「マスコミに載らない海外記事」に掲題の記事が載りました。
ドイツはEUにおける輝ける先進工業国で、名目GDPは米・中に次いで世界第3位、労働生産性は日本の約1.5倍です。まさに「ヨーロッパの原動力」の地位で尊敬されてきました。しかしいまでは新興国家ブラジルからも先行きが疑問視されているということです。
2014年、ロシアのソチオリンピックの終了を待って米国の主導でウクライナで引き起こされたクーデターを起点に、ドイツの衰退が始まりました。
クーデターは外来の暴力集団が主体となった残酷なものでしたが、ロシアにとって最重要のクリミヤ軍港(不凍港)については 以前からそのエリア一帯の使用に関する契約を結び、防衛のための軍隊を配置していたので影響は受けませんでした。
それを米国は、ロシアが革命後に占拠したとして世界に対して「対露経済封鎖」を敷いたのはご存知の通りです。
⇒ (14.3.19)ウクライナ・クリミア問題 ロシアは何も悪くない
ドイツはそれまではエネルギー関係についてロシアの安価なものを自由に輸入出来たので、工業的発展が大いに促進されました。
そして22年2月には、これも米国の戦略に拠って準備されたウクライナ戦争が起こされて、再び米国に拠って更に厳しい「対露経済制裁」が課され、ロシアからドイツに天然ガスを送るための専用管路=ノルドストリーム2が停止され、その後米軍に拠って破壊されました。
これによってドイツ経済はここ2年連続で縮小すると予想されています。
米国は自らの世界戦略に沿って、ウクライナ戦争や中東戦争、対中貿易戦争を仕掛けますが、それらが欧州に与える悪影響は大きく軒並み疲弊しています。取り分けドイツの受ける影響は莫大です。
新興国家ブラジルからみれば、ドイツの境遇やそれに甘んじる態度は不可解そのものなのでしょう(日本も同じ関係にあるわけなので「他山の石」とすべきです)。
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ドイツはロシア燃料を使用していたがゆえにヨーロッパの原動力だった
マスコミに載らない海外記事 2024年10月24日
リカルド・ヌーノ・コスタ 2024年10月22日
New Eastern Outlook
今、疑問が浮上している。ロシアに対する自らの役割をベルリンは再考するのか、それともエンジンが動かなくなるのに任せるのだろうか?
ドイツはヨーロッパの原動力だった
最近、ブラジルの重要な地政学チャンネルから、ヨーロッパ、特にドイツの政治情勢について少し明らかにするよう依頼があった。ベルリンに来て以来、私は、EUとドイツの衰退に対するブラジルのインターネットユーザーの反応を注意深く見守ってきたが、それはもう隠し切れない。私が知る限り、世界経済大国で「ヨーロッパ計画の原動力」として知られるようになった国をブラジル人は今でも尊敬しているが、近年ドイツが進めてきた大西洋主義外交政策に対する軽蔑も高まっている。この政策は、強引で、特に本物ではないと見られている。
今では遙かに中心的存在となり、地政学チェス盤上で発言力を持つブラジルは、ドイツの国益がワシントンの総意に従属しているのを幻滅感をもって見ている。南半球、特に歴史的にモンロー主義に運命づけられてきた中南米では、自国の問題に対するアメリカの影響力と、歴史的に亜大陸に及ぼしてきた開発妨害に対して本能的嫌悪感がある。
ドイツ経済は2年連続で縮小すると予想されている
第二次世界大戦後、占領され分断され、国連安全保障理事会に議席を持たず、軍事的に制限され、核兵器も持たなかったドイツ(というより国の西側の4分の3)は、19世紀以来多くの思想家や経済学者が主張してきた通り、ヨーロッパを中心からまとめることで、再浮上し、主要世界経済プレーヤーとなったが、それは当初マーシャル・プランによって始まったアメリカの論理と制度の範囲内だった。ベルリンの指導下、ドイツにはヨーロッパ以外の地政学領域で行動する余地がほとんどなかった。これは繁栄期には重要ではなかったが、ウクライナと中東の紛争や、アメリカと中国の貿易戦争により、ドイツの従属的役割のため、政府と政治家連中が大西洋対岸への順守を維持する不安定さに多くの人々が警戒している。
欧州プロジェクトの原動力
「ヨーロッパの経済エンジン」と呼ばれてきたドイツは、EU内の貿易協定から最も恩恵を受ける国でもある。EU内の貿易協定は主にユーロ金融構造に根ざしており、ドイツに巨大な市場を保証してきたが、その際、競合するヨーロッパの産業が犠牲になることが多かった。一方、ドイツ産業、特に集約型産業は、モスクワとの何十年にもわたる実りある関係からも恩恵を受けており、これによりドイツは競争力ある価格でエネルギーを入手でき、同時にEU内で反ロシア言説を主導してきた。
