2023年4月24日月曜日

EUの自立に米国は大きな不安/ウクライナでの戦争継続は敗北を隠すため

 フランスのマクロン大統領はフランスの経済人を多数引き連れて4月上旬 中国を訪問し、習近平主席には丁重に扱われ、フランスの企業はいくつもの有利な貿易協定を獲得しました。そのためかどうかマクロンは帰国の機内で2社独占の取材に応じ、欧州の戦略的自治を提唱し台湾をめぐる米中対立に巻き込まれるのを避けるべきだと述べました。

 フィニアン・カニンガムが、「ヨーロッパの『戦略的自立』に関するマクロンの思いは空騒ぎだがアメリカの不安は明白」という記事を出しました。
 同氏はそれを訪中の満足すべき成果の余韻の中の発言と見たのか、マクロンの思いをどこまで本気か分からない空騒ぎと述べていますが、同時に欧州の大統領が自国やEUの他の加盟国が中国との関係自国の利益を優先すべきで、特に台湾をめぐる紛争を回避すべきだと断言するのは、当たり前の権利だとも述べています。
 実際に今度のウクライナ戦争で見せつけられたのは、欧州も、日本ほどではないにしても米国につき従っているという姿で、結果的にロシア~欧州間のエネルギー貿易は見事に破壊され、それによる資源価格の高騰によっていまや欧州は英国を含めて経済的な大混乱を来たしました。
 そしてマクロン発言に対するワシントンの激怒は、米国一極覇権の秩序は衰退しつつあり代わりに多極世界が不可避的に出現していて、中国ロシアやグローバル・サウスが目指している多極秩序実現すれば、債務に窮した米国資本主義経済とかつての世界支配は、それ以前の多くの帝国と同様崩壊することを知っているからだと述べています。
 併せて櫻井ジャーナルの記事「敗北を見えなくするため、ネオコンはウクライナでの戦乱を継続させる」を紹介します。
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ヨーロッパの「戦略的自立」に関するマクロンの思いは空騒ぎだがアメリカの不安は明白
                マスコミに載らない海外記事 2023年4月22日
                 フィニアン・カニンガム  2023年4月12日
                       Strategic Culture Foundation
 地政学的には無力で信頼できる家臣であるにもかかわらずのマクロン発言に対するアメリカの怒りは教訓的だ。
 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は大ヨーロッパの戦略的自治を提唱し、旧大陸は台湾をめぐる米中対立に巻き込まれるのを避けるべきだという発言はアメリカを興奮させた。
 マクロンは習近平国家主席に歓迎されたように見える中国からの帰路発言した。報道によると、この訪問で、エリゼ宮が全国的抗議と経済的苦境に対するストライキに襲われる中、フランス企業は、いくつか有利な貿易協定を獲得した。

 ヨーロッパの戦略的自治に関するマクロンの思索に対するアメリカのいらだちは少なくとも二つの形で明らかになっている。
 マクロンは「ドゴール主義カード」を使っているとニューヨーク・タイムズが鼻であしらうように非難し、ウォール・ストリート・ジャーナルはフランス指導者を「台湾の過ち」で厳しく批判し「彼は中国侵略に対する抑止力を弱め、ヨーロッパに対するアメリカの支持を弱体化させる」と付け加えた。
 共和党のマルコ・ルビオ上院議員は明らかに不満を抱き、マクロンがヨーロッパ全体を代表して話しているのか、フランスだけを代表して話しているのか「速やかに」明らかにするよう要求した。むっとしたルビオは、アメリカは今後「中国の脅威」に注意を向けるから「お前たち[ヨーロッパ指導者]がウクライナに対処しろ」と言った。

