2023年4月4日火曜日

04- 世界は意外に早く多極型になる/OPEC+の減産は米覇権潰し(田中宇氏)

 フリーの国際情勢解説者 田中宇氏が、2日と4日に立て続けに2つの記事(題記)を出しました。
 米国の覇権多極化指向は田中宇氏が早くから予見し20年来主張してきた事柄です。それは結果的にそうなるというのではなく、為政者が無自覚ながら着実にそれを指向しているというやや複雑な指摘なのですが、ここにきて多極化が俄かに加速して世界は意外に早く多極型になるという展開になりました。
 昨春ウクライナ戦争が起き、世界は、金融バブルで保持されている米覇権国側と世界の資源類の大半を握って非ドル化・金資源本位制を目指す多極型の非米側に決定的に分割されました。
 米国の覇権は軍事力以外では金融バブルだけで保持されていたのですが、先月から米欧銀行が連鎖破綻を起こしたのに加えて、今度のOPEC+の原油減産策は米国側の覇権やドルを潰すことを狙ったものなので、米覇権の衰退と多極型世界の具現化が急に進展すると見られています。

 仏マクロン大統領とEU首脳のフォンデアライエンが5日から中国を訪問しますが、表向きは「中国に対し、ロシアと親しくするなと加圧しに行く」ことになっていますが、実際は「非米側から資源類を買わせてください」と頼みに行くことだと田中氏は見ています。米英サイドの主要国による綻びです。
 5月のG7会議は、中国を制裁し先進諸国の半導体製造機器を中国に売らないようにすることを決めるようですが、米欧の巨大な金融バブルが崩壊すれば必然的に半導体の需要も落ち込むのに対して、中国など非米側は長期的な発展に向かうので、半導体産業も発展する中国側を選ぶ企業が増えることになります。従ってG7の中国制裁は、中国でなくG7諸国を打撃するというウクライナ開戦後の対露制裁と同じ構造を持っています。
 2つの記事を紹介します。
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世界は意外に早く多極型になる
               田中宇の国際ニュース解説 2023年4月2日
米覇権の衰退や覇権多極化はこれまで、潜在的な動きが多かったし、急進しているように見えなかった。多極化は私の妄想だと思う人も多かった。昨春ウクライナが開戦して、世界が、金融バブルだけで保持されている米覇権の米国側と、世界の資源類の大半の握って非ドル化・金資源本位制を目指す多極型の非米側に決定的に分割され、いずれ米国側が金融バブル崩壊して覇権衰退して世界が多極型に転換する流れが見え出した後も、この流れを指摘する人は少なかった。しかし先月から、米欧銀行の連鎖破綻と、中国による多極型世界の構築が始まり、米覇権衰退と多極型世界の具現化が急に進展し始めた。 I Love How Everyone Pretends The Bank Crisis Is Over) (China And Brazil Strike Deal To Ditch The US Dollar
中国に覇権運営なんてできるはずないと米国側のマスコミ権威筋が言い続けているうちに、中国は、イランとサウジアラビアの和解を実現して米英が不安定化し続けてきた中東を安定させ、ロシアとの結束を強めて中露で多極型体制を推進していくことを決めた(ロシアは先日7年ぶりに外交の基本戦略を改定し、米覇権への対抗と、多極型世界体制の防衛を盛り込んだ)。 (Russia’s revised foreign policy concept: Key points
多極型体制は、諸大国が合意できる範囲で協力し合うゆるやかな体制で、米国の傀儡になることを参加国が強要される米覇権体制と対照的だ。ブラジルやインドなど諸大国から、イランやインドネシアやナイジェリアなど中規模国まで、米国支配に服従せねばならない米覇権よりも、自国の希望に沿って動ける多極型体制の方が良いと考えている。米国側より非米側の方がはるかに国家主権を認められるそのため中露が多極型体制を正式提案したら、多くの国がすぐに賛成して米覇権を見捨てて非米側に鞍替えした。これまでBRICSや上海協力機構などの非米側で限定的に機能するだけだった多極型体制が、急に世界の主流になった。「中国とインドが主導権争いするので多極型は機能しない」などと頓珍漢を書いている日本などのマスコミは、多極型の特質を理解しておらず不勉強だ。(勉強したら米傀儡プロパガンダであり続けられない) China is winning the diplomatic struggle against the US) (China and India battle for leadership of Global South
