安倍首相は12日、議員と内閣法制局との質疑応答に割って入って、「憲法解釈の最高責任者は私だ。私が責任を持って、その上で選挙で審判を受ける」と述べました。
これは要するに「憲法に違反するという内閣法制局の見解を無視して立法を行っても、次回の選挙で支持されれば問題はない」という考えを表明したもので、「選挙に勝てば憲法解釈を自由に変えられる」という、それこそ「絶対主義的権力」を手中にしているかのような発言です。
新憲法を制定してから65年以上になるなかで、かつてこのような発言をした首相、議員、そして学者たちがいたでしょうか。首相は、何か多数の議席を持っていることに奢りと高ぶりを禁じ得ないようですが、自民党の得た票数は有権者の4分の1に過ぎないもので、それも別に憲法改正に対して与えられた信任などではありません。
「私が責任を持って」ということですが、一体どういう責任を持つというのでしょうか。かつて野田元首相も、大飯原発の再稼動に当たり「私が責任を持って」と発言して、国中を唖然とさせました。一体どんな風に責任を持とうというのか、誰にも見当のつけようがなかったからでした。
元内閣法制局長官の阪田雅裕弁護士は、「選挙で審判を受ければいいというのは、憲法を普通の政策と同じようにとらえている。憲法は国家権力を縛るものだという『立憲主義』の考え方が分かっていない」と批判しているということです。
また首相の私的懇談会が集団的自衛権の行使容認を検討していることについて、首相は「内閣法制局の議論の積み上げのままで行くなら、そもそも会議を作る必要はない」とも述べました。これも実におかしな話であって、「内閣法制局の見解と違う結論を出させるために私的懇談会を作った」、そしてその結論を用いて「内閣法制局の従来の見解を無視して、集団的自衛権を行使する」ということを語ったに過ぎません。それで国民が納得するとでも思ったのでしょうか。
何よりも立憲主義、それに憲法96条や99条の精神など、憲法の基本が分かっていない人が声高に改憲を叫ぶというのは困った話です。
+14日の東京新聞の記事を追加
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首相、立憲主義を否定 解釈改憲「最高責任者は私」
東京新聞 2014年2月13日
安倍晋三首相は十二日の衆院予算委員会で、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更をめぐり「(政府の)最高責任者は私だ。政府の答弁に私が責任を持って、その上で選挙で審判を受ける」と述べた。憲法解釈に関する政府見解は整合性が求められ、歴代内閣は内閣法制局の議論の積み重ねを尊重してきた。首相の発言は、それを覆して自ら解釈改憲を進める考えを示したものだ。首相主導で解釈改憲に踏み切れば、国民の自由や権利を守るため、政府を縛る憲法の立憲主義の否定になる。
首相は集団的自衛権の行使容認に向けて検討を進めている政府の有識者会議について、「(内閣法制局の議論の)積み上げのままで行くなら、そもそも会議を作る必要はない」と指摘した。
政府はこれまで、集団的自衛権の行使について、戦争放棄と戦力の不保持を定めた憲法九条から「許容された必要最小限の範囲を超える」と解釈し、一貫して禁じてきた。
解釈改憲による行使容認に前向きとされる小松一郎内閣法制局長官も、昨年の臨時国会では「当否は個別的、具体的に検討されるべきもので、一概に答えるのは困難」と明言を避けていた。
今年から検査入院している小松氏の事務代理を務める横畠裕介内閣法制次長も六日の参院予算委員会では「憲法で許されるとする根拠が見いだしがたく、政府は行使は憲法上許されないと解してきた」と従来の政府見解を説明した。
ただ、この日は憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を認めることは可能との考えを示した。横畠氏は一般論として「従前の解釈を変更することが至当だとの結論が得られた場合には、変更することがおよそ許されないというものではない」と説明。「一般論というのは事項を限定していない。集団的自衛権の問題も一般論の射程内だ」と踏み込んだ。
元内閣法制局長官の阪田雅裕弁護士は、首相の発言に「選挙で審判を受ければいいというのは、憲法を普通の政策と同じようにとらえている。憲法は国家権力を縛るものだという『立憲主義』の考え方が分かっていない」と批判した。
横畠氏の答弁にも「憲法九条から集団的自衛権を行使できると論理的には導けず、憲法解釈は変えられないというのが政府のスタンスだ。(従来の見解と)整合性がない」と指摘した。
<立憲主義> 国家の役割は個人の権利や自由の保障にあると定義した上で、憲法によって国家権力の行動を厳格に制約するという考え。日本国憲法の基本原理と位置付けられている。
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首相の憲法解釈変更発言 自民内からも批判 「三権分立崩す」
東京新聞 2014年2月14日
安倍晋三首相が集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を、歴代内閣による議論の積み重ねを覆して自ら進める考えを国会答弁で示したのに対し、十三日の自民党総務会で「三権分立を根底から崩す」などと批判が相次いだ。
出席者によると総務会では、まず村上誠一郎元行革担当相が「首相の発言は、選挙で勝てば憲法を拡大解釈できると理解できる。そのときどきの政権が解釈を変更できることになるのは問題がある」と批判。その上で「慎重の上にも慎重を期すべきだ」と主張した。村上氏の発言は、政府が意のままに憲法解釈を変えれば、国会が国権の最高機関としての立場から政府をチェックする三権分立の仕組みが崩れると指摘したもの。
村上氏の発言を受け、野田毅党税調会長が「大事な話で、正面から受け止めるべきだ。内閣法制局と首相の役割を冷静に考えて、答弁は慎重にすべきだ」と指摘。溝手顕正参院議員会長も「いい意見だ」と村上氏に同調した。船田元・党憲法改正推進本部長は「解釈変更で対応できるのなら、私の仕事はなくなってしまう」と述べた。
野田聖子総務会長は総務会後の記者会見で、村上氏らの発言を官邸側に伝える考えを示した。
総務会は党大会、両院議員総会に次ぐ党の意思決定機関。二十五人の総務が法案などを審査する。特定秘密保護法は了承前にわずかに異論が出ただけだった。
集団的自衛権の行使容認は政府の有識者懇談会が議論中で、見直し案もまとまっていないのに批判が続出するのは異例。
◆首相の答弁要旨
国際情勢が大きく変わる中で(集団的自衛権の行使は許されないとする憲法解釈を)もう一度よく考える必要がある。今までの積み上げのままで行くなら、そもそも有識者会議をつくる必要はないんだから。ここでしっかり議論していこうということだ。
先程来、法制局長官の答弁を(質問者が)求めているが、最高の責任者は私だ。私は責任者であって、政府の答弁にも私が責任を持って、その上において、私たちは選挙で国民から審判を受けるんですよ。審判を受けるのは法制局長官ではない、私だ。
だから、私は今こうやって答弁をしている。そういう考え方の中で有識者会議をつくったわけで、最終的な政府の見解はまだ出していない。私たちはこのように考えて有識者会議をつくった。