 アメリカ騎士道の見当違いの感覚を笑いとばすべきだ。これは第一次世界大戦や第二次世界大戦のように、連中が再びヨーロッパを紛争から救っていると信じているアメリカお決まりの言い草だ。ルビオが示唆するように、アメリカ政府は「中国侵略」とされるものに「対処」しながら、ヨーロッパを血なまぐさい争いの中に見捨てるつもりなのだ。
 現実は正反対だ。ヨーロッパが第二次世界大戦以来最悪の戦争に巻き込まれているのは、まさに、対ロシア代理戦争を仕掛けて、戦略的なロシア-ヨーロッパ・エネルギー貿易を破壊するワシントンの狙いに、無気力な指導者連中が奴隷のように従っているためだ。何十年にもわたるアメリカ主導のNATO拡張主義は「ヨーロッパを守る」という名目で、この危険な岐路を生み出してきた。ウクライナでの戦争は手に負えない覇権主義野望を強化するワシントンの必要性によって推進されている。ロシア中国との対決はヨーロッパを属国植民地として従属させるアメリカの必要性と同様、ワシントン帝国主義ゲームの不可欠な要素だ。
 アメリカの政治家やマスコミにとって、ウクライナを巡って、ヨーロッパにある種高貴な恩恵を与え、ヨーロッパの乙女を「野蛮なロシア人」から救っているかのように描くのは身勝手な偏愛だ。それは実に陳腐で虚偽だが、欧米メディアによる洗脳のおかげで、使い古された比喩は依然まだ機能している

 マクロン発言をめぐる騒動が示しているのは、ヨーロッパ指導者連中が、いかにアメリカ支配下にあるかということだ。ヨーロッパの大統領が自国や欧州連合の他の加盟国が中国との独立した関係を追求する上で自国の利益を優先すべきで、特に台湾をめぐる紛争を回避すべきだと断言するのは、日常的な常識や理性や、当たり前の権利だと思える。アメリカ政治階級が猛烈な形で反応したのは、皮肉にもヨーロッパ人が実際どれほどひどく従属しているかを示している。マクロンは頭が冴えた瞬間に発言したが、ヨーロッパ家臣が、あえて命令から外れたがゆえに、アメリカの反発は条件反射的で厄介だ
 さらに重要なことに、アメリカの怒りは威圧的で強気かもしれないが、ワシントンの不安がいかに脆弱かも明らかにしているのだ。
 アメリカ支配層は、アメリカ・グローバルパワーが慢性的、体系的に危機だと益々感じている。アメリカ一極秩序は衰退しつつあり、多極世界が不可避的に出現している。かつて強大な米ドルは、もはやかつてのような安全を提供しない。中国やロシアやグローバル・サウスは、アメリカ・ドルや独特で恣意的な特権を不要にする多極秩序を益々強く求めている。それが完全に実現すれば、債務に窮したアメリカ資本主義経済とかつての世界支配は、それ以前の多くの帝国と同様、崩壊するだろう。
 これが、ワシントンがマクロンの「横柄さの」爆発に非常に激怒している理由だ。アメリカ権力は従属と独裁への固執に依存している。家臣による独立に関するつぶやきは、その考えが広まったり採用されたりしないよう容赦なく潰さなければならない。
 だがエマニュエル・マクロンはシャルル・ド・ゴールではない。ドゴールは冷戦初期の数十年間、フランスをNATO軍事同盟から一時的に脱退させ、真のフランスの独立を示した。ドゴールの独立は、アメリカ軍産複合体と帝国国家に挑戦したジョン・F・ケネディを最終的に殺害したのと不思議な類似性を持つ暗殺策謀を招いた。

 ほぼ4年前マクロンはNATOに「脳死」とレッテルを貼った。その後、彼の発言はヨーロッパの中国との独立した関係の呼びかけに関し今引き起こしたと同様の論争を引き起こした
 NATOに対する彼の「脳死」軽蔑にもかかわらず、マクロンはヨーロッパの独立を実現するため全く何もしなかった。他のEU指導者同様、マクロンもウクライナにおけるワシントンの対ロシア戦争の道を哀れにたどってきた。マクロンはワシントンの地政学的ニーズに完全に従ってフランス兵器で戦争を煽ったのだ。
 だから戦略的自立に関するマクロンの最新の願望をめぐる全ての騒ぎは「空騒ぎ」だ。マクロンは大言壮語が好きなマリオネットで、ドゴールの見劣りする模倣だ。彼はアメリカの覇権野心を弱体化させるため実質的なことは何もするつもりはない。中国からの帰国便で彼はおそらく中国国家の壮観の余波(無駄な)壮大な欲望感覚に負けたのだ。
 地政学的には無力で信頼できる家臣であるにもかかわらず、マクロン発言に対するアメリカの怒りは教訓的だ。それが本当の話だ。帝国の力がどれほど脆弱になっているか連中は知っているので、ほんの僅かの反対意見でもワシントンをパニックに近い状態に陥らせるのに十分なのだ
 マクロンはどうでも良いが、アメリカの激しい反応は注目に値する。

