植草一秀氏が掲題の記事を出しました。
石破首相が森山幹事長らの進言を受けて10月27日に総選挙を実施することを表明すると、「ウソつき」だという批判の嵐が巻き起こりました。
植草氏は「たしかに石破氏は総裁選の過程で総選挙を急がない方針を示していた。国会で論議を戦わせ、その上で総選挙に進むべきだと述べていた。したがって、発言が変わったと批判されるのはやむを得ない面がある」が、現実は「その範疇を超えて石破氏が激しくメディアに攻撃されている印象が強い」と述べました(政治・経済学者で、かつ野党連合を志向する「ガーベラの風」の主宰者である植草氏が、自民党や石破氏の支持者でないことはいうまでもありません)。
植草氏は、「批判の急先鋒に立っているのは二つの勢力で、一つは石破氏がアベノミクス路線からの決別を指向していることを批判する勢力。いま一つは石破氏が嫌中、嫌韓の姿勢を鮮明に示さないことを批判する勢力(日本の極右勢力)」で、「中心に位置するのは高市早苗氏を支援した勢力」だと述べました。
そして「石破氏がここまで激しく攻撃を受ける現実は、何らかの意味で石破氏が正しい方向を指向していることの表れであると見る視点が必要と感じられる」としています。
立民党が野田佳彦氏を代表に選出したことについては、「これでは自民党と立民党の区別がつかない」「自公政治を打破すべきと考える主権者は多数存在するのに、この主権者勢力を真正面から受け止める中核野党が不在になっている」として、総選挙を通じてこの第三極勢力を確立することが求められると述べています。
併せてノンフィクションライター・窪田順生氏の記事「『石破おろし』がハネムーン期間ゼロで始まる? 自民党保守派が狙う『新政権のアキレス腱』とは」を紹介します。
石破氏は「徴兵制」を唱えるなどの超タカ派であるものの、他方で韓国や中国から親近感を持たれていることから、極右勢力からは「左翼」「反日」と見られていると、窪田氏は指摘しています。5000字弱のやや長文の記事です。
追記)石破氏が総裁選中「日米地位協定」の改定に言及したことも、総理・総裁としては初めてのケースでしょう。
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激しい石破新首相攻撃への違和感
植草一秀の「知られざる真実」 2024年10月 2日
自民と立民が新しい党首を選出。
石破首相は10月27日に衆院総選挙を実施する方針を決めた。いわゆる7条解散。
天皇の国事行為に関する規定を「悪用」する衆院解散。
衆院の任期は4年で、本来は任期満了が基本。
日本国憲法は内閣不信任案が可決された場合に衆議院が解散されることがあることを規定している(69条)。
内閣が内閣の都合で勝手に衆院を解散して総選挙を行うのはおかしい。これが正論。
しかし、現実には内閣が内閣の都合で勝手に衆院解散・総選挙を実施してきた。
憲法違反の司法判断も示されていない。
したがって、内閣が内閣の都合で解散・総選挙を強行することを止める手立てはない。
石破氏が10月27日に総選挙を実施することを表明したことに対する批判がかまびすしい。
たしかに石破氏は総裁選の過程で総選挙を急がない方針を示していた。
国会で論議を戦わせ、その上で総選挙に進むべきだと述べていた。
したがって、発言が変わったと批判されるのはやむを得ない面がある。
しかし、その範疇を超えて石破氏が激しくメディア攻撃されている印象が強い。
米国でトランプが大統領選で勝利したときのメディアの反応に通じる部分がある。
批判の急先鋒に立っている顔ぶれを見ると、二つの勢力の存在を見て取れる。
一つは石破氏がアベノミクス路線からの決別を指向していることを批判する勢力。
いま一つは石破氏が嫌中、嫌韓の姿勢を鮮明に示さないことを批判する勢力。
日本の極右勢力だ。
批判の中心に位置するのは高市早苗氏を支援した勢力。高市氏は財政拡張と金融緩和を主張した。アベノミクス路線を引き継ぐ方針を明示していた。
この路線が否定され、この勢力がいら立っている。
しかし、金融政策の軌道修正は正当である。日本円が暴落して深刻な経済安全保障問題が浮上している。
高市早苗氏は経済安全保障担当相でありながら、日本円暴落に対する注意を喚起することすらしなかった。日本円暴落で日本は外国資本に買い占められつつある。外国資本に破格値で日本を売り渡すことを推進する政策が「売国政策」である。高市氏は売国政策を推進してきた。
