2023年4月13日木曜日

選挙が終われば始まる軍拡 衆参補選は「歴史の暗転」の分水嶺(日刊ゲンダイ)

 安倍政権14年に、本来なら「武器輸出」三原則というべきところを「防衛装備移転三原則と言い換えてそれが可能になるように閣議決定しました。それでも輸出対象を安保分野で協力する米国などに限定し、輸出できる装備品も「救難、輸送、警戒、監視、掃海」という5つの分野に限るなど一応は抑制的でした。

 ところが岸田首相はその歯止め取り払って武器輸出を大幅に拡大しようとしています。それはNATO諸国がウクライナに戦車やミサイルの供与を決める中で、日本は当然制約があって防弾チョッキや防護マスクしか送れ見劣りするという発想からです。憲法9条を有し中立に徹するべき日本が防弾チョッキを送ること自体にも元々異論があったのにです。岸田政権が安倍・菅政権よりも悪質と言われる所以です。
 米国の意向に沿って大軍拡を志向する岸田首相としてはG7の議長国として恰好をつけたいのでしょうが、余りにも子供じみています。そもそもロシアを敵国とする軍事同盟国家であるNATO諸国と肩を並べようとするのは大間違いで、憲法9条を有する日本は平和勢力に徹するべきです。
 岸田政権は武器輸出の解禁だけでなく、軍事支援をフィリピンなどから始めようともしています。これはインド太平洋地域で中国に対抗する包囲網を敷く狙いですが、わざわざ隣国である中国やロシアとの緊張を高めてどうするのでしょうか。
 フランスのマクロン大統領さえもが、米欧のメディアと行ったインタビューで「台湾問題をめぐり欧州連合(EU)は米国の政策に追随すべきでない。われわれの危機ではない」と明言しています。極めて当然の発言ですがそれなりの勇気がなくては出来ない発言です。
 いまや「米国の威光に眼が眩んで」というのは時代遅れになりました。米国はいずれ覇権国家ではなくなります。米国に追随していればわが身は安泰というのは余りにも貧しい考え方です。
 政治評論家の本澤二郎氏は、統一地方選が終われば、待ってましたと岸田軍拡が総仕上げに入る。殺戮兵器の輸出や他国軍支援など一気に決まっていく 憲法も平和主義も踏みにじる軍国化を閣議だけで決めてしまうのはまるで軍事独裁国家。 衆参補選軍国主義の復活を止める最後のチャンス」と述べています(衆院4補選参院大分補選5補選が23日に投開票日を迎えます)
 日刊ゲンダイの記事「選挙が終われば始まる軍拡 衆参補選は歴史の暗転の分水嶺」を紹介します。
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選挙が終われば始まる軍拡 衆参補選は「歴史の暗転」の分水嶺
                         日刊ゲンダイ 2023/04/12
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 11日、衆院4補選が告示され、6日に告示された参院大分選挙区の補選と合わせ、5補選が23日に投開票日を迎える。
 この補選は、岸田政権の「中間評価」という位置づけになる。政府の物価高対策や“異次元”の少子化対策、さらには軍拡路線を支持するのか。子育て政策や防衛費倍増には巨額の予算が必要で、そのための増税や社会保険の負担増も大きなテーマだ。
 補選に勝利すれば、岸田自民はますますツケ上がり、白紙委任状を得たかのように大軍拡・大増税路線を突き進んでいくのは確実だ。今は具体的な増税論を封印しているだけで、選挙後には国民の声に耳を傾けるフリもしなくなる。それは、過去の選挙でも繰り返されてきたことだ。
 5補選と同日に統一地方選の後半戦が終われば、さっそく自民、公明両党が「防衛装備移転三原則」の見直しに向けた実務者協議をスタートさせることもすでに決まっている。協議の焦点は、殺傷能力のある武器の輸出を認めるかどうかだ。
 武器輸出を全面禁止する「武器輸出三原則」を国是としてきた日本は、第2次安倍政権の2014年に「防衛装備移転三原則」を閣議決定して海外輸出の道筋をつけたが、それでも輸出対象を安保分野で協力する米国などに限定。輸出できる装備品も「救難、輸送、警戒、監視、掃海」という5つの分野に限ってきた。岸田首相と自民党は、その歯止めも取っ払って、武器輸出を大幅に拡大したいともくろんでいるのである。
 しかも、それは5月に開かれるG7広島サミットの議長国としてイイ格好をしたい岸田のメンツのためだ。決して日本の国柄や安全保障をマジメに考えた上での判断ではない。