記事原文のurl:https://strategic-culture.org/news/2023/04/12/macron-musings-europe-strategic-autonomy-much-ado-about-nothing-but-us-insecurity-palpable/


敗北を見えなくするため、ネオコンはウクライナでの戦乱を継続させる 
                         櫻井ジャーナル 2023.04.23
 シリアに続き、ウクライナでもネオコンはロシアに敗北した。その事実を誤魔化すために戦闘の継続は有効なのだろうそのためにアメリカ政府はウクライナのクーデター政権に対する軍事支援を継続しようとしているが、その結果、戦場になった国の人びとは破壊と殺戮の犠牲になる。
 2010年の大統領選挙で選ばれたビクトル・ヤヌコビッチ大統領をアメリカのバラク・オバマ政権が2014年2月、ネオ・ナチを使って排除したところからウクライナでの戦乱は始まる
 そのクーデターは2013年11月からキエフのユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で始まった抗議集会から始まるが、当初は「カーニバル」的なイベントにすぎず、問題はないように見えた。様相が一変するのは年明け後。ネオ・ナチが前面に出てきたのだ。
 ネオ・ナチのメンバーはチェーン、ナイフ、棍棒を手に石や火炎瓶を投げ、トラクターやトラックを持ち出してくる。ピストルやライフルを撃っている様子を撮影した映像がインターネット上に流れた。
 ユーロマイダンでは2月中旬から無差別の狙撃が始まり、抗議活動の参加者も警官隊も狙われた。西側ではこの狙撃はヤヌコビッチ政権が実行したと宣伝されたが、2月25日にキエフ入りして事態を調べたエストニアのウルマス・パエト外相はその翌日、逆のことを報告している。バイデン政権を後ろ盾とするネオ・ナチが周辺国の兵士の協力を得て実行したということだ。
 7割以上の有権者がヤヌコビッチを支持していたウクライナの東部や南部では反クーデターの機運が高まり、クーデターから間もない3月16日にはクリミアでロシアへの加盟の是非を問う住民投票が実施された。投票率は80%を超え、95%以上が賛成する。
 その一方、オデッサでは反クーデター派の住民がネオ・ナチに虐殺される。そうした中、5月11日にドネツクとルガンスクでも住民投票が実施された。ドネツクは自治を、またルガンスクは独立の是非が問われたのだが、ドネツクでは89%が自治に賛成(投票率75%
)、ルガンスクでは96%が独立に賛成(投票率75%)している。この結果を受けて両地域の住民はロシア政府の支援を求めたが、ロシア政府は動かない。そして戦闘が始まった。クリミアやドンバス(ドネツクとルガンスク)を制圧できなかったのはアメリカ/NATOにとって大きな誤算だった。
 当時、軍や治安機関にもネオ・ナチ体制を許さないメンバーは存在、ドンバスの反クーデター軍へ合流したと言われている。そうしたこともあり、ドンバスでの戦闘は反クーデター軍が優勢だった。
 そこでドイツやフランスが仲介するかたちで成立したのがミンスク合意だが、キエフのクーデター政権は守らない。アメリカ支配層のやり口を知っている人びとはこの合意について時間稼ぎに過ぎないと言っていたが、その推測は正しかった。アンゲラ・メルケル元独首相は昨年12月7日にツァイトのインタビューで認め、その直後にフランソワ・オランド元仏大統領はメルケルの発言を事実だと語っている。
 それから8年、アメリカ/NATOはクーデター体制の軍事力を増強、ソレダルでは岩塩の採掘場を利用して全長200キロメートルという「地下要塞」が築かれたが、同じようの要塞はドンバスの周辺に広がっているようだ。ドンバスへ軍事侵攻して住民を虐殺し始めればロシア軍が介入、それを迎え撃つための地下要塞だと推測する人もいる。