日銀が政策路線を修正して日本円暴落阻止に向けて動いていることは正当である。
また、高市氏は靖国参拝方針を明示していた。
近隣諸国との対立を意図的に深める姿勢は戦争屋が望むもの。
米国の軍産複合体は東アジアの緊張が拡大することを切望している。高市氏はその意向に沿う言動を示してきた。
彼らにとっての最大の脅威は東アジアの平和と安定。
この意味で石破氏が激しい攻撃を受けているように思われる。
メディアから激しく叩かれたら、叩かれる者が「真実を追求する者」であると認識するのが基本的には正しい。「本物」は叩かれる。叩かれることは「本物の証明」と言える。
石破氏がここまで激しく攻撃を受ける現実は、何らかの意味で石破氏が正しい方向を指向していることの表れであると見る視点が必要と感じられる。
私は石破氏の政策路線を支持しないが、高市氏が首相になることと比較すれば、自民党ははるかに賢明な選択をしたと評価する。
このなかで、一部の人々が激しく石破氏を攻撃している姿を興味深く観察している。
立憲民主党は野田佳彦氏を代表に選出したが、これでは自民党と立憲民主党の区別がつかない。
自民党が十分に大きいのだから、わざわざ第二自民党を創設する必要はない。
いま日本に求められているのは自公政治に対峙する政治勢力の確立。
当然のことながら、共産党もこの範疇に含まれる。
自公政治を打破すべきと考える主権者は多数存在する。
残念ながら、この主権者勢力を真正面から受け止める中核野党が不在になっている。
総選挙を通じてこの第三極勢力を確立することが求められる。
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(後 略)
「石破おろし」がハネムーン期間ゼロで始まる? 自民党保守派が狙う「新政権のアキレス腱」とは
窪田順生 ダイヤモンドオンライン 2024.10.3
ノンフィクションライター
本連載読者の石破茂首相へ
著者が伝えたいこと
10月1日、石破茂氏が第102代の内閣総理大臣になった。新総理がどういう日本を目指そうとしているのかを知りたくて、今年8月に出版された新著『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社 石破茂著)を読んでみたところ、ちょっと驚いた。
冒頭の「はじめに──天命が降りる時」というところで、本連載の記事が引用されていたのである。
《さらに引用で恐縮ですが、日本は世界一の「誹謗中傷大国」なのだそうです(窪田順生・ダイヤモンドオンライン・23年7月20日)。この記事によると、日本人はX(旧ツイッター)の利用者率、利用時間、匿名利用率、削除要求件数のすべてが世界一なのだそうで、そうだとすればかなり異様なことでしょう》(本書18ページ)
当該記事で筆者が日本における「誹謗中傷」の実態を取り上げて伝えたかったのは、「正義の暴走」の危険性だ。その意図を汲み取ってくれたのか、石破氏はこう続けている。
《言論の自由が保障されるべきは当然ですが、匿名で自分は安全なところに身を置いて、会ったこともない相手を、事情を深く知らないままに罵倒して正義を気取る、というのは醜悪の極みです。これがやがて「正義」を掲げる勇ましい世論となり、「正義」が暴走をして批判を封殺し、最終的に国を誤ることになるのが一番恐ろしいと思います》(同上)
このように本連載をちゃんと読んでくれていることがわかった今、差し出がましいようだが、これから政権運営をしていく石破首相にぜひお伝えしたいことがある。
それは、ハネムーン期間ゼロで新内閣がこんなにも批判されてしまっている理由と、これから週刊誌やSNSで叩かれるとしたら、この方面が危ないのではないかという「予想」である。
ハネムーン期間とは、メディアの政権批判が抑制的になりがちな就任から100日の期間を指す。わかりやすいのは3年前の岸田首相だ。就任直後、ある政治評論家は「永田町で岸田さんを悪く言う人はいないんですよ」と露骨に媚を売り、首相がテレビ出演するとスタジオでは「岸田ノートって何が書いてあるんですか?」なんてヌルい質問が飛ぶなど、しばらくは「ハネムーン」を満喫していた。
こういう慣例に照らし合わせれば、石破首相も来年1月の通常国会が始まるくらいまでは「やっぱり魔人ブウに似てますね」とかイジられたり、電車・軍事オタクのネタで盛り上がったりしているはずだった。
しかし、現実はそうなっていない。平将明デジタル相が皇居で任命式に参列していた最中に「文春砲」をくらったようにハネムーン期間ゼロで攻撃が始まっている。
