日刊ゲンダイが統一協会問題を扱う全国弁連事務局の阿部克臣弁護士に「注目の人直撃インタビュー」を行いました。
文科省が昨年 東京地裁に統一協会(教会)の解散命令請求を行ってから1年になります。阿部弁護士は「東京地裁は近く、確実に解散を決定するとみています。遠からず裁判所も教団は反社会的な組織であると認め、負のお墨付きを与えることになる」と述べています。そうであれば喜ばしいことです。
しかし現実を見ると、23年末に野党の反対を押し切って被害者救済特例法(特定不法行為等被害者特例法)がまとまり施行されましたが、阿部氏は「この法律は非常に内容が不十分で、被害者救済には資さないんです。禁止行為の要件を過度に限定するなど、規定が厳しすぎて献金を取り消すことができません。機能していないと言っていい。~ 行政処分の要件や基準の見直し、不当な伝道や勧誘手法を類型化し、禁止行為として規定することなどをあわせて求めていますが、所管する消費者庁が検討している気配はないですし、政府与党内で議論している様子もない」ということで、一体政府に解決しようという思いがあるのかが大いに疑われます。背景には自民党と統一教会との癒着があります。
この段階では、まずは東京地裁の判決に期待するしかありません。
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注目の人 直撃インタビュー 阿部克臣 弁護士
「自民党と統一教会との癒着も総選挙の争点にならなければおかしい」教団問題に取り組む弁護士が訴え
日刊ゲンダイ 2024/10/17
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
阿部克臣(全国弁連事務局 弁護士)
石破茂首相が衆院を超早期解散し、自民党の裏金議員に非公認などのペナルティーを科したことで、27日投開票の総選挙は「政治とカネ」一色だ。結果はどうあれ、これで禊を済ませたとする思惑がアリアリ。一方、すでに片付いたことにされている問題がある。統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との組織的癒着だ。教団問題に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)で活動する弁護士は、「争点のひとつにならなければおかしい」と訴える。自民党と統一教会を取り巻く現状を聞いた。
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──岸田文雄前首相は統一教会をめぐる問題や裏金事件が招いた政治不信を理由に退陣しました。しかし、自民党は2022年9月に教団との関係についての点検結果をまとめて以降、全く動きません。
先月の自民党総裁選もそうでしたが、衆院選は政治への信頼回復が大きなテーマです。「政治とカネ」とともに、統一教会についても論じられるべきだと思います。ですが、石破首相の姿勢は非常に後ろ向き。残念です。
──総裁選まっただ中の先月中旬、朝日新聞が安倍晋三元首相と教団トップらの面談を特報しました。参院選を目前に控えた2013年6月末、当時首相の安倍氏が自民党本部の総裁応接室に招き入れ、初出馬する比例候補への選挙支援を確認したと写真入りで報道。対象とされる北村経夫参院議員は安倍氏と近く、19年選挙で再選しました。
統一教会の選挙協力を得るなどして当選した議員が現にいる。組織的に教団票の差配を受けてきた関係が浮かび上がっている。「党として一切の組織的関わりがない」という説明は説得力を欠きますし、「関係を断つ」と言うだけでは不十分です。石破首相は衆院代表質問で「説明を覆さなければならないような事情があるとは考えていない」と答弁し、第三者委員会による調査に関しては「必要な状況であるとは考えていない」と強調しましたが、議員による自主申告は自主申告に過ぎない。だから、外部からの指摘によって、関わりを持ってきた議員の事例が後から後から出てくる。
──初入閣した牧原秀樹法相(埼玉5区)をめぐっては、教団との癒着をヒタ隠しにしていたことが判明しました。本人の説明によると、教団関連のイベントに秘書の出席も含めて計37回参加。2005年の初当選時からボランティア支援を受けていたのに、党の点検には一切申告していなかった。
文科省は昨年10月、東京地裁に解散命令請求を行いました。政府が反社会的な団体であると認めた教団と自民党は長年にわたって癒着してきたのです。どういう関係があったのか、選挙結果にどんな影響を及ぼしたのか、立法や行政はどう歪められたのか。過去にきちんと向き合い、しっかりと検証し、その上でしかるべき処分を下す。そうやって前に進めていかないと、信頼回復は図れないでしょう。こうしたプロセスを避けて通ることはできません。
安倍元首相の調査はできる
──安倍元首相は故人であることから点検の対象外とされ、岸田前首相は「お亡くなりになった今、確認するには限界がある」と繰り返しました。
