森暢平・成城大教授が、フジテレビ「バイキングMORE」でのお笑いコンビ「おぎやはぎ」の小木博明氏による、小室圭さんへの人権無視・名誉棄損の発言を取り上げました。
何の根拠もなく、単なる自分の勝手な思い込みだけでよくあそこまで他人を傷つけられるものです。それが公然と許されている「バイキングMORE」はよくよく異常な番組です。
さすがにフジテレビは、自己批評番組である「週刊フジテレビ批評」で、三浦瑠麗氏から、眞子さまの結婚に関する放送について、「非常に心を傷つけられるような一般人のコメントを誘発するセンセーショナルなあおり報道」だと批判されたということですが、それによって事態が一向に改まっていないのであれば「自己批評」の意味がありません。
かつて日本は東洋の紳士国と称されたということですが、もはや完全に様変わりしました。
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小室圭さん「皇室利用」に小木博明氏が根拠なく言及 フジ「バイキング」に問われる放送倫理
森暢平 日刊ゲンダイ 2021/11/01
小室圭さんと眞子さんの結婚でひと息ついたかと思われた「眞子さま問題」。小室さんは「疑惑」と呼ばれているものを明確に否定する発言をしたが、なお根拠なく、「皇室利用疑惑」をネタに放送し続ける番組とコメンテーターがあった。フジテレビ「バイキングMORE」(10月27日放送)での、お笑いコンビ「おぎやはぎ」の小木博明氏の発言である。
結婚会見に伴い事前に質問が提出され、日本雑誌協会からは、小室さんのフォーダム大学法科大学院入学の際に、眞子さまの「フィアンセ」という地位が利用されたのではという「皇室利用疑惑」についての質問があった。それに対する小室さんの回答は、全面否定である。
これについて、小木氏は次のように述べた。
「(眞子さんが)前倒し(をお願い)して、留学してもらったんですよ。ロースクール入るのに、何年も勉強して普通入らなきゃいけない。法学部も出てない。普通だったら入れないところを、何年も勉強しないで前倒しして受かんのかって、勉強してないのに」「すごい優秀な人とはわかるんですけれども、さすがにそこで受かって全額支給される奨学金制度まで行くっていうのが、そんな前倒しの人ができるのかっていう……」
重要なので、小室さんの回答の全文を掲げる。
「フォーダム大学のAdmission policy(大学の入学者受け入れ方針)には、入学資格は法学部卒業生だけでなく、それと同等の法学教育を受けたことと規定されています。私の場合は、フォーダム大学ロースクールが、ロースクール入学以前に修了したlaw studiesを認めたため、申請が受け付けられました。学費全額免除の奨学金については、私が提出した成績を含む総合的な評価に基づいて決まりました。入学選考において、私が『プリンセス・マコのフィアンセ』であるとお伝えしたことはありません。日本のメディアから大学に問合せが来る可能性があり、ご迷惑をおかけするかもしれないという状況については、入学決定後に説明をいたしました。大学のHPでの記載については、状況を総合的に踏まえたうえで、大学が判断したことでした」
具体的な根拠を挙げて、明確に否定している。
■指摘された疑惑に明確な根拠がない
小室さんは、三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)勤務ののち、一橋大学大学院国際企業戦略研究科で、経営法務(ビジネスロー)を専攻し、2018年3月に修了している。一橋大学のこの研究科は、いわゆるロースクールではない。こうした志願者からの申請の相談があった場合、単位取得状況や修士論文の内容を審議するのが通例である。小室さんがlaw studiesを認められたと言っているのは、一橋での修士号を指す。それを含め、フォーダム大学法科大学院のアドミッションオフィスが入学資格ありと決定し、その後、申請書類が本審査されたということだ。一点の曇りもないことは明らかである。
書類としては、英文で500語の志望理由書、TOEFLのスコア、2通の推薦書、成績証明書などを提出する。
小室さんは一橋大学大学院を修了した5カ月後の2018年8月に、フォーダム大学に入学しており、書類の提出期間は、前年9月15日から3月31日である。これは、日本の大学のAO入試(総合選抜型)に似ている。ただ、締め切り日が一律に設定されているのではなく、大学は順次、申請のあった志願者とコンタクトを取り、優秀な志願者に合格を出す。
