時点でTPP問題をどうみるか。東京大学大学院教授の鈴木宣弘さん(農学博士)に聞きました。 聞き手 渡辺健

 政府は、情報開示が不十分だという批判に対し、“交渉に参加していないから中身がわからない” “参加すれば情報がわかる”といっていました。参加したら、“4年間は交渉の中身が秘密だから情報は出せません”という。

勝手に決めて露骨な譲歩も
 いつまでたっても国民には何も開示しないで、勝手に決めてしまう。TPP交渉とはそういうものだと改めて明らかになりました。
 信じられないことは、「守るべきものを守る」ために交渉に参加するんだといっていたのに、日本のTPP交渉団が何を守りたいか、いっさい表明しなかったことです。
 農林水産品の関税、国民皆保険、食の安全基準など「守るべき国益」について、国会でも自民党でも決議しています。私たちの市民グループは、決議を英訳してアメリカなど交渉参加国に配りました。“日本がそう簡単には譲らないことを覚悟してくれ、それでも参加を認めるのか”と。ほかの参加国は、今回のマレーシア会合で日本の交渉団が、「日本が守るべき国益」を持ち込んでくると思っていた。ところが、日本の交渉団は、いっさい主張しなかった。「各国『肩すかし』 予想反し日本主張せず」(「東京」7月26日付)です。
 逆に、露骨な譲り方を相変わらずしています。その最たるものが、米国の保険会社アフラック(アメリカンファミリー生命保険)の日本市場強奪です。
 日本郵政のかんぽ生命について、米国側は「競争条件を同じにしてくれ」と要求。アフラックが日本市場の7割を占めるがん保険は、かんぽ生命が新商品を当面発売しないと約束させられました。それにとどまらず、「提携強化」で、日本のすべての郵便局でアフラックのがん保険を売る。まさに市場を完全に売り渡したわけです。
 米国の狙いは、郵政マネーとか日本の資金を米国にもっていくことです。それをいとも簡単に日本側から「はいどうぞ」と明け渡した。TPPを象徴しています。米国企業による日本市場の強奪です。
 日本側は、「守るべきもの」をいっさい主張しない。すべてを失う交渉をやる。なんと屈辱的か。わかっていたことですが、ここまで露骨とは、思いもしませんでした。

国民生活より米企業の利益
 米国のTPP戦略は、TPP交渉を利用しながら、日本郵政など個別の問題は、2国間交渉で従わせればいいというものです。日米交渉で、大きなテーマになる食の安全は国民生活に直結する問題です。
 米国は、日本の食の安全基準というのは厳しすぎる、緩めろという。BSE(牛海綿状脳症)対策としての米国産牛肉の輸入規制は、日本のTPP交渉参加の「入場料」として、すでに緩和させられてしまいました。
 遺伝子組み換え(GM)食品の表示をなくすことは、米バイオ化学メーカーのモンサントが世界に広めたいことです。同社は、遺伝子組み換え作物の種の世界シェア(市場占有率)が9割です。
 表示ができなくなったら大変ですよ。何を食べているのかわからない。小麦もコメもGMになって、日本人の食べ物が完全にGMで独占されるようになると、消費者も選ぶことができません。生産者もモンサントの種子を買わないと、生産できない。じゃあ、GM食品が安全か。フランスの実験結果があります。いままでの実験は3カ月でよかったので、ネズミに、がんはみつからなかった。ネズミに2年、一生分食べさせたら、がんだらけになってしまった。
 人間はGM食品を十数年しか食べていない。80年食べたらやっぱり心配だと思う。せめて、表示して選べるようにしてくれといっているのに、それさえダメだという。米国の農業主席交渉官は、モンサントの前ロビイストです。露骨ですよね。
 医療問題も重大です。米国の保険会社や製薬会社にとって、自分たちの利益を拡大するうえで、日本の公的保険制度が邪魔になる。自由診療を拡大し、先端医療保険を拡大するため、混合診療を解禁しろという。薬の値段を安くできるように公的な委員会で決めているのは、自分たちのもうけを阻害しているから、やめろ、薬の特許期間を長くしろという。
 自動車は、すでに日本の交渉参加の「入場料」として、米国の自動車関税の撤廃猶予(25~30年を要求)など大幅に譲歩させられました。さらに、日本が軽自動車に税制上の優遇をしているのはけしからん、米国の車が売れるように軽自動車の区分をやめろ、米国の最低輸入台数を決めろ―などと迫ってくるのは必至です。

暴走をとめるうねり今こそ
 参院選の結果、安倍政権の経済政策「アベノミクス」が評価され、TPP交渉参加も評価されたなんて思われたら、とんでもないことです。
 「アベノミクス」というのは、円安に誘導し、解雇を自由にし、賃金は抑制する。輸入食品とか生活必需品は高くなり、人々の暮らしは苦しくなる。ほんの一握りの国際展開しているような企業だけが、もうけを拡大する。そのために、なんでもやるというのが、「アベノミクス」です。米国と日本のほんの一握りの企業の利益を貫徹させる。「アベノミクス」の完結編がTPPです。
 自民党に対決する政党として格差社会をなくせ、原発ゼロ、TPP交渉から撤退しろと主張した政党、共産党が唯一躍進しました。
 対立軸として、いまの政権党の暴走を止める力として、共産党がここまで伸びたわけです。共産党もその期待にぜひ応えてほしい。覚悟をもって、暴走を止めてほしい。
 TPPの産業への影響について、私たちが内閣府と同じモデルで計算しても、トータルではマイナスです。もっともっと幅広い人たちが連帯して、国の暴走を食い止めるうねりをつくりだす必要があります。