外公評論家の孫崎享氏が「 ~ 日本 なぜウクライナ和平に動かないのか」という記事を出しました。憲法9条を持つ日本こそは国際問題が軍事紛争に発展したときに、平和的解決を目指す先頭に立つべきであるにもかかわらずこれまでにそうした例を見ません。
ロシアのウクライナ侵攻のケースにおいても、本来は日本の出番なのでしょうが、岸田首相は事の始まりから余りにも米国(=NATO)一辺倒に徹したので、いまさら仲介者などにはなれそうもありません。元々 空前の戦争国家である米国はこれまで殆どの紛争の当事者だったので、いわゆる「西側」に属し常に米国の意向を忖度してきた日本に、紛争終結の仲介者としての出番はなかったのでした。
いまやウクライナ戦争において、「まずは開戦前の状態に戻るべき」という主張は何の役にも立ちません。米国トップのミリー将軍は、「ウクライナはロシア軍を完全撤退させることはできないし、ロシア軍もまた首都の制圧もできず、双方とも軍事力で目標は達成できない。それをベースにして交渉のテーブルに着くべきだ」と述べたということです。
これは以前に米国のキッシンジャー氏が述べたことと同じであり、それが現実的な路線であると考えられます。
西側の一員である仏のマクロン大統領が4月、習近平氏に会って中仏共同声明を出したのはそれなりに勇気ある行動でした。
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日本外交と政治の正体 孫崎享
仲介役を担わない日本 なぜウクライナ和平に動かないのか
日刊ゲンダイ 2023/04/20
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
日本は9条を含む憲法を持つ。多くの国民は、日本は平和を追求する国と思っている。だが、国際問題が軍事紛争に発展した時、日本は平和的解決を目指す先頭を切っているのであろうか。
2022年11月10日付のニューヨーク・タイムズ紙は「米国トップの将軍はウクライナでの(和平)外交を呼びかけ 他方バイデンの助言者たちは抵抗」と題した記事を掲載。「彼(ミリー米国統合参謀本部議長)は、部内会議で、『冬になる前、ウクライナ側は取りうるものをとったのだから、これを基礎に交渉のテーブルに着くべきだ』と主張した」と報じた。
ウクライナの著名ウェブ紙「ウクラインスカ・プラウダ」は23年2月16日、「ミリー将軍:戦争は交渉のテーブルで終わる。ロシアもウクライナも(軍事力で)目標は達することができない」と報じていた。
もはやウクライナはロシア軍を完全撤退させることはできない。一方、ロシア軍もまたウクライナ全土は当然として、首都の制圧もできない。
双方とも軍事力で目標は達成できない。
こうした中で、国際社会の中に和平を求める動きが出ている。
トルコのエルドアン大統領は1月、「ウクライナ戦争の和平への取り組みは、停戦と『公正な解決のためのビジョン』によって支えられるべきだ」と述べ、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談。「ロシアとウクライナ間の持続的平和の実現に向け、仲介と調整を引き受ける用意がある」と伝えた。
ブラジルのルラ大統領も、ロシアとウクライナの間の和平交渉を仲介するために、中国、インド、インドネシアを含む国のグループの創設を提案し、アモリン元外相をモスクワに訪問させている。
中国は2月24日、停戦や和平交渉の再開など12項目からなる「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する文書を公開し、4月にはマクロン仏大統領が中国を訪問し、中仏共同声明を発出した。
ここでは「中仏は国際法および国連憲章の原則に基づき、ウクライナの平和を回復するためのあらゆる取り組みを支持」と記載している。
日本はこうした和平交渉の仲介役を担うための動きをしていない。
第2次大戦後、日本は二度と戦争しない決意をした。本来は和平を促す国々の中に名を連ねているべきだろう。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。