田中宇氏が掲題の記事を出しました。
ここで「朝鮮戦争化」とは、「停戦するものの対立状態がずっと維持される」状態のことで、セルビアのブチッチ大統領が最初に指摘し、ロシアの大統領広報官が否定しなかったということです。
ロシアとしては、ドンバスなどのロシア系住民が多く住む地方がウクライナから分離独立することで、ロシア人の安全が達成されれば良いのですが、困るのは「対米隷属」型のNATOが現行のままでいつまでも維持される欧州です。
対露制裁は停戦後も継続されるので、今度こそロシアからの天然ガスの輸入ルートが閉ざされ、その他のロシアからの資源類も輸入できなくなるので、欧州経済は劇的に悪化します。結果的に、ロシアと中国BRICSなどが結束して非米側が世界の中心になり、ロシアが安保・経済の両面で台頭し、米欧の衰退と覇権の低下が加速することになります。
ウクライナ戦争で明らかにされたのは、欧州もまた米国の命令一下 国益も何も振り捨てててそれに従うという姿でした。NATO加盟国には文句を言わせないという実態です。
ウクライナ政府は開戦後3ヶ月ほどでロシアとの停戦協定(案)を具体化し 実行しようとしたのですが、それを許さなかったのが米国であり、直接乗り込んで制止したのが英国でした。従って戦費の全ては米英乃至はNATOが持つべきだというのがゼレンスキーの考えで、現実にそう要求しています(米国の腹の底には貸与という考え方があるようです)。
追記 そんなNATOをあたかも至上の組織であるかのように勘違いした首相がいましたが、愚かというべきです。
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朝鮮戦争化するウクライナ
田中宇の国際ニュース解説 2024年10月14日
ウクライナが、朝鮮半島のように、停戦したが終結せず対立状態が何十年間も続くという予測が出ている。ウクライナの朝鮮戦争化は、9月末にセルビアの親露なブチッチ大統領が最初に指摘した。
ウクライナ戦争が朝鮮戦争のようになって30年続きそうだというブチッチの指摘についてコメントを求められたロシアの大統領広報官が朝鮮化の可能性を否定しなかったため、騒ぎが大きくなった。(Serbian President suggests war in Ukraine will end according to Korean scenario)(Putin's chilling warning over 'Korean scenario' after claims war won't end for 30 years)
ゼレンスキーのウクライナ政府は、黒幕の米国から稚拙な軍事戦略をやらされた結果、兵器も軍人も足りない状態が続き、戦争を継続できず、停戦を望むようになっている。
優勢な露軍がウクライナでの占領を拡大してキエフを陥落し、ゼレンスキーら露敵視な現政権を追い出してロシアの傀儡政権とすり替えれば戦争は終結する。だが、ロシアはそこまでやらない。露軍は今後もずっと、ドンバスなど露系住民が多く住む地域から大きく越えた軍事拡大をやらない。ドンバスはすでにウクライナから分離独立後、ロシアに併合されている。(Is a 'Korean Scenario' in Ukraine Possible?)(ウクライナ停戦機運の強まり)
ロシアは、ウクライナの露敵視政権を転覆しない。今後ゼレンスキーが失脚しても、別の露敵視な指導者が露敵視政権を維持する。ウクライナが露敵視政権である限り、停戦が実現しても、戦争終結にはならない。
すでにウクライナは事実上敗戦しており、米欧でも厭戦機運が強まっている。ゼレンスキーは5月に大統領の任期が切れ、有事を理由に不正に続投している。
ウクライナには親露政治家もいるので、ロシアが彼らを裏から支援して民主的もしくは非民主的に政権転覆する試みもできるはずだが、プーチンはそれをやらない。今まで何度も書いているように、プーチンはこっそりウクライナ戦争の長期化を画策している。(ウクライナ戦争で米・非米分裂を長引かせる)(Putin wants a Korean scenario for Ukraine)
ウクライナ戦争の構図が続く限り、ロシアと中国BRICSなどが結束して非米側が世界の中心になって多極化が進み、ロシアが安保経済の両面で台頭し、米欧の衰退と覇権低下が加速する。ウクライナの朝鮮戦争化は、ロシアや中国BRICSを優勢にし、米欧を衰退させる。
ロシアは、ウクライナ戦争の長期化が(隠然)戦略なので、ウクライナ軍が弱体化しても撃破せず、手加減して戦争を長引かせている。クルスク侵攻・占領から3か月たっても露軍がウクライナ軍を追い出さないことがその一例だ。(Ukraine's Kursk Incursion Enters Third Month, Has Become 'Normalized')(No more German military hardware for Ukraine)
プーチンだけでなく、米諜報界を牛耳る隠れ多極派も、ウクライナ戦争が長期化して欧米が衰退し、覇権が非米側に移って多極化が進むことを画策してきた。ウクライナ戦争は、そのために起こされた。
ウクライナ戦争が朝鮮化すると、ゼレンスキーは延々と続投する可能性が強まる。プーチンと米諜報界がゼレンスキーの続投を希望しているのだから、彼は暗殺・転覆されにくい。(米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化)(Kremlin comments on reports Ukraine is ready for ceasefire)
