2014年2月2日日曜日

NHK会長就任会見 発言の背景

 
 Business Journal  1月29日号に同誌の編集部による NHKハイジャックもくろむ財界の大物に局関係者が恐々? 新会長従軍慰安婦発言の背景 と題した記事が載りました。
 これは籾井氏がNHKの新会長に選ばれた背景にJR東海の葛西敬之会長の存在があり、彼が11月のNHK新経営委員5人(再任を含む)のメンバーを実質的に決め、最終的に籾井氏をNHKの新会長に据えたというものです。
 
 安倍首相の政治的信条が「日本会議」のそれと一致していることは良く知られていますが、もう一つの基盤が、財界人や学者たちで作られている四季の会であることはあまり知られていません。
 葛西氏はその会を主宰している人であり、安倍政権の最大の財界ブレーンとされている人です。そして四季の会のメンバーの多くは、いわゆる「タカ派」と呼ばれる人たちで靖国参拝礼賛、太平洋戦争肯定論者であるということです
 
 日本はいま安倍政権によって大きく右傾化していますが、不思議なことに復元力はあまり働いていません。戦後70年続いてきた日本の平和国家志向が、そんなに弱いものである筈はないのに何故なのでしょうか。
 復元力を抑制している大きな要因はなんといってもマスメディアにあり、彼らが政権に飼いならされてジャーナリズムの本来の姿勢を失いつつあることが決定的に大きいといえます。NHKはそうしたマスメディアのなかでも主導的な位置にある(その論調が他のメディアのベースになる)といわれていますが、その首脳部の人事が一部の「恣意」で蹂躙されていい筈はありません。ましてNHKは国民の受信料で成り立っている公共放送です。
 
 NHKには公正な放送に徹する使命があるはずなのに、実際にはこれまで大いに政権と体制に迎合し、屈服してきました。恥ずべきことです。
 そしてNHKを最も顕著に私物化しようとしているのが他ならぬ安倍政権です。そのことは厳しく糾弾されなければなりませんし、その黒幕は徹底的にあぶり出される必要があります。
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NHKハイジャックもくろむ財界の大物に局関係者が恐々 ?
新会長「従軍慰安婦発言」の背景
 Business Journal 2014年1月29日
 NHK新会長となった籾井勝人氏が1月25日の就任会見で、「従軍慰安婦は戦争をしているどこの国にもあった」などと述べ、補償を求める韓国を批判したが、これについて与党の自民党からも批判が出ている。個人が歴史観をどう持とうと勝手だが、放送法では、NHKも含めてテレビ局に「政治的な公平性」を求めている。NHK会長は政治的な発言を慎むべきであり、籾井氏の発言は失言といえるだろう。本稿は、慰安婦問題について論考するものではないが、この籾井氏がどのような人物で、背後には誰がいるのかという点について解説していく。
 
 就任会見のやりとりを見ている限り、この籾井氏はかなり強気で傲慢な人物に見える。三井物産副社長や日本ユニシス社長などを経てNHK会長に就いた。メディアの世界は初体験であり、財界的にもまったくの無名、しかも経営手腕も未知数であるのに、就任早々からこれほどまでに傲慢でいられるのはなぜか。それは、バックにJR東海の葛西敬之会長がいるからである。NHK会長職もこの葛西氏の強い推しがあったことで得られた役職であり、率直に言えば、籾井氏は葛西氏の「傀儡」なのだ。少し長くなるが、その構図を説明する。
 
 日本経団連は安倍政権との太いパイプもなく、政治的にはほとんど影響力を持たないのが現状である。そうした中で、財界で安倍政権に最も大きな影響力を持つのが葛西氏であり、「陰の財界総理」といわれている。葛西氏は安倍政権の最大の財界ブレーンである。
 
 葛西氏は、「四季の会」という財界人や学者が集まる会合を主宰しているが、その会合は、第一次政権で首相になる前から安倍氏を応援してきた。主要メンバーには、古森重隆富士フイルムホールディングス会長や中西輝政京都大名誉教授らがいる。メンバーの多くが思想的にはいわゆる「タカ派」と呼ばれる人たちで、靖国参拝礼賛、太平洋戦争肯定論者でもある。
 
