安倍首相は今年に入って、国会答弁で憲法の軽視と野党に対する高飛車な対応が目立つようになりました。年末には特定秘密保護法を強引に成立させましたが、多くの国民の憤激を買ったことに忸怩たる思いを持つどころか、却って自信につながったかのようです。
昨年首相が主導した「憲法96条改定」先行作戦は、改憲友党からも96条の先行改憲は邪道などと批判を受けて挫折した筈なのに、それもまた持ち出し始めました。
集団的自衛権行使の解釈改憲については、春にも首相の私設懇談会が「行使すべし」との結論を出すのを見据えて、その地ならしにとりわけ熱心です。5日の参院予算委では、集団的自衛権行使に向けては(憲法改正ではなく)まず「憲法解釈の変更」をしたうえで、実際の行使には関連法の整備と、個別案件ごとに政策判断をするとの3段階で進めるなどと、憲法違反の手法を堂々と説明しています。
また憲法の「立憲主義」についても、3日の衆院予算委で、「かつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方で、憲法は日本という国の形、理想と未来を語るもの」と答弁していますが、極めて浅薄な考えです。
立憲主義の淵源はなるほどマグナカルタにあるのかもしれませんが、その意味するところは個人の自由、人権、尊厳などは基本的に「国家」から侵害されることはないという、「個人」対「国家」に関する概念であって、何も絶対主義的王権を想定したものなどではありません。
立憲主義の考え方を失えば、憲法は多分、首相の考えているように生徒会の規則の国家版というようなものになるのでしょう。そういえば自民党の改憲草案の起草者にも立憲主義の考え方はなかったので、あたかも生徒会の規則のような案になっています※。
以下にしんぶん赤旗の記事を紹介します。
※ 2012年5月31日「自民党の憲法改正草案は非常に反動的」
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首相 高飛車答弁 憲法軽視 我田引水「民主主義と無縁」厳しい批判も
しんぶん赤旗 2014年2月9日
通常国会開幕から2週間余。安倍晋三首相は「丁寧な対話を心掛け、真摯(しんし)に国政運営に当たっていく」(2013年1月の所信表明)との誓いもすっかりほごにして、あらゆる国政問題で民意を軽んじ、高飛車な答弁を繰り返しています。(竹原東吾)
目に余るのは、憲法を軽視する態度です。政権の暴走=国家権力を縛る立憲主義の考え方を過去の思想のように扱い、改憲姿勢をむき出しにしています。
憲法改定にいたる厳格な手続きを定めた憲法96条も「国会議員のたった3分の1(の反対)で国民の6、7割が(改憲を)望んでいたとしても、それを拒否するのはおかしい。改正すべきだ」(4日)と主張しています。昨年、改憲派からでさえ「邪道」という厳しい批判を受け、なりを潜めていた持論の「96条改定」をここにきて蒸し返した格好です。
集団的自衛権を行使しなければ「日米同盟に対するダメージは計り知れない」(6日)といい、歴代政権が継承してきた“行使できない”という憲法解釈の変更に何のためらいもみせません。自らに課されている憲法尊重・擁護義務(憲法99条)もどこ吹く風です。
首相は、米軍沖縄新基地建設に断固反対する稲嶺進市長が圧勝した名護市長選(1月)の受けとめを問われても、「地方自治体の首長選であり、政府としてコメントは差し控えたい」(6日、日本共産党の仁比聡平参院議員への答弁)と黙殺する姿勢を示しました。
ところが、同じ質問で仁比氏が米軍岩国基地(山口県)の大増強・騒音激化を批判すると、「岩国においては首長選、衆院選、参院選でご理解いただき、われわれが勝利した」などとにわかに“民意”を持ち出して、基地被害を正当化しました。政権の都合にあわせて民意をえり分ける我田引水ぶりです。
首相の一連の言動について法政大学大原社会問題研究所の五十嵐仁教授は、おごり、高ぶりが露呈してきたと強調し、次のように指摘しています。「聞く耳を持ち丁寧に説明しようという意思の片鱗(へんりん)もうかがわれない。『力強い』というのが口癖の安倍首相らしい『力の政治』のごり押しで、内容・手法ともに民主主義とは無縁の政治家だと言わなければなりません」
安倍首相答弁録
■憲 法
国家権力を縛るものだという考え方はあるが、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方だ。憲法は日本という国の形、理想と未来を語るもの(2月3日、衆院予算委)
■集団的自衛権
行使が認められるという判断も政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能であり、憲法改正が必要だという指摘は当たらない(2月5日、参院予算委)
■原 発
新興国における原発の導入は今後も拡大していく。国際的な観点で原子力政策を進めていかなければならない(1月28日、衆院本会議)
■靖国神社参拝
国のためにたたかって尊い命を犠牲にした方々に対し、尊崇の念を表し、ご冥福をお祈りした。世界共通のリーダーの姿勢だ(1月29日、衆院本会議)
■秘密保護法
(恣意的な秘密指定の懸念は)誤った報道、皆さん方(=日本共産党)がつくったパンフレットが懸念を醸成していった(6日、参院予算委)
■NHK籾井会長「慰安婦」暴言
会長をはじめNHKの職員のみなさんには、いかなる政治的な圧力に屈することなく中立公平な放送を続けてほしい(1月29日、参院本会議)
憲法96条改定 憲法96条は憲法改正について「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」で国会が発議し、国民投票の過半数の賛成を必要とすると定めています。安倍首相や自民党は、この国会の発議要件を「過半数」に緩めようとしています。