政府は、「武器輸出三原則」に代わる新たな原則について、厳格な審査と適正な管理のもとで輸出を認めるなどとする案を検討しています。
これは防衛産業でつくる経団連防衛生産委員会が12日に、防衛装備品について他国との共同開発に限らず、国産品の輸出を広く認めるべきだとし、政府内に武器輸出を専門に扱う担当部局を設けるよう求める武器輸出三原則の「改善案」を提言したのを踏まえたものです。
「武器輸出三原則」は、
1967年に佐藤栄作首相が、① 共産圏諸国 ②) 国連決議で武器輸出が禁止された国 ③ 国際紛争当事国か、その恐れのある国には輸出を禁止するとして定めたものを、
1976年に三木武夫首相が、①~③以外の地域への輸出も「慎む」として全面禁輸にして確立されたものです。
それが
それが
1983年中曽根首相が米国向けの武器技術供与を例外にし、
2004年に小泉首相がミサイル防衛(MD)の日米共同開発・生産を例外にし、
2011年に菅首相が日米共同開発中の次世代迎撃ミサイル(SM3ブロック2A)の第三国移転を条件付き容認し、同じ年に野田首相が戦闘機などの国際共同開発・生産、人道目的の装備品供与を例外にするというように、民主党政権になってからは大幅に緩和されました。
それに対して経団連防衛生産委員会の提言は、2011年の緩和でも国産のセンサーや半導体などの輸出が許されておらず、装備品の第三国移転には日本の事前同意を相手国に義務付けているため、「緩和ではなく規制の強化」になったと指摘し、日本と安全保障面で重要な関係を持つ国に対する装備品移転が、日本や国際社会の安保に資する場合には幅広く輸出を認めるようにという主張です。
これは2011年の民主党政権による大幅緩和で武器輸三原則は形骸化したものの、それでも武器輸出に一定の歯止めをかけてきましたが、それをさらに緩和して「防衛産業の振興を図ろうとする」ものです。
それに対して14日の地方紙は社説で、「武器輸出提言 ビジネス優先が過ぎる (高知新聞)」、「武器三原則緩和へ 平和理念に逆行しないか(徳島新聞)」、「武器輸出 ビジネス優先許されぬ(京都新聞)」、「武器輸出要請 政財一体化は危険だ(信濃毎日新聞)」 などと批判しました。
以下にNHKのニューとともに、京都新聞の社説を紹介します。
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武器輸出の高度判断 国家安全保障会議の閣僚で
NHK NEWS WEB 2月16日
政府は、いわゆる「武器輸出三原則」に代わる新たな原則について、厳格な審査と適正な管理のもとで輸出を認めるなどとする案を検討していて、高度な政治判断が必要な場合には、国家安全保障会議の関係閣僚会合で決定する方向で調整を進めています。
政府は、武器の輸出を原則として禁じてきた、いわゆる「武器輸出三原則」に代わる新たな原則の策定作業を進めています。
これまでのところ、▽国連が武器の輸出を禁止している国などへの輸出は認めないとしたうえで、▽日本の安全保障に積極的な意義があるかどうかなどを厳格に審査し、▽目的外の使用や第三国への移転がないよう適正な管理のもとで輸出を認めるなどとする案が、検討されています。
そして、厳格な審査を行うにあたっては、経済産業省を窓口に国家安全保障会議で検討し、高度な政治判断が必要な場合には、国家安全保障会議の関係閣僚会合で決定する仕組みを盛り込む方向で調整を進めています。
また、平成23年に当時の民主党政権が、武器輸出三原則の包括的な例外措置として一定の条件のもとで武器の輸出を認めたものの、輸出の対象が国に限定されていることから、国連などの国際機関にも輸出を認める方針です。
政府は、こうした案を基に政府・与党内で協議し、新たな原則を閣議決定したいとしています。
武器輸出 ビジネス優先許されぬ
京都新聞 2014年02月14日
経団連が武器輸出三原則を大幅に緩和するよう求める提言を自民党の国防関連会合に示した。
防衛装備品の共同開発だけでなく、国産品の輸出を認めることや政府内に武器輸出を専門に扱う部局を設けるよう求めている。
安倍晋三政権が進めている武器輸出三原則の見直しを後押し、あるいは便乗しようとの思惑だろう。
歴代政権が踏襲してきた武器の禁輸政策の変更を迫るもので、ビジネス優先の論理がまかり通るようなら、戦後築き上げた平和国家の看板が傷つくばかりか、足元が揺らぎかねない。
提言は三菱重工業や川崎重工業など、防衛関連産業約60社でつくる経団連の防衛生産委員会がまとめた。
1970年代に禁輸政策として定着した武器輸出三原則を大幅緩和したのは民主党の野田政権だが「積極的平和主義」を掲げる安倍政権は輸出基準の明確化など一層の見直しを目指している。
提言では、安全保障面で重要な関係を持つ国に対する装備品の移転が、日本や国際社会の安保に資する場合には幅広く輸出を認めるよう主張。その上で装備品を第三国に移転する際の事前同意の条件を緩めるよう求めている。
政府も新たな原則として「安保上の利益がある国」や「国際的な平和や安定に資する」場合には武器輸出を認める方向だ。装備品を第三国に移転する際に求めていた事前同意についても例外規定を設ける見通しで、専門部会の提言はぴったり重なる。そればかりか、大規模な国際共同開発は国が主導し、輸出先の国には訓練・運用を支援するよう求めるなど、より踏み込んだ内容となっている。
背景には防衛関係予算が頭打ちになる中、防衛産業全体の弱体化に対する危機感がある。採算割れなどから撤退する企業も多く、厳しい状況に置かれているのは確かだが、防衛産業自らの存続や、防衛産業育成のために国の理念や政策を曲げては本末転倒だろう。
武器輸出の市場は中東やアジア諸国向けが全世界の7割を占めるという。武器輸出が緩和されれば政府や経団連が期待する国家戦略に位置づける輸出品となるかもしれないが、一方で日本製の武器や装備が紛争当事国に広がる恐れのあることを忘れてはならない。
官民一体となった武器の輸出拡大策は、国是である平和主義の根幹を崩しかねない。
かつて、経済的利益を第一とする日本人の態度はエコノミックアニマルと皮肉られたが、敵味方を問わず兵器を売る「死の商人」になってはならない。