ウクライナに兵器を送りたい
 「G7首脳でドンジリながら、岸田総理もなんとかサミット前にウクライナ訪問にこぎつけることができた。しかし、欧米各国がウクライナに戦車やミサイルの供与を決める中で、日本はさまざまな制約があって防弾チョッキや防護マスクしか送れない。サミットでウクライナ支援を主導して成果をアピールするには、日本の支援は見劣りするという意見が政府・与党内にあるのです」(外務省関係者)
 岸田派の小野寺元防衛相も今月5日の講演で、殺傷能力のある武器のウクライナへの輸出を認めるべきだと主張。「日本が侵略を受けた時に『防弾チョッキとヘルメットをください』と頼むか。外交はギブ・アンド・テイクだ」とオダを上げていた。
 岸田が力を入れる広島サミット成功を演出するために、殺傷能力のある武器の輸出を解禁するなんて正気の沙汰とは思えないが、同時並行で他国軍への直接支援の枠組み作りも進んでいる。
 政府は今月、価値観を共有する「同志国」の軍などを対象にした「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の創設を国家安全保障会議(NSC)で決定。9大臣の持ち回り会合というから、書面にサインするだけ。ロクな議論もないままの決定だ。
 戦後日本は平和主義にのっとり、途上国に対して非軍事の政府開発援助(ODA)を貫いてきた。ODAでは軍事支援ができないから、新たな枠組みを創設するという。第1弾としてフィリピンやマレーシア、バングラデシュ、フィジーなどへの支援を想定している。

平和主義を無視して軍事立国に舵を切って恨みを買うリスク
「軍事支援をフィリピンなどから始めるのは、インド太平洋地域で中国に対抗する包囲網を敷く狙いでしょうが、わざわざ近隣国との緊張を高めてどうするのでしょうか。そもそも、武器を防衛装備と言い換え、殺傷能力のある武器の輸出を解禁することは平和憲法の理念に反します。戦後日本の平和主義的な国際貢献は高く評価されてきたのに、軍事支援に舵を切って紛争のタネを世界中にバラまく戦争屋国家になれば、国際社会から非難されかねません」(政治評論家・本澤二郎氏)
 武器輸出を解禁し、OSAで他国軍に渡せば、国内の防衛産業振興にはつながるのだろう。岸田は防衛産業を成長戦略として捉えているフシがあるが、これが「新しい資本主義」とかいうやつなのか。
 国会では、防衛産業を支援するために税金を投入する「生産基盤強化法案」も審議入りしている。これら一連の防衛政策は、昨年末に閣議決定した「安保3文書」の改定に盛り込まれていた。
 しかし、価値観を共有する「同志国」という概念は曖昧だ。現時点で民主主義国家であっても、軍事政権にかわることはあり得る。友好国に提供したはずの武器が敵対国に横流しされることだって考えられる。国際紛争を助長することにもなりかねない。
 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)が言う。
「国策プロジェクトとして防衛装備に税金が投入されることを歓迎する産業界と、自民党タカ派の思惑が一致した結果でしょうが、成長戦略としては現実的ではないでしょう。世界の防衛産業と比べ、日本の技術はかなり劣る。新規参入して席巻できるレベルではありません。それに、武器が売れるのは、紛争があるからです。そして、武器は使った国だけでなく、提供した国も恨まれる。危険を呼び込むリスクがあり、中国やロシアと近接する日本が他のG7サミット国と同じように武器を輸出することが国益にかなうのかどうか。もちろん、日本の根幹である平和主義を、いとも簡単に捨てていいのかという問題もある。少なくとも国民的な議論が必要です」
 原発輸出を成長戦略の柱に据えて失敗した政権もあったが、防衛産業への傾斜は同じ轍を踏むことになりはしないか。

選挙で堂々と問わない姑息
 衆参補選では防衛増税の是非も争点になるだろうが、そういう財源論だけでなく、武器輸出や他国への軍事支援、防衛産業への税金投入などを国策として進めることのメリット、デメリットもしっかり提示して国民に問うべきだ。選挙が終わるのを待って議論を始めるのでは、国民に対してあまりに不誠実だろう。
 防衛装備移転三原則の見直しにしても、5月のサミットまでに結論を得たいとか言っているから、選挙期間中は口をつぐんでいた殺傷兵器の輸出が1カ月後には決まっている可能性が高い。サミット最優先で、拙速に与党だけで決めていいような話なのか。
 統一地方選が終われば、待ってましたと岸田軍拡が総仕上げに入る。殺戮兵器の輸出や他国軍支援など、一気に決まっていくのでしょうが、こんな恐ろしい現実をNHKを筆頭に大メディアが報じないから、多くの国民は知らされていません。だから内閣支持率も上がり、余裕の岸田首相は早くも選挙に勝ったつもりでゴールデンウイークの外遊を発表している。
 憲法も平和主義も踏みにじる軍国化を本当に国民は受け入れるのでしょうか。こういう重大事案まで閣議決定で何でも決めてしまうのは、まるで軍事独裁国家です。そうしたやり方を許していいのかも含め、選挙で意思表示する必要がある。衆参補選で自民党が負ければ、多少はブレーキをかけることができます。軍国主義の復活を止める最後のチャンスです」(本澤二郎氏=前出)
 11日の閣議で報告された2023年度版「外交青書」では、ロシアのウクライナ侵略などを踏まえ、「国際社会は歴史の転換期にある」と論評。中国を「最大の戦略的挑戦」と位置付けているが、軍事立国という最大の岐路に立たされているのは日本ではないのか。衆参補選は「歴史の暗転」の分水嶺なのである。