非米側は、多極型であると同時に、世界の資源類の大半を握っている。主要な産油諸国のうち、米カナダ英ノルウェー以外はすべて非米側だ。3大ガス産出国(露イランカタール)もすべて非米側だ。産油国の盟主であるサウジアラビアがこの半年で、米国を捨てて非米側に転向したことが象徴的だ。サウジは3月29日、中露が作る上海機構の対話パートナーになると閣議決定した。上海機構は911事件のころ、米国が「テロ戦争」でユーラシア内陸部を不安定化しようとする策に対抗し、中国とロシアが長年の対立を解消して結束し、中央アジア諸国も誘ってユーラシア内陸部を安定化するために作った安保経済の協力組織だ。上海機構は、2009年に初めて首脳会議を開いたBRICSより古く、多極型の国際体制の元祖だ。 Saudi Arabia Joins Shanghai Cooperation Organization As It Embraces China
非米側が世界の資源類を握った状態で結束し、米国側の言うことを聞かなくなった。新たな世界が突然出現している。米国側の諸国(先進諸国)は米国の傀儡であり、米国が非米側を敵視しているので追随せざるを得ない。だが今後時間が経つにつれ、米国側は資源類が不足してインフレになり、経済を回せなくなる。米国側の諸国は、表向き「中露はけしからん」と言いつつ、非米側の主導役である中国と親しくしていかねばならない。 (Pozsar's Warning Of Dollar's Waning Sway Comes True
その動きの象徴が、間もなく仏マクロン大統領とEU首脳のフォンデアライエンが中国を訪問する件だ(4月5-8日)。マクロンらは表向き「中国に対し、ロシアと親しくするなと加圧しに行く」と言っている。だが訪中の本当の主旨は多分そうでなく、非米側から資源類を買わせてくださいと頼みに行くことだ。最近、史上初の人民元建てのLNG輸出が、中国からフランスに向けて行われている。こういう感じで今後もお願いしますという話だ。 China Settles First LNG Trade In Yuan) (France Willing To Work With China On 'Peaceful Solution' For Ukraine
G7は団結して中国を制裁し、先進諸国の半導体製造機器を中国に売らないようにすると決める。半導体産業は、中国と米国側のどちらかを選ばねばならない。米国側に残るなら中国と縁を切らねばならないし、中国側に行くなら米国側との縁切りになる。今までなら、この二者択一に対する答えは米国側であり、疑問の余地はなかった。だが、今後は違う。米国側は、これから米欧の巨大な金融バブルが崩壊し、半導体の需要も急減する。対照的に中国など非米側は、多極型になるので経済が安定し、長期的な発展が具現化する。好戦的な米英がいないので、多極型世界は国際紛争が激減する。半導体の需要も増加する。衰退する米国側でなく、発展する中国側を選びたい企業が増える。G7の中国制裁は、中国でなくG7諸国を打撃する。ウクライナ開戦後の対露制裁と同じ構造を持っている。 US-China Decoupling Will Force Europe To Choose Sides Sooner Rather Than Later
米欧の銀行危機は間もなく再燃しそうだ。米国の経済学者ヌリエル・ルビーニが最近、米国のほとんどの銀行は、米連銀の連続的な利上げを受けて、すでに支払不能の状態にあると指摘した。金融システムが脆弱化し、わずかな衝撃で危機が再燃し、しだいに全崩壊に向かっていく。非米側は、米国がドル決済の禁止を経済制裁として使うので回避措置として貿易決済を非米諸国の通貨で行う非ドル化を進めたが、これが奏功し、米国側が金融崩壊しても非米側は意外に被害を受けなくなっている米覇権の崩壊は不可避だ。その後の米国側(日本とか)がどうなるのか予測していく必要があるが、権威筋はこの事態を全く無視している。 Nouriel Roubini claims that most U.S. banks are technically near insolvency
米国側と非米側に決定的に分裂した今の世界は、資源類を非米側に握られ、欧日など米国側(米傀儡諸国)は、中国など非米側を敵視し続けることができなくなり、口だけ米傀儡であり続けつつ、裏でこっそり中国にすり寄って非米側に非公式参加せざるを得ない。日本は安倍晋三が数年前に米中両属体制を敷いたが、今や欧州も米中両属をやらざるを得なくなった。それがマクロンとフォンデアライエンの訪中の意図だ。米国は経済的に金融崩壊に直面し、国内政治的に共和党への弾圧など頓珍漢が悪化しており、国際政治的に孤立化していく。世界は意外に早く多極型になる


OPEC+の石油減産は米覇権潰し策
                   田中宇の国際ニュース解説 2023年4月4日
サウジアラビアとロシア、その他の産油諸国で構成するOPEC+が4月2日に、日産115万バレルの石油減産を5月から実施すると決めた。OPEC+が減産を決めた理由をマスコミは報道しておらず「減産は得策でない」という米政府のコメントを報じているだけだ。減産は単なる愚策で、OPEC+が馬鹿なだけか??。実は全くそうでない。 Death By 1.15 Million Cuts
