田中宇氏が掲題の記事を出しました。
石破氏がかねてから提唱している「アジア版NATO」がテーマです。
この構想について、岩屋外相は「直ちに設立するのは困難」と述べ、インドの外相も「念頭にない。構想を共有しない」と否定しました。
いずれにしてもどの国が仮想敵国なのか、という根本問題が明白でなく、もしもそこで紛糾するようであれば「結成」することなど出来ません。
その点は第二次大戦の直後、共産主義革命が広がりつつあった西欧で、米国が主導して「NATO」を結成した状況とは根本的に異なります。構想自体をポエム扱いする記事が出る所以でもあります。
そもそも石破氏の提唱する「アジア版NATO」の詳細が不明なので、記事を読んでもよく理解できません。とはいえ田中氏が、大きな流れの中で日本の対米従属関係をどのように変えるべきかにおいて、その一つの手段として肯定的に捉えようとしていることは何となく理解できます。
石破氏は総理総裁として初めて「日米地位協定」の改定に言及しました。それに対して米国は早々に「全く念頭にない」と一蹴したのは、関心を寄せていたことの証明でした。念頭に置いてもらわないことには困ります。
田中氏は、「石破は、既存の日米安保体制について、米国が軍事的に日本の安全を守ってくれる代わりに、日本は外交政策の決定権を米国に握られており、外交権を持たない日本は真の独立国家でないと考えている」と述べています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中国敵視を使って対米自立
田中宇の国際ニュース解説 2024年10月1日
日本の石破茂新首相は、中国包囲網の色彩を持つアジア版NATOの創設を提唱したり、8月に台湾を訪問するなど、中共の敵として名乗りを挙げている。独自の中国敵視でなく、中国敵視を強める米国のお先棒担ぎをしたがっている感じだ。
日米同盟をアジア版NATOに転換すると、本家NATOほどの縛りがないとしても、日本は自国周辺の防衛だけでなく、西太平洋からインド洋にかけての広域な中国包囲網に軍事関与・戦争準備せねばならない。米国から褒められること以外に、アジアの他国の領域に出ていって中国と敵対することに意味があるのか、という話になる。
米国は最近、中国との敵対を強める目的で、台湾への軍事関与を強めている。今回、石破が総裁選に出る前に訪台したことは、首相になれたら日本として台湾への関与を強め、米国の中国敵視の尖兵になりますよという表明になっている。
石破は、日本を中国の敵に仕立てることで対米従属・米傀儡色を強めたいように見える。
しかし米国では、石破が対米従属を強めるのでなく、逆方向の、対米自立を強めたがっている(だから米国は警戒すべきだ)という見方が出ている。米覇権派ジョージ・ソロス傘下のクインシー研究所やロイターが、そういう記事を出している。(Japan's new PM may have a bone to pick with the US)
石破は、既存の日米安保体制について、米国が軍事的に日本の安全を守ってくれる代わりに、日本は外交政策の決定権を米国に握られており、外交権を持たない日本は真の独立国家でないと考えている。
石破は、日本を対米従属から離脱して自立させるために、米軍が日本を守るために日本に駐留する見返りに、日本の自衛隊が米国の西太平洋海域を守るためにグアム島に駐留する案(石破ドクトリン)を出している。(Incoming Japan PM Ishiba's 'Asian NATO' Idea Test for US Diplomacy)
従来のアジアの米国側の国際安保体制は、日韓比タイ豪NZの8カ国が米国と個別に2国間の安保協定を結んでいるだけで、8カ国間の横のつながりが少ない米国中心のハブ&スポーク型になっている。石破はこれを改善するために、8つの2国間協定を一つに統合し、横のつながりも新設して、全体を「アジア版NATO」として再編する構想も、以前から表明している。
クインシー研など米国(の単独覇権派)からみると、石破のアジア版NATO案は、日本が従来の対米従属一本槍から離脱して「米国と仲良くしたまま大東亜共栄圏」みたいなものを目指し始めたように見える。
だから、米国だけでなく中国も、石破の案に反対している。米国の覇権派は、石破のことを(潜在的に反米的な)ナショナリスト、もしくは同盟内で米英支配に楯突く仏的ドゴール主義者だといっている。
石破は、米傀儡の過激派かと思ったらそうでなく、米国と中国の両方から敵視・警戒されて潰される間抜けな軍拡派なのか??。実はそうでもない。
クインシー研の記事は、鳩山由紀夫と石破を対比している。鳩山は首相になった時、直裁的に対米自立と中国・韓国への接近をやろうとして、米国と、日本の米傀儡派(外務省など官僚機構とマスコミ権威筋のほとんど)から猛烈に阻止反対誹謗攻撃され、9か月で首相を辞めさせられた。
鳩山や小沢一郎の直裁的な親中国路線で日本を対米自立させることは非常に難しいことが確認された。(多極化に対応し始めた日本)(民主化するタイ、しない日本)
それなら逆方向からやるのはどうか、ということで、大統領になったドナルド・トランプに勧められて安倍晋三がやったのが、米日豪印の「インド太平洋」を提唱して米傀儡な感じで中国包囲網を形成しつつ、その一方で中国に対して仲良くしましょうと言い続けて協調関係を維持する「対中強硬的な親中路線」だった。(米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本)(中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本)
石破は、安倍晋三の好き嫌い重視の幼稚な党運営を批判しつつ、安倍の外交戦略を継承している。石破はもともともっと直裁的な親中国派だったが、鳩山や安倍の動きから学び、対中強硬的な親中路線に転換した。今回の総裁選では、高市も小泉も、外交策で安倍を継承している。(Popular favourite for Japan PM, Ishiba, urges closer ties with Asia)(The Engaging Outsider: Can Ishiba Shigeru’s Iconoclastic Policies Gain Traction?)
