2024年10月28日月曜日

福井女子中学生殺害事件再審決定(植草一秀氏)

 植草一秀氏が掲題の記事を出しました。
 殺人罪死刑が確定し半世紀近くにわたり確定死刑囚等として勾留さていた袴田巌氏2回目の再審で無罪が確定した「袴田事件」に、私たちは「暗黒の司法」の実態をマザマザと見せつけられましたが、今度は1986年に福井市で起きた女子中学生殺害事件をめぐって名古屋高裁金沢支部は23日、殺人罪で有罪とされ懲役刑に服した前川彰司さん(59)が無罪を訴えた第2次再審請求に対し、再審開始を決定しました。

 この事件は86年3月19日夜、福井市の自宅で留守番中の女子生徒が包丁で殺害されたもので、福井県警は翌年、殺人容疑で前川さんを逮捕しました。90年に福井地裁で無罪判決が出されましたが、95年に名古屋高裁金沢支部は懲役7年の逆転有罪判決を出したため、それが確定した97年に服役しました。
 前川さんは2004年に再審請求をし、金沢支部は11年に再審開始を決定しましたが13年の異議審で取り消され、22年10月に再度再審請求をしていました。
 今回の請求をめぐる裁判官、検察官、弁護団による三者協議では、警察が保管していた捜査報告メモなど287点の証拠が新たに開示され、一審と控訴審で証言を変えた関係者への証人尋問が行われ、「証言を変えたら、覚せい剤取引の罪を握りつぶす」という捜査機関との「闇取引」があったことも判明しました。これこそは「検察・警察による証拠の捏造」に他なりません。
 福井県警の現職幹部は再審決定に関する取材に対し、「解決済みの話でふざけるなという思いだ」、「一度裁判で決まったものをびっくり返されても困る」とぶちまけたということですが、まさに自分たちの面子のみを重視した本末転倒の「料簡」です。「99人の真犯人を逃がすとも1人の無辜の犯人を作らない」という司法修習所の教育は、有名無実のものだったのでしょうか。
 被疑者に関わる全ての証拠を集めることが出来るのは検察(と警察)ですが、そのうちから被疑者に有利な証拠は全て排除し(その旨を被疑者側に伝えることもなく)、被疑者に不利なものだけを裁判所に提出するというシステムも、余りにも被疑者の人権を無視したもので「中世の司法」と呼ばれるべきものです。
 また再審実現の困難さが「ラクダを針の目に通すことよりも難しい」と称されることも、判事の面目を守ることだけが重要で、被疑者の人権を無視する司法界の独善性によるものです。

 はじめに事件の概要が分かるしんぶん赤旗の記事を紹介します。
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    10月14日)証拠を捏造してまで、無実のひとを死刑台に送る国
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
福井中学生殺害再審へ 高裁金沢支部捜査機関が「闇取引」
                      しんぶん赤旗 2024年10月24日
 1986年に福井市で起きた女子中学生殺害事件をめぐって名古屋高裁金沢支部(山田耕司裁判長)は23日、殺人罪で有罪とされ服役した前川彰司さん(59)=福井市=が無罪を訴えた第2次再審請求に対し、再審開始決定を言い渡しました。
 裁判所前に集まった支援者らから歓声が上がり、前川さんは拍手に包まれました。
 同事件は86年3月19日夜に、福井市の市営住宅の自宅で留守番中の女子生徒が包丁で殺害されたもの。県警は翌年、殺人容疑で前川さんを逮捕。90年に福井地裁で無罪判決が出されましたが、95年に金沢支部は懲役7年の逆転有罪判決を出し、97年に確定しました。
 前川さんが2004年に再審請求をし、金沢支部は11年に再審開始を決定しました。しかし、13年の異議審で取り消され、2210月に再度、再審請求をしていました。
 今回の請求をめぐる裁判官、検察官、弁護団による三者協議では、警察が保管していた捜査報告メモなど287点の証拠が新たに開示されました。さらに、一審と控訴審で証言を変えた関係者への証人尋問が行われ、「証言を変えたら、覚せい剤取引の罪を握りつぶす」という捜査機関との「闇取引」があったことも判明しました。
 弁護団は、一日も早く再審が開始され、前川さんが救済されることを求め、検察が異議申し立てすることは許されないとする声明を発表。前川さんは「多くのみなさんのおかげです。深く感謝します」と心境を語りました。があったことも判明しました


