2023年4月29日土曜日

こうして全体主義へと流れていく/こうして凋落と劣化が進んでいく

 26日に開かれた参院本会議岸田首相は昨年末に閣議決定した安保関連3文書の改定について報告したほか、「防衛装備移転三原則」の運用指針の見直しにも言及しました。これは「殺傷能力を持つ武器」の輸出入に日本も本格参入するということに他なりません。

 「軍需産業支援策(防衛装備品の開発や生産基盤を強化するための法案)」も7日に衆院本会議で審議入りしています。
 岸田政権の「大軍拡」指向はもはや留まるところを知りません。G7でも「世界のリーダー」を気取って対ロ、対中包囲網の先頭に立とうとしています。安倍首相時代にはまだしも対中敵視は「極秘事項」として公言することはなかったのに、岸田首相にそうした気遣いが皆無なのは何故でしょうか。中国は一度も日本を「敵視」などしていないのに「おかしい」というしかありません。
 もしも「アメリカの威光に目がくらんで」その他のことには頭が回らないというのでは、その時点でもはやリーダーの資格はありません。
 残念なのはマスコミがそうした姿勢に対して完全に沈黙していることです。沈黙が是認であるのは言うまでもないことです。これでは国民の間に軍国化反対の機運が生れようもありません。
 日刊ゲンダイが「こうして全体主義へと流れていく この国を覆うエセ民主主義の深刻」という記事を出しました。
 併せて同紙の記事「こうして凋落と劣化が進んでいく こんな政権が無風で続けば静かに沈没」を紹介します。
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こうして全体主義へと流れていく この国を覆うエセ民主主義の深刻
                         日刊ゲンダイ 2023/04/27
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
「非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての歩みを変えるものではない」「防衛装備品の海外への移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために望ましい安全保障環境の創出や、侵略を受けている国への支援などのための重要な政策的な手段だ。与党における検討も踏まえつつ議論を進めていく」
 26日に開かれた参院本会議。岸田首相は昨年末に閣議決定した国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定について報告したほか、防衛装備品の海外移転に向けた議論を促進する考えを表明。自民、公明両党は25日から、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針の見直し協議を始めており、岸田も「重要な政策的手段」として今後、防衛装備品移転の見直し議論を本格化させるとみられる。
 防衛装備品という言葉でごまかしているものの、要するに「殺傷能力を持つ武器」の輸出入に日本も本格参入すると宣言しているに等しく、選挙が終わった途端、待ってましたとばかりに武器の輸出入議論が始まったワケだ。心ある国民は驚き、呆れ果て、怒り心頭に違いない。
 振り返れば安倍政権も同じだった。第2次政権発足後の2014年、武器の輸出や国際共同開発を基本的に認めず、必要に応じて例外規定を設けて運用する──という、それまでの「武器輸出三原則」を転換し、運用ハードルを大幅に緩めた「防衛装備移転三原則」を閣議決定したからだ。

有権者の半数以上が投票しない選挙の正統性
 衆参両院の国会決議で補強された「国是」とも言うべき「武器輸出三原則」を何の議論もなく勝手に閣議決定で変えた安倍と、それをさらに改悪しようと前のめりになっている岸田。どちらもそろって戦後の日本が築き上げてきた「平和国家」の姿を破壊する最悪の首相と言っていいが、岸田がヤケに自信満々で暴走しているのは、先の衆参補選や統一地方選で信任を得たと勘違いしているからだろう。
 「重要政策課題をしっかりやり抜けという叱咤激励をいただいたと受け止めている」
 衆参5補欠選挙が行われた翌24日、岸田は選挙結果に手ごたえを感じたような口ぶりだったが、果たしてそう断言できるのか。総務省によると、9日投開票された統一地方選(前半)の投票率(平均)は、9道府県知事選が46%台、41道府県議選が41%台で、いずれも過去最低。同時に行われた6政令市長選、17政令市議選も50%に届かず、23日投開票の55町村長選や280市議選などでも過去最低だった。
 衆参補選でも衆院千葉5区の投票率が38.25%、参院大分は42.48%。つまり、選挙区の有権者の半数以上が投票していないことになるわけで、これでは正統性を疑う声が出ても不思議ではない。
 ジャーナリストの高野孟氏が27日付の日刊ゲンダイコラム「永田町の裏を読む」で、こうした低投票率を嘆き、「民主主義とは何なのか」と書いていたのも当然だろう。
 ジャーナリストの横田一氏はこう言う。
 「選挙に勝てば何でもできるとばかり、早速、武器輸出に前のめり。対ロ、対中包囲網の必要性を訴えていますが、紛争の当事者でもない日本がやるべきことは本来、仲介役です。欧米に足並みをそろえて戦争準備しているかのようで、国民を危険にさらすだけでしょう」

