4月以降、食料品を中心に物価が更に上がり、高齢者・国民の生活悪化は必至ですが、岸田内閣はこの4月から年金の「マクロ経済スライド」を発動し、支給を2年連続で実質削減します。
この制度は安倍政権が採用したもので、生活苦とは無関係な国会議員に制度改正の動きは見られません。そもそも年金は国民が積み立ててきたものであり、政府が一時的に預かっているに過ぎません。物価上昇の中で年金支給額を下方に修正するのは狂気の沙汰というべきです。
しんぶん赤旗が4日~6日の3回に渡って「年金資金 外資の食い物に」とするシリーズを連載しました。
株式投資など、年金積立金の「市場運用」を本格的に始めたのは01年4月から(06年4月からはGPIF=年金積立金管理運用独立行政法人)ですが、その運用方式は「丸ごと市場運用」ともいうべきものでした。政府は米国など諸外国でもやっていると説明してきましたが、実態はまったく違い、海外では年金の給付水準に直接 影響を与えない運用が行われていて、日本のように年金の積立金を丸ごと市場運用している国は見当たりません。
第2次安倍政権になってからGPIFの運用委員会のメンバー10人のうち9人を交代させ、委員長と委員長代理を「有識者会議」から送り込んだうえ、新に投資会社の勤務経験者を3人選任しました。これは年金積立金をアベノミクスに従わせることを公に「宣言」したのであり、「投資目的ではない」どころの話ではありませんでした。
GPIFの新しい運用委員会は、14年~20年までの間に「基本ポートフォリオ(資産構成)」の変更を繰り返しました。国内株式を11%から25%に、外国株式を9%から25%に、つまり全体の株式比率を20%から50%へと飛躍させました。
13年9月、ニューヨーク証券取引所で投資家を前にして、安倍首相は「パイ・マイ・アベノミクス」(アベノミクスは買いだ)とスピーチし、14年1月のダポス会議でも「1兆2千億ドルの運用資産を持つGPIFはポートフォリオの見直しを始め、日本の資産運用も大きく変わるだろう。外国の投資家も買ってくれ」と演説しました。
そしてGPIFは13年からの5年間で、国内株式は23兆円、外国株式は27兆円、合わせて50兆円もの株式を購入しました(当時の1部上場全体の株式売買高は年間58兆円程度)。
増加した運用の多くを任されたのが外資系の運用会社で、それは「対日要望書」で「年金積立金などの運用を米国投資顧問業者にまかせろ」と要求されたことに応えたものでした。
01年から21年までの推移を集計すると、外資系の運用機関の扱い量は5・9兆円から75・8兆円に急増しました。国民の貴重な年金積立金の運用を4割近くも外資に「丸投げ」したのでした。この資金運用を任された米国の会社プラックロックは、いまや10兆ドルを超える世界NO.1の運用規模を有していますが、莫大な手数料を得ているのは言うまでもありません。
これらの年金資金運用はすべてはアベノミクスの成功のために行われてきたのでした。しかしそれは結果的に多大な負の遺産を残したに過ぎません。
記事は、誰のための、何のための年金積立金なのか厳しく問われるべきで、外資の食い物になった仕組みをいまこそ根本的に見直すべきであると述べ、年金を減らすための「マクロ経済スライド」をただちに廃止し、巨額の年金積立金を国民のために計画的に活用することを急ぐべきであるとしています。(グラフは一括してPDF版で示します。末尾のURL参照)
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年金基金 外資の食い物に(上) 安部政権時代に大転換
しんぶん赤旗 2023年4月4日
岸田文雄内閣は、この4月から年金の「マクロ経済スライド」を発動し、支給を2年連続で実質削減します。物価が上がるなかで、高齢者・国民の生活悪化は必至です。
(日本共産党元衆院議員 佐々木憲昭)
年金基金は、国民が苦労して支払い、積み立ててきた貴重な共有財産です。すでに200兆円も積み上がっています。それを国民にまともに回さないばかりか、外国資本の〝餌食″にしてきた許しがたい実態がありました。
丸ごと市場運用
株式投資など、年金積立金の「市場運用」を本格的に始めたのは、年金資金運用基金を設立した2001年4月からです(06年4月からはGPIF=年金積立金管理運用独立行政法人)。しかし、その運用方式は「丸ごと市場運用」ともいうべきものでした。
政府は、アメリカ、カナダ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンでもやっていると説明してきましたが、実態はまったく違います。
