2014年2月21日金曜日

年金の完全理解と大改革 武田氏ブログその2

 武田邦彦氏の「年金の理解と大改革」シリーズの(4)と(5)です。
 厚生年金の積立額は150兆円とされていますが、そのうちの90兆円は返る見込みのないところ=公的機関に貸し付けられているということです。
 年金福祉事業団をはじめとするそうした各種公庫、公団、公庫、事業団、(公的)銀行などはすべて官僚の天下り先です。そこに莫大な融資をしてもそれらは利益を生み出す団体ではないので、お金が返済される見込みはないのですが、年金側が損金処理をするまではその欠損は表面化しません。
 高級官僚は官庁退職後そこを渡り歩いて、2億4千万円とか3億5千万円などの退職金をフトコロに入れますし、一般の役人もそれぞれのルートで関連企業に幹部として天下りします。
 いずれも直接フトコロにということではありませんが、年金の積立金は見事に役人たちのために活用されていると言えます。
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年金の完全理解と大改革(4) どのぐらいなくなったのか?
武田邦彦 2014年2月18日
私たちが収めた年金がどのぐらいなくなったのかという計算がいろいろされているが、国民が収めた公的年金の積立額総額は数字が発表されていないが、今、(形式的に)残っているといわれているのが、国民年金関係で10兆円、厚生年金で150兆円とされている。
しかし、これは「残っているはず」のもので、現実には政府の管理する特殊法人や地方自治体に貸し付けて、返る見込みのないお金が 約90兆円ということが分かっている。数字は信頼できるところがないので、つじつまの合わないところがあるが、すでに60兆円しか残っていないので、税金で300兆円ぐらいを補てんすると言われている。一説に総額800兆円という話まである。
なぜ、年金に責任を持っている厚労省が「国民の立場から見た正しいレポート」を作らないというと、「作れないから」と言ったほうが正確だ。
 
年金の運用先(貸している会社など)は、たとえば、住宅金融公庫、年金福祉事業団、日本政策投資銀行、国際協力銀行、都市基盤整備公団、日本道路公団、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、社会福祉・医療事業団、電源開発公団、日本鉄道建設公団、日本育英会、緑資源公団、地域振興整備公団などで、これらの公団などには、もともと15兆円の政府出資金と、2.7兆円の補助金が出されている。
つまり、貸している先がほぼ「赤字事業体」で、それを税金や補助金で運営している(評価CC(最低))なので、正常な意味で「投資した資金が返ってくるか」という計算自身ができない。
つまり、次の2つの理由で「貸したお金が返ってこない」か「返ってきても意味がない」。
 
1)貸している公団などのほとんどが「赤字」なので、もともと返ってくる見込みのないお金であること、
2)仮に返ってきたとしても、それは政府が税金や赤字国債を使って返してくるのだから、国民にとっては「収めた年金」を回収するために「自分が納入する税金」が使われるので、同じだ。
 
年金の貸し先である「公的機関」は政府などのお金で運営されていて、1年に20兆円ぐらいの税金と補助金だ。1990年から25年間とすると、そこに税金や国債(国民から)のお金がすでに500兆円も投入され、それに年金側が100兆円ぐらい貸しているということになる。
だから、年金を貸して焦げ付くという印象を国民に与えてはいけないと政府が考えれば、どうせ税金と国債で運営されているところだから、税金か国債のお金で年金を返せばよい。そうすると、年金の見かけは良くなるけれど、その分、税金が使われる。
さらに、厚労省が「焦げ付いた金額」を発表できないのは、ほぼ戻らないお金だが、まだ「貸している状態」だから、それが「焦げ付く」と正式に認めることができない。その結果、厚労省のレポートは実質的にウソが書かれるので、専門家によって推定するので差がみられることになる。
もともと、私企業でも儲けるのが大変なのに、公団のようなところが儲かるはずもなく、また儲けると逆に文句を言われる。公団などに勤めている人の多くは真面目な人で、少なくとも自分では誠意をもって仕事をしていると思っているが、なにしろ「効率が悪くてビジネスにならないので公的な機関がやっている」ということなので、収益を得るのはむつかしい。
このブログの3つ目に書いたように「厚生年金のお金を運用することは現実的に不可能である」ということだ。事実、数年前から運営資金の利回り目標が4%程度であるのに対して、焦げ付きを含めなくても、0.5%以下というのが実績である。
そこにアベノミクスと日銀の「インフレターゲット」が進められている。単純に計算しても、150兆円のうちの50兆円が残り、貨幣価値は22分の1になるから、20兆円ほどが残る。つまり自分が積み立てた年金は、10分の1ほどになってしまうことがすでにはっきりしている。
政府はごまかして年金に税金を投入する仕組みがあるので、誤魔化すことは間違いないけれど、積み立て型年金は厚生省の年金課長の言ったとおりになったことがわかる。今、年金を受け取っている人は、その年金に「自分が払った年金」と「自分が払った税金」が含まれているが、それは誰にもわからない。
 
 
年金の完全理解と大改革(5) 甘い汁を吸った人はどうしたか?
武田邦彦 平成26年2月18日
 
ところで年金課長は次のようにも言っている。
「厚生年金保険基金とか財団とかいうものを作ってその理事長というのは、(150兆円もあるので)日銀の総裁ぐらいの力がある。そうすると、厚生省の連中がOBになった時の勤め口に困らない。」
厚生省の幹部は年金のお金を国民から集めると天下りに困らないと言っている。その通りだ。事実を整理してみよう。
 
1)年金局長と事務次官を経験したK氏は、全国社会保険協会連合会などに天下りして、退職金7000万円のほかに3億5346万円を受け取った。
2)年金局長、社会保険庁長官を経て天下ったY氏は退職後、2億4339万円を受け取っている。
・・・・・・・(無数)・・・・・・・・・
 
年金のもともとの目的は国民の老後を守ろうとしたものだが、現実には「40年後には貨幣価値が変わって、どうせなくなる」ということで、厚生省の幹部が数億円のお金を退職後に受け取り、全国に保養所を作り、回収の見込みのない公的機関にお金を融資した(先回に説明した)ということなのだ。
ここで、少し考えてみよう。 年金が始まるとき、「積み立て型年金」で始まった。それは「自分が若いころ積み立てて、自分が老後に受け取る」ということだった。本当はそんなことは日本社会ではありえないのに、国民はそれを選択した。
専門家に騙されたともいえるが、民主主義だから決めるのは国民だ。国民は最初から以下のような年金制度を選択したと言える。国民の責任である。
 
1)「自分が貯めて自分がもらう」という方が良いような感じがして積み立て型年金を選んだ、
2)そうすると40年後には10分の1になっている(賃金ではベースアップを求めているのだから、インフレを望んでいて、年金はデフレを希望しているので、国民は自分自身の行動が矛盾している)、
3)年間20兆円ほどの年金の規模で、厚労省の幹部1000人が一人2億円をもらっても、合計で2000億円にしかならず、年金支給総額の1%(100分の1)にしかならないので、目立たない。天下り推奨のような制度だ、
4)貸付先は公的機関なので焦げ付くのは決まっている。
 
これらのことはすべて簡単なことなので、国民が理解できないということはない。だから、最初から「国民は欲が出て、損を承知で年金を始めた」ともいえるし、政府の方は「どうせ、国民は未来を考えていないから、積み立て型と言えば年金を開始できるだろう」と考えたと思う。
ここで数回引用した年金課長の談話は、当然のことを言っている。それを「本当の年金」にしなかったのは誰だったのだろうか?