 葛西氏はまず、メディアへの影響力を持ち、愛国教育を日本に普及させたいと考えている。このため、NHKへの影響力を強めようと、民主党政権時代に腹心の松本正之元JR東海社長をNHK会長に送り込んだ。昨今の財界も人材難であり、かつグローバル競争にさらされている企業は経営トップが超多忙な日々を送り、公職を引き受ける余裕がないが、JR東海は、東京-新大阪間の新幹線を収益源とする独占企業であり、日本で最もゆとりがある企業だ。独占企業の「ゆとり」を背景に葛西氏はNHK支配を画策して松本氏を送り込んだ。
 
●経営委員会のメンバーを入れ替え
 ところが、葛西氏のもくろみに反して、この松本氏は意外にも「常識人」であり、「葛西氏が、反中国や反韓国、戦争を美化する右翼的な番組制作をNHKに求めたが、松本氏はすべて拒否。かつての腹心の部下ではあっても、公共放送トップとして、やってはいけないことの分別がついていた」(財界関係者)。松本氏はJR東海社長時代から、暴走してあちこちで摩擦を起こす葛西氏の尻拭いをしてきたが、同時に能力も高く、部下からの人望も厚かった。要は、まともな経営者なのである。
 
 この「まともさ」が葛西氏の逆鱗に触れた。腹心に裏切られたのだから、その怒りは収まりようがなかった。NHK会長は、外部の有識者で構成される経営委員会による指名だ。葛西氏は安倍氏に最も近い財界人という立場を利用して、経営委員会のメンバーを自分の息のかかった人物に入れ替えた。JR東海が中心になって運営している学校法人「海陽学園」(愛知県蒲郡市)の役員や、小説『永遠の0』(講談社)で特攻隊を美化しすぎたことで映画監督の宮崎駿氏や井筒和幸氏らから強烈な批判を受けている作家の百田尚樹氏らを送り込んだ。そして、葛西氏の意のままに動く籾井氏を会長に指名した。籾井氏とは、自身の哲学も信念もまったくない、葛西氏の意向をオウム返しでしゃべる人物なのである。だから、1月25日の記者会見が世間から批判を受けると、1月27日には「あの発言は不適当だった」と即座に謝罪した。おそらく世論の激しい反発を見て、葛西氏らがアドバイスを送って発言を修正したのであろう。
 
 1月25日の就任会見で話した内容も、葛西氏の考えを代理で語っていると思っていいのである。要は、NHKの事実上の会長は葛西氏なのである。葛西氏は前述したように、愛国心教育の普及と原発推進に熱心で、徴兵制導入も煽っているとされる。思想的には安倍首相とぴったり重なる。一部では「対中国との開戦も望んでいる」(名古屋財界)との声もある。NHK関係者は「新体制になって、葛西氏が操り人形の籾井氏を通じて現場の番組づくりにも口を出してくる可能性が高い」と言う。
 
 NHKが「安倍・葛西流国益放送」になる日も近づいている。すでに2015年の大河ドラマがまったく無名の存在だった長州藩(山口県)出身・吉田松陰の妹を描く『花燃ゆ』と決まったのも、安倍首相の地元(山口県)に配慮してのことと見る向きもある。大河ドラマの舞台となれば、観光収入のアップなど地元への波及効果が期待される。
 
 葛西氏は15年4月に、JR東海の代表取締役会長から代表取締役名誉会長に就く。名誉会長という文字通り名誉職に退きながら、代表権を持って取締役に残ること自体、日本のコーポレートガバナンス上、極めて異例なことだ。上場している大企業ではほとんど見られない役員人事でもある。後進に道を譲らず、自分が事実上のトップとして君臨し続けて影響力を残そうということであろう。こんな人物に公共放送であるNHKがハイジャックされていることを、受信料を払っている国民は知っておくべきである。
 (文=編集部)