日本は昨年、過去最多となる202人を難民に認定しましたが、その認定率はわずか1・9%と桁外れに低いものです。昨年も日本は国連の人権委員会から「国際基準に沿った庇護法を速やかに採択する」ように勧告されています。
このように極端に日本の難民認定数が少ないのは、難民条約が定める難民の定義に「政府から個人的に把握され、狙われていなければ難民ではない」という「日本独自」の見解を持ち込んで対象者を排除しているためです。
入管庁は「法改正」の理由として、退去が確定したにもかかわらず難民申請を繰り返す送還忌避者が存在する問題の解決をあげていますが、そうした外国人は入管庁が公表している資料でも、昨年度は難民認定申請を行った3772人のうちわずか38人、1%に過ぎません。
難民受け入れの問題は日本が批准している難民条約を忠実に受け入れれば解決します。なぜそうした人権擁護の精神を持たないのでしょうか。
しんぶん赤旗が3回に渡って「入管法改定案 問題点を見る」を連載しました。
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入管法改定案 問題点を見る(上) 難民申請者を強制送還
しんぶん赤旗 2023年4月12日
政府が、日本で暮らす移民・難民の命をさらに危うくする入管法改定案を国会に提出しました。2021年に市民と野党の批判を受けて廃案に追い込まれたものとほぼ同じ内容であり、再提出すること自体が許されません。今週にも衆院での審議入りが狙われるもとで、国際社会からも強く批判されている無期限・長期収容を維持するなど、日本の入国管理行政・制度の改善にはほど遠い法案の問題点から、いくつかを詳しく見ていきます (前田智也)
法案は、難民申講中の外国人は送還することができない「送還停止効」に例外を設け、難民申請は原則2回までとし、3回目以降の難民申請者は本国へ強制送還できる仕組みをつくろうとしています。
入管庁がホームページで公開している「そこが知りたい! 入管法改正案」では、改正案の基本的な考え方として「保護すべき者を確実に保護する」とした上で、「在留が認められない外国人は、遼やかに退去させる」などと説明しています。
低すぎる認定率で
日本の難民認定制度は「保護すべき者を確実に保護」できていません。2022年は過去最多となる202人を難民認定しましたが、認定率はわずか1・9%にすきず、諸外国と比べて極端に低い水準です。
日本の難民認定率の低さは国連の自由権規約委員会からも懸念が表明され、「国際基準に沿った庇護(ひご)法を速やかに採択すること」と勧告(22年11月3日)されています。
入管庁は「法改正」の理由として、退去が確定したにもかかわらず、難民申請を繰り返すことで退去を拒む外国人(送還忌避者)が存在する問題の解決をあげています。
しかし、難民申請を乱用することで退去を回避しようとする外国人は、ごく一部にすきません。入管庁の公表資料(3月24日)によると、難民条約上の迫害理由に明らかに該当しない事情を主張しているケース(B案件)は昨年、難民認定申請を行った3772人のうちわずか38人です。
定義に独自見解
日本の難民認定数が少ないのはなぜでしょうか。日本も批准している難民条約が定める難民の定義に、「政府から個人的に把握され、狙われていなければ難民ではない」という独自の見解を持ち込み、保護すべき申請者の多くを保護していないからです。
日本政府は、シリア難民やミャンマーのロヒンギャ難民、トルコ国籍のクルド人など、他の国であれば難民として認定される申請者をほとんど難民と認定していません。
「迫害の危険がある国へ、難民を送還してはならない」。これは、難民や難民申請者の送還を禁止する国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則)です。
保護すべき外国人を強制送還してしまえば、本国で投獄や死刑になるなど取り返しのつかない結果が生じる危険があります。
日本政府がやるべきは、国連告にも従って国際標準に沿った難民保護ができる仕組みをつくることです。 (つづく)
入管法改定案 問題点を見る(中) 監理措置 支援関係壊す
しんぶん赤旗 2023年4月13日
日本の入管制度は、在留資格を失った外国人を原則すべて入管施設に収容しています。これは「全件収容主義」と言われ、国際社会からも大きな批判を受けています。
改定案は、全件収容主義に代わる制度として「監理措置」の導入を狙っています。入管庁は、「個別事案ごとに収容か監理措置かを選択することとなり、これにより、『全件収容主義』は抜本的に改められる」と紹介しています。