 この推測が正しいなら、相当数のロシア軍がドンバスで足止めを食うことになり、クリミアが攻撃されても兵力を割けないということも想定できる。2014年にクーデターがあった直後、ウラジミル・プーチン大統領の側近のひとりはアメリカ/NATOがドンバスを攻撃した後、クリミアへ軍事侵攻するとテレビの討論番組で語っていた。
 ウクライナ軍は昨年3月にドンバスへの軍事侵攻を始める予定だったと言われているが、その直前にロシア軍が動く。地上部隊を投入するのではなく、ミサイルを打ち込んだのだ。地上では現地部隊のほか、チェチェンの義勇軍や傭兵会社ワグナー・グループが主に使われている。
 ドンバスを攻撃するために集結していたウクライナの軍や親衛隊はミサイル攻撃で大きなダメージを受け、要塞化された拠点も陥落していった。
 親衛隊の中核だったアゾフ特殊作戦分遣隊(通称、アゾフ大隊あるいはアゾフ連隊)が拠点にしていたマリウポリもそうした要塞のある場所だったが、ロシア軍か介入した翌月になると親衛隊の人質になっていた住民が解放され始め、実態を証言、それを現地に入っていたジャーナリストが伝える。(例えば​ココ​や​ココ​や​ココ​や​ココ​)
 その前から、脱出した市民がマリウポリにおけるアゾフ大隊の残虐行為を証言、映像をツイッターに載せていた人もいた。その人のアカウントをツイッターは削除したが、一部の映像はインターネット上に残っている。

 フリーランスのジャーナリストのほか、フランスの有力メディアTF1やRFI、あるいはロシアやイタリア人の記者とマウリポリへ入ったとしている。その結果、西側の有力メディアが流す「報道」が偽情報、あるいは作り話だということが明らかになっていく。ウクライナのクーデター体制を支援している西側の私的権力はそうした情報をインターネット上から必死に消してきたが、人びとの気をくすべてを消し去ることはできない。
 西側の有力メディアがどのように情報を改竄するかの具体例も明らかにされた。例えば、昨年3月9日にマリウポリの産婦人科病院が破壊された攻撃の場合、西側メディアはロシア軍が実行したと宣伝してた。
 その宣伝でアイコン的に使われたマリアナ・ビシェイエルスカヤはその後、報道の裏側について語っている。彼女は3月6日、市内で最も近代的な産婦人科病院へ入院したが、間もなくウクライナ軍が病院を完全に占拠、患者やスタッフは追い出されてしまう。彼女は近くの小さな産院へ移動した。最初に病院には大きな太陽パネルが設置され、電気を使うことができたので、それが目的だろうと彼女は推測している。
 そして9日に大きな爆発が2度あり、爆風で彼女も怪我をした。2度目の爆発があった後、地下室へ避難するが、その時にヘルメットを被った兵士のような人物が近づいてきた。のちにAPの記者だとわかる。そこから記者は彼女に密着して撮影を始めた。彼女は「何が起こったのかわからない」が、「空爆はなかった」と話したという。
 つまりロシア軍の空爆ではなかったということだが、APだけでなく西側の有力メディアはロシア軍の攻撃で産婦人科病院が破壊され、母親と乳児が死傷しているというストーリーにされてしまった。
 問題の病院から患者やスタッフがウクライナ軍に追い出されたことはマリウポリから脱出した市民も異口同音に語っている。その部隊はおそらくアゾフ連隊だろう。脱出した市民によると、脱出しようとした市民をネオ・ナチは銃撃、少なからぬ人が死傷したという。また市民の居住空間に入り込み、ロシア軍の攻撃を避けようとしてきたともしている。
 ドイツの雑誌​「シュピーゲル」はマリウポリのアゾフスタル製鉄所から脱出した住民のひとり、ナタリア・ウスマノバの証言を3分間の映像付きで5月2日に伝えたのだが、すぐに削除する。ショルツ内閣や米英の政権にとって都合の悪い事実、つまり残虐なウクライナの占領軍からロシア軍が救い出してくれたと話しているからだ。(ノーカット映像
 こうした住民の証言を利用し、固有名詞を入れ替えて話を逆にし、ロシア軍を悪者にする「報道」を続けている西側の有力メディアはまだ存在するようだ。
 2014年のクーデターで内戦をウクライナで始め、アメリカ/NATO軍とロシア軍を衝突させようとしてきたのはネオコンにほかならない。そのネオコンは遅くとも1992年初めにはアメリカの国防総省を制圧、2001年9月11日の出来事で圧倒的な力を持った。
 統合参謀本部は支配しきれていないようだが、国務省やCIAは影響下にあり、宣伝機関として有力メディアも支配している。その有力メディアとも関係するが、多くのシンクタンクも支配されている。そうした仕組みによって人びとに幻影を見せ、彼らは世界を戦乱で破壊しようとしているのだ。