2023年4月3日月曜日

テレビはなぜ腐ったのか…元テレビ朝日プロデューサがえぐる闇と問題点

 メディアの腐敗=政権迎合の姿勢は目に余るもので「惨状」というしかありません。

 岸田政権による憲法違反の大軍拡にどうして必死に反対しようとしないのか、いまの「新しい戦前」は、太平洋戦争に向かったかつての「戦前」の在り方を思わせるものです。
 戦争直後のあの反省は一体何だったのでしょうか、GHQの手前という偽りの言辞だったのでしょうか。情けない限りで、さすがに政権からの独立度が世界で71位だけのことはあります。
 その中でも際立っているのがテレビ界です。安部・菅政権の約10年間で気骨のあるMCやコメンテータは全て排除され、政権を批判する番組はなくなりました。政権を批判するのがマスコミの役割の筈なのに … です。
 テレビ局の中でもTV朝日はかつては政権への批判精神を持っていましたが、安倍氏寄りの人間が報道局のトップに就くなどしたためにいまや見る影もありません。
 腐ったテレビに誰がした?『中の人』による検証と考察の著書を持つ元TV朝日ディレクター・プロジューサの鎮目博道氏を日刊ゲンダイがインタビューしました。
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テレビはなぜ腐ったのか…元テレビ朝日“中の人”がえぐる闇と問題点、そして未来
                           日刊ゲンダイ 2023/04/02 
外見と肩書で信用してしまう危うさに気づくべき
 現役テレビマンがテレビの闇を鋭く突いた「腐ったテレビに誰がした?『中の人』による検証と考察(光文社)が話題になっている。著者はテレビ朝日で報道、情報、ワイドショーの制作をしてきた“中の人”で、元同僚たちからは「よく内情を書いてくれた」と連絡が来ているという。「今のままだとテレビ離れはますます進む」と語る鎮目博道氏に、テレビの問題点と未来について聞いた。
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 ──ワイドショーといえば、コメンテーターとして引っ張りだこだった国際政治学者・三浦瑠麗氏が突如テレビから消えたことは衝撃的でした。太陽光発電事業への出資を名目に、およそ10億円をだまし取ったとして瑠麗氏の夫が逮捕され、瑠麗氏の発言も問題視されています。
「ワイドショーの闇の部分のひとつで、以前から疑問を持っていました。コメンテーターの起用は複数の意味で楽ができるんです。まず、コメントに責任を持たなくていいし、コンプライアンス問題もない。文化人はタレントと違い、謝礼はお車代ぐらいですが、テレビに出ていること自体が宣伝になるので出演してくれる。衣装代もかからないし、大幅にコストカットできるんです」

 ──今回、瑠麗氏は夫の事業について、公の場で推薦していたことも問題になっています。
個人の宣伝に公共の電波が使われてしまうことにもなりかねないということが露呈した一例であるとともに、外見と肩書で信用してしまう危うさに気づくべきだと思います」

 ──三浦氏が「めざまし8」のコメンテーターを務めていたフジテレビは、三浦氏が同局の番組審議会の委員も務めていたにもかかわらず降板について「制作の都合」というだけで説明を果たさぬままです。
「他人のことは探るのに、自分のあらは報じないというのも不公平ですし、テレビのご都合主義で重大な犯罪を報じないのは異常。ニュースを扱う番組なのに信頼度を失うと思います」

収録より生放送のほうが楽なんです

 ──最近はワイドショーや情報番組など長時間生放送が増えていますね。
「実は収録より生のほうが楽なんです。収録番組だと、店を取材すれば編集し、リアクションを編集し、雪だるま式に編集作業が増え、その分人件費がかかる。生放送で出演者のコメントで埋めていくほうが制作側としては手抜きができる。その結果、ワイドショーや情報番組など2時間超えの番組が増え、1時間で2ネタであとはトークで埋めているのも少なくありません」

 ──ニュースソースにも問題があるといいます。
「コロナ禍を経てニュースソースの使いまわしが増え、2日も3日も前のニュースを流していて、もう鮮度はなくニュースではなくなってしまっていることがある。最近は視聴者のスマホからの投稿やSNSの引用で成り立っていて、SNSのまとめサイトと変わりません。こうしたまとめ番組ではパネルの出来の良しあしが視聴率を左右するので、パネル構成が得意な若手ADの取り合いが起きています。“パネルとトークで埋める”。これを報道と呼ぶのはどうか疑問に思います」

