2013年8月1日木曜日

TPP交渉から即時撤退を (弁護士ネットワーク)

 29日に結成された「TPPに反対する弁護士ネットワーク」は同日、「TPP交渉参加からの撤退を求める弁護士の要望書」を安部首相に提出しました。

 要望書では要旨以下のように述べて、ISD条項を前提とするTPP交渉への参加を即時撤回することを強く求めています。 

 TPPは、国民の生命・健康・財産を保護するために行う国家の規制等についても幅広く改廃を迫るものとなる危険がある。
 日本国憲法76条1項は、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と規定しているが、ISD条項は外国投資家に対して投資受入国政府との間の具体的な法的紛争を国際仲裁に付託する権利を認めており、憲法に違反している。
 そのうえ国際仲裁に付託できるルールを、「間接収用」や「公正・衡平待遇義務」などとしているが、その概念が極めて不明確であり、あらゆる政府の措置が提訴の対象となり得る
 外国投資家勝訴の可能性が低い場合にも国際仲裁を起こすことで、国家の政策判断に萎縮効果を及ぼす弊害があるほかに、現実に2011年には、ドイツ政府に対して、スウェーデンの電力会社が脱原発政策によって38億ドルの損害を被ったとして提訴したり、韓国実施を予定していた低炭素車支援制度、米国自動車産業界から米韓FTAに反するとする意見を受けて実施を見合わせるなど、国家の中核的な政策決定にまでISD提訴が及ぶようになっている。
 これらは日本国憲法41条1項「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定められた国会の立法裁量すら幅広く阻害するものであり、ISD条項は憲法に違反する疑いがある。

 要望書で米韓FTA協定の事例が挙げられていますが、韓国側がいま窮地に立たされているのは、協定を結ぶに当たり韓国側に数百箇所の協定書の翻訳ミスがあったからだとされています。しかし英文のプロたちがそのようなミスを犯すことは常識的にあり得ず、もともと英文協定書の内容自体が意図的に曖昧・不明確になっていたことに起因しているものと考えられます。
 アメリカ側は、いま米韓FTA協定で起きている事柄は、日本に対してもTPP協定によってより強く適用されることになるとしています。

 要望書がいうように即刻TPPから撤退すべきです。

   関連記事: 2013年7月30日TPPのISD条項は憲法違反
 
 以下に弁護士ネットワークの要望書を紹介します。
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TPP交渉参加からの撤退を求める弁護士の要望書

内閣総理大臣 安倍晋三 殿

TPP交渉参加からの撤退を求める弁護士の要望書
2013(平成25)年7月29日    
TPPに反対する弁護士ネットワーク一同
第1 徹底した情報の公開を求める
 TPP交渉は21分野にわたって行われている。食の安全や環境・労働を含む国民の生活に大きな影響を及ぼす広汎な分野が交渉の対象となっており、農産品にかけられる関税の問題はそのごく一部に過ぎない。
 しかもTPPでは、自由化の対象とされた分野では、全加盟国の同意をもって例外と認められない限り、統一的な規制に服する、いわゆるネガティブリスト方式が採用されていることから、広汎な制度がTPPによって改廃を求められることになる。
 消費者団体や医療分野から反対の声が上がっていることに示されるように、TPPは、国民の生命・健康・財産を保護するために行う国家の規制等についても幅広く改廃を迫るものとなる危険がある。
 国民生活に重大な影響及ぼす事項については、国民的議論を尽くし、国民の理解と同意を得て進めることは民主主義国家のあり方として当然である。
 よって、政府に対して、TPP交渉に関して取得し得た全ての情報を国民に公開するように求める。