トランプが米大統領になると、ロシアとウクライナを仲裁して停戦・和解させたがると考えられている。停戦は可能だが、和解は困難だ。トランプの動きは朝鮮化の範囲から出ない。
バンス副大統領候補の説明によると、トランプは、ウクライナを現状の戦線で停戦させ、停戦ラインを非武装地帯にすることを提案する。この提案に対しロシアは、ウクライナがロシア領のクルスクから撤退することを求めるはずだ。ウクライナは撤退を拒否する。停戦交渉は難航する。(Trump’s plan on Ukraine envisages demilitarized zone, Kiev’s neutrality - running mate)
トランプは大統領になったら、米国を一方的にNATOから脱退させるかもしれない。その場合、取り残された欧州が窮乏し、ロシアとの緊張緩和・和解を切望するようになる。こうなると、ウクライナの朝鮮化は維持しにくくなる。
トランプは覇権放棄屋だが、多極化や中露BRICSの台頭をこっそり目標にする隠れ多極派であるのかどうか不明だ。覇権放棄屋だから隠れ多極派だろうと考えるなら、トランプはNATOから脱退せず、米国が欧州を傀儡化してロシアを敵視し続ける構図が維持され、ウクライナ戦争が朝鮮化していく。
トランプは、公約通りウクライナの停戦和平の提案を行い、停戦は実現されるが、和平にはならない。プーチン側近の「喧嘩担当者」メドベージェフも、トランプの和平案を疑問視している。(Medvedev casts doubt on Trump Ukraine promise)
トランプの一期目(2017-21年)は、ウクライナ戦争の前だった。当時は、米国とロシアが和解してNATOが解体して世界が多極化するのが覇権放棄のシナリオだった。当時はまだ米諜報界で単独覇権派が強く、トランプは濡れ衣のロシアゲートを起こされ、対露和解を阻止された。
ウクライナ開戦後の今、覇権放棄のシナリオは、ウクライナ戦争が長期化し、非米側が団結台頭して多極型の覇権勢力になり、米国側が縮小して多極型世界の極の1つ(か2つ)に成り下がっていく流れだ。
トランプはウクライナの朝鮮化を妨害しないのでないか。ハンガリーのオルバンはトランプに期待しているが、たぶん外れる。(EU running out of time on Ukraine - Orban)
今のトランプは一期目と違う。だから、ウクライナ和平案も自分で発表せず、副大統領候補のバンスに説明させている。トランプは今回の選挙戦で自分の世界戦略をほとんど説明していない。
トランプは、なぜ「極悪な人道犯罪国」であるイスラエルを徹底支援するのかも説明していない。(プーチンもMbS(⇒サウジ)もエルドアンもこっそりイスラエルを支援している。最近は中共も親イスラエルの姿勢をとり始めた)(US election will decide Ukraine conflict - NATO state’s ex-PM)(Why’d China Call For Paying Attention To Israel’s “Reasonable Security Concerns”?)
ウクライナが朝鮮化すると、欧州は衰退が激しくなる。欧州は対米従属と露敵視から離脱できず、今はまだこっそり続けているロシアからの資源類の輸入もしだいにできなくなる。
ウクライナは対露開戦後も、欧州からの兵器支援と引き換えに、ロシアの天然ガスが自国のパイプラインを通って欧州に輸出されるのを認めていた。だがウクライナ政府は最近、今年末に天然ガスの自国通過の協定を更新せずに終わらせると発表した。(Ukraine To End Gas Transit Agreement With Russia)
これは、兵器や資金を渋りだした欧州への脅しにすぎず、協定は土壇場で延長されるかもしれない。だが、これから欧州の厭戦機運が強まると、いずれウクライナはガスの通過を認めなくなる。
欧州は、ロシアと完全に経済関係を切ったふりをして、その後も資源類をロシアから輸入している。ウクライナが朝鮮化すると、欧州はロシアから資源類を輸入できなくなる。非米側の経済体制の構築が進み、ロシアは欧州に送っていた資源類を非米側に送りたくなる。ロシアからの資源類が止まると、欧州経済は劇的に悪化する。(米露の国際経済システム間の長い対決になる)
フランスの専門家エマニュエル・トッドは、ウクライナ戦争でロシアが勝つと、NATOが瓦解して欧州が対米従属から解放されるので良い(ロシアが負けると欧州は永遠に対米従属の監獄に閉じ込められる)と指摘した。トッドの親露反米的な指摘で、欧州言論界は騒動になっているらしい。(Russian victory will liberate Europe - top French historian)
トッドのシナリオには朝鮮化がない。ウクライナが朝鮮化すると、ロシアが勝ちも負けもしない状態が何(十)年も続く。NATOは瓦解せず、欧州は対米従属の監獄内で衰弱していく。ロシアは、戦勝でなく、それよりもっと有利な非米世界での発展台頭を得ていく。
プーチンは、欧州を解放してやらない。そもそも、欧州がNATOを離脱して能動的に対米自立するのでなく、それができないから、ロシアが勝ってNATOが瓦解して受動的に対米自立するのを祈願する欧州人は、対米従属一本槍の日本人と変わらない。
日本は覇権を全く希求しないが、対米従属のくせに覇権を希求する欧州は、虎の威を借る愚劣者・偽善者である。欧州が衰退するのは良いことだ。(潰されていくドイツ)(自滅させられた欧州)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。