 ──今年は日本でテレビ放送が始まって70年の節目。ネットの台頭、配信動画の普及などで、かつては娯楽の王様と呼ばれたポジションからテレビ局は転がり落ちてしまいましたが、未来はあるのでしょうか。
「『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)も終了しますが、ベテラン番組はますます減ると思います。ベテラン勢のギャラは一度上がったものは下げられず、若手に代えることで制作費が抑えられる。またベテラン勢も“もういい”という風潮になってきている。
 現場の若返りが進み、今まで一緒にやってきたスタッフたちが現場を離れ、若いタレントとスタッフの和気あいあいとした現場に疎外感を感じる。言いたいことも言えない不自由な中で頑張ったところで視聴率が上がるでもなく、報われない。さらに年を重ね体力的にも以前ほど楽ではない中で“もういいや”という気分になってくる。後ろ向きな理由による新陳代謝が進んでいます」

現実離れした“こうあるべき”のウソは視聴者に見抜かれている
  
 ──今後は深夜番組にも変化が起きるのでしょうか。
「もともと深夜枠は比較的予算をかけて実験的に放映するチャレンジ枠です。そこで人気が出るとゴールデン帯に引っ越しとなった。深夜枠は自由な雰囲気こそ魅力でしたが、ここも予算がなくなり、過去のエビデンスがあるものに走りがちになります。結果的に、人気番組の焼き直しみたいな企画しか通らず、新たな番組が、生まれない。制作的に閉塞感が広がるでしょう」

 ──なぜこうもテレビが衰退したのでしょうか。
「テレビ局内にあるいくつものピラミッドからくる“思い込み”だと思います。テレビの世界は、キー局が一番偉い、局員が高給取りで偉い、男社会でプロデューサーに女性は極端に少ない。テレビを支えるCMのメイン商品は女性のためのものばかりなのに、ピラミッドの頂点のオジサンたちの思い込みで制作されています。トレンドに皆が飛びついたバブル時代と異なり、これだけ多様化した今、十把ひとからげに“女性に人気”“Z世代に刺さる”というのも無理な話。ユーチューブやSNSに負けるのも無理はないと思います」

 ──ではどんな番組が救世主になりうるとお考えですか。
「人気番組の共通点は“リアル”と“パーソナリティー”。テレビだけが偉いという幻想を捨てて、足で稼ぐべきで、僕は足で稼ぐ“頼りないADくん”がテレビを救うと考えています。『オモウマい店』とか『家、ついて行ってイイですか?』とか『月曜から夜ふかし』は若いADくんたちがひたすら街に出て足で稼いだVTRがあってMCが料理している。
 頼りないADくんたちのけなげさに皆が手を貸し、リアルな表情が映像に出る。ユーチューブも同じで、出演・編集すべてセルフで粗削りだけど、リアルだから共感を得ている。テレビ局がつくった現実離れした“こうあるべき”のウソは視聴者に見抜かれているから低迷しているのです」
「ユーチューブやSNSを含め、映像メディアがこれだけ増えた今、テレビは特別なものでないし、公平性など期待されていないのではないでしょうか。日本オンリーで制作する必要はないし、制作陣の多様化が結果的に言論の自由を生むと思います。常に海外に売れるコンテンツを考えてきた韓国はスポンサーもたくさん集まり予算も増え、好循環ができているので研究に行こうと思ってます。自分の若い頃のようにチャレンジを楽しみ、テレビに関わるスタッフが生活を心配しなくても済むテレビ界に変わる一助になれたらと思います」
   (聞き手=岩渕景子/日刊ゲンダイ)

鎮目博道(しずめ・ひろみち) 1969年広島県生まれ。大学卒業後テレビ朝日に入社。ディレクター、プロデューサーとしてニュース番組「スーパーJチャンネル」、情報番組「スーパーモーニング」、ニュース番組「報道ステーション」などを担当。ABEMAの立ち上げにも携わる。19年にテレビ朝日を退社し、フリーディレクター、大学講師などで活躍。新著に「腐ったテレビに誰がした?『中の人』による検証と考察(光文社)がある。