危険な兆候を見逃さず、思考停止に陥らず、声を上げる
 投票率が低くなるほど、宗教団体など特定勢力の支持に支えられた候補者が当選する可能性が高まる上、その特定勢力の主義や主張が政策に反映されやすくなる。
 自民党との蜜月関係が明らかになった旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)が全国の自治体議会に対して積極的に働きかけていた「家庭教育支援条例」の件でも指摘されていただろう。
 こういう偏った政治情勢、状態でマトモな民主主義が育つはずがない。ハッキリ言って、今の状況はエセ民主主義と断じていいだろう。
 つまり、形だけの選挙で信任を得たと胸を張り、勘違いしているエセ政治家が、多数決の原則、少数意見の尊重という民主主義の原則を無視し、やりたい放題。それが今のこの国に突きつけられた現実ではないのか。
 エセ民主主義の例を挙げればキリがない。自分や家族、取り巻きといった、ごく限られた人の懐だけが潤うことだけを考え、そのためには国民の財産である公文書の隠蔽、改ざん、廃棄もお構いなし。国権の最高機関である国会を軽視し、ロクに審議しないまま、時間が経てば閣議決定でハイ一丁上がり。「丁寧な説明」と言うばかりで合理的な説明は何もせず、ひたすら的外れのトンデモ論を繰り返して国民や野党が疲れ果てて気力を失うのを待つ。
 昨夏の安倍銃撃事件以降、暴力による民主主義の破壊は許されない、などと声高に叫びながら、暴力によらない民主主義の破壊を当たり前のように続けているのが今の政権の実態なのだ。

金持ちや政治エリートによる逆さまの全体主義
 「民主主義とは実は、一部の金持ちや政治的エリートが羊飼いとなって従順な羊の群れを思うがままに管理するための『逆さまの全体主義』の道具なのである」
 前出の高野氏はコラムで、ドイツの社会心理学者ライナー・マウスフェルト「羊たちの沈黙は、なぜ続くのか」(日曜社)を引用する形で、こう書いていたが、まさにその通り。
 過去の歴史を振り返っても、一部の政治家が民衆を煽り、先導し、日本を戦争の道に引きずり込んでいったわけで、エセ民主主義によって日本社会が全体主義へと流れていった状況を忘れてはならないだろう。
 そして、そんなエセ民主主義国家が今、G7でも「世界のリーダー」を気取り、対ロ、対中包囲網の先頭に立とうとしているのだから危うい以外の何物でもない。
 本来は国民から異論、反論が出ても不思議ではないが、暴政にならされたのか、あきらめたのか、それとも事なかれ主義となったのか。いずれにしても有権者の鈍感さに対してもクラクラしてしまう。
 元参院議員の平野貞夫氏がこう言う。
 「今回の選挙では、投票率の高い都市部で女性議員が多く当選し、自民党の現職議員の落選が目立ちました。国民の政治不信がかつてないほど高まり、全体的に見て投票率が落ちているとはいえ、それに対する危機意識も確実に強まっている。日本が危うい方向に向かわないよう、こうした動きを連携させていくことが重要でしょう」
 2016年に安全保障関連法が施行されてから7年経った今年3月下旬、東京新聞は社説で、フランス作家の寓話「茶色の朝」を取り上げ、今の日本を取り巻く政治情勢を憂い、こう呼びかけていた。
 危うい兆候があるにもかかわらず、不自由を感じないという『事なかれ主義』で思考停止に陥り、声を上げずにいると自由な言論は封殺され、全体主義の台頭を許すに至る、ということにほかなりません」
「危険な兆候を見逃さず、その影響をとことん考え抜く。思考停止に陥らず、面倒がらずに声を上げる。そうした一人一人の行動の積み重ねこそが、『茶色の朝』を迎えることを阻むはずです」
 いつか来た道とならぬよう、有権者は今こそ、声を上げるべきだ。