もちろん、これはご自身が招いた事態でもある。総裁選に勝った直後から、これまでの発言によって株価が暴落、まずは「石破首相に経済界がノーを突きつけた」などと言われてしまった。首相になって衆院早期解散を表明したことも前言撤回と受け取られ、「首相になった途端、ひょう変した」と失望の声が寄せられた。経済学者の成田悠輔氏も情報番組で「数日で早くもいろいろ妥協や忖度が見られる」などとコメントしている。
その後の組閣でも、自身に近い人物ばかりを起用したことが「身内偏重」「非主流派の在庫一掃セール」など揶揄された。しかも、閣僚に旧安倍派がゼロなことが「やりすぎ」「喧嘩売っているのか」と批判されている。
まだ就任したばかりだというのに、このまま「石破おろし」のネガティブキャンペーンが始まりそうなムードさえ漂ってきているのだ。
自民党保守派が狙う
石破新政権のアキレス腱
では、なぜこんなにも石破氏は攻撃されてしまうのか。
まず、一番の理由はよく言われるように、自民党内に「敵」が多いことだ。「最高顧問」という名誉職に閉じ込めた麻生太郎氏を筆頭に党内で、石破氏をこころよく思っていない人は少なくない。が、その中でも特に恨みを買っているのが今回、高市早苗氏を支えた旧安倍派などの「保守系議員」である。
つまり、今のハネムーン期間省略のバッシングムードは、自民党内や支持者の「保守勢力」が積極的につくり出しているのだ。
石破氏はもともと「徴兵制」を唱えるなどゴリゴリのタカ派だが、保守勢力からは「左翼」「反日」「こんな人が総理になったらおしまいだ」といった感じで、さながら「売国奴」の扱いを受けて嫌われている。
なぜかというと、石破氏は周辺国との軋轢を生む靖国神社参拝に慎重な姿勢を持っており、中国や韓国と「対話」をしていくべきだと考えているからだ。また、先の戦争について当時の政府や軍部に対して、「勝てない戦争を始めたことの責任は厳しく問われるべき」というような歴史認識を繰り返し主張している。
これは保守勢力的には看過できない。他国から何を言われようとも靖国に参拝して、英霊に哀悼の誠をささげるようなことがでできなければ、日本のリーダーとして「失格」と考えているからだ。
また、先の戦争は白人支配からアジアを解放するという「大義」のもとに進められた戦争であって、中国や韓国、東南アジアで報告される戦争犯罪のほとんどは「日本を貶める謀略」や「冤罪」というのが基本的な保守の考え方である。
そのような人たちからすれば「石破茂首相」はとても許容できないのである。しかも、その拒否反応を今回さらに強めてしまったのが、石破首相に対する中韓の好意的な反応だ。「歴史認識が穏健」ということもあって岸田政権で築いた関係が継続・発展できるのではないかと期待しているようだ。
中でも特に前のめりなのが韓国だ。「中央日報」(9月30日)は歴代の駐日大使や関係者の「石破評」を掲載したが、以下のようにベタ褒めなのだ。
「韓国に対して関心が高く、非常に真摯な人」
「歴史観も自民党議員の中で最も正しい」
「韓国のことが本当に好きで、友好的な話をよくしていたのが印象深い」(同上)
さて、このような韓国の持ち上げぶりを聞くと、愛国心あふれる保守派の皆さんはきっとこんな風に思うのではないか。
「ここまで韓国とズブズブということはきっと何か裏で繋がっているに違いない」
まさしくそれこそが、筆者が考える「石破氏のアキレス腱」だ。政治家とは中国や韓国と対立してナンボという考えの人たちからすると、中国や韓国と友好的な関係や、パートナーとして何かを進めようとするだけで、そこに「陰謀」を感じてしまう。そして今の時代、それはネットやSNSで拡散され、そのまま「報道」されてしまうのだ。
わかりやすいのは、大阪市長時代の橋下徹氏の「上海電力メガソーラー疑惑」と、河野太郎氏の「日本端子疑惑」である。
どちらも両者が中国共産党と「蜜月」であって、自治体首長や政府閣僚の立場を利用して、中国に利するような政策をしたのではないかという疑惑である。ネットやSNSで大変な注目を集めてから、実際にマスコミも報道をした。
ただ、結論から申し上げると、どちらも憶測の域を出ないビミョーな疑惑だ。その理由は「橋下徹氏「上海電力疑惑」にモヤモヤ、河野太郎氏の親中疑惑騒動と瓜二つ」(22年5月19日)の中で詳しく解説をしているので興味のある方はお読みいただきたいが、ここでは「結論」だけを引用する。
