7年間防衛庁防衛研究所戦史部長を務めた元第7航空団司令の林 吉永さんの話が、赤旗日曜版4月9日号に載りました。
4つの小見出しに要点がまとめられててとても分かりやすい内容です。
最初の小見出しは「相手の基地を攻撃すれば反撃を招き国は火の海に」です。
まさに読んで字の如しで、狭い国土の大半が山野で狭い平野に過大な人口が集中している日本が火の海になれば、「78年前の戦後の廃墟」が出現します。このことを度外視して国の安全を考えるということはあり得ないし、そうならないと考えるのは願望と現実を混同した素朴・幼稚な考えです。
次は「首相らは軍事を知らずに戦争への距離縮めている」です。
当然のことですが今の国会議員には戦争の経験がありません。そうした人々によって「反撃能力を持てば抑止力になる」という独りよがりの単純な考えの下、前項の幼稚な考えと相俟って無反省に再度の軍事国家を志向しているのです。
林氏は「政治は戦争を回避する最後の砦のはずなのに、今の政権がやっていることはその真逆です。反撃能力保有を主張する人たちは、国が火の海になる覚悟があるのでしょうか」と述べています。
その次は「自衛隊機の '87警告射撃は戦争になる蓋然性があった」です。
これはやや技術的な問題で、もしも一人よがりの判断で「正義」の行動をすると、戦争の勃発を招く惧れがあった実例を紹介しています。
そして最後が「嫌いな国をも友だちにして敵滅らす外交こそ抑止力」で、いま岸田政権に最も求められているものです。
林氏は「戦争はいったん始まると軍事的合理性が優先され、勝つために殺りくする・破壊するのが戦争で、戦争はやっちゃいけないのです」として、戦争を回避することの重要性を述べています。
中国がGDPで米国を追い越すのは許せないというような幼稚な考えを持つ戦争国家米国の尻馬に乗っていることの危険性を日本は知るべきです。万一、対中戦争が起きて日本へのシーレーンが閉じられれば、日本はたちまち原油や小麦や肥料などの生きるための必須の品々が無くなり生き延びられなくなります。
日本は米国にそそのかされて目下 対中経済安保策に興じているようですが、その前に日本がダウンするという現実に何故思い至らないのでしょうか。
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元空将補が語る「反撃能力は専守防衛を逸脱」
元航空自衛隊第7航空団司令 林 吉永さん
しんぶん赤旗日曜版 2023年4月9日号
戦後の安保政策を大転換し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を急ぐ岸田政権。この動きに「非戦という発想が後景に退いている」と警告するのは、元航空自衛隊幹部で第7航空団司令も務めた林吉永さん。「戦争はやっちゃいけない。一番の抑止力は外交だ」と語る林さんに思いを聞きました。 田中一郎記者
はやし・よしなが=1942年生まれ。航空自衛隊第7航空団司令、幹部候補生学校長
など歴任。99年退官。空将補。同年から2006年まで防衛庁防衛研究所戦史部長。
現在、国際地政学研究所理事
相手の基地を攻撃すれば反撃を招き国は火の海に
-岸田政権は「反撃 能力を保有しても、専守防衛は変わらない」といっています。
現役時代、専守防衛について私は、国外に戦場を求めない姿勢だと理解していました。攻められたときに守る。先に手を出さない。それによって正義を貫けると確信していました。
他国領土に存在する日本侵攻の策源地(根拠地)に対する攻撃は国外に戦場を求めるもので、専守防衛からの逸脱です。
専守防衛とはどういうものか。私は、ロシアの侵略に対するウクライナの戦争が分かりやすいと思います。
ウクライナは基本的にはロシア領内への攻撃を控えています。欧米が長射程の兵器を提供していないからだという見方があります。私は違うと思います。ウクライナが保有する短い射程の兵器でも国境近くから攻撃すれば、ロシア領内へ攻撃はできます。地上兵力で攻め入ることもできます。
軍事的に可能でも控えている。なぜか。ロシア領内へ攻撃を拡大すれば、ロシアは「防衛戦争の大義」を掲げさらに猛反撃してくるからです。戦術核兵器使用の恐れも増します。だからウクライナは歯を食いしばって専守防衛に徹しているのです。