そもそも全件収容主義は、現行の入管法にも反しています。現行法では、退去強制令書などが発布された外国人を「収容することができる」と書かれており、「収容しなければならない」とは書かれていません。全件収容はあくまで入管の運用であり、法律を変えなくても今すぐ改めることは可能です。
過料の制裁まで
導入が狙われる「監理措置」は、入管庁が親族や支援者、弁護士などを「監理人」に選定し、入管の主任審査官が「必要と認めた」場合には監理人に外国人の生活状況の報告を課し、報告を怠った場合には過料の制裁まであります。入管の実務を民間に丸投げするものであり、信頼で成り立っている当事者と支援者・弁護士との関係を、管理・監視の関係へ変えてしまいます。
2021年に廃案になった入管法改定案でも同制度の導入が狙われました。収容者の支援を行っている「なんみんフォーラム」が弁護士や支援団体などを対象にアンケート調査を行った結果、監理人を「引き受けることができない」「引き受けたくない」とする回答が89
%に上りました。
現在も、就労の禁止や移動の制限付きで収容施設から出られる「仮放免」という制度があります。入国警備官が仮放免者の動静監視をしていますが、監理措置が導入されれば、この役割を民間が担わされることになります。
「支援と監理は両立しない」と多くの支援者らが答えているなか、同制度を導人してしまえば、入管庁が監理人を探しても引き受け手が見つからないケースが多発することが想定されます。営利目的で監理人を引き受ける団体などが現れる懸念も拭えません。
司法判断が必要
また、収容者について3ヵ月ごとに収容か監理措置かを入管が判断するとしていますが、収容期間の上限や要件などは定められていないので、結局はすべて入管の裁量であり、現在と何も変わりません。
「監理措置」では全件収容主義からの転換にはなりません。収容は必要最小限度にとどめて収容期間の上限を設け、収容するかどうかは入管ではなく司法の判断に委ねる仕組みが必要です。 (つづく)
入管法改定案 問題点を見る(下) 収容施設〝無限ループ″
しんぶん赤旗 2023年4月15日
改定案は、強制的に退去させる手段がない外国人に対して1年以下の懲役・禁銅もしくは20万円以下の罰金という罰則付きで退去を命令できる制度(退去命令拒否罪)を設けようとしています。
処罰対象に疑問
入管庁が「強制的に退去させる手段がない外国人」としてホームページ上で示しているケースは二つ。退去を拒む自国民を受け取らない国を送還先とする者と、過去に実際に航空機内で送還妨害行為に及んだ者です。出身国が身柄の受け取りを拒否しているのは、個人の責任ではありません。航空機内での行為も、航空法や公務執行妨害罪などに触れる場合は現在でも処罰できます。新しい制度を設けて、現行反に触れない行為まで処罰の対象にすることは疑問です。
事情があって帰ることができない人を「犯罪者」と扱うこと自体が大問題であるばかりか、本当に送還を拒んでいる外国人に対して、この制度はまったく意味がありません。
退去命令に従わなければ刑事罰を受けて刑務所に行くことになりますが、刑期が終われば入管の収容施設へ戻ることになります。そこでまた退去命令を下され、従わなければ刑務所へ行き、また入管の収容施設へ … 。
弁護士や支援団体などは、この制度ができれば「刑務所と入管の収容施設の〝無限ループ″になってしまう」と指摘しています。
イラン国内で迫害を受けて来日し、難民認定を求め続けているイラン人の男性は、「この制度ができれば、自分がイランに送り返されることは絶対になくなる」と皮肉交じりに言います。
罰は最後の手段
「言うことを聞かないから罰を与えればよい」という発想は、刑罰はなるべく必要最低限で、最後の手段でなくてはならないという刑法の基本的な考え方(刑法の謙抑性)にも反しています。
移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)など6団体が発表している改定案に対する意見ではこの部分について、「本来、強制送還という直接強制が可能な権能を有しているのに、刑事罰による抑止力に頼らなくてはならないというのは、国家権能の機能不全を宣明するようなものです」と指摘しています。
その上で、「諸外国にならい、自発的な帰国を促すための諸方策(たとえば、帰国後に使える生活費を交付するなど)を、コスト面も含めて検討するのが先決です」と述べています。
(おわり)