米国の世界最大の年金基金(OASDI=老齢・遺族・障害年金)は、すべて非市場性の米国債で運用しており、株式で運用することを禁止しています。ですから、運用で赤字が出たことはありません。
他国は一部運用
米国カリフォルニアの州職員を対象とした年金基金(カルパース)の場合は、全国民を対象とした基礎的年金に上乗せする部分の運用だけです。オランダの公務員年金(ABP)も同様です。
ノルウェーの政府年金基金グローバルは、石油・ガス事業の収入を積み立てている基金で、もっぱら年金給付のために運用されているものではありません。
カナダの年金制度投資委員会(CPPIB)は、基礎的な年金に上乗せする部分のみの運用、スウェーデンの公的年金基金(AP基金)も基礎的な年金の給付水準に直接、影響を与えない運用が行われています。
日本のように、年金の積立金を、丸ごと市場運用している国は見当たりません。岸田内閣・自民党は、それに一言も触れようとしません。
年金基金〝活用″
厚労省の「GPIFの運営のあり方に関する検討会報告」(10年12月)は、こう述べていました。「年金積立金の原資となる保険料は投資を目的として徴収されたものではなく、老後の給付に充てるために一時的に国が預かっているものである」。そのため、運用は慎重を期し国債を中心としていたのです。
ところが、第2次安倍晋三内閣になってから、株式市場での運用にシフトする大転換が行われました。
外国資本のJPモルガンのチーフエコノミストも参加させて「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」を13年6月に設置しました。その報告書(13年11月)には、アベノミクスの「3本の矢」の「取り組みの一環」として「いかに貢献しえるか」を考えるべきだと書き込みました。それは、年金積立金をアベノミクスに従わせる「宣言」でした。
「投資目的ではない」という考え方は、完全に吹き飛んでしまいました。(つづく)
(3回連載です)
年金基金 外資の食い物に(中) 保有資産の構成が激変
しんぶん赤旗 2023年4月5日
年金積立金をアベノミクスに利用するため、安倍晋三内閣は人事権を使い、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用委員会のメンバー10人のうち9人を交代させました。運用委員長と委員長代理を「有識者会議」から送り込んだうえ、新たに投資会社の勤務経験者を3人選任しました。
GPIFの新しい運用委員会は、2014年~20年までの間に「基本ポートフォリオ(資産構成)」の変更を繰り返しました。国内株式を11%から25%に、外国株式を9%から25%に、つまり全体の株式比率を20%から50%へと飛躍させたのです(①参照)。
この前代未聞の動きに対し、運用委員を解任された小幡績氏は、自著『GPIF世界最大の機関投資家』で、このようなやり方は「政治が運用を破壊する典型例」だと、怒りをあらわにしました。
① 基本ポートフォリオの推移(%)
期 間 | 国内債券 | 国内株式 | 外国債券 | 外国株式 | 短期資産等 |
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2006年4月~2010年3月 | 67 | 11 | 8 | 9 | 5 |
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2010年4月~2013年6月 | 67 | 11 | 8 | 9 | 5 |
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2013年6月~2014年10月 | 60 | 12 | 11 | 12 | 5 |
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2014年10月~2020年4月 | 35 | 25 | 15 | 25 | ー |
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2020年4月~ | 25 | 25 | 25 | 25 | ー |
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(GPIF「業務概況書」等から作成)
海外投資家狙う
米国ニューヨーク証券取引所で投資家を前にして、安倍首相(当時)が「パイ・マイ・アベノミクス」(アベノミクスは買いだ)とスピーチしたのは、13年9月のことでした。