2014年のマイダン・クーデターと、その結果生じたヨーロッパの二大国ドイツとロシア間の亀裂は、戦略的な貿易競争相手としてのヨーロッパに対する、ワシントンの巧妙な経済戦争だと見る専門家もいる。キーウでのクーデター直前、元アメリカ国務長官で現在エネルギー業界のロビイストのリーダーであるコンドリーザ・ライスはインタビューでこう語った。「長期的には、エネルギー依存の構造を変えたい。北米のエネルギー基盤、つまり我々が発見している膨大な量の石油とガスにもっと依存したいのだ」
10年後、その結果が発表された。
低下する競争力
世界競争力センターは、GDPや生産性を超えて、政治、社会、文化の側面、インフラ、制度、政策などを含めた経済の競争力をランク付けする指標で、現在ドイツは24位にランクされており、ロシアに対する最初の制裁が行われた2014年の6位から大きく下がっている。2022年以降は大幅な低下がみられた。それ以来、ドイツは僅か2四半期の成長しかなく、どちらも1%を下回っている。
ドイツ大企業は、より良い投資先を探している。それは、ドイツが主導するはずだった欧州プロジェクトの戦略的競争相手であるアメリカと中国だ。大企業家たちは、中期および長期エネルギー供給の安全性はともかく、エネルギー価格の安定性はどうなるのか懸念している。これは、彼らが我慢することができない大きな不確実性だ。
インフラ、テクノロジー、年金、移民
これは、テクノロジー、労使関係、年金制度におけるパラダイムシフト(⇒価値観の変換)と一致する。今後10年間で、ドイツでは毎年100万人の労働者が退職する。この仕事は、賃金条件に不満を持つドイツ人や移民やロボットに代替されなければならない。混乱が生じ、国家主義的言説は日々支持者を増やしている。
シュレーダーの「アジェンダ2010」とその後4期のメルケル政権によって始まった新自由主義時代は、20年にわたる甘美な自由放任だったが、今や誰もが宿題を忘れていたことに気づきつつある。デジタル化への移行は遅れ、インフラは時代遅れで、ハイテク世代の教育基盤は置き去りにされている。現在、最大の経済競争相手であるアメリカ、とりわけ中国がこの戦争に備えている中、この課題は引き継がれている。
経済停滞
ドイツ経済は2年連続で縮小し、2024年には0.2%の縮小が見込まれている。2022年以降は経済が停滞し、全ての経済指標が長期にわたる不況と、政治および政府の不安定な時期が予測されることを示している。
パンデミックの最中にも警告が出されていた。西側諸国の経済体制システムにおけるドイツの重要な役割は、計画的な「エコロジカル」な産業空洞化、隣国ロシアとの関係、そして中国の勢力に対するアメリカの長期的経済戦争を通じて変化するだろう。ベルリンへの「信号機」連合の到来は、最も悲観的な予測を全て裏付けた。
非核化や軍縮や今やロシアの安価なエネルギーを失ったドイツの産業基盤と、戦略の基盤となっていた輸出モデルは弱体化した。今やドイツは文字通り未知の領域に足を踏み入れつつある。ドイツが産業空洞化していくのを見た人は誰もおらず、このことは国内外で多くの疑問を提起している。
トンネルの出口に光は見えるのか?
今週、オラフ・ショルツ首相は、ウクライナ紛争を終わらせるためロシアとの外交交渉を支持する姿勢を示した。ドイツ連邦議会に対する政府声明で、ショルツ首相はプーチン大統領との直接交渉に前向きな姿勢を示した。「ロシア大統領とも交渉するかどうかと問われれば、我々は『そう、その通りだ』と答える」。
しかし、もし今実施されれば2025年10月の選挙で勝利するだろう野党指導者フリードリヒ・メルツは、ロシア領の奥深くまで到達可能な長距離タウルス・ミサイル配備で「プーチンへの最後通牒」を発するよう首相を脅迫した。狂気の沙汰になるため、ショルツはこの点については断固とした態度を貫いているようだ。だが、ベルリンには理性の欠如を示す兆候が多々ある。
ブラジルのチャンネルで私がヨーロッパとドイツについてインタビューを受けた時、ゲストの一人が番組の最後に、その夜の話題を正当化する言葉を述べた。「ドイツは依然ヨーロッパの原動力だ」。私は彼を訂正し、「ドイツがヨーロッパの原動力だったのは、ロシアの燃料があったからだ」と付け加えなければならなかった。今、疑問が浮上している。ベルリンはロシアに対する役割を再考するのか、それともエンジンが動かなくなるに任せるのか。
リカルド・ヌーノ・コスタは 地政学専門家、作家、コラムニスト、geopol.pt編集長。 オンライン誌New Eastern Outlook独占記事
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2024/10/22/germany-was-the-engine-of-europe-because-it-used-russian-fuel/
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。