第2 ISD条項を前提とするTPP交渉からの即時撤退を求める
1 ISD(投資家対国家紛争解決)条項の概要
 ISD条項は、投資協定に反する投資受入国政府の措置によって、損害を被った外国投資家に対して、国際仲裁に付託する権利を認め、投資受入国政府が仲裁判断に服することを事前に包括的に同意する条項である。この場合の「政府」には中央政府だけでなく、自治体や政府投資機関も含まれ、「措置」には行政府の行為だけでなく、法律や制度、慣行等幅広いものが含まれる。
 二国間の投資協定に伴うISD条項は、古く1960年代から存在する。途上国の司法制度の不備を理由として先進国企業の投資を保護することを目的として国際的な仲裁制度を利用しようとしたものである。
 1994年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)にISD条項が存在したことから、先進国間においてISD提訴が活発になされるようになり、ISD条項に基づく提訴件数が急激に増加した。環境規制や犯罪規制等にまでISD条項が及ぶことが強い衝撃をもって受け止められた。
 2011年には判明している限り、過去最多の46件のISD提訴がなされ、累計件数は450件に及んでいる。
2 日本国憲法76条1項との関係
 日本国憲法76条1項は、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と規定する。
 他方、ISD条項は、外国投資家に対して、投資受入国政府との間の具体的な法的紛争を国際仲裁に付託する権利を認める。このような紛争が我が国裁判所の管轄に属することは明らかであるから、ISD条項は、同項の例外をなすことになる
 国際仲裁に付託することを認める実体規定(ルール)は僅か数箇条程度に過ぎず、なかんずく「間接収用」や「公正・衡平待遇義務」はその概念が極めて不明確である。このため広汎な政府措置に対して、投資協定に違反するとして、国際仲裁に付託することが可能である。米韓FTAの締結に当たって、ISD条項の影響を検討した韓国法務省は、あらゆる政府の措置が提訴の対象となり得ると結論している。
 2011年12月には、韓国の裁判官167名が米韓FTAのISD条項が司法主権を侵害する可能性があるとして、韓国最高裁に対して、米韓FTAについて検討するタスクフォースチームを設置することを求める建議を行い、韓国最高裁もこれに応じている。
 政府は、TPP参加問題が浮上するまで、国連自由権規約の選択議定書が定める個人通報制度には「司法の独立」を規定する憲法76条3項との関係で問題があるとする見解を挙げて、選択議定書の締結を見送ってきた経緯がある。個人通報制度よりいっそう包括的で強力な例外を認めるISD条項には、憲法76条1項の規定との関係上、問題が生じることは、従前の政府の立場でも明らかである。
 よって、ISD条項は憲法76条1項に違反する
3 政策決定の阻害
 前記した韓国法務省の検討によれば、ISD条項によって「巨大資本を保有する多国籍企業の場合、制度的・慣行的障害を除去し、特定政府を手なずけるために(tamig effect)勝訴の可能性が低い場合にも、仲裁を起こす傾向がある」と分析され、国家の政策判断に萎縮効果を及ぼすことが指摘されている。
 2011年には、ドイツ政府に対して、スウェーデンの電力会社が脱原発政策によって38億ドルの損害を被ったとして提訴する等、国家の中核的な政策決定にまで、ISD提訴が及ぶようになっている。また、韓国は、低炭素車支援制度の実施を予定していたが、米国自動車産業界から米韓FTAに反するとする意見を受けて、同制度の実施を見合わせる結果となっている。
 一国の基本的な政策決定や立法まで、ISD提訴の対象となり、政策決定を阻害しているのである。
 日本国憲法41条1項は、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定める。ISD条項は、国会の立法裁量すら、投資家国際仲裁のもたらす萎縮効果によって、幅広くこれを阻害するものであり、国民主権原理の端的な表れである同項に違反する疑いがある。
4 結論
 多国間の投資条約の中にISD条項を設けようとした例には、WTOドーハラウンドやOECD加盟国の間で交渉された多国間投資協定(MAI)の例があるが、いずれも主権侵害や環境規制を行う国家主権の侵害が指摘されて失敗に終わっている。TPPについてもISD条項の入った草案が作成されていることがリークによって明らかになっているが、オーストラリア政府は、ISD条項の導入に強く反対している。
 このような実情を踏まえれば、司法制度が整備された先進国との間、なかんずく訴訟大国と呼ばれるアメリカとの間でのISD条項が、日本国の主権を侵害するとする意見が多数、提起されていることには理由がある。
 国家主権の法的形態が憲法である。主権が侵害されることは国内法的には国家の憲法に違反する事態が生じることを意味する。TPPにおけるISD条項は、日本国憲法76条1項に反するとともに、41条1項に反する疑いが強い。
 ISD条項は、日本国憲法の根本的改変に等しい事態を招く。
 よって、日本国政府は、ISD条項を前提とするTPP交渉への参加を即時撤回することを強く求める。 
以上