米国(の隠れ多極派)はニクソン訪中以来、中国を支援し続けて台頭させたが、いざ中国が台頭すると、米国は同盟諸国が中国と仲良くするのを禁止し、同盟諸国を中国敵視の監獄に閉じ込めている。その始まりは鳩山政権のころだ。
安倍は、トランプの機転を受け、中国を敵視しつつ仲良くする新路線を開拓した。だが、トランプが不正に落選させられた後、安倍も米諜報界に殺された。(安倍元首相殺害の深層)
中国はどんどん台頭している。コロナ(パンデミック条約。WHO)や温暖化対策(IPCC)など、米国でなく中国が世界を支配する分野が拡大している。米覇権は衰退していく。
米国に強要されたからといって、中国を本気で敵視するのは馬鹿だ。中国を敵視する対中強硬派を演じつつ、中国と仲良くする安倍路線しか、日本はとれない。(Aproposed World Health Organization treaty on preparing for future pandemics is currently "not acceptable" to Britain, a UK health minister said on Tuesday)
米国(隠れ多極派)は、日本など同盟諸国に中国(中露)敵視を強要することで、同盟諸国が米国の言うことを聞けなくなって対米自立して非米側に転じるよう誘導したい。
日本は、積極的に対米自立したいわけではない。対米従属は居心地が良い。だからこそ米国は、衰退しているくせに、日本に中国敵視を強要してきて、日本が米国に従属し続けられないようにしている。
米英は世界への支配欲が強いが、中国は国内が多様で統治に労力を割かれる分、世界への支配欲が弱い(冊封外交していた大昔からそうだった)。米国は、日本の上層部を細かくスパイして従属を強いてくるが、中国は(今のところ、というより多分今後も)そんな諜報力もない。
中国は、日本の政界が中国敵視を強めることを非難するが、従属を強いることはできない。日本政府が対中強硬姿勢をとりつつ、中国と仲良くしたいと言ってきたら、文句を言いつつ日本とふつうに付き合う。米国の覇権がもっと低下したら、日本は米国からの強制にあまり従わなくてもよくなり、中国敵視も減る。
現実的に見ると、尖閣諸島(や北方領土や竹島)の領土紛争は、戦争でなく外交(棚上げによる和解)でしか解決できない。領土紛争は、米傀儡として周辺諸国と対立し続けるために存在している。棚上げによる和解を、政略としてでなく本気で否定する者は馬鹿である。(北方領土と対米従属)
中共は、米日など諸外国が政治や軍事の面で台湾との関係を強化することを絶対に許さないと言い続けている。米国が台湾への軍事支援を強めたら、中国軍が台湾に侵攻して強制併合するぞと言っている。
だが実際に、中国が台湾に軍事侵攻することはない。台湾は経済的に繁栄している。半導体製造など、世界最高級だ。2014年から内戦で破綻気味だったウクライナと違う。中国は、繁栄したままの台湾を自国に併合していきたい。
中国は、米国側の諸国が台湾を国家承認するなど一線を超えない限り、台湾に侵攻しない。米国側は、台湾を、中国を怒らせるための道具として使っている。石破も高市も2021-22年ごろから、その目的で台湾に近づいている。
中国は、石破より高市を嫌っており、石破に対してはむしろ以前から評価する傾向がある。高市は女性なので、保守的な自民党内で、男たちを超える過激な保守路線を進まないと認めてもらえない。だから中国敵視が特に強いし、首相になっても靖国神社にお参りすると豪語したりする。外交策の本質は、石破も高市も小泉も、大体同じだ。(Japan’s ‘Iron Lady’ Sanae Takaichi focuses on Taiwan, US in appeal to China hawks before LDP vote)
中国敵視を活用した対米自立策は、11月の米大統領選でトランプが勝つ場合にうまくいく可能性が高い。トランプは、かつて安倍にインド太平洋の中国包囲網を任せたように、石破にアジア版NATOの創設を任せるかもしれない。トランプはNATOが嫌いだから、名称は別のものになる。(プーチンが言うように、トランプは予測困難な動きをするが)
トランプは米覇権を解体したいので、日本が中国敵視にかこつけてインド太平洋の諸国と安保的な連携を強め、対米自立していくことを歓迎する。
逆にハリスの民主党は、米単独覇権に固執するので、アジア版NATOの創設を許さない。ハリス政権ができる場合、石破は、これまでの岸田と同様、対米自立とは逆の、いないふり戦略の傾向を強める。短命の政権になるかもしれない。
石破は、11月5日の大統領選で米国の次の政権が決まる前に、自分の政権基盤を固めておきたい。だから10月27日に総選挙することにしたのでないか。
米大統領選は、民主党側のリベラル全体主義が崩れ出し、ハリスが担当していた移民政策の失敗などを、民主党自身が認めざるを得なくなっている。トランプが勝つ可能性が高まっている。(Democrats Suddenly Care About Illegal Immigration After Years Of Gaslighting Americans)(Free speech makes US ‘hard to govern’ – John Kerry)
日本の官僚機構やマスコミ権威筋は、旧来の米単独覇権体制の一部である対米従属一本槍の状態を好む米諜報界の傀儡であり、トランプの返り咲きや、トランプと組んで中国敵視活用の対米自立策を進めようとする石破の策を非難誹謗揶揄し始めている。
マスコミは、うっかり傀儡な野党とともに石破を非難し続ける。だが、石破の政権が短命に終わったとしても、次に出てくる高市や小泉の政権も、その後の政権も、中国敵視活用の対米自立策を進めようとする。そのうちに米覇権の低下が激しくなり、日本の対米自立が不可避になる。