しんぶん赤旗に移民政策学会元共同代表の児玉晃一弁護士へのインタビュー記事が載りました。国連の自由権規約委員会から、日本の入管制度が極めて劣悪であるとして繰り返し是正を求められているのに、一向に改善されない背景が分かりやすく解説されています。
日本は戦前 入管行政を、外国人を「取り締まりの対象」としてしか見ない特高警察が担っていました。それが戦後も抜本的に是正されることなく引き継がれたため、外国人を「ひとりの人間」として見ない体質がそのまま今も続いているのです。
囚人同様に扱う長期間収容を、司法の判断を経ることなく入管の職員が独断で決めてしまうのもその顕れです。
入管法の改定案は.2年前に、多くの市民と野党が力をあわせて廃案に追い込みましたが、今回国会に出されたものもほぽ同じ内容で、難民申請に回数の上限を設けて、保護を求めている外国人を母国に強制送還できるという非人道的な仕組みも前回通りです。
今回新たに導入される「監理措置」制度も酷いもので、収容の代わりに主任審査官が親族や支援者、弁護士などを「監理人」として選び、入菅庁の判断によって外国人の生活状況の報告が罰則付きで課されるなど、支援者と支援される人の信頼関係を、管理・監視の関係へ変えることを目指すだけでなく、「支配と従属の関係」になることでハラスメントの温床にもなりかねないものです。
入管庁には国連自由権規約委員会の勧告を理解する能力がないようです。
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入管法改定案 戦前から続く非人道的な制度
廃案にし国際基準での改正を 弁護士 児玉晃一さん
しんぶん赤旗 2023年4月19日
こだま・こういち マイルストーン総合法律事務所代表弁護士。移民政策学会
元共同代表(現常任理事)。「全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマース
ミスの誓い」代表。「全国難民弁護団連絡会議」世話人。共著に『入管問
題とは何か 終わらないく密室の人権侵害〉』(明石書店 2022年)
日本で暮らす移民・難民の人権を無視し、命をさらに危険にさらす、入管法(出入国管理及び難民認定法)改定案が国会で審議されています。法案の問題点をはじめ、なぜ日本の入国管理行政は外国人の人権を無視し続けるのかなど、入管問題に長く携わる弁護士の児玉晃一さんに聞きました。 (前田智也)
-国際社会からも批判されている、日本の入管制度について教えてください。
まず言わなけれぱならないことは無期限・長期収容についてです。日本で、退去強制令書が出された外国人を、国外に退去させるまで原則すべて入管施設に収容し続けています。これは「全件収容主義」などと呼ばれており、国際社会からも批判されています。直近でいえば2022年11月、国連の自由権規約委員会から是正を勧告されています。
「原則すべて収容する」ということは、現行の入管法には書かれていません。あくまで出入国在留管理庁(入管庁)が、そうした運用をしているだけの話です。一事が万事、入管庁の裁量があまりに広く、司法など第三者機関によるチェックや救済の道も現実的に期待できないことが、さまざまな問題が発生し続ける最大の原因です。
-なぜ入管行政は、深刻な人権侵害を続けるのでしょうか。
戦前の入管政策は、特高警察が実務を担っていました。外国人を「取り締まりの対象」としてしか見ておらず、戦後も抜本的な入菅法改正は一度もされていません。
名古屋入管で命を奪われたスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんに関わる入菅庁の「最終報告書」を見ても、「仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり」と記載されています。
少なくとも外国人を「ひとりの人間」として見ていない体質は今も続いていることは間違いありません。
ー戦前からの名残が続いているのですね。
長期収容を正当化する通達の類型のなかには、収容者の犯罪歴などを理由に「再犯防止のため」という項目があります。これは戦前の治安維持法に規定されていた「予防拘禁」の考えそのものです。戦後に廃止されるまでの1941年から45年の聞、予防拘禁に付されたのは60人で、そのなかで2年以上拘禁されたのは4人だったと言われています。
コロナ禍で、就労や移動の制限がある「仮放免」が以前よりも出されるようになり収容者数は減りましたが、いまも入管施設では100人近くが長期収容されています。外国人の人権について、日本は戦前と同じかそれ以上にひどいと言わざるを得ません。
-この間、収容者は「犯罪者」だというキャンペーンが繰り返されています。
多くの人に知ってほしいことは、帰国できる人はすでに帰国しているという事実です。長期収容されている人たちは、「帰ることができない事情がある人たち」です。
具体的には、母国で迫害を受けている人、日本ですでに家庭を持っている人、母国では治療できない重い病を抱えている人などです。だから難民申請や在留特別許可を求め続けているのです。そうした人たちの本当の姿を見ずに、「オーバースティは犯罪だ。だから収容されてもしょうがない」という主張は許せません。なにより、人権を無視して良い理由にはなりません。
-政府が成立を狙う、入管法改定案について聞かせてください。
2年前に、多くの市民と野党が力をあわせて廃案に追い込んだものとほぽ同じ内容です。今回も廃案の一択しかありません。
難民申請に上限を設けて、保護を求めている外国人を母国に強制送還できるようにするなど多くの問題があります。収容をめぐっては、全件収容主義を改めるとして「監理措置」という制度の導入が狙われています。
「監理措置」とは、収容の代わりに地方入国管理局長などの主任審査官が親族や支援者、弁護士などを「監理人」として選びます。入菅庁の判断によって、外国人の生活状況の報告が罰則付きで課されるなど、事実上の入管庁の手先になってしまう。
支援者と支援される人の信頼関係を、管理・監視の関係へ変えてしまいます。支配と従属の関係になることで、ハラスメントの温床にもなりかねません。非人道的な制度を認めるわけにはいきません。
-廃案に追い込むために、必要なことはなんでしょうか。
2年前も、当初は厳しい情勢だと言われていました。それでも、さまざまな立場の市民が声をあげ、世論が急速に広がるなかで野党も奮闘して廃案にすることができました。
今回も、みんなで力をあわせて廃案にしたい。そしてその先に、国際基準に沿った人権保護の枠組みなどが保障された、真の入管法改正を実現したい。