たとえ反撃でも日本が中国や北朝鮮領土内の基地を攻撃すれば、犠牲は軍人だけにとどまりません。目標周辺の建物や市民にも被害が及ぶでしょう。反撃が反撃を呼び、相手に一層強力な兵器を使わせる□実になります。相手が核兵器を使えば、日本は自ら広島・長崎の悲劇を再び招くことになりかねません。
首相らは軍事を知らずに戦争への距離縮めている
-政府は「反撃能力保有は抑止力になる」といっています。
それは先の冷戦時代の神話です。北朝鮮も中国も「日本が攻めて来るなら、こっちも攻める」と思うに決まっています。日本を攻撃するように見せかけ、だまして先に攻撃させようとするかもしれません。軍事の世界でだまし合うのは当然の作戦です。今の政治のリーダーたちは軍事を知らないから、それが分からない。
2014年に安倍政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定するまで日本は専守防衛を貫いてきました。集団的自衛権の行使を容認した結果、「日本国存亡の危機」という理屈で米国の戦争に自衛隊が出かけていくことが考えられるようになりました。反撃能力保有と改憲をうたう政策は、日本と戦争との距離をますます縮めています。
政治は、ホットな戦争を回避する最後の砦(とりで)のはずです。今の政権がやっていることは、その真逆です。反撃能力保有を主張する人たちは、国が火の海になる覚悟があるのでしょうか。
専守防衛は、ウクライナ戦争でもわかるように国民の犠牲は避けられません。国民にも覚悟が必要な戦略です。ただ、それによって正義を確保し、国際社会からの支援も得られます。日本は大陸国家と違って海に囲まれています。日本独自の国防のデザインが必要です。
自衛隊機の '87警告射撃は戦争になる蓋然性あった
ー1987年にソ連機が日本領空を侵犯したとき自衛隊機が警告射撃しました。このとき反対したそうですね。
私は沖縄の与座岳(よさだけ)分屯基地の司令でした。上級からの射撃指令をパイロットに伝えたのは私たちのレーダー・サイトでした。
警告射撃は実弾の中に曳光(えいこう)弾を混ぜて使います。それで「領空から出ていけ」と警告するのですが、実は領空侵犯への日本側対処要領は秘密扱いです。公開して注意を促さない限り、警告射撃の意味をソ連側は知らないわけです。
ソ逓機のパイロットが攻撃されたと誤解して自衛隊機に撃ち返し、それがきっかけに戦争に発展する蓋然(がいぜん)性があったことは否定できません。ソ連の流儀では領空侵犯した韓国の民間旅客機さえ撃墜したのですから。事件が収束した時点で上にそう意見具申しました。銃弾が撃ち込まれたことを機に日中戦争が勃発した盧溝橋事件(37年)の歴史を繰り返してはならないという思いがありました。
百里基地(茨城県)の第7航空団司令のときパイロットたちに「引き金をひくな。先に撃たれろ」という話をしていました。最初、パイロットたちは反発しました。「冗談じゃない。日本の空に侵入してきたら、たたき落としますよ」と。しかし、私は警告射撃事案の経験がありましたから、「先に撃たれて、こちらが攻撃する正当性、日本の正義をつくりだすのがおまえたちだ」と話しました。最後はパイロットたちも「分かりました」と言ってくれました。分別を知る部下に恵まれたと思います。
「韓信の股くぐり」という言葉があります。大きな目的のために一時の恥を耐えることです。撃ち落とされて自衛官が批判され、恥をかいたとしても、それで戦争が回避され、国が救われるのであれば本望じゃないですか。平和を維持するには、そういう目に見えない殊勲者が必要です。
嫌いな国をも友だちにして敵滅らす外交こそ抑止力
-「一番の抑止力は 外交だ」とも語って いますね。
安保3文書は、いわぱ敵を増やす戦略です。
国のトップリーダーに求めたいのは、好きな国とだけではなく、気に食わない国とも付き合うことです。門前払いに遭って恥をかいてでも、繰り返し押しかけていって話しあってほしい。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」というではありませんか。嫌いな国を友達にして、敵を減らす。それこそ政治の役割でしょう。
戦争はいったん始まると軍事的合理性が優先されます。勝つために殺りくする、破壊するのが戦争です。戦争はやっちゃいけないのです。