こうして凋落と劣化が進んでいく こんな政権が無風で続けば静かに沈没
                         日刊ゲンダイ 2023/04/28
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 「プライム市場上場企業について、2030年までに女性役員比率を30%以上とすることを目指します」
 27日、首相官邸で開かれた男女共同参画会議で、岸田首相はこう宣言した。東京証券取引所の最上位市場「プライム」に上場する企業のうち女性役員の比率が30%以上なのは、昨年7月時点でわずか22%。これを1800社超あるプライム企業の全体に広げるのは並大抵のことではないが、高い目標を掲げることで、企業に女性登用を促す方針だという。6月をメドに策定する「女性版骨太の方針」とやらに盛り込むらしい。
 「女性比率30%」という“数値目標”を聞いて、「あれ、ちょっと前にもあったよな」と思い出した人もいるのではないか。安倍政権の看板政策のひとつ「女性活躍」の目玉として掲げられていたのが、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」だった。
 安倍元首相がダボス会議の演説でもこれを掲げ、“国際公約”していたが、結局、目標年次になっても実現にはほど遠く、「2020年まで」が「2020年代の可能な限りに早期に」と曖昧な形で先送りされた経緯がある。
 岸田の宣言も安倍時代と同じ「口先政治」の類いに聞こえてしまう。というのも、だったら政治の世界はどうなのか、という疑問が湧くからだ。
 現在の第2次岸田改造内閣の19人の閣僚のうち女性はたった2人しかいない。自民党の国会議員に占める女性比率に至っては、わずか9%で1割に満たない。それなのに、「女性役員比率30%以上」とは、よく言うよ、だ。
 自民党内には、男女の役割分担を求め、女性を個人として尊重しない「伝統的家族観」がいまだ根強く染み付いている。1996年の法制審議会の答申から30年近く経っても、いまだ選択的夫婦別姓制度の導入に後ろ向きだ。保守派のイデオロギーや“オッサン政治”が大手を振って跋扈している。
 企業に高い目標を求めるのなら、まずは「隗より始めよ」だろう。政治が率先して女性登用を進め、社会の意識を変えていくべきで、岸田は党内の古くさい体質を変えることが先決じゃないのか。

少子化対策に2つの的外れ
 こんな支持率アップ目的の“やってる感”では、「異次元の少子化対策」も全く期待できない。
 26日に開かれた政府の経済財政諮問会議が公表した試算には目がテンだった。児童手当や住宅支援の拡充など、3月末に「たたき台」としてまとめられた対策にGDP比1%程度(約5兆円)を増やしても、合計特殊出生率(出生率)は0.05~0.1%程度しか上昇しないというのだ。お情けのバラマキ政策では冗談のような効果しかないということだ。
 同じく26日に厚労省の国立社会保障・人口問題研究所が発表した「将来推計人口」によれば、出生率は5年前の前回推計時の「2065年に1.44」が、今回「2070年に1.36」へと減少ペースが加速した。もっとも、21年の出生率は1.30なので、今後上昇するという推計には首をひねるしかないのだが、いずれにしても、この国の少子化問題は、小手先の弥縫策ではどうにもならないことをハッキリと示している。
 経済評論家の斎藤満氏が言う。
 「岸田政権の少子化対策は2つの面で的外れです。児童手当の拡充など分配政策を進めていますが、そのためには誰かが負担をしなければならない。まずは経済全体のパイを大きくしなければなりません。所得が増えていくという将来への期待が持てなければ、子どもは増えない。経済が成長しなければ問題は解決しません。
 もう1つは、すでに子育てしている層より、非正規雇用などで収入が少なく、子どもが欲しくても持てない、結婚したくてもできないという層を集中的に支援すべき。現状のたたき台では、本当に必要な人たちを支援できていません」