14年1月のダポス会議でも、安倍氏は「日本の資産運用も大きく変わるだろう。1兆2千億ドルの運用資産を持つGPIFはポートフォリオの見直しを始め、フォワード・ルッキング(先を見越した)な改革を行う。成長への投資に貢献することとなるだろう」と述べました。
GPIFが株式を大量に買うから外国の投資家も買ってくれ、という演説でした。麻生太郎財務相(当時)も、同年4月16日の衆院財務金融委員会で、GPIFの「動きが出てくるとはっきりすれば、外国人投資家が動く可能性が高くなる」と本音をもらしました。
50兆円の株購入
GPIFは、株式市場に次々と積立金を投入していきました。その結果、資産構成は大きく変貌しました(②参照)。
13年からの5年間で、国内株式は23兆円、外国株式は27兆円、合わせて50兆円も株式を購入したのです。当時の株式売買高(ー部上場)は、年間58兆円程度でしたから、株式市場にいかに大きなインパクトを与えたか分かります。このころから、GPIFは「クジラ」といわれるようになりました。
国債を買い支え
その一方、国債を中心とする「国内債券」のポートフォリオ比率は60%だったのに、いきなり35%に下げられ、さらに25%にまで減らされました。
「国内債券」は、13年3月の74兆4586億円から20年3月の37兆1269億円へと半減させてしまいました。GPIFが売り出した30兆円を超える莫大(ぱくだい)な金額の国債を買い支えたのは、黒田東彦総裁のもとで「異次元の金融緩和」を推進した日銀でした。 (つづく)
年金基金 外資の食い物に(下) 背後に米国の圧力
しんぶん赤旗 2023年4月6日
増加した運用の多くを任されたのが、外資系の運用会社でした。その背後に「対日要望書」による米国の対日圧力がありました。年金積立金などの運用を米国投資顧問業者にまかせろと要求をしてきたのです。
運用が開始された2001年から21年までの推移を集計すると、外資系の運用機関は5兆9087億円から75兆7622億円へ12・8倍になっています。全運用額に占める外資の比率は、この間に18・6%から37・3%へと増加しました。国民の貴重な年金積立金の運用を4割近くも外資に「丸投げ」したことになります(グラフ①)。
運用額トップに
このなかで、プラックロックという外資系資産運用会社が注目されます。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用額でみると、01年にわずかO・19%を占めるにすぎない存在だったのに、21年度末にはステート・ストリートを抜いて15・09%を占め、外資系のトップに躍り出ているのです。
ブラックロックは1988年にニューヨークで設立され、2006年にメリルリンチ・インベストメント・マネージャーズを、08年にはバークレイズ・グローバル・インベスターズを吸収合併し、急速に規模を拡大しました。現在、資産運用規模は10兆ドルを超え世界一です。
安倍氏との関係
安倍晋三首相(当時)が、株式投資にかじを切った2014年から15年にかけて、くり返しブラックロックの関係者と面会し「成長戦略」について助言を求めたと報道されています。また、安倍氏が17年9月に訪米した際、朝食会に投資会社などの最高経営責任者らを招いてアベノミクスについて説明し、「さらに日本に興味を持って設資をしていただければ幸いだ」と対日投資を呼ぴかけました。そこにも、ブラックロックのCEO(最高経営責任者)のラリー・フィンク氏が参加していました。
手数料の半分超
資産の運用はただではありません。GPIFは、莫大(ぱくだい)な委託手数料を支払っています。その額は、安倍政権の時代から急増しており、14年度の102億円から21年度には494億円へと5倍近くに増えました。
なかでも外資系の運用機関への支払いが増えており、同時期に45億円から267億円へと6倍になっています。外資が占める比率は、14年3月の41・3%から22年3月には53・8%にまで高まりました。手数料の半分以上が外資の手に渡っているのです(グラフ②)。
誰のための、何のための年金積立金なのか、厳しく問われるべきです。外資の食い物にしてきた仕組みを、いまこそ根本的に見直すべきです。年金を減らす「マクロ経済スライド」をただちに廃止し、巨額の年金積立金を国民のために計画的に活用することを急ぐべきではないでしょうか。 (おわり)
年金基金 外資の食い物に(上~下) グラフ
記事中のグラフを一括して表示します。PDF版でやや不鮮明です。画面したの+マークをクリックして拡大した方がいくらか見やすくなります。
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