《どちらも「中国」と「太陽光パネル」という、人々のイマジネーションを刺激して巨大な陰謀を想起させるようなキーワードによって、やや話が一人歩きしているきらいがある》
これと同じことが石破氏でも繰り返されるのではないかと思っている。つまり、石破氏の過去の政治活動や関係者と、中国・韓国との接点を探してきて、それを強引に「疑惑」に結びつける。そして、「中国共産党の操り人形だ」「韓国と手を組んで日本を貶めている」などのネガティブキャンペーンが仕掛けられていくのだ。
この手の対策は「初動」が大事で、SNSやネットで拡散され始めた段階で、公の形でしっかりとした反論や説明をして火消しをしないとどんどん広まって、さらにおもしろおかしいストーリーへと「進化」してしまう。
例えば、先ほどの2つの「親中疑惑」もいまだにSNSなどで「なぜマスコミは報じない!中国支配がここまで進んでいるとは闇が深すぎる」とか怒っている人がいる。
本人たちもホームページやさまざまな場面で反論して、根拠のない話だと判断されたのでマスコミも扱わなくなっただけだ。しかし、モヤっとしたまま騒動が終わったため、「巨大な力にもみ消された」という陰謀論好きな人々の溜飲を下げる、刺激的なストーリーにマイナーチェンジして語り継がれてしまったのだ。
こういうネットやSNSの「語り部」たちからすれば、石破氏は格好の「材料」であることは言うまでもない。例えば、石破氏は幹事長時代の12年、自身が代表を務める「自由民主党鳥取県第一選挙区支部」が2006~11年に、在日韓国人が経営するパチンコ店などからも献金を受けていたことが報道されている。
さすがにもう外国人献金は厳しくチェックをしているだろうが、文春が報じた平デジタル相のケースのように、献金した企業や支援者を洗っていけば今の時代、どこかで中国や韓国と接点が生じる可能性が高い。もし仮に、中国や韓国の事業に力を入れているような企業が石破氏に多額の献金をしていた場合など、保守派の皆さんはこれを大きな「疑惑」として盛り上げていくだろう。
もちろん、石破氏への攻撃材料はそれだけではない。今、掲げている政策だけでも実はその世界の人々からすれば、かなりハレーションを生むものが多いからだ。
例えば「日米地位協定改定」の再交渉。米政府当局者から「われわれは興味も意欲もない」(時事ドットコム10月1日)と釘を刺されたことで、保守派を中心に反発が生まれている。世界的には保守とは、自国第一主義なので「反米右翼」となることが多いが、日本の保守は「親米右翼」である。
つまり、「日本に不利益があっても、アメリカ様の嫌がることはしてはならぬ」というタブーが永田町や霞が関にはあるということだ。秩序を乱す石破氏へ「制裁」をすべきと考える人たちも当然、存在している。
また、「2020年代に最低賃金1500円」もよろしくない。中小企業経営者の団体「日本商工会議所」の小林健会頭は昨年9月1日、岸田政権の掲げた「2030年までに最低賃金1500円」という目標について「やむえない」と理解を示したが、それがわずか1年で新首相がドカンと前倒しをしたのである。理解を示すのは難しいだろう。
日本商工会議所は約125万事業者の会員数を誇り、自民党の有力支持団体である。自民党総裁はここの機嫌だけは絶対に損ねてはいけない。地元の商工会や中小企業経営者から手厚い選挙支援を受けている議員の中には、「石破おろし」を検討し始めている者もいるかもしれない。
ただ、個人的にはこのような「石破叩き」が盛り上がるほうが、国民にとってはいい兆しのような気がしている。
これまで日本の政治が何も決められない、何も変わらないという閉塞感があったのは、冒頭で述べたような「ハネムーン期間」に象徴されるように、政治家も官僚もそしてマスコミも同じ「ムラ社会」の中で「なあなあ」で物事を進めてきたからだ。
集団合議制の中で、派閥の力学とキングメーカーが利権を調整して「落とし所」を決める─。人口も増えて日本が成長をしていく時代はそれでもうまくまわったが、これからの日本には「ムラの論理」から外れて、人々が目を背ける利権などに手を突っ込むことが求められる。
つまり、今の日本に必要なのは「仲間に嫌われてもやるべきことをやるリーダー」だ。それが石破氏なのかどうかは現時点ではわからないが、そう願う。
これからどんな「石破叩き」が始まるかも含めて、注目していきたい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)