安倍政権は、武器や関連技術の海外提供を原則として禁じた武器輸出三原則に代わり、事実上、輸出を全面的に容認する原則案をまとめました。
新たな「武器輸出管理三原則」は、(1)国際的な平和や安全の維持を妨げることが明らかな場合は輸出しない(2)輸出を認める場合を限定し、厳格審査する(3)目的外使用や第三国移転について適正管理が確保される場合に限る ― というもので、これまでは「国際紛争の当事国またはそのおそれのある国」への武器輸出を禁止していましたが、それを削除し、政府=国家安全保障会議(日本版NSC)で問題ないと判断すれば、紛争当事国へも輸出できるようにするものです。
そうなれば事実上武器輸出の歯止めはなくなり、日本製の武器が実際の戦闘で使われることになります。
これは12日に三菱重工業や川崎重工業など防衛関連産業約60社でつくる経団連の防衛生産委員会がまとめた、武器輸出三原則を大幅に緩和すべきだとする提言に政府が応じたものです。
防衛関係予算が頭打ちになる中 武器輸出に活路を求めようとする「死の商人」たちの要求に応えて、国是である禁輸政策の大幅変更することに、国民的コンセンサスは得られていません。共同通信社の22、23日に実施した世論調査では、武器輸出三原則の緩和に反対するとの回答は66・8%(、賛成は25・7%)でした。
琉球新報は24日の社説で、「戦後日本が築き上げてきた平和国家の理念をかなぐり捨てる行為に走るなら、国際社会も、平和国家として経済発展を遂げてきた日本が、自らの利益だけをむさぼる“死の商人”に名乗りを上げたと理解するだろう。これを不名誉と思わないのか」 と述べています。
以下に東京新聞の記事と、琉球新報の社説を紹介します。
(関係記事)
2014年2月16日「政府が武器輸出の新原則を検討」
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武器禁輸原則を転換 紛争国へ提供容認 政府新原則案
東京新聞 2014年2月25日
安倍政権は、武器や関連技術の海外提供を原則として禁じた武器輸出三原則に代わる新たな原則案をまとめた。武器輸出を原則的に禁止するとしたこれまでの政策を転換し、事実上、輸出を全面的に容認する。紛争当事国への武器の提供も可能で、紛争を助長しかねない。憲法の平和主義の理念はさらに骨抜きにされようとしている。
新たな「武器輸出管理三原則」は、(1)国際的な平和や安全の維持を妨げることが明らかな場合は輸出しない(2)輸出を認める場合を限定し、厳格審査する(3)目的外使用や第三国移転について適正管理が確保される場合に限る-と定めた。
これまでは「国際紛争の当事国またはそのおそれのある国」への武器輸出を禁止していたが、新原則では削除。化学兵器禁止条約など国際条約や国連安全保障理事会決議に違反せず、国家安全保障会議(日本版NSC)で問題ないと判断すれば、紛争国へも輸出できる。日本製の武器が実際の戦闘で使われる可能性は否定できない。
輸出を認める場合の審査基準は「平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合」や「わが国の安全保障に資する場合」など、非常に曖昧。政府が都合よく解釈すれば武器の輸出が拡大し、歯止めが利かなくなる恐れもある。
日本が武器を輸出した国から第三国への再輸出や目的外の使用は、原則として事前同意を義務付ける。ただ、相手国に一定の管理体制があれば、事前同意を必要としない例外を規定。日本製の武器が日本が把握しないまま、他国へ輸出されて世界の紛争を拡大したり、日本の敵対国に渡ったりする懸念もある。
自民、公明両党は近く、新原則の協議を始める。政府は三月中の閣議決定を目指すが、公明党には大幅な解禁には慎重論が根強い。
<武器輸出三原則> 佐藤栄作首相が1967年、(1)共産圏(2)国連決議で禁止された国(3)国際紛争の助長の恐れのある国-への武器輸出の禁止を国会で表明。76年には、三木武夫首相が三原則の対象地域以外についても「『武器』の輸出を慎む」として原則禁止にした。
中曽根康弘首相が83年に米国向けの武器技術供与を解禁して以降、例外は拡大。小泉純一郎首相は弾道ミサイル防衛(MD)の日米共同開発に着手した。
民主党の野田内閣は2011年、武器の国際共同生産に参加するために「わが国の安全保障に資する」と判断すれば、輸出できるよう基準を大幅に緩和。輸出した武器が第三国に移転される場合には、日本の事前同意を義務づけた。
(社説)武器輸出提言 死の商人に成り下がるのか
琉球新報 2014年2月24日
防衛産業でつくる経団連の防衛生産委員会が、事実上の禁輸政策だった武器輸出三原則を大幅に緩和すべきだとする提言をまとめた。安倍政権が進める三原則見直し作業に呼応した内容で、官民一体を演出し、武器輸出解禁に道を開く狙いがあるとみられる。
しかしながら、国是である禁輸政策の大幅変更について、国民的コンセンサスは得られていない。戦後、日本が築き上げてきた平和国家の理念をかなぐり捨てる行為に加担し、ビジネス拡大の好機とばかりに安倍政権に擦り寄る産業界の姿は直視するに堪えない。
提言は、防衛装備品について他国との共同開発に限らず、国産品の輸出を広く認めるとともに、国際競争に勝ち抜くため、政府内に武器輸出を専門に扱う担当部局を設けるよう求めたのが特徴だ。
背景には、防衛関係予算が頭打ちになる中、産業全体の弱体化に対する危機感があるとされる。経営の哲学も理念もなく、ビジネスや利益だけを追い求めるのであれば、ブラック企業と何がどう違うのだろうか。
国際社会も、軍需に依存しないで平和国家として経済発展を遂げてきた日本が、人の命を顧みることなく、自らの利益だけをむさぼる「死の商人」に名乗りを上げたと理解するだろう。これを不名誉と思わないのか。
共同通信社が22、23両日に実施した全国電話世論調査では、武器輸出三原則の緩和に反対するとの回答は66・8%に上り、賛成の25・7%を大きく上回った。
国民の多くが、武器輸出解禁に否定的な見解を持っていることがあらためて明確になった。集団的自衛権の行使容認論など右傾化を強める安倍政権に対し、国民の懸念が強いことの表れでもあろう。
三原則については、国是を骨抜きにするような例外措置がなし崩し的に繰り返されている。政府は昨年3月、最新鋭ステルス戦闘機F35の部品製造に日本企業が参入することを容認。同12月には南スーダンで国連平和維持活動(PKO)を展開する韓国軍に国連を通じて自衛隊の銃弾1万発を提供した。他国軍への弾薬提供は戦後初めてだった。
三原則が形骸化しつつあるのは由々しき問題だ。安倍政権は今こそ国民の声に真摯(しんし)に耳を傾け、平和国家を象徴する三原則をしっかりと堅持すべきだ。