国家の基本は経済力。軍拡優先の政治に未来はない
 国会では防衛費増額に必要な財源を確保するための特別措置法案の審議が進んでいる。
 2023年度からの5年間で43兆円という防衛費大増額のため、税外収入や歳出改革、決算剰余金といったありとあらゆる“余り金”が防衛費に充てられるそれらを貯める「防衛力強化資金」なる“別財布”までつくり、それでも足りないから増税するというのである。
 野党の立憲民主党が、赤字国債を財源とする補助金の剰余金が「防衛力強化資金」に使われるのは、「財源ロンダリングで『隠れ赤字国債』だ」と批判したが、岸田政権は聞く耳持たずだ。剰余金は国庫に返して有効活用すべきだし、事実上の借金まで使って防衛費を増強するのは、どう考えても身の丈を超えている。
 そもそも、1000兆円を超える借金を抱える財政逼迫国家なのだから、貴重な財源の使い道は、あらゆる経費を横に並べて優先度を検討しなきゃおかしい。なぜ防衛費だけが特別扱いされ、社会保障、教育、少子化、経済対策などは後回しにされるのか
 ソフトなイメージで「所得倍増計画」を掲げて自民党総裁選に勝利したため、最初は多くが騙されたが、岸田は「スキャンダルのない安倍」と言われるタカ派がその正体「今日のウクライナは、明日の東アジアかも知れない」と台湾有事を煽り、バイデン米国が望むままに防衛費をGDP比2%という巨額に引き上げ、米軍と自衛隊の一体化を進め、「防衛装備移転三原則」の見直しで殺傷能力のある武器輸出も解禁する。
 米国べったり首相が軍拡一辺倒に舵を切り、増税まで課せば、経済が成長するわけないのである。

国権の最高機関で低レベルの議論
 政治家の劣化も著しい。象徴的なのが、自民党議員のパーティーでの谷国家公安委員長の失言だ。和歌山で岸田の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件をめぐり、視察先で警察庁から連絡を受けた後も「うな丼をしっかり食べた」と挨拶し、問題になった一件である。
 警察庁を管理する組織のトップが緊張感ゼロでは資質に疑問符が付くが、その谷をめぐって参院本会議で野党が「うな丼大臣は即刻更迭を」と求め、岸田が「引き続き職務に当たってもらいたい」と答弁するやりとりを見ていると、国権の最高機関であまりの低レベルな議論が行われていることに情けなくなる。
 岸田が衆院を解散しなければ、あと2年は政権安泰。こんな亡国政権が無風で続けば、この国は静かに沈没していくだろう。
 今月発売されたばかりの著書「分断と凋落の日本」でこの国の劣化をトコトン総括した元経産官僚の古賀茂明氏はこう言う。
「国家の基本は軍事力ではなく、やはり経済力。軍拡優先の逆行した政治がこのまま行われていけば、戦争になろうが、戦争になるまいが、日本は破綻への道まっしぐらです。仮に戦争になれば、財政的にも厳しくなって敗北するだろうし、それ以前に、戦費調達のために国債を発行するような国は信用失墜で破綻する
 運よく戦争にならなかったとしても、あらゆる財源が軍事費優先で投入されていくので経済成長はなく、国民生活も再生しない。つまり、軍拡優先の政治では未来はありません。国が滅びるのかどうかの分かれ道にいるのに、ウナギだサルだの議論をしているこの国の政治は、その時点で終わっていると言うしかない。国民は危機感を持ち、早く目を覚まさないといけない」
 もはや手遅れかもしれないが、座して死を待つぐらいなら、やれることがあるはずだ。