この減産によって、米欧は不況になっているのにインフレがぶり返し、金融救済のために利上げをやめたい米連銀(FRB)は、インフレ対策への再注力が必要になって利上げをやめられず、利上げ傾向が米欧の金融危機を再燃させ、ドルや米覇権の崩壊が早まる。サウジが米国側から非米側に転じてすっかり非米側の組織になったOPEC+は、米国側と非米側の対立激化の中、米国側の覇権やドルを潰すために今回の減産を決めた。 Oil Shock A Harbinger Of Geopolitical Shocks To Come
米国側のマスコミは、非米側に負けそうなことを報じたがらないので、OPEC+がなぜ減産したか伝えず、得策でないという米政府のコメントだけ報じている。石油減産は実のところ、米覇権の維持にとって「得策でない」のだ。セントルイス連銀のブラードはそれを示唆したが、多くの人々には明確に伝わらない。米国側の人々は、自分たちの状況を知らされないまま凋落していく。 Bullard Admits OPEC Cuts May "Make [Fed's] Job A little More Difficult"
今回の減産の半分近くにあたる日産50万バレル分は、サウジが担当する。この減産は、米国側から寝返ってきたサウジが非米側にもたらす新兵器だ。これまで覇権体制に無関心を装ってきた非米側が、急に団結して米覇権を引き倒そうと動き出している。ブラジルやインドが、米ドルを使わない貿易体制を次々に宣言している。対米従属一本槍だった日本が「うちは資源がないですから」と言い訳しつつ、G7の対露制裁談合を破る高価格でロシアから石油を輸入し続けることを発表している。英国では、日本よお前もか的に報じられているが、日本人自身は気づいていないっぽい。 Japan breaks with western allies and BUYS Russian oil above $60-a-barrel cap) ("It's No Longer A Unipolar World" - OPEC+ Makes Surprise 1 Million-Barrel Oil Production Cut
多極化や米覇権衰退の予兆は2003年のイラク侵攻後からあったが、最近までほとんど潜在的な動きだけだった。しかしこの数週間で、この20年間に起きるはずだった多極化や米覇権衰退が、急に顕在化している。レーニンが言っていた「何十年も何も起きなかった後に、何十年分もの転換が数週間で起きる」という革命的な転換が、今まさに起きている。(頓珍漢なマスコミ的にはまだ起きたことになってないけど) From Brazil To Bakhmut, American Power Wanes
東南アジアのASEANは、対米従属諸国の集まりだと思っていた。ところがASEANは最近、域内の貿易決済で、ドルや円やユーロを使うのをやめて代わりに加盟諸国の地元通貨を使うことに関する議論を開始した。人々の消費の決済としてビザやマスターカードの米国系クレジットカードのブランドを使わず、代わりに地元銀行が発行するカードを使う案も出されている。米国と中国の両方と親しいASEANは、地政学的な米中対立が激化する中で、その対立の影響を受けないよう、自前の決済機構を用意することにした。昔から賢明なバランス感覚。さすがだ。 (Key Asian bloc looking to dump dollar and euro – media
香港は、中国を支配したがる英国の植民地だった。香港は、米英欧(米国側)の企業や投資が中国に入る際のオフショア⇒業務委託拠点だった。英米が衰退し、中国は多極型世界の覇権国の一つになる。歴史的な役割が終わり、香港が衰退しても不思議でない。だが最近、中国と親密になった大金持ちなサウジの国営石油会社アラムコが、中国の製油所に資本参加するとともに、香港で株式を上場する話が出ている。香港は、米国側でなく、非米側で中国に慣れていない企業や投資が中国に入る際のオフショア拠点として生きていく。 World's Biggest Oil Producer Will Build $10BN Petrochemical Complex
台湾からは国民党の馬英九・元総裁が上海を訪問した。民進党の蔡英文・現総裁が訪米するのに時期を合わせて対抗した。来年の選挙を見据えている。台湾で米中戦争かと思ったら、そうじゃない、国共合作だという。戦争より合作の方が良いよね。国民党はまだ終わってなかった。いま国際政治経済はとても面白い。 Look to Sun Yat-sen, Taiwan’s Ma Ying-jeou urges on landmark mainland China trip