麻生氏は1日に「ナチス憲法発言」を撤回しましたが、ユダヤ人人権団体をはじめ中国、韓国など海外からも厳しい批判が上がっています。
国内でも毎日新聞、朝日新聞などが2日付の社説で取り上げました。
毎日新聞は、「麻生氏ナチス発言 撤回で済まない重大さ」と題して、要旨
“麻生氏は1日ナチスを例示した点を撤回したが、「真意と異なり誤解を招いた」との釈明は無理があり、まるで説得力がない。まず国会できちんと説明するのが最低限の責務だ。麻生氏の「ナチス憲法」とはナチス独裁体制を確立させた「全権委任法」と呼ばれる法律を指しているとみられるが史実の押さえ方があいまいで国際的な常識を著しく欠いた発言というほかない。安倍首相も頬かぶりしている場合ではない。” と述べています。
しんぶん赤旗は、「ナチス肯定 発言 国際社会に通用しない暴言だ」と題して、要旨
“ナチスを肯定的に口にすること自体が国際社会に通用しない暴挙である。ナチスは、政権を取ったあと強権をもって共産党員などを徹底的に弾圧した。そしてそれらの議員たちが国会に出られないようにしておいて違法に「授権法(=全権委任法)」を制定し、それによって事実上憲法を停止させた。麻生氏の発言はそうしたナチスの暴挙を称賛するものである。その後、ナチスを例示したことを撤回はしたが、その説明は言い逃れであって撤回しても責任は問われる。” と述べています。
朝日新聞は、「麻生氏の発言―立憲主義への無理解だ」と題して、要旨
“麻生氏は発言を撤回したが、明確に謝罪はしていないし、ナチスの手法に学ぶべきだと言っているとしか受け止められない発言の、核心部分の説明は避けたままである。侵略や大虐殺の歴史を忘れず乗り越えようとしてきた人たちを傷つけた責任は極めて重く、ヒトラーを引き合いに出し、その手法を是と思わせるような発言は撤回ですむものではない。ドイツの「全権委任法」の制定の経緯や大統領緊急令の乱発などについての事実認識にも問題がある。” と述べています。
以下に毎日新聞の社説と朝日新聞の「麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細」及び産経新聞の「麻生副総理『ナチス憲法発言』撤回に寄せたコメント全文」を掲載します。
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(社説) 麻生氏ナチス発言 撤回で済まない重大さ
毎日新聞 2013年8月2日
何度読み返しても驚くべき発言である。もちろん麻生太郎副総理兼財務相が憲法改正に関連してナチス政権を引き合いに「あの手口、学んだらどうかね」と語った問題だ。麻生氏は1日、ナチスを例示した点を撤回したが、「真意と異なり誤解を招いた」との釈明は無理があり、まるで説得力がない。まず国会できちんと説明するのが最低限の責務だ。
麻生氏の発言は改憲と国防軍の設置などを提言する公益財団法人「国家基本問題研究所」(桜井よしこ理事長)が東京都内で開いた討論会にパネリストとして出席した際のものだ。要約するとこうなる。
戦前のドイツではワイマール憲法という当時、欧州でも先進的な憲法の下で選挙によってヒトラーが出てきた。憲法がよくてもそういうことはある。日本の憲法改正も狂騒の中でやってほしくない。ドイツではある日気づいたらワイマール憲法がナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった。あの手口、学んだらどうかね−−。
「憲法がよくても……」までは間違っているとは思わない。問題はその後だ。「ナチス憲法」とは、実際には憲法ではなくワイマール憲法の機能を事実上停止させ、ナチス独裁体制を確立させた「全権委任法」と呼ばれる法律を指しているとみられる。麻生氏の史実の押さえ方もあいまいだが、この変化が後に戦争とユダヤ人虐殺につながっていったのは指摘するまでもなかろう。
いずれにしても麻生氏はそんな「誰も気づかぬうちに変わった手口」を参考にせよと言っているのだ。そうとしか受け止めようがなく、国際的な常識を著しく欠いた発言というほかない。麻生氏は「喧騒(けんそう)にまぎれて十分な国民的議論のないまま進んでしまったあしき例として挙げた」と弁明しているが、だとすれば言葉を伝える能力自体に疑問を抱く。
憲法改正には冷静な議論を重ねる熟議が必要だと私たちも主張してきたところだ。しかし、麻生氏は討論会で自民党の憲法改正草案は長期間かけてまとめたとも強調している。そうしてできた草案に対し、一時的な狂騒の中で反対してほしくない……本音はそこにあるとみるのも可能である。
米国のユダヤ人人権団体が批判声明を出す一方、野党からは閣僚辞任を求める声も出ている。当然だろう。これまでも再三、麻生氏の発言は物議をかもしてきたが、今回は、先の大戦をどうみるか、安倍政権の歴史認識が問われている折も折だ。「言葉が軽い」というだけでは済まされない。
2日からの臨時国会で麻生氏に対する質疑が必要だ。安倍晋三首相も頬かぶりしている場合ではない。
麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細
朝日新聞2013年8月1日
麻生太郎副総理が29日、東京都内でのシンポジウムでナチス政権を引き合いにした発言は次の通り。
僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。
そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。
(中 略)
僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。
昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。
わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。
麻生副総理「ナチス憲法発言」撤回に寄せたコメント全文
産経新聞 2013年8月1日
麻生太郎副総理兼財務相が発表したナチス発言撤回に関するコメントの全文は次の通り。
7月29日の国家基本問題研究所月例研究会における私のナチス政権に関する発言が、私の真意と異なり誤解を招いたことは遺憾である。
私は、憲法改正については、落ち着いて議論することが極めて重要であると考えている。この点を強調する趣旨で、同研究会においては、喧騒にまぎれて十分な国民的理解及び議論のないまま進んでしまった悪しき例として、ナチス政権下のワイマール憲法に係る経緯をあげたところである。私がナチス及びワイマール憲法に係る経緯について、極めて否定的にとらえていることは、私の発言全体から明らかである。ただし、この例示が、誤解を招く結果となったので、ナチス政権を例示としてあげたことは撤回したい。(原文通り)