小室さんはビジネスローの学位取得見込みであるだけではなく、奥野総合法律事務所でパラリーガルとして実務に携わっていた。小室さんのその後の論文を見ると、インターネットビジネスと法務などへの関心が一貫している。フォーダム大学として、志望理由が明確でそれを裏づける実績も十分であると判断したのは、自然なことに見える。
これに対し、小木氏は、「何年も勉強しないで前倒しして受かんのかって」と述べている。言い掛かりに近い。小室さんはフォーダム入学前の2年間、法律事務所に務めながら、夜間の大学院に通い勉強を続け、将来の米国留学への準備を進めてきた。それを「何年も勉強しないで」と断じるのは、明らかな名誉棄損である。
もちろん、放送にあたって、マスメディアは報道の自由の観点から、真実性の確実な証明までは求められない。しかし、真実と信ずるについて「相当の理由」がなければ、名誉棄損に問われることになる。
真実と信じるに足る「相当の理由」について、東京地裁の判決は次のように言っている。
「報道内容が十分に推定できる程度の確実な資料を数量及び質の両面において収集し、これを根拠にすることが必要であり、これらによらず、単に報道内容に沿う伝聞を主張する者或いは主観的憶測の域を出ない解釈や推定をなす者の供述や情報(略)だけでは不足というべきである。特に、報道される当事者が報道内容事実を事前に否定している場合には、右否定を虚偽、架空と断じ得る程度の資料が必要であ(る)」(1988年7月25日、『判例時報』1293号)
小室さんは、入学に際しての「皇室利用」を明確に否定した。これを打ち消すには、「皇室利用」を真実と信じるに足ると推定できる程度の資料を質量ともに収集し根拠にすることが必要なはずである。
小木氏、あるいはその発言を許したフジテレビは、小室発言を否定する根拠を何も示していない。
■金銭トラブルは小室さんの責任なのか?
小木氏はさらに、「眞子さんが病気になられたことも、母親が病気になられたことも、元婚約者の方も精神不安定になられたことも、全部、僕は小室さんが悪いと思っていて。小室さんが全部タネをまいているわけですから。(略)男が全部やんなきゃいけないと思うんです。全部解決してからの結婚ならみんなおめでとうで終われたのが……。全部教育費とか出してもらったり、生活費とか、わかんないですけれども、いろいろ出してもらって、3年半あったんですよ、その間にニューヨークへ。ニューヨーク行っちゃうんですよ、お金ないのに。それを3年半……。それが何か気になっちゃって。ニューヨーク行って3年半で(金銭トラブルが)何とかなんないのかと」とも述べている。
金銭トラブルの解決がならなかったことが、すべて小室さんの責任であるかのような一方的な決めつけである。
10月29日の放送では、坂上氏は「そもそも(眞子さんが指摘する)間違った情報とか、誤った情報っていうのが、どこが誤っていたのかってところが、ひとつある」と述べた。「バイキング」の「眞子さま問題」の扱いで、何が「誤った情報」だったのかは、ご自分の胸に手を当てればすぐにわかるはずである。それとも、先に指摘した小木氏の発言を含め「誤った情報」が、「間違いのない事実」として取り上げたことが、一度もないと胸を張るのであろうか。自省がまったくない放送人としてあるまじき態度である。
ワイドショーは、タレントのおしゃべりであって、報道ではないという反論があるとしよう。では、お伺いするが、ワイドショーであれば根拠のない噂話を何でも放送していいのか。報道番組とは名誉棄損の免責要件が異なるのか。
フジテレビは、自己批評番組である「週刊フジテレビ批評」(土曜午前5時30分)で、国際政治学者の三浦瑠麗氏から、眞子さまの結婚に関する放送について、「本来、おめでたいことのはずですけど、非常に心を傷つけられるような一般人のコメントを誘発するセンセーショナルなあおり報道だなと思っています」と批判された(10月9日)。誰も見ないような早朝帯の自己批評番組は、有識者の意見を聞くだけの単なる建前の場なのだろうか。
これまでも指摘したとおり、「バイキング」は、反論の場が限られる小室さん夫妻へ、正当な批評、言論の自由を超えた放送が多すぎる。
放送の自由をめぐる重要な点なので、フジテレビの責任者の説明を求めたい。
森暢平 成城大学文芸学部教授
元毎日新聞記者。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)、『皇后四代の歴史──昭憲皇太后から美智子皇后まで』(吉川弘文館、共著)、『「地域」から見える天皇制』(吉田書店、共著)などがある。