福井女子中学生殺害事件再審決定
              植草一秀の「知られざる真実」 2024年10月24日
袴田事件で殺人の罪に問われ死刑が確定した袴田巌氏は47年7ヵ月の期間にわたり確定死刑囚等として勾留された。その袴田氏に再審無罪が言い渡され、無罪が確定した
裁判所は捜査当局の証拠の捏造を認定した。有罪認定の決め手とされた味噌製造工場の味噌タンクから発見されたとされる5着の衣類が捜査当局による捏造と認定された。
一審判決で証拠採用された1通の自白調書も捏造と認定された。
5点の衣類の共布とされた証拠物も捏造と認定された。
警察は証拠を捏造して無実の袴田氏を殺人犯人に仕立て上げたと裁判所は認定した。

10月23日には、38年前に福井市で女子中学生が殺害された事件で殺人の罪で服役した前川彰司氏について、名古屋高等裁判所金沢支部が再審(裁判のやり直し)を認める決定を示した。
この事件では13年前にも再審を認める決定が出された。しかし、検察の異議申し立てを受けて再審開始が取り消された。
前川氏の名誉回復に向けて検察の対応が焦点になる。
再審開始を認めた名古屋高等裁判所金沢支部は、有罪の証拠とされた目撃証言について、新たに検察から開示された証拠などを踏まえ
「捜査に行き詰まった捜査機関が関係者に誘導などの不当な働きかけを行って証言が形成された疑いが払拭できず、信用できない」と判断した。
目撃証言に含まれるテレビの歌番組に関する証言が事実と食い違う点が明らかにされたことが決め手になった。

日本の警察・検察当局の実態の一部が浮かび上がる。
刑事訴訟法第一条に次の条文がある。
第一条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
刑事事件について、
事案の真相を明らかにして刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする
ための法律であることが規定され、その際に
公共の福祉の維持  個人の基本的人権の保障 を全うすることが定められている。

しかし、現実はまったく異なる
証拠を捏造して無実の個人を犯罪者に仕立て上げることのどこに「事案の真相を明らかにする」 「個人の基本的人権の保障を全うする」があるのか。真逆である

日本の警察・検察の実態がどのようなものであるか。市民は認識を改める必要がある。
相次いで冤罪事件に関する重大ニュースが報じられているが、冤罪について三つの重要事項を再確認する必要がある。
第一は、表面化した事案が「氷山の一角」に過ぎないこと。
表面化しない冤罪が無数に存在する。日本の警察・検察の歪んだ体質を踏まえれば、このことを容易に推察できる。

第二は、再審開始、再審無罪が獲得されるためには「明白な証拠」が必要であること。
冤罪であるのに、「明白な証拠」を得ることができずに泣き寝入りを強要される冤罪事案が無数に存在する
再審開始、再審無罪が獲得される事案は、「奇跡的に幸運な事案」であると言える。
有罪認定に合理的な疑いをさしはさむことを示す「明白な証拠」は開示されていない証拠の中に埋もれていることが圧倒的に多い
捜査段階での証拠はすべて開示される必要があり、法改正が必要不可欠だ。
有罪認定に合理的な疑いをさしはさむことを示す証拠は検察が隠蔽する。
このことを容認しているのが現時点の関連法である。

第三は、冤罪が明らかになることは、真犯人が取り逃がされていることを意味する。
警察・検察当局が真犯人を意図的に無罪放免にするために無実の市民を犯人に仕立て上げるケースもあると推察される。
冤罪は最も深刻な人権侵害である。冤罪は「魂の殺人」と表現して差し支えない。
冤罪の根絶こそ刑事司法の根幹に据えられなければならない事象である。

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