安倍氏に対する調査は必要です。調べ尽くした上で「限界がある」と言うのであれば分かります。やりもしないで「限界がある」と言うのは、非常に違和感がある。確かに安倍氏は亡くなりましたが、事情を知り得る人物はほかにもいるわけじゃないですか。
──総裁応接室での面談には実弟の岸信夫元防衛相、最側近だった萩生田光一元政調会長が同席したと報じられています。
関係が指摘される人物から聞き取りをする。総裁応接室の使用状況など、客観的な記録を確認する。調べようと思えば、調べられるはずです。個人の私的な問題であれば、故人について調査するのはどうかという議論になるのは理解できます。しかし、安倍氏は公人だった。しかも首相当時の出来事です。安倍氏が応援する教団だからということで、統一教会は内部結束を強めてきた。信者の家族らが脱会させようとしても、首相がお墨付きを与えている教団だから問題ないと阻止されてきた。自民党、清和会(旧安倍派)との癒着がどれほど被害を拡大させてきたのか。公益性の観点からして、調査されなければ筋が通りません。
地裁は解散命令を近く決定
──解散命令請求については非公開審理が続いていますが、見通しはどうですか。
東京地裁は近く、確実に解散を決定するとみています。統一教会側もそれが分かりつつある。組織の存続を図る策を必死に考えているところでしょう。遠からず裁判所も教団は反社会的な組織であると認め、負のお墨付きを与えることになる。そうすると統一教会は社会的な信頼をますます失い、心が離れる信者、脱会する信者が出てくる。解散が決定すると、宗教法人の清算手続きに入り、被害者に財産を配当するための作業が始まります。税制優遇のある宗教法人格を喪失後、不動産だけで100億円超とされる財産をいかに残し、活動を継続していくか。銃撃事件以降は教団本部のある韓国への送金が滞り、国内には数百億円以上の現金があるとみられ、潤沢な資金を抱えています。
──そもそも、信者はどれくらいいるのですか?
国内の信者数は公称60万人ですが、実態は数万人とみています。どういうところから推測されるかというと、選挙支援や署名運動です。北村参院議員を当選させるために、統一教会は6万~7万票を上積みしたとされる。解散命令請求がなされる前、信者らは当時の岸田首相や盛山正仁文科相宛てに請求しないよう求める嘆願書を送付しました。それが約5万筆でしたから、日常的に教団施設に通う信者は数万人レベルでしょう。
機能しない被害者救済新法
──被害者支援に向けた法整備をめぐっては、22年末に被害者救済新法(不当寄付勧誘防止法)、23年末に被害者救済特例法(特定不法行為等被害者特例法)がまとまり、施行されました。全国弁連は不当寄付勧誘防止法の付則に基づき、見直しを要請していますよね。
付則には2年後をメドとする見直しの検討が明記されているものの、動きは見えません。この法律は非常に内容が不十分で、被害者救済には資さないんです。私自身も現場で使ったことがない。禁止行為の要件を過度に限定するなど、規定が厳しすぎて献金を取り消すことができません。機能していないと言っていい。信者の配偶者や子どもたちが家庭裁判所の監督下、本人に代わって献金を取り消して財産を管理することのできる制度の新設。行政処分の要件や基準の見直し。不当な伝道や勧誘手法を類型化し、禁止行為として規定することなどをあわせて求めていますが、所管する消費者庁が検討している気配はないですし、政府与党内で議論している様子もない。宗教2世に対するケア充実も待ったなしです。岸田政権では統一教会問題に対応する関係閣僚会議を設置し、今年1月の第1回会合で2世への支援方針が確認されましたが、政権が代わり、継続されるのかどうか。
──石破政権は関係閣僚会議を居抜きで引き継ぐものの、次回開催は未定としています。
宗教を背景とする児童虐待に対応するため、厚労省は22年末に教育現場などを想定した指針を策定し、介入すべき事例をQ&A形式でまとめました。それを受け、文科省が教育現場への周知を徹底するよう都道府県教育委員会などに通知し、こども家庭庁と連携して教職員向けのオンライン研修を実施しています。幼ければ幼いほど宗教的虐待を受けていることを自覚できない。被害をうまく言語化できない。学校や児童相談所、病院など、子どもと接する立場にある大人が虐待や人権侵害を理解し、気づいてあげることが重要です。少しずつ取り組みは進んでいるものの、まだ道半ば。2世に十分な支援がなされているとは言い難い状況の改善も急務です。
▽阿部克臣(あべ・かつおみ) 1978年、山形県鶴岡市生まれ。早大教育学部卒業後、2009年に弁護士登録。第二東京弁護士会、リンク総合法律事務所所属。全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の事務局に参画するほか、全国統一教会被害対策弁護団の事務局次長を務める。安愚楽牧場、ケフィア、カンボジア不動産詐欺など、多数の消費者被害問題も担当。「統一教会との闘い──三五年、そしてこれから」などの共著がある。