政府が秋の臨時国会に提出する予定の秘密保護法案の全貌は不明ですが、「特定秘密保護法」という名称で、その「特定秘密」の範囲は「安全保障に支障の恐れ」のある「防衛」「外交」「安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」の四分野とされ、そのうちから大臣などの各省庁や行政機関の長が任意に「特定秘密」事項を指定できるというものです。
しかし肝心なその指定が妥当なものであるかのチェック機能はありません。
また「安全保障に支障の恐れ」といい「安全脅威活動」といい、従来と言葉遣いは多少変わりましたが、その定義は依然としてあいまいです。これでは従来から懸念されてきたとおりいくらでも拡大解釈が出来るので、国民の知る権利や表現の自由などが侵害されて大変なことになります。
1985年にも、この秘密保護法案とよく似た『国家秘密(スパイ防止)法案』が提出されましたが、そのときには「戦時下の監視体制に逆戻りする」という世論の猛反発を受けて結局廃案となりました。
今回はそのときよりもさらに対象とする秘密の範囲が拡大された危険なものなのですが、残念ながらそのときのような反対世論の盛り上がりはまだ見られません。
29日、秘密保護法案に関して
南日本新聞が(社説)「国会での慎重な議論を」を、
愛媛新聞が(社説)「政府は国会提出方針の撤回を」を、
中国新聞が(社説)「知る権利は大丈夫か」を、
それぞれ掲げました。
以下に、東京新聞の記事を紹介します。
東京新聞はこれまでも、しばしば秘密保全法の問題点を取り上げてきました(8月18日「こちら特報部」の特集など多数)。
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「機密」拡大解釈の恐れ 秘密保護法案 見えぬ意義
東京新聞 2013年8月29日
安倍政権が秋の臨時国会に提出を目指す特定秘密保護法案は、「国の安全保障に著しく支障を与える恐れがある」として指定する「特定秘密」が拡大解釈される可能性がある。今でも、公務員が国の機密情報を漏らすと国家公務員法や自衛隊法、日米間の協定に基づく法律で罰せられるのに、政府はさらに厳罰化して、機密情報の対象も際限なく広がりかねない法案を提出しようとしている。 (金杉貴雄)
菅義偉(すがよしひで)官房長官は二十八日の記者会見で「法案を提出する限り、その国会で成立を目指すのは当然だ。できるだけ国民に分かりやすい形で議論し、成立させたい」と臨時国会での成立に強い意欲を示した。
公務員による情報漏えいを禁止する法律には、国家公務員の守秘義務違反に対する懲役一年以下または五十万円以下の罰金を定めた国家公務員法、「防衛秘密」を漏えいした場合に五年以下の懲役を科す自衛隊法がある。
加えて、日米相互防衛援助協定(MDA)に伴う秘密保護法では、米国から供与された装備品等に関する情報を漏らせば、最長で懲役十年の罰則となる。
政府は新たに特定秘密保護法案で、厳罰の対象を広げようとしている。政府が指定した「特定秘密」を漏らした場合には、秘密保護法と同じく最長十年の懲役を科す考えだからだ。
問題は「特定秘密」の範囲。政府は「防衛」「外交」「安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」の四分野と説明する。「安全保障に支障の恐れ」という定義はあいまいで、拡大解釈される余地が十分にある。しかも、この「特定秘密」を決めるのは大臣などの各省庁や行政機関の長だ。
この法案が成立すれば、政府は重要な情報を、これを盾に隠すことができる。
例えば、収束のめどが立たない東京電力福島第一原発など原発に関する情報について、政府が「公表するとテロに遭う危険がある」との理由で国民に伏せる事態も想定される。
実際、原発事故の直後には、政府は「直ちに健康に影響はない」などと繰り返し、国民が知りたい情報を積極的に公表せず、信用を失った。外交でも、沖縄返還の際に財政負担を米国に約束した沖縄密約問題の情報は明らかにしなかった。同法案